兄に悪役令嬢をやらせたら、とんだ傾国の美女(男)になりまして   作:恵ノ島すず

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第33話

 概ね和やかにお茶会は進み、そろそろ終了予定時刻という頃。

 

「ちょっと考えたんですけど、ルクレシアスくんは一度アンジェラさんと二人きりで出かけてみるべきでは? 明日にでも」

 

 ふいに対面からリンランディアがそんな提案をしてきて、私は首を傾げた。

 なぜに私とアンジェラちゃん。そしてなぜリンランディアがそんなことを言いだすのか。

 

「ルクレシアスくんは仮にも聖守護騎士候補なのですから、聖女であるアンジェラさんとの交流は必要かと。パートナーとなるかどうかを抜きにしたって、悪魔どもとの決戦ともなればアンジェラさんの指揮下には入るでしょう?」

 

「仲間として連携をとるためにも、互いを知ることは大切だね。いつかアンジェラが決断をする時のことを考えても、一人に関してだけはよく知らないなんてのはよろしくないだろうし」

 

「確かに。他の候補である俺らばっかりアンジェラと交流してるってのは、平等じゃないよな。ルクレシアスだけ途中参加な上に今後もこっちに合流は難しいってんだから、丸一日二人きりで出かける機会くらいは有って良いだろ」

 

 私の返答を待たずにリンランディア、ジェレミー、ハリーファとが畳みかけてきたところで、アンジェラちゃんが低い声でうなる。

 

「あんたたち、自分たちが聖守護騎士に選ばれたくないからって、私をお義兄様に押し付けようとしてるわね……!」

 

 あ、そういうこと?

 あとは、私と兄の仲の良さを見せつけ過ぎたせいで、私たち双子をなんとか引き離さなければならないと危機感を抱いたのかもしれない。

 いずれにせよ、本物の聖守護騎士候補ルクレシアスは侍女としてだけどしっかりアンジェラちゃんと交流を深めているし、正直余計なお世話なんだけど……。

 

「ま、まあまあ。アンジェラさんだって、兄君との交流が必要だって認めてたじゃないですか。ほら、ご紹介というか、共通の話題というか……」

 

「それは、そうだけど……」

 

 フローランが宥めにかかると、アンジェラちゃんはチラチラと兄ルクスの方を見ながらだいぶ渋々ながらも一応そう認めた。

 

 なるほど。

 紅薔薇の姫君ルクレシア嬢の結婚相手に関して大いに口出しができる私と親交を深めたい的な感じね? できれば私から兄に自分を薦めて欲しいと。

 またうちの兄はシスコンなので、私の話をするととても喜ぶ。私の事をよく知って兄との共通の話題にするというのも、悪くない作戦だろう。

 

 そういうことであれば、小姑になるかもしれない身として、兄が気になっている女の子の人となりが気にならないこともないな。

 ゲームで知ってるといっても、リアルに生きている目の前のアンジェラちゃんとは色々違うだろうし。

 

 共通点が多いというだけで、ゲームはゲームこの世界はこの世界という気がしている。

 実際に生きてみれば、この世界はどこまでもリアルで、思いもよらない事もたくさん起きているし、ゲーム知識が通用しない場面も多い。

 主に兄のおかげで。

 少なくとも聖女様御一行の性癖(誤用の方)及び攻略対象者たちとアンジェラちゃんがくっつくようなルートは、全て完膚なきまでに兄がぶっ壊した。

 原作ゲームプレイヤーが今の聖女様御一行を見たら、誰この人たち、新キャラ? くらいのレベルだと思う。

 直接交流をしてみて、アンジェラちゃんのことを知る必要がある、かもしれない。

 

 それに、兄ではないが、ルクレシアスとアンジェラちゃんが多少親しくなっていた方が、兄がルクレシアスに戻ってアンジェラちゃんを口説く時に多少有利だろう。たぶん。

 

 うん、アンジェラちゃんとデート、してみよう。

 

 そんな結論に達したところで、チラと兄に視線をやり、一応の了承を願う。

 それだけで察してくれたらしい兄がニコリと微笑みながら一つ頷いてくれたので、私は席を立ちアンジェラちゃんの元へと歩みを進める。

『しかしそんなのは建前で、やはり私をお義兄様に押し付けたいのだろう』といった趣旨でリンランディアらと口喧嘩を繰り広げていたアンジェラちゃんが、私の行動に気づき戸惑ったように沈黙した。

 

 私は、いつか兄を逃避行に誘った時のようにスッと片膝を付き、左手を胸に当て、右手をアンジェラちゃんに差し出す。

 

「聖女アンジェラ嬢、僕に、あなたと過ごす一日をいただけますか?」

 

「お、おお。お、王子様みたい……。これが【極炎の貴公子】……!」

 

 本職の王子と皇子には随分気安く接しているのに、私のなんちゃって貴公子ぶりに動揺を見せ、アンジェラちゃんは顔を赤くしながらそう呟いた。

 動揺しつつも私の誘いを了承してくれるつもりがあるらしく、アンジェラちゃんはゴクリ、と一度唾を飲み込んでから、少し震える指先をそろりと私の手のひらに重ねる。

 

「愛らしいあなたにそう言ってもらえるなんて、光栄だな。明日は、がっかりされないようにエスコートしないと」

 

 そう告げながら私が直接は触れないキスを彼女の手の甲に落とすと、アンジェラちゃんはますます顔を真っ赤にして「ぴえっ」と一声だけ鳴き固まってしまった。

 

 なぜ、このメンバーと旅までしていて、こうもアンジェラちゃんが女の子扱いに対する耐性が無い様子なのか。

 誰より敬われ愛され大切にされる聖女である以前に普通にデビュタント済みのレディだよね、この子。

 まさか、それにふさわしい扱いを、普段は受けていない……?

「これくらいできなければ、ルクレシア嬢には響かないのか……」などと戦慄したように誰かが漏らした声まで聞こえたんだけど。

 いや、聖女様御一行の男性陣は全員本職の貴公子にして乙女ゲームの攻略対象者たちでしょうに。

 

 このくらいは、ただの挨拶では……?

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