不完全少女の生き方   作:出島二人

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「私生活が立て直せてないくせに初投稿はやめられないのね」





11話 理由

 

 

 

「……という訳で今は自分探しの旅、だよね?サオリ」

 

「あ、ああ……」

 

 軽く語られる重い内容の身の上話に当惑しながらも、とりあえずは納得した。エデン条約がかき消えたのは実際、私のようなハイエナにはありがたい話だった。むしろ恩人とも言える。

 しかし私がこういうタイプでなければ、彼女と戦闘を開始する可能性も高かっただろうに、何故そんなリスクを承知で作戦行動に参加させたのかと先生に問うと、「仲良くなれそうだったからね」とあっけらかんと答えた。見る目があるという事で納得しておくべきだろうか。

 

「で、CL社からのメールだけど」

 

「どんな内容だったのー?」

 

「『そんな事実は無い』だって」

 

 不手際を認めないというのはありがちな話だ。先生がため息をつく。

 

「アリス知ってます!この手の敵組織はとりあえず襲撃すれば命乞いをしたり、あるいはこちらを追い詰めて冥途の土産にとか言って白状します!」

 

「白状させたからってどうにかなる話ではないだろう……」

 

「証拠がほとんど残ってないからね」

 

 先生の言う通り、トカゲ達は溶解し、骨組みすら残さず消えてしまった。ここから追う事も出来ないだろう。天童ちゃんがしゅんとしている。可愛い。

 

「では解散ですか?」

 

「そうだね、ソナーにも反応は無いし、全部壊したと見ていいと思う。念の為ヴァルキューレに警戒してもらうように言っておくけど、私達の仕事はひとまずここで終わりという事で」

 

 その言葉を聞き、全員が緊張の糸を緩める。額の汗を拭おうとして手が汚れきっている事に気付く。

 

「タオル使う?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 一之瀬さんから渡されたタオルで顔を拭う。一通り拭き終わり、離して見れば黒一色に染まっていた。

 

「……洗濯してからお返ししますね」

 

「オッケー」

 

 そういえば頬に傷が出来ていたような気がするが、血の赤が見当たらない。出血しない程浅かったのか、それとも黒に呑み込まれたのか。まあそれもどうでもいい事だ。

 

「お疲れ様、みんな」

 

 気付けばもう日は傾き、夜が近かったのだ。当然、小さな事を気にしている余裕は無かった。

 

 

◇◇◇

 

 

 形だけの事務所に帰って早々、洗面台の前に立つ。パシャパシャと顔を冷水で洗えば、乾いた液体が剥がれ落ちていく。だがやはり頬に傷は無い。腹と同じように治ったのだろう。何度も繰り返し顔を洗い、そうしてようやく全て落ちていった黒が、水に混じって排水口に吸い込まれていくのを見やる。とりあえずシャワーを浴びて、湿布をあちこち貼っておかなければ。傷は治るとしてもどうやら関節の痛みはなんともならないようだ。少し無理をし過ぎたか。

 

 何処かで聞いたメロディを適当に口ずさみながら、湯を全身にかけていく。どういう曲だったかは良く覚えていない。

 短い髪をぐしゃぐしゃと洗う。伸ばすと面倒くさいが、短過ぎてもダサい。流石に坊主頭はうら若き乙女として断固お断りである。お断りではあるのだが、たまに魔が差す事がある。鏡の前で刃物を見つめていると病んでいるのかと思われそうだがそんな事は無い。バリカンだし。刈り上げるくらいは良いかも知れない。

 

「うっ……膝……」

 

 ピキッと痛む膝、股関節、肩、背中……できればマッサージ師を呼びたいところだが、もう夜も深い。それに湿布の方が安上がりだろう。

 

 サッパリとした心地で風呂場を出る。服も汚れたので考えなしに洗濯機にぶち込んでおいたら、着られるもののラインナップがダサい英字のシャツと、昔買ってそのままにしておいたカーゴパンツという悲惨な状況になってしまった。

 

「……まあいっか」

 

 妥協しておこう。明日の用事に備えて。下着だけで毛布に潜り込む、とその前にスマホチェック。何か通知が来ていた気がする。

 

『明日会える?』

 

 サチコからだった。昼からなら大丈夫と返信し、改めて布団を被った。

 

 

◇◇◇

 

 

 何かに流されている。目が開けられない。口に入り込んだ粘性の液体に肺が満たされていくのを感じる。息ができない。

 

「────!!」

 

 苦しみに悶え、手足をバタバタと動かす。いつの間にやら体が外に投げ出されていた事に気づくまで、少し時間がかかった。

 

「う、おご……え」

 

 身を起こして堪え切れない吐き気に任せて嘔吐する。口から出てきたのはトカゲのあの黒い液体だった。また吐き気を催す。夢だ。これは夢だ。そう自分に言い聞かせて現実に戻ろうとするが、うまくいかない。腕を見やれば、皮膚が蠢き、黒色に染まっていっていた。まるで周りに擬態するかのような、深い黒に。

 

 

◇◇◇

 

 

「うぅああぁぁあ!!」

 

 叫びながら身を起こす。荒れた息を整えてスマホを見れば、三時間程しか経っていなかった。汗で濡れた体が冷えて思わず震える。頭も腰も痛い。ベッドから這い出て洗面台へ。

 

「はぁ……何の夢だよもう……」

 

 月明かりに照らされ、鏡に写った自分の顔を見て苦笑する。目の下にクマがクッキリと出ていた。だがまた寝る気にはなれない。顔を洗い、退屈しのぎに何かしようかとPCの前に座るが、特に何も思いつかない。ああでもないこうでもないとウロウロしている内、いつの間にやら日が登っていた。

 

「やっちゃった」

 

 不思議と眠気は無い。仕方ないので、とりあえず出かける準備をする。花束でも買って行こう。

 

 

◇◇◇

 

 

 外出用の黒い革のジャケットを羽織る。そういえばこれがあった。昔、彼女に贈られたものだ。あの時はサイズが合わず、ぶかぶかだった。太腿に巻くベルト付きホルスター、そして本物にしか見えない水鉄砲。これが無くても私みたいなのに喧嘩を売る奴もそうはいない。つまりは主にヴァルキューレに対する欺瞞効果狙いだ。

 

「良い天気」

 

 扉を開けた途端差し込む陽の光が寝不足の頭に響く。クマはファウンデーションで隠してはいるが、目の充血は如何ともしがたい。

 

 近くの店で花束を買い、誰もいないバス停で次の車両を待つ。退屈な時間が多い日だ。そんな事をぼんやりと考えていると、いつの間にかバスが来ていた。そそくさと乗り込む。

 

「……」

 

 窓の外の景色を眺める。今日は休日か。道行く人達の足取りは何処か軽やかな感じがする。アレはトリニティの生徒か。あっちはヴァルキューレ、そしてあっちは……百鬼夜行、久しぶりに見かけた。

 そういえば、私はどこの学校に行こうとしてたんだっけ────

 

「あ、次で降りなきゃ」

 

 まあ、いいか。気にしない。それ以上に、見たくない。

 

 

◇◇◇

 

 

「お見舞いですか?」

 

「ええ」

 

 受付の方に促され、私は彼女のいる病室へと入っていく。看護師が二名、点滴のパックの交換とマッサージを行っていた。ぺこりと頭を下げ、一連の作業が終わるまで少し待った。

 看護師二人が病室から出ていくのを見送り、私はベッドの傍に置かれた椅子に座る。

 

「サイカ」

 

 彼女は、班目サイカは、ずっと眠っている。不恰好な酸素マスクを着けられたまま。

 

「元気そう、とは言えないか」

 

 花束を花瓶に活ける。確かトベラの花だったか。

 

「この前、シャーレの先生に初めて会ったんだ、良い人だよ、君はどう思うかわからないけど」

 

 何かの機器のついた手に触れる。まだ温かい。生きている。

 

「あの人、私を大切な生徒の一人、なんて言うんだよ、口説いてるつもりかな?」

 

 作り笑いをしようと口角を引き攣らせる私の頬に手が触れる。いや、触れさせている。

 

「大丈夫。君だけだから」

 

 本当に?

 

「うん、本当に」

 

 愛しているのは君だけ。

 

 

 






10年以上前にプレイしていたMGS3のサバイバルビューでスネークをグルグル回して遊んでた時から変わらず私は嘔吐が好きみたいですね。
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