不完全少女の生き方   作:出島二人

20 / 28


「──以前交戦した時崎タキについて聞かせて欲しい?まあ顧客という訳では無いけれど……そうね、彼女は何処か……おかしいのよね。目は口ほどにモノを言うとは良く言うわよね?何があろうと何をされてようとずっと退屈そうにしてるのよ。以前スカウトしたいなんて言ったこともあるけど……今考えると、アレはダメね。彼女は──」





18話 [Reboot][Reboot][Reboot]

 

 

 

 下手な脚本で描かれたくだらない痴話喧嘩とそれによって起きた悲劇が、私を非常に苛立たせる。恋は障害がある方が燃えるとか、そんな事を表現したいのだろうか?だとしたら下の下だ。だがレンタルしてしまったものは見る他無い。くだらないチャレンジだった事だけ記憶しよう。

 そんな事を考えながら、漫然とポップコーンを口にする。ソファーに散らかっていそうだが、それを気にするようなテンションでもない。後ろから声をかけられる。サイカだ。

 

「これ何の映画?」

 

「え?恋愛モノだけど……」

 

 私の言葉に彼女が鼻を鳴らす。

 

「なに?そんなおかしかった?」

 

「いやだって……あのタキが、ねぇ?」

 

「そのバカにしたような目!腹立つなぁ」

 

 カラカラと彼女が笑う。

 

「ごめんごめん、でもちょっと意外でさ」

 

「……まあ、確かに私の趣味じゃないよ」

 

「でしょ?それに……」

 

 彼女がずい、と顔を近づけてくる。吐息を感じる距離まで近づかれて、思わず体を跳ねさせてしまう。心臓の音は聴かれていないだろうか、なんて、バカバカしい心配が頭を過ぎる。耳元まで近づかれ、小さな囁きが私の鼓膜と心臓を揺らした。

 

「私がいるもんね」

 

「……」

 

「あ、赤くなった、面白い」

 

「からかわないでよ……まあ、趣味じゃないけどさ……興味のないジャンルにも手を出してみるのも悪くないかな、って思っただけだよ」

 

「ふーん、隣良い?」

 

「良いよ」

 

 するりと隣に座ったサイカの匂いが鼻腔をくすぐる。ダメだ、三流の恋愛映画に感化でもされてしまったのか私は。

 

「これ面白いの?」

 

「いや、別に……他の観ようかなって思ってたとこ」

 

 場面はついにクライマックス、なのだけど……ダメだ、全く面白くない。ため息が重なる。

 

「他の観よっか」

 

「そうしよう」

 

 ディスクを取り出し、他の借りてきたものに替える。確かこれはアクション映画だったはず。余程でなければハズレは無いだろう。

 

「ねぇ、タキ」

 

「なに?」

 

「ほっぺ、すごい事になってるよ」

 

 突然の不可解な指摘。試しに触れてみた。

 

「あれ?血?」

 

 真っ赤な血が、裂けた頬から止め処なく溢れてくる。なんだこれ。

 

「痕残っちゃうかもね」

 

「えー、やだな……」

 

「あ、そろそろ始まるね」

 

 モニターに向き直る。どんな映画だったっけ。ちょっと楽しみかも。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「う……」

 

 目が覚めると木に引っかかっていた。冗談みたいだが。

 

「あが……」

 

 引っかかったのがよりにもよって顔、それも大きく裂けた頬に枝が。

 ナイフを抜いて枝を切断してやると、支えを失った体がそのまま落ちてしまう。思ったより高く、着地には失敗したが、無事だ。なんとか生きている。ただし。

 

「変に治っちゃったかな……」

 

 どれくらい放置されていたのやら、頬は裂けたまま戻らない。ずいぶんとロックな見た目になってしまった。それも両頬がそうなっている。辛い。

 マスクを口元に引き上げ、とりあえず思考を本題に戻す。

 

「さて」

 

 サチコが攫われた。おそらく依頼主に。何故だ?人質だろうか?であれば殊更、何故?私達は何をした?

 

「やり過ぎた……?」

 

 あの言葉は私達が想定と違う動きをしたという事だろうか、なら依頼主の想定は恐らく。

 

「私達が捕縛される事」

 

 誰が通報したのかずっと疑問だったが、まさか。またハメられたのか。

 

「はぁ……」

 

 立ち上がり、周囲を見渡す。バンはまだ回収されていない。車体を引き裂いて中を見る。黒い血溜まりの中にスマホが。画面も割れていないとは、軽く奇跡だろう。

 

「……もう一度電話してみるべきか」

 

 そう思い、点けたスマホの画面にメールの通知。まさか。

 

『傭兵、時崎タキに告ぐ。』

 

 開いてみれば依頼主、グルービーファミリーの名前が。

 

『明日正午、この地点に来い。』

 

 記された位置は……廃棄された工場地帯。あからさまに罠だろう。まあ既に一回ハマった身だ。またハマっても大した事は……

 

「あるなぁ」

 

 しかしどうしたものか。真正面から不利な状況へ突っ込むにはナイフだけでは心許ない。だが私にはまともに銃は使えない。さあ本当にどうしたものか。

 いや、サチコが攫われたというのに何を悠長にしているのか。深く息を吐く。

 

「あそこ行こう……」

 

 

◇◇◇

 

 

 

「おかえりなさいませ!お嬢様!」

 

 フリフリメイドのお出迎え。普段ならこっちの客として来たい所ではあるが……

 

「店長います?」

 

「ああ、そちらの……あちらの扉ですお客様、ご案内いたします」

 

 雰囲気が変わる。ここは流石に教育が行き届いている。立ち振る舞いが切り替わったメイドさんに着いて行く。

 

 大量の武器、武器、武器!銃だけでなく刃物やら鈍器やら爆発物やら……特徴的なのはその形や材質だ。コストや実用性を度外視した物が多い。純金で出来たナイフなんか使える訳無いだろうに。観賞用だろうか。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

 メイドさんが引っ込んでいく。椅子に座っていた店長がこちらを向いた。

 

「よう、時崎!ナイフの調子はどうだ!」

 

 元気の良い人だ。久しぶりに会っても様子は変わらない。

 

「ナイフに調子も何も無いでしょ……銃ある?」

 

 私のその言葉に、店長の表情が怪訝なものに変わる。

 

「……撃てるのか?」

 

「やってみない事には」

 

「分かった……金は後で良い、俺の目の前で試射しろ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「フゥーッ……」

 

 銃を持つだけで不快感が腕から昇ってくる。持っている手が震える。思わず取り落としてしまった。

 

「ああ……クソッ!」

 

 歯噛みし、台に手を打ちつける……見事に砕けた。やらかした。

 

「これも含めるからな」

 

「ごめんなさい……」

 

 もう一度拾い上げる。45口径弾を使用する拳銃。威力は少々物足りないが、今の私では反動すらろくに抑えられない。これでもキツいかも知れない。震える手を抑え込み、的に狙いをつけて引き金を絞る。

 

「づっ!」

 

 反動でやはり取り落とす。的を見れば狙い自体は定まっていたが、これでは話にならない。

 

「クッソ……」

 

「理由は聞かん、やらにゃならんのならどうにかしてモノにしろ」

 

「……分かってますよ」

 

 拾い上げ、再度挑戦する。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……」

 

 廃倉庫。出入り口は一つ。確実に待ち構えられている。緊張のせいか、ホルスターの中の銃が重みを増したように感じる。ここで下手を打てば、サチコが埋められるなり燃やされるなりで死ぬ可能性がある。当然緊張も、いや、恐怖もする。目の前でゆっくりとシャッターが開いていく。

 

「よく来たな、使い捨ての傭兵」

 

 依頼主だった奴に二階から見下ろされるような形で出迎えられる。周囲には三十名だかの部隊。

 

「タキ!バカ!なんで来た!」

 

 サチコの罵倒が響く。あんな小さくて抱き心地の良い体の何処からこの声が出てるのやら。

 

「寂しかったでしょ?」

 

「うっさい!アタシなんか放っておけば……!」

 

 銃声、サチコが静かになった。しばらくぶりに何か、嫌なものが腹の内に溜まる感覚がある。静かに銃を取り出した。嫌悪感と共に何かが身体に満ちる。

 

「痴話喧嘩はあの世でやってもらおうか」

 

 サチコを撃った奴が上げた手を振り下ろす。

 

 振り下ろそうとする。

 

 振り下ろそうと試みる。

 

 振り下ろせるはずはない。

 

「あ?」

 

 潰れた自分の腕を見つめるそいつを私は後ろから見つめる。一拍遅れ、周囲の窓ガラスが吹き飛んだ。

 

「なんだ!?なんであそこに゛っ」

 

 一階で叫んだ奴の喉に蹴りをめり込ませる。悶え苦しんだかと思えば、血の混じった泡を噴き出して力なく横たわった。

 

「な、にが……」

 

 今度は近くで驚愕する奴に銃撃。反動に耐えられない?腕が震えて狙いが定まりそうにない?ならナイフを食い込ませて、もう片方の腕と挟むようにする。それに怪我しても問題無く即座に治る。気にする必要など、何処にも無い。

 

 このキヴォトスで暴力による悲惨な死を意識する事はほぼ無い。死ぬかも知れない、と本気で思わせられれば、人は折れる。マスクを下ろして黒い血で濡れたナイフを舐めて威圧してやると、周りの連中が明らかに怯えて面白い。

 

「口裂け女……!」

 

 事実だが、何か嫌な響きだ。すぐさまその発言者の髪を掴み、壁に押し付ける。頬を舐めてやると血と唾液の混じった液体がべったりと着き、下からアンモニア臭がし始める。可愛い子だ。手を離すとクタッと、力無く座り込む。顔面に膝蹴りを入れ、壁にめり込ませてやる。

 

「ハーッ……」

 

 深く息を吐き、周囲を見る。気圧され、怯え、死を恐れる顔。良い気分だが、サチコの姿が目に入ると高揚が薄れる。よくも。足に力を溜める。

 

「るァ!!」

 

 私の体は瞬時に音速の壁を超える。当然身体中からブチブチと嫌な音が響くが、今はどうでもいい。一番離れていた奴の顔面に蹴りを叩き込み、大きく吹き飛ばす。

 

「なんなんだよ……なんなんだよ!」

 

 悲鳴をあげ、腰を抜かす奴もちらほら。このまま痛めつけて二度とこんな馬鹿な真似、は。視界が黒い、まさかこんな時に。

 

「あ、う……」

 

 血涙、吐血、血尿、黒い血が大量に体から出ていく。全身の熱さと痛みでまともに立っていられない。

 

「い、今だ!やれ!撃て!」

 

 まずい、注射を、そう思って取り出した注射器を、腕を撃たれて取り落とす。逃げられない。

 大量の銃弾が全身を打つ。体を支えられず、後ろに倒れ込んでなお銃撃が止まない。痛みが飽和して脳が情報の処理をストップした。まだ止まない。止まない。止まない……

 ようやく銃弾の雨が止んだ。口からひゅーひゅーと掠れた呼吸音が聴こえてくる。一瞬それが自分の発している音だと思えなかった。

 

「やった、か?」

 

 腕を動かし、手元を探す。恐らくこの辺りに落ちたはずだが……あった、注射器。躊躇いなく首に刺し、薬液を注入する。

 

「まだ動いてる!撃て!」

 

 再び銃弾の雨。土砂降りだ。だが先程と違って痛みが飽和しない。意識がハッキリしている。傷がどんどん治っていっているのを感じる。化け物じみた身体だ。だがここは無理に動かないでおこう。

 

「ね、ねえ、見に行ってよ」

 

「やだよ……なんで私が……」

 

「良いから早く!」

 

 銃撃が止み、誰かに急かされて確認しに来る奴を待つ。全身血塗れだが、怪我は無くなった。

 

「ヘイローあるのに!」

 

「あんなボロボロで動けるか!さっさと行ってよ!」

 

「ああもう……」

 

 銃口で突っつかれる。気分が良くないので掴んで引き倒してやる。

 

「いやぁぁ!!!」

 

 ナイフを、泣き叫ぶ彼女の横っ腹に押し付ける。一線を越える事だけはしないが、これはそこに手をかける行為。勢いよく横へと一閃。

 

「あ、え?やだ、ちょっと……」

 

 鮮血が散る。周囲の雰囲気が変わった。出てきた物を掴む。

 

「やだ、溢れちゃ……返して」

 

「逃げろ!逃げろ!!」

 

 シャッターの方向へ逃げる奴らを全員タックルで他所へ吹き飛ばす。窓から逃げようとする奴も同じく。

 

 絶対に逃さない。

 

 

◇◇◇

 

 

「私の……仲間をよくも……」

 

 潰れた腕を抱えたさっきの女。もう片方も潰してやれば素直になるだろうか。試してみると良い悲鳴が響いた。

 

「何が目的で私らをハメた?」

 

「はぁっ、はぁっ……私達が、ファミリーの実権を握るために……必要な事だ……」

 

 どうやらコイツらの依頼で叩きのめした連中は同じファミリーの奴だったらしい。それをキッカケに抗争を起こし、ベレスと協力して内外からファミリーを壊すつもりだったのだとか。バカバカしい。

 

「じゃあ君がここで死んだら全部丸く収まるって事か!」

 

 ニッコリと笑顔を見せてやると、必死に後退る、とても愉快だ。

 

「やめ、やめろ……!金なら払う!予定額より多く渡そう!そ、そこの金庫だ!ぜ、全部持って行ってくれて構わない!頼む、許して……殺さないで……」

 

「人を殺そうとしといてそんな命乞い通ると思う?」

 

 絶望に染まった表情を見ながら、足を踏み潰す。後退る事も出来ない可哀想な芋虫の出来上がりだ。頭の上に足を掲げる。踵落としの構えだ。

 

「いやだ……やだぁぁ……」

 

 幼児退行まで起こしていてはあまり面白くない。さっさと終わらせよう。勢いよく振り下ろした。

 

 

 

 

 

「……」

 

 ぶくぶくと泡を吹いて失神したそいつの横の床に踵がめり込んで、危うくこけるとこだった。とりあえずこれで終わりか。大きく息を吐き、サチコの元へ……金庫が目に入った。

 

 

◇◇◇

 

 

 通報を受け、立ち入った先での光景は、酸鼻を極めるものだった。ハッキリ言って、これまで見てきたどんな物よりも不快で、グロテスクで、最悪だった。吐き気を堪えられず同僚が外に出た。

 腹を切り開かれ、腸が周囲に伸びている人間が複数、手足を潰されている人間も多数。

 

「うっ、え……」

 

 さらに最悪なのが、何人かはまだヘイローが浮かんでいるという事。呻き声すら聞こえてこないというのに、まだ意識だけはあるのだ。苦痛は想像を絶するものがあるだろう。

 

「死人がいないかを確認しないと……」

 

「わ、私が、やるよ……吐いてスッキリしたし」

 

 同僚に生死確認を任せ、医療班を呼ぶ。酷い顔色だが、職務には忠実な彼女だ、大丈夫だろう。

 

「う、あう……」

 

 呻き声が上から聞こえてくる。意識のある人が居る。階段を駆け上がって確かめると、手足が潰されて血塗れのスケバンがいた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、あ……」

 

 ショック状態か、まともに言葉が話せていない。落ち着くまで待っているべきか、負傷者を運ぶべきか。見るからに重体の人もいる。今優先すべきはそちらか。思い直して立ち上がる。

 

「待って、待って……」

 

 と、突然止められる。喋れたのか。

 

「どうしましたか?」

 

「口っ、口裂け女が、口裂け女が皆をッ、あ、殺し、殺してっ」

 

 口裂け女?何処ぞかで聞いた事のある怪談だ。錯乱しているのだろうか。

 

「おーい!こっちへ!」

 

 同僚の声、錯乱していると思われる彼女を置いて向かう。

 

「全員生きてる?」

 

「うん、皆脈はある、治療したら助かると思う……それより、これ」

 

 同僚の指す床、何か、異様に黒い。塗料でも撒いたのだろうか?

 

「これ、血だよ……真っ黒だけど」

 

「……」

 

 薄ら寒いものを感じる。人智を超えた化け物でもいたのか、ここに?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ん、んん……」

 

「おはよ」

 

 サチコがようやく目を覚ましてくれた。耳に吐息が当たってずっとくすぐったかった。

 

「はあ……なんで見捨てなかったの?」

 

「そりゃあ、君がいなきゃ……」

 

 言葉に詰まる。さてどう言ったものか。

 

「いなきゃ?」

 

「……仕事が、出来ないからね」

 

 そう言うと納得してくれなかったサチコが鼻に指を突っ込んでくる。

 

「本音は?」

 

「ふが、離へ……ああもう、死んで欲しくなかったからだよ、友達だし」

 

「……友達ね」

 

 不服そうに呟く声。その理由は分かっているが、私は。

 

「まあ、とにかくありがとう、助けてくれて……大好きだよ」

 

「どういたしまして……」

 

 絶対に、その気持ちには応えられない。

 

 

 






『他人を傷つけることは好きか?』という質問に嬉々としてYESと返す皆様〜!

地獄に堕ちろ!!!!!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。