不完全少女の生き方   作:出島二人

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遅過ぎるじゃないか……ブランクがあるとしか思えん……文章量が、少し減ったか……




ACT2
8話 日常


 

 

 昨夜は嫌なものを見たせいか、あまり良く眠れなかった。スプラッタは趣味じゃないし、それが自分の体でも起きていたのに、安眠など出来るはずがなかった。車で一時間程寝たくらいか。アレが現実であったのか、それとも落下の衝撃で幻覚を見ていたのか、それさえ不確かな程には自分に起きた事が信じられない。傷があんな速度で治るなんて。

 

 それはそれとして、シャワーも浴びずにベッドにダイブしたせいか、血の匂いが体に染み付いている気がする。とりあえずはまず風呂だろう。引っ張り出して洗濯だけはしておいた替えの下着やらなんやらを持って風呂場へ行き、血で染まった足袋を脱いだ際に、妙な事に気づく。

 

「爪がもう生えてる……」

 

 まさか剥がしたはずの爪が二日と経たず元通りに生えているとは。あちこちのアザや切り傷も知らぬ間に痕すら残さずに治っているし、いよいよ何が起こったのやら。痛みはもう無いが、腹に残る違和感も昨日のアレが現実であったのだと証明しているかのようで、私は思わず吐き気を催した。まるであのトカゲのようではないか。

 

「……でも都合は良いかも?」

 

 傷がすぐ治るのならば、戦闘において身の安全をほとんど考える必要が無くなる。つまり相手の意表を突きやすくなるのだ。ただでさえ不意打ちだの投げナイフだの、そういった搦手を使わなければまともに仕事も出来ない私に、これはかなりありがたい。たとえ人間を逸脱するとしても、今はそんな事を気にしている場合ではない。()()()()()()()()()()()

 

 湯船に浸かりながら改めて考える。あの黒服と初めて会ったのは何処だったやら。よく覚えていないが、あの時から結構経った。その間にキヴォトスにも色々あった。中でもエデン条約調印式襲撃事件は記憶に新しい。ゲヘナもトリニティもてんやわんやで、とても()()()時期だったが、ほとぼりも冷めてしまった。

 

「あ〜……」

 

 気の抜けた声を出しながら物思いに耽っていると、置いておいたスマホから通知音が鳴る。なんだろうと思い取り上げて画面を見れば、先生からだった。

 

『当番、どう?』

 

 少なくとも、気分転換にはちょうど良いかも知れなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

「お疲れ様です先生」

 

 一時間程後、私はシャーレに来ていた。先日見た時より、先生の疲労の色は薄いように見える。気のせいかも知れないが。

 

「おはようタキ、初めての当番だね」

 

「そうですね」

 

 そう言えば、シャーレの当番というのは何をするのだろう。そんな疑問が顔に出ていたのか、先生は私が質問するよりも先に答えた。

 

「書類整理とかしてもらう事になるけど、大丈夫そう?」

 

「大丈夫です」

 

「本当に?」

 

 疑問符が頭の上に浮かんでいるような顔。先生は私の事務所のあの惨状を見ている。疑われるのも当たり前と言えば当たり前だが、少し傷つく。ムッとした私は、

 

「大丈夫です!」

 

と少し大きな声で宣言してしまった。自信は全く無い。

 

「ふふっ」

 

「……」

 

「ごめんごめん」

 

 先生の優しい微笑みを見た私は、なんだか手玉に取られているようであまり良い気分はしなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 私の不安とは裏腹に、存外とお仕事は上手くいっていた。先生はPCの前でうんうん唸ったり書類に判を捺したり生徒からのメッセージに逐一反応していたり、とても忙しそうだったが、それでもお昼時になると、一旦切り上げて、

 

「お腹減ったね」

 

と、可愛らしい店員のいるコンビニへ私を引っ張って行った。

 

「今日は奢るよ、何が良い?」

 

「あ、じゃあ……」

 

 チーズのみが挟まれたサンドイッチ。そして微糖のコーヒー。先生はおにぎりとお茶を買っていた。同じ袋に詰められたそれを先生から受け取り、一緒に休憩室で食べる。

 

「そういえばタキって普段何をしてるの?」

 

「傭兵業、のようなものを」

 

「ああ、アルみたいな感じ?」

 

 思わず息が詰まり、少し咽せる。コーヒーが気管に入って痛い。大丈夫?と聞かれたが手で制して言葉を続ける。

 

「アルって、便利屋68の?」

 

「そうそう、知ってるみたいだね」

 

 この人はどれだけの生徒と交流があるのだろう?少なくとも私より遥かに多いかも知れない。

 

「一度やり合った仲でして」

 

 そういえば便利屋から聞いた話では依頼主から私は女を取っ替え引っ替えするクズで、懇意にしている子が被害に遭ったなどと聞かされ、かなり張り切って追い詰めようとしていたらしい。流石にそんな事はしていないが、もしかするともっと悲惨な事になっていたかも知れない。というかよく食事に誘ってくれたなあの社長。

 

「便利屋の皆と?どうなったの?」

 

「負けました、ナイフじゃどうにも」

 

 それを言った瞬間、疑問符が先生の頭の上に浮かんでいるように見えた気がした。

 

「あ、私、銃が使えなくて……」

 

「え、珍しいね」

 

「まあ、そうですね」

 

「つまり普段ナイフだけで仕事してるって事?すごいね」

 

 なんだか妙に照れ臭い。先生は純粋にそう思っているのだろう。だが、このキヴォトスで銃を使えないなんて落伍者も良いところだ。それに何より、そもそもの話として、私は学校に通っていない社会の落ちこぼれ、その辺のスケバンと変わらない人間だ。ブラックマーケットで口座を作る時だって酷い目に遭った。いや、遭わせたんだったか。半日も待たせておいて詫びの一つも無いあの受付が悪い。

 

「前にも言ったと思うけど、タキだって大切な生徒だからね」

 

 本当にこの人は。どうして察してしまうのか。

 

「タキは顔に出やすいからね」

 

 なんだって。

 

「とにかく、それは誇るべき事だよ、自信を持って」

 

「……そうやって連れ込んだ生徒を口説き落とすんですか?」

 

 あんまり照れ臭いので反撃してやる。途端に顔を赤くし始める先生。少し可愛い。

 

「えっ、いや、そういうつもりは無いんだけどな……っていうか、連れ込んだ生徒……?」

 

「有名ですよ、シャーレの先生は気に入った生徒をシャーレに連れ込んで夜な夜な……地下牢からは生徒達の泣き声が聞こえるってもっぱらの噂ですよ」

 

「え!?そんな事してないよ!?」

 

「まあそんな羨まし……じゃなくて、酷い事をするような方には見えませんし、そんな声なんて聞こえませんでしたね、噂は噂って事ですね」

 

「噂の出処はいったい……というか、羨ましいって言わなかった?」

 

「今日は良い天気ですね〜」

 

「タキ?」

 

 そんなやり取りをしていると突然、先生が自らの隣に置いていたタブレットが光を放った。何かの通知だろうか。

 

「救援要請?」

 

 先生の目つきが変わり、私を見る。行けるか、と視線で尋ねている。

 

「行きましょう」

 

 私はやる気充分と言った顔で立ち上がった。きっと楽しい事が待っている。

 

 

 






あんたにどうしても、言ってもらいたい台詞がある……
『遅れてごめんなさい』だ

更新が遅れました事をお詫びいたします、申し訳ありません。
私生活がコロナでメチャクチャになってしまい、いまだ後遺症で苦しむ身ではありますが、なんとか生きていますので更新は続けていきます。

感想や評価等、お待ちしております。
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