不完全少女の生き方   作:出島二人

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「俺はハッツ・ザ・トウコウシャー、MEXICOの(進捗が)白い物書き……」







12話 頭の中にあるもの

 

 

 

「またこんな散らかして……掃除は定期的にしようって約束したよね?」

 

「ああいや、ちょっと、ほら、仕事がさ」

 

「言い訳しない!私だって同じなんだから」

 

「はぁい……」

 

 サイカに詰められるのはこれで何度目だろうか。私が悪いんだけれども。

 

「そんなに忙しい訳じゃないでしょ?」

 

「まあ、うん」

 

 中学生に回ってくる仕事などそうは無い。なんとしても稼がなければならないというような、のっぴきならない事情がある訳でもない私にとって、傭兵稼業はほとんど趣味の領域だ。それでも仕事自体はキッチリやっていた。

 

「でも今日は依頼が入ってて……」

 

「私もそうだよ」

 

 言い訳を切って捨てられる。冷たい目だ。しばらく前にゴキブリの処理を押し付けた時のように冷たい目だった。悪い事をしたとは思っているけれども、本当に無理。ヤツらには絶滅して欲しい。切実に。

 

「……明日にしない?明日なら余裕あるし、デートだってできるでしょ?」

 

 それに明日なら。明日なら……何があったんだっけ?そこだけハッキリしない。曖昧なまま追憶が進む。

 

「じゃあ明日掃除しなかったらデートは無しだからね」

 

「う……はぁい……」

 

 

◇◇◇

 

 

 爆発音がする度に建物が揺れる。迫撃弾が何処に着弾しているのか正確には分からないが、それがより恐怖を煽る。

 

「砲撃するんだったら私達が来る意味無いじゃん……」

 

「そう言うな、撃ち漏らしを排除するのが我々の仕事だ」

 

 鴉の意匠が施されたミニガンを抱えた仕事仲間……レイヤが言う。お互いマスクを着けているせいで少しばかり声が聞き取りづらい。

 

「だからってここに入る意味ありますかね!」

 

 味方の砲火に晒されながら敵の戦力を削れ。依頼内容には廃校された学校の校舎に潜伏する敵勢力の排除としか書いていなかったというのに、話が違う。

 

「気持ちは分かるが……」

 

 レイヤが言葉を切った途端、ミニガンが回転を始める。私は反射的に視線と銃口の先を目で追った。敵だ。

 

「うおおぉぉぉっ!!」

 

 叫びと共に放たれる大量の弾丸は敵が何事かを言う前にズタボロにしていた。

 

「ふぅ……戦場だからな」

 

「はいはい……」

 

 ショットガンを腰に提げ、レイヤが撃ち倒した相手を窓から外に放り投げる。

 

「うわぁぁぁ!」

 

 と叫ぶ彼女が下で回収班にキャッチされ、捕縛されて連れて行かれる様を見送る。

 回収された途端、また砲弾が校舎の何処かに直撃し、大きく揺れる。無遠慮な。

 

「そろそろ危ないかも知れんな」

 

「二手に別れますか」

 

 名目上、これは救助活動、であるらしい。どうも世間体が大事なようだ。よく分からないが、高度に政治的な問題なのだろう。

 

「おまえは四階を見ろ、三階は私だ」

 

 コクリと頷く。そのまま私達は別行動を始めた。

 

 

◇◇◇

 

 

「砲撃だけでも大変なのになんで侵入者なんか……!」

「つべこべ言うな!早く逃げないと……」

 

 階段の上から怯えた声が聞こえる。私達の存在には気づいているらしい。

 腰にぶら下げたセミオートショットガンではなく右腿のホルスターからハンドガンを取り出した。階段に足をかける事なく相手が下りてくるのを待ち構える。

 ドタドタと走り下りてきた敵の足音が止まる。すぐ上の踊り場だ。

 

「侵入しゃ……」

 

 言葉よりも速く私の体は動いていた。コンクリートの床を踏み砕いて跳躍。その勢いのまま膝で顔面を打ち抜くと相手は見事に壁にめり込んだ。(追撃で更に顔面を蹴りつけてやると顎が砕けたのか柔らかい感触が混ざり込む。小気味良い。)

 続けて下りてきていた二人がギョッとした顔で足を止める。好機だ。即座に膝蹴りをかました相手の胸ぐらを掴み、二人の方向へ投げ飛ばす。避けざるを得なくなった一人と避ける事も出来ずにもろに受け止めた一人。前者へ向けて二回だけ引き金を引く。

 

「ごぐっ」

 

 側頭部と顎にほんの少しの時間差で直撃した弾丸が脳を揺らし、意識を奪う。

 

「がああ!」

 

 下敷きになった誰かさんが叫びながらサブマシンガンを取り出してこちらを狙い、引き金を引く。そしてそれを──飛来する弾丸を──私はしっかりと目視し、体を少し傾けて避ける。

 

「……は?」

 

 弾道を予測して避けるのは無駄に頭を使う。流石にやってられない。再び撃ってくる前に今度はこちらが撃つ。ぎゃっ、という悲鳴を聞いた後、近寄ってダブルタップ。動かないのを確認し、近くの窓から三人まとめて放り投げた。

 

「四階かぁ……」

 

 危険な場所を押し付けられたような気がするが、まあ仕方ない。マガジンが空になったハンドガンをホルスターに仕舞い、ショットガンを代わりに構える。装填してあるのはスラッグ弾だ。

 

「よし、やるか」

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そうして来た四階は至る所が崩れ始めており、廃墟に近い様相を呈していた。

 

「……」

 

 なるべく足音を立てないよう膝で体重を地面に流すように歩いていく。不意の遭遇に備え、感覚を研ぎ澄ませる。

 ジャリ、と、誰かの足音。この角にいる。壁を背にし、貼り付くようにして息を潜める。ジャリ、ジャリ、トン、トン、トン……続きが無い。足を止めた?気づかれたか?

 あえて足を地面で擦り、軽く物音を立てると、カチリという音が聞こえた。安全装置を解除したのか。いつ飛び出す?今か?壁越しにお互いの緊張感が高まり続ける。

 

 ひりつく静寂を破ったのはやはり砲撃だった。地面が揺れた瞬間、私達は勢いよく飛び出す。だがまず引き金を引いたのは相手だった。ハンドガンだ。頭を狙った弾丸をすんでのところで躱し、身を屈めてタックルするが、受け止められてしまう。

 

「しッ!」

 

「が……っ!」

 

 肘が背中と後頭部を打つが、右肩を無理矢理曲げ、相手の顔面目掛けてスラッグ弾を放つ。

 

「グッ……」

 

 体の力が緩んだ事を察知し、左手で首元を掴んで前へ引き倒す。倒れ込んだ相手に覆い被さり、ギリギリと首を絞め上げる。相手も覆面をしている、バラクラバ、それも口が露出しないデザインだ。それでも苦しげに口を動かしているのが分かる。このまま落とす。

 

「ッ!」

 

 と、突然相手が無理矢理に身を起こして立ち上がり、近くの壁に私を叩きつけた。頭が強く当たり、脳が揺れる。それでも外すまいと力を込めていたが、一本背負の要領で投げ飛ばされる。

 

「ぐッは……」

 

 背中を強く打ち、肺から空気が絞り出される。その拍子に銃が手から離れてしまった。酸素不足で悲鳴を上げる心臓と肺の不調を無視し、横に寝返りを打つようにして転がる。瞬間、発砲音と共に口元から破けるような音がした。おそらく弾が掠ったのだ。構わず獲物を見つけた蜘蛛めいて足元へ飛び付き、そのまま腕を相手の足へ向けて振り抜く。

 

「!」

 

 足を掬われた彼女がバランスを崩し、肩で着地する。私は獣じみた動きで飛びかかり、肘で側頭部を打ち、顔面を拳で打ち据える。

 

「ッ!」

 

 馬乗りになって何度も何度も殴りつける。彼女はその度に痛みに呻いた。やっと呼吸ができるようになったところで殴るのを止めるが、彼女は意識が朦朧としているようでまともに動けないようだった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 肩で息をしながら銃を拾い上げ、完全に無力化しようと構え──

 

 

 

 すぐ横で爆発が起きた。

 

 

◇◇◇

 

 

「うぐ……」

 

 強い圧迫感。瓦礫だ、瓦礫が背に乗っている。腕に力を込め、身を起こそうとすると、それはガラガラと音を立てて更に圧迫感を増した。力を再度込めようとするが、腹部に激痛が走った。打撲だろうか。立ち上がるのではなく匍匐するように、這いずるように移動してようやく逃れられた。代わりに下半身はボロボロだ。

 

「ッ……はぁ……」

 

 一息ついて周囲を見る。彼女はどうなった?もしや生き埋め?

 そう危惧していたが、無事ではあった。起き上がり、足を引きずりながら、仰向けで倒れている彼女に近づいて行く。その途中で異変に気付いた。血が流れ出ている。彼女の頭、正確には左目から。

 背筋が冷える。慌てて彼女の覆面を外し、その素顔を見た。

 

「あ……」

 

 分かっておくべきだった、理解しておくべきだった。彼女は、サイカは、無事な方の目と口を半開きにした虚ろな顔で私を、違う、見ていない。ここに彼女はいない。

 

「ああっ……!あああ!!」

 

 抱き起こす。まだ温かい。生きているはずだ。きっと。おんぶをするようにして抱え上げる。大丈夫、助けられる。助けないと。

 

 

◇◇◇

 

 

「手は尽くしましたが……脳の損傷のためか、昏睡状態が続いています、それと……左目は眼球破裂を起こして……」

 

 彼女は、彼女はどうなるんですか。目を覚ますんですか。私はほとんど懇願するように医者に向けて叫んだ。

 

「わかりません」

 

 おそらくその言葉は、理解できている事実を改めて確認するだけの符号でしかなかった。

 

「ですが、生きてはいます」

 

 彼女は物も言わない、何も食べない。チューブに繋がれて、まるで機械の一部のようで。これが生きている状態だなんて、私には到底思えなかった。

 

「時間が必要なんです、きっと大丈夫ですから」

 

 私はただ、その言葉を盲信するしか無かった。

 

 

◇◇◇

 

 

 気づけば、寮に帰り着いていた。ほとんど何も覚えていない。レイに何か言われた気がする。仕事はどうなったっけ。そうだ、掃除しないと。掃除したら、何があるんだっけ?

 

 そうだ、デートだ。サイカをデートに誘って、そういえばサイカは何処に行ったんだろう。

 

「……ッ!」

 

 ガン、と、頭を壁に叩きつける。痛みで思考が少しだけクリアになった。

 

「はぁっ……!はぁっ……!」

 

 気を抜くと思考が持っていかれる。喪失感と罪悪感で頭がおかしくなってしまう。もうおかしいのかも知れないが、それでも居ない人間の事を探すような真似は絶対にダメだ。受け入れるしかない。私のせいだ。私のせいで亡くした。一番大切なものを。

 

「ぐうぅぅああああああ!!!」

 

 泣くな、その資格が何処にある。

 

 

 






私の若い頃はのう、弾丸を見て避けては狙い撃ち、見て避けては狙い撃ちしておってのう
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