不完全少女の生き方   作:出島二人

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17話 裂傷

 

 

「ケーサツが出てくるとは……」

 

 ようやく頭痛がマシになった頃、私は屋上まで来ていた。

 

〈車はいつでも出せるけど、降りて来れそう?〉

 

「……」

 

 改めて下を見やれば大量のヴァルキューレ生、何部隊かが突入準備を整えている。

 

「誰が通報した……?」

 

 階下の連中は全員、少なくとも半日は目を覚まさないくらいにはボコボコにしてやったはずだ。手間取った覚えは無い……が。

 

「……今は考えてる場合じゃないか」

 

〈で、降りて来れる?〉

 

「ドローンを……四つ、いや三つこっちに寄越して」

 

 言い終わるよりも早く五機のドローンが目の前に並ぶ。

 

「数合わないんだけど……」

 

〈回収しといて、で、どうすればいい?)

 

「そっちに向けて階段状に……5m感覚で並べて、若干低く」

 

 二機のドローンを小脇に抱え、ドローンが駐車場へ向けて並ぶのを待つ。小さな駆動音は地上のヴァルキューレ共には聞こえない。

 

〈すっごい嫌な予感するんだけど〉

 

「当たってるんじゃない?」

 

 そう言って後ろに下がり、距離を目測で測る。正確に5mずつだ。問題なく行ける。

 

「汚れたらごめんね」

 

 走り出し、そのままの勢いで欄干から飛び出した。

 

〈バカ!?〉

 

 サチコの悲鳴に顔を顰めつつドローンを目掛け足を伸ばす。問題ない。足がかかる。

 

「フッ!」

 

 跳躍。跳躍、そして跳躍。

 

〈落ちるよ!?〉

 

 眼下には立体駐車場の屋上、サチコのバン。問題ない。全く問題ない。

 内臓がふわりと浮き上がる感覚、落下だ。ある程度低くしたというのに20mはある。急速に地面が迫る。

 

「ッ!!」

 

 まずは足の裏……太腿……落下の衝撃を全身で受け止めつつ地面を横に転がる。五点接地法だ。前に本か何かで見た方法だが、こういう時に役立つ。ドローンも無傷だ。

 

「…………ふぅ」

 

 痛みは少ない。捻挫もしていない。完璧な着地だ。

 

「……大丈夫?」

 

 近寄ってきたサチコが差し伸べた手を掴み、立ち上がる。

 

「うん、腹にナイフは刺さってない」

 

 汚れたマスクを脱ぎ、静かにバンに乗り込んだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「疲れた……」

 

 助手席のシートを倒し、座席に寝そべる。撃たれなかったとはいえ頭をハンマー代わりにされたのはなかなか堪えた。

 

「頭大丈夫?」

 

「いきなり罵倒されると私も傷つくんだけど」

 

「ごめんごめん、精神面は大丈夫?」

 

「そっち!?」

 

 ケラケラと笑うサチコ。昨日は顔を涙でぐちゃぐちゃにしていた癖に生意気な。

 

「……でも本当に大丈夫?発作、出てたでしょ?」

 

「ああ……」

 

 注射器。初めて打った時より若干頭痛が強く、そして長かったような。

 

「……しばらくは大丈夫」

 

 きっと大丈夫。

 

「そう、そんな頻繁にって訳でも無いんだ」

 

 サチコが何か勘違いしているような気もするが、おそらくそちらの方が良いだろう。彼女がこちらに視線を向ける。

 

「アタシ、アンタに死んで欲しくないから。アンタがどう考えてようと」

 

 真剣な眼差し、それに声。

 

「それは……」

 

 無理だ、と私が言いかけたのを遮り、サチコが続ける。

 

「理不尽でしょ、おかしいじゃん、なんでアンタが苦しんで死ぬ必要があるの?」

 

「……どうしようもない不運に理由を求めても意味無いよ」

 

「こんな事を受け入れろって?」

 

「まあ、君がどう考えてようと私は死ぬからね」

 

 イカレ女……というサチコからの謂れのない中傷を余所に、後ろにあったエナジードリンクを手に取りプルタブを上げて、無理矢理胃に流し込む。正直なところそこまで美味とは言えない。少しだけ座席を戻し、スマホを取り出す。

 

「はー……報告するか……」

 

 番号を打ち込み、電話をかける。依頼主の指定だ。『何事も無く終わったなら』電話をして来いと。何か含みのある言い方だ。何度かコール音が鳴った後。

 

〈やり過ぎだ、傭兵〉

 

 第一声。

 

「あの車……」

 

 サチコの困惑したような言葉。次に衝撃。そして暗転。

 

 

 

 

 悲鳴。酷く引き伸ばされたサチコの悲鳴で意識が引き戻される。0.1秒未満のほんの僅かな時間だけ、私は意識を手放していたらしい。飛び散るガラス片、そしてへし折れた脚。アドレナリンが激痛を瞬時に和らげ、体感時間を異様な程に延長している。何が起こった?事故なのは間違いない。この速度でぶつかってきたのは何故だ?害意があっての行動か?

 だが今やるべき事は思考を巡らせ考察する事ではない。衝撃で空に浮いたスマホを掴み、サチコの方へ手を──手遅れだ。間に合わない。

 

 

◇◇◇

 

 

「早く降ろせ」

「ダーメだ、助手席が完全に潰れてる、中身は……うわっ、酷い」

「なら丁度いい、そっちは一派をほぼ一人で壊滅させた奴だ」

「ああ、時崎タキとかいう……とりあえず運転手だけでも連れ出そっか」

「早く乗せろ、じきにヴァルキューレが来るぞ」

「うーい……あら?腕が……」

「オイ何してる、早く……」

 

 唯一まともに動く左腕で、体を縛る拘束具と化した車体を無理矢理引き千切る。何かが頬に刺さっている気がするのでそれも無理矢理抜いてやると妙に口の中がスースーする。

 

「え?」

 

 車と一緒に潰れた両足を引き千切るような勢いで、無理矢理体を車外へと持っていく。激痛が走るが次の瞬間には服の下でぐちゃぐちゃになった足が再生していく。

 

「なんだコイツ……」

 

「積み込め!逃げるぞ!」

 

 まだ立てない。だが這ってでも追いかけてやる。

 

「プランBだ!離れろ!」

 

 その言葉と共に急速に近寄ってくるエンジン音。痛む首に鞭打って横を見やる。

 

「冗談きついって……」

 

 二回目だ。

 

 

 






リアルが忙しく、更新が滞りまくっていますがなんとか元気です。季節の変わり目で体調が悪化してましたけどそれでも元気です。
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