不完全少女の生き方   作:出島二人

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そんなものに頼らずとも初投稿する方法は教えたはずよ






14話 分解

 

 

 

 

 サチコとの待ち合わせ場所は近所のカフェだった。黒服の醸し出すあの嫌な空気がまだ漂っているような気がして、気持ち悪くて仕方ない。せめて尻が大きい女だったら……じゃなくて、なんだっけ。そうそう、5000万を……

 

「ねえ、聞いてる?」

 

「え、ああ、聞いてるよ、ナノマシンね」

 

 サチコの声と氷が落ちる音で帰って来る。頼んだのはアイスココアか。私の手元にはナポリタンが運ばれていた。いつの間に。

 

「なんだ聞いてるじゃん、それで、ヴェリタスの力を借りて……というかほとんどやってもらったんだけどね」

 

「大体分かる、で……」

 

「経過観察しか無いって」

 

 分かりきった答えだ。麺をフォークで絡め取る。

 

「でも傷は治るし、良いんじゃない?」

 

 今の私には、サチコの言葉が無責任なものに聞こえてしまう。良くない傾向とは分かっているが。そんな私を見たサチコが切り替えるように、

 

「なんか映画でも観る?今日暇でしょ?」

 

「いや、今気になる映画無いし……」

 

 実際、今やっている映画は恋愛映画ばかりで食指が動かない。まあそもそも、ここ最近ずっと映画館には足を運んでいないのだけども。

 

「だったらなんか借りてアンタの事務所……というか家で観ようよ、夜通し」

 

 魅力的な提案ではあるが、夜通し、と言う部分が気になる。

 

「明日も私が暇とは限らないでしょ」

 

「今依頼無いよね」

 

 それを何故、と言う前に、

 

「家の戸締りとPCのセキュリティくらいはしっかりしなよ」

 

 そんな事を真顔で言い放たれる。なんだコイツ……

 

「分かった、行こう……」

 

 ああ、本当に面倒だなぁ。

 

「タキ?失礼な事考えたよね?」

 

 だから何故バレる?

 

 

◇◇◇

 

 

「ねえ、こんなのどう?」

 

 サチコの手にあったのはサメとタコが絡み合って殺し合いをしているパッケージの映画。どう考えてもB……いやZ級と呼ばれるタイプの映画だ。しかもコレは……

 

「どうしてパッケージにサメがいるやつばっか持って来るのさ」

 

「面白そうじゃん、『勝者は、海の王者となる』だって」

 

「君ホントに正気?」

 

 彼女の趣味はおかしい。というか判断基準がおかしい。特段映画好きという訳でもないにしてもこのチョイスは有り得ない。後学のために一度観た事はある。あるのだが、二度と観たいとは思えないタイプのものだ。

 

「サメで言うんだったらこっちの方が……」

 

 近くにあった古き良き名作を手に取る。これは傑作だ。あまり趣味では無いが、それでも良いものは良い。名が残るものにはそれなりの理由があるのだ。悪名であれ名声であれ。

 

「え、でも古臭いじゃん」

 

「…………」

 

 目元を手で覆う。今この女とんでもない事を言いやがった。

 

「……とりあえず君のチョイスは今回もナシで」

 

「なんでぇ!?」

 

 

◇◇◇

 

 

「あれ?片付いてる?」

 

「そりゃたまには掃除するよ」

 

「あ、シャーレの先生とユウカが来てたんだった、一人でする訳無いもんね?」

 

「……」

 

 少しくらい良い顔をさせてくれたって良いだろうに。黙ってテレビの電源を点ける。

 

「で、どうする?晩御飯とか……」

 

「宅配のピザとかで良いでしょ」

 

「じゃ、サチコの奢りで」

 

「……あんま高いのはやめてね?」

 

「どうかな」

 

 ディスクをプレーヤーに挿入する。比較的最近のアクション物だったはず。何年前かは具体的に覚えていないが。近くのソファーにドカっと座る。買っておいたコーラを持ったサチコが隣に座り、再生が開始される。

 

「……」

 

「……」

 

 ……退屈な映画だ。サチコは宅配ピザのメニューに夢中で、完全に興味を失っていた。私自身もポップコーンの方に意識が行っている。だがまだ一本目だ。

 

「マルガリータとかで良い?」

 

「んー……なんか他に無いかな」

 

 画面ではようやく山場のアクションシーン……殴り合いだ。だというのに全く盛り上がらない。

 

「こういう時は組み伏せて絞めた方が速い」

 

「何?フィクションに対して文句?」

 

「無粋か、やめとく」

 

 再生が終わる。ディスクを入れ替えて宅配を頼み、また再生を開始した。今度はちょっとしたサスペンス物だ。

 

「……アタシらこんな感じでハッキングなんてしないけどね」

 

「おやおやサチコ君、フィクションに対して……」

 

「分かった分かったごめん」

 

 少し経ち、チャイムが鳴る。玄関に出て宅配員からピザを受け取り、料金を払う。部屋に戻るとサチコがソファーに横になって私の席まで完全に占有していた。

 

「……邪魔」

 

「膝枕してよ膝枕」

 

 不躾なお願いに対し、ちょっとイイ事を思いついた。膝枕をする為にサチコの頭を持ち上げ、自分の膝に乗っける。

 

「おっ、おお……ホントにやるとは」

 

「……サチコちゃ〜ん、ご飯の時間でちゅよ〜」

 

 唐突に赤ちゃん言葉を使ってやるとサチコの顔が嫌悪に歪む。身を起こそうとする彼女の肋骨の中心を押して体を抑えつける。

 

「うげっ、そういうんじゃ、というか離して……」

 

「は〜い、あーんしてね〜」

 

 チーズやらコーンやらサラミやらが載ったピザの一切れをサチコの口に持っていく。嫌そうにしながらも口を開け、黙って咀嚼する様が面白い。(酷く壊したい気分だ。)

一切れ食べ終わると、サチコは口を尖らせる。

 

「悪かったから離して、あとニヤニヤするのはやめて」

 

「え〜?私が食べさせてあげまちゅよ〜?」

 

「次言ったらアンタの秘蔵フォルダの中身をSNS上にアンタのアカウントでばら撒くよ」

 

「よーしじゃあ普通に食べよう」

 

 引き際は弁えておこう。明らかに本気の目だった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ふぃ〜……お風呂ありがと」

 

「んー」

 

 ヒラヒラと上げた手を振って答える。ソファーに寝っ転がって観ていた映画はシリーズモノで、重ねるたびに評価を落としていた。今回も例に漏れず前作の方が良かったと思わされる出来だ。いっそ1のリメイクでもしてくれないものか。まあ、その前にシリーズがくたばるだろう。今やっている新作の評判もすこぶる悪いと聞くし。

 昔は良かった、なんて、懐古する程の歳でも無いんだけれど。

 

「映画どうだった?」

 

「つまんなかった」

 

「アンタいっつもつまんなそうな顔してるから分かりづらいよね、笑顔なんてほとんど見た事無いし」

 

「え?マジで?」

 

 言われてみればあまりちゃんと笑った覚えが無い気がする。気のせいかも知れないが。

 

「アンタが楽しそうにするのって他人虐める時ぐらいだよね」

 

「む……」

 

 失敬な奴だと思い身を起こし、サチコの方を見やると、彼女は何も着ていなかった。

 

「……服くらい着なよ」

 

「えー、良いじゃん、アタシらの仲なんだし」

 

 サチコがじりじりと近寄ってくる。避けようとしたが、気付けば押し倒されるような形で身体を押し付けられていた。

 

「……あ、もう一つあったね、アンタが笑顔になる時」

 

 自然と上目遣いになる彼女の目と、私の腹の上で潰れる胸が理性をチリチリと炙る。それと同時に異様な程の怒りが脳を占めていく。

 

「私の上で笑って見せて?」

 

 煽りやがって。望み通りにしてやる。

 

 

◇◇◇

 

 

 シャワーヘッドから放たれる水が貼り付いた体液を流していき、背中の引っ掻き傷に染みる。最低の気分だ。吐き気がする。

 

「おえ……」

 

 彼女を愛していると言った口で別の女の口を吸い、彼女に触れた手で別の女の深くに触れた。所詮、遊びだ。だが、だがこれは。

 

「ッ、ふぅ……」

 

 考える事をやめる為に冷たい水にする。身が引き締まるような嫌な感覚は思考を中断させるには充分だった。

 

「気持ち悪……」

 

 何もかも、不快で仕方ない。何より自分が気持ち悪くてたまらない。体は洗ったが、まだべたつくような感覚が残っている気がしてならない。もう一度だけ熱いお湯にして全身を流す。

 もうそろそろ出よう、そう思って蛇口を締め、戸に手を掛けた時だった。何か、違和感。本来あるはずの無い事柄が、あったような。

 

「あ……?」

 

 視界が、黒い。暗い、ではなく。先程と違う、何かが直接迫り上がるような吐き気に襲われ、口を手で抑える暇も無く這いつくばってそれを吐き散らした。

 

「うっ……ごぼ、えっ……」

 

 口から黒い、粘性の液体が溢れる。白いタイルの床に墨汁のように広がるそれからは、慣れ親しんだ鉄の匂いが漂う。

 これか、黒服の言っていた異変とやらは。全身に熱さと痛みを感じ、黒色の中に倒れ伏す。

 

「うぐああああ……!」

 

 喉に絡んだ液体が痰のように発声を阻害する。この黒は鼻からも目からも出ている、だが血だ、間違いない。この黒い液体は私の血液だ。粘膜がズタズタにされているのか。

 注射、あの注射が効くはずだ。服と一緒に脱衣場に置いていたが、風呂場の中に持ち込むべきだったかも知れない。意識が朦朧とし始める。出血のせいだろうか。

 

「ねえ、ちょっと大丈夫?叫んでたみたいだけど……」

 

 磨りガラスの向こうで起きてきたであろうサチコが呼びかける。

 

「そこの……箱……取って……」

 

 息も絶え絶えに、サチコに助けを求める。

 

「えっと……この黒いやつか、戸開けるよ」

 

 扉が開き、倒れた私を見たサチコが息を呑む。予想通りの反応だ。ほんの少し面白い。

 

「タキ……!?」

 

「箱、速く……!」

 

 サチコが手元に置いてくれたムカつく見た目の箱を開き、中の注射器を震える手で掴む。シリンジの入れ方が分かりやすくて助かる。

 

「う、ぐ……」

 

 体勢的に、首以外に刺せそうも無い。左手で持ったそれを、躊躇わずに頸動脈へと突き刺し、中の薬液を体に取り込んでいく。

 間を置く事なく、体の痛みも熱さも、出血も落ち着いていった。ただズキズキと頭が痛む。副作用か。息を落ち着け、立ち上がる。

 

「あー……とりあえず体洗うから閉めて……」

 

 固まっていたサチコがおずおずと扉を閉めたのを見てから、もう一度蛇口を捻った。

 

 

 






お久しぶりです。自律神経失調症とリアルの事情でしばらくまともにインターネットに触れられていませんでした。
ストックは10話分ありますがこれから詰めなければならないので実質無いも同然です。
サム、進捗デッドマンだ。
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