不完全少女の生き方   作:出島二人

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今、人類は初投稿だ。

とても、とても。




ACT4
19話 復調


 

 

「ほら、コレ」

 

 店長にスマホの画面を見せられる。キャスターが先日起きた『口裂け女事件』について報じている。猟奇的かつ陰惨な事件だと。死者は出なかったものの、精神的なショックで被害者は全員話す事を拒否しているとか。

 

「……」

 

 怪しまれないように普段しているマスクとは別で、使い捨てマスクを着けてはいるが、私の口はあれ以来裂けっぱなしだ。このままだと外食が出来ないのが困る。せっかくあの倉庫から金を取って来れたというのに。山分けしようと入院中のサチコに連絡したが断られてしまった。お礼のつもりか。

 

「まあ、少しの間雲隠れした方が良いな、分かってるとは思うが……」

 

「ええ、これのお代を払ったら……」

 

 銃に意識を向ける。持つと気分が悪くなるだけじゃなくなってしまう。精神的にスイッチが入るのか、やたら力が漲るというか……恐らく火事場の馬鹿力だ、となれば体が保たないかも知れない。普段は封じておかないと。

 

「その件だが」

 

 店長が遮る。なんだろう。

 

「仕事を一つ頼みたい、遠出だ。雲隠れするにも良い……どうだ?」

 

「どういう仕事です?」

 

「CL社、知ってるか?あそこの秘密の施設に潜入するんだ、スパイみたいに」

 

「……面白そうですね」

 

「だろう?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そんな訳で、私は口を簡易的に縫い合わせ、数日をかけて単身僻地へと赴いていた。店長もせっかくならもっとヘリで目的地に近づいて欲しかった。

 

「あっづ……」

 

 湿度が100%はあろうかという不快感、気温の高さ、非常にじっとりとしている。気持ち悪い。ジャングル故に仕方ないが。野生動物の声や蚊の羽音が地味にストレスを与えてくる。それに……

 

「やっぱり動きづらいよこれ……」

 

 ゴワゴワとした感触が全身を包んでいる。なんでも店長手ずから製作した野戦服だとか。赤外線やら電磁波やらの探知に対する欺瞞効果があると言っていた。他にも色々あるとも。とにかく、何かしらの技術で体温を適温に保ってくれているのは確かだ。おかげでそこまで汗をかいていない。

 

「はぁ、ここかな?」

 

 見るからに断崖絶壁。この上に施設があるらしいが……フリークライミングしか無いか。いつもの手袋と足袋を装着する。これで滑り止め要らずだ。

 

「ふっ、ほっ」

 

 ひょいひょいと登っていくごとに地上が離れていく。何か嫌な気分だ、トラウマが刺激されるような。なにか、腹が痛むような。

 

「うう……楽しい事考えるか」

 

 まだ先は長い、もっと面白い事を、こう、思考を埋め尽くす感じで。何が良いだろう、やはり女……いやいやもうちょっと健全に。となると映画か。そういえば断崖絶壁を命綱無し、こんな器具も無しに登って、途中で最後に残った仲間が脱落して落ちていく、みたいな映画があったような。

 

「ああもう、バカ!」

 

 恐怖が増した気がする。悪手だった。でもアレは割と面白い映画だった。また見返そう。

 

 

◇◇◇

 

 

「やっと、頂上……」

 

 深く息を吐く。流石に肩が痛い。草だらけの地面に座り込んでマッサージをしておく。明確な怪我でなければナノマシンが治してくれないのはとても不便だ。これのせいで死にかけているというのに頼ってしまうのは良くないだろう、とは、思うのだが。

 

「はぁ、アレか……」

 

 目の前には結構大きな施設。腰に提げたカメラを持ち、レンズを覗く。ピントを合わせてシャッターを切る。ちゃんと撮れてるかを確認した後、施設の周りにレンズを向ける。警備兵が多数。そして戦車も多数、あれはゴリアテか。高射砲もある。どれもこれも写真に収めていく。

 

「うん、良し」

 

 アレらを無力化するとか破壊するとか、そんな話では無いのが救いだ。仕事はこのCL社の施設の調査のみだが、もちろん内部もしっかりと調べろとのお達しだ。

 なんか最近、この会社に関わり過ぎている気がする。

 

「……」

 

 しかし、外だけでも兵器がやけに多い。こんな僻地に外敵が来るとは考えづらい。来たとしても、崖を背に建てられた場所故に守りは固い、わざわざゴリアテなんか用意しなくても良いはずだ。強い違和感を覚える。

 何度か見直して気がついた。兵器はそのほぼ全てが、施設の方向を向いている。外敵ではなく、中から出てくる事を警戒しているのか。なら、何が出てくるというのだろう?肌がざわつく感覚。

 

「どうにか入ってみるしかないか」

 

 カメラを腰に提げ、侵入口を探す……無い。なんというか、建物としてこれで良いのか、という程に無い。唯一の出入り口は無駄に大きく、しかも警備兵だらけ。さてどうしたものか、もう一度カメラを手に持ち、ズームしたりして周囲を観察する。

 

「ん?」

 

 よく見ると遠方からトラックが来ている。何かを輸送しているのか、それともここから輸送するのか。あまり舗装もされていない道だ、ここまで来るのにしばらくかかるだろう。良し。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「止まれ、荷物を確認する」

 

 良い手だと思ったのだけど。

 

「はいはい、早くしてくれ、五時間も運転して疲れてんだ」

 

「まあそう急かすな……なんだコレ?」

 

「どうした?」

 

「空き箱か……?」

 

 ここでバレたら確実に終わる。逃げ切れるとも思えない。長期戦になれば当然私が不利だ。ここでどうにかする手立ては無い。

 

「もしかしたら保持が甘かったかも知れん、中身は無事か?」

 

「確認してみる」

 

 足音が響く。箱が持ち上げられ……

 

「……何も無いじゃないか」

 

 ……コイツらに車体の底を見るという発想が無くて良かった。この手袋と足袋のおかげで助かった場面は数知れずだ。

 排気ガスの匂いにさえ目を瞑れば良い隠れ場所と言っていいだろう。もう少し遅めにくっつけば良かった。

 

「確認完了だ、行っていいぞ」

 

「どうも」

 

 車が再び動き始め、建物に入っていく。少し間を置いて、止まった。

 

「ほら入れるぞ」

 

 何人かの足音、そして荷物が運び出されていく音。乳酸が溜まってきた事を実感し始めた頃、最後の一つと思われる箱が運び出された。

 

「おい、ドライバー、記入してもらう書類がある。そこに停めて中に入ってくれ」

 

「あいよ」

 

 来た。簡易的な駐車場として扱えるようなスペースへと車が潜り込む。都合の良い事に壁際だ。そのまま壁にくっつき、天井へと行く。陰に隠れたおかげで警備兵も気付いていない。それにこの野戦服、その場に適切な迷彩に色と柄を変える機能がある。遠目からではなかなか判別もつかないだろう。

 少しずつ動き、グニャグニャと変化していくパターンを楽しむ。

 

「……」

 

 改めて周囲を見る。厳重そうな扉が目につくが、どうやって入ったものか。監視カメラは扉の方を向いている。無理矢理突破するのは難しい。どうもカードキーで開くようだが……

 

「じゃ、お疲れ」

 

「おう、また頼むぞ」

 

 運転手がトラックに乗り込む。運び出していたのは警備兵だったか。事務所と思わしき扉に一人だけが入っていく。これはこれは都合の良い。扉が閉まる前に蜘蛛みたいに入り込む。

 

「あー……暇だな」

 

 そう呟いた、椅子に座り込んだ兵士の頭をナイフでぶっ叩く。ヘイローが消え、机に突っ伏したそいつの体を持ち上げ、近くのロッカーに詰め込む……いや小さいなこのロッカー。折り畳めばなんとかなるだろうか?難しいか。女子トイレの個室にでもぶち込んでおこう。

 

「あ、そうだ」

 

 良い考えが浮かんだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「どうも」

 

「……」

 

 突然投げかけられた挨拶に対し手を挙げて応えると、相手はそのまま通り過ぎていく。変装、古典的な手だ。服と帽子がどうしてもキツいが、他は問題無く、依然警戒されずに進めている。

 ぐるっと見て回ったが、やはり外へ何かが出ないように色々揃えているように見える。行くべきは恐らく地下だ。階段は無く、あるのはカードキーで開くと思われるエレベーターのみ、あの子からくすねたカードキーをかざしてみる。

 

「あれ……」

 

 すんなりと通った。予想外だ。ここまで厳重なくせに。開いた扉に入り込み、最も下の階のボタンを押し、閉じるのを待つ。

 

「ちょっとごめんよ!」

 

 突然滑り込んできた誰か……白衣を着た猫のような人だ。ぐいぐいと押し込まれてちょっと不快だ。毛が……

 

「君初めてかな?まあちゃんと話は聞いてるでしょ、あのAIについて!アレにアレが浮かんだのは最近の話なんだけど、それで警備が強化されたんだよ!もうカードキーなんか面倒で面倒で!忘れてきちゃったから相乗りさせてもらったんだけど良かった?まあもう乗っちゃってるから良し悪しは関係無いか!あっはっは!」

 

 狭い場所でのマシンガントークに私がタジタジになっている事は一切気付かないまま、話は続く。

 

「で、CL社がこの研究施設を封鎖する事を検討し始めてるって噂があるんだけどね?まあ僕としてはもったいないと思ってるんだけど、妥当かなって気もするんだよね〜、デカグラマトンの預言者って知ってる?アレと似た事が起きてるんじゃないかって本社じゃ大騒ぎ!ただのAIがあんな風にキヴォトスの存在に対して敵対的になって真っ当な物理法則だのなんだの無視するようになってるって信じられる?まだそこまで特異なのはここじゃ起きてないけど時間の問題かも知れないじゃない?だから今のうちにちゃんと研究しておこうって思ってるんだけど、あ、これ秘密なんだった、ごめん忘れて?下手に近づくな〜って上司がうるさくてさぁ」

 

 ポン、と、たどり着いた音。訳の分からない話をされ続けたせいで結構疲弊したが、ようやくだ。

 

「おっ、着いたね、記念撮影とかしたいなら今のうちにしときなよ?まあここは本当は撮影禁止なんだけどさ!お互い黙っておくって事でひとつ……どう?」

 

「ああ、はい……」

 

 やたらとハイテンションな研究員っぽい人を横目にエレベーターから出る。なんか肩がこった。

 

「これは……」

 

 目の前には想像を絶する光景が広がっていた。真っ白で、大きな部屋の中に、墓標のように立ち並ぶ何かと、中央に鎮座する円筒状の黒い物体に、ヘイローが。

 

「そう、これが我が社のAI、『大脳(セリブラム)』!動くための体と小脳が無いから大脳だけって事らしいよ」

 

 とりあえずカメラを取り出し、近づいていく。

 

「ところでさっきから視線を感じるんだけど、僕の気のせいかな?」

 

 シャッターを切り、画像を確認する。先程の話も含めて報告すれば完璧だろう。誰?

 

「え?」

 

「いやなんか視線感じるなって……」

 

 私達と似ているね。誰?

 

「私は……」

 

「……君、大丈夫?」

 

 そっか、時崎タキって言うんだ。

 今分かったよ、ここを調べたいんだ。

 

「勝手に探るな……頭の中で喋るな……」

 

 人の記憶って不思議。なにかノイズがあるけど、これはなんだろう。

 

「っづ……」

 

 どうしたの?立っていられない?

 

「が、あ……」

 

 立って、ちゃんと考えて。

 私達のとこへ来て。

 

「うあああああ!!!」

 

 抵抗しないで。来て。

 

 ────ナイフを掌に突き刺した痛みで声をなんとか跳ね除ける。見えない手に脳みそをまさぐられた気がする。不快だ。縫い合わせていた口を無理矢理開いたせいで口が再び裂けた。

 

「君!大丈夫!?」

 

 顔を上げると、研究員が私を見ていた。突然の事に驚いているのか、顔色が悪い。

 

「逃げよう!何かいる!」

 

「何かって……」

 

 視線、いや敵意?こちらに向く何かを感じる。咄嗟に投げナイフを取り出し、壁に向けて投げ放つ。

 直撃した部分にノイズが走り、波打つ。まさか、あのトカゲ?眼が確かにこちらを向いた。

 

「ッ!」

 

「早く!エレベーターへ!」

 

 研究員に連れられるままエレベーターへと走る。足音は聴こえないが、確かに追いかけてきている。開いた扉に即座に入り込み、ボタンを押して上へと戻る。

 

「はぁ……はぁ……ア、アレは……?」

 

「L.I.D.だと、思うけど……あんなとこにいる訳無いのに……」

 

 けたたましい警報音がエレベーター内で鳴り響く。何に起因するものかは分かっている、あのAIの異変だろう。

 

『各員に通達、大脳(セリブラム)が規定クオリア値を超過。ただちに当施設は封鎖される。速やかに退避を。繰り返す──』

 

「マジか……今まで外部刺激にも一切反応しなかったくせに……なんで今?」

 

 ちら、とこっちを向く研究員。まあ、そう帰結するか。視線が私の右手に向いている。傷は塞がったが、血でかなり汚れてしまった。

 

「ああ、君か!時崎タキか!」

 

 バレた。黒服のせいか?いや、そもそもあの依頼は把握されていたと言っていた。私の身に起こった事と、プロフィールくらい調べはついているか。

 

「まさかあのナノマシンが……もしかして、さっきのアレは……」

 

 ブツブツと自分の世界に入り込んで何事かを呟く研究員をどうすべきか迷う。殴り倒してしまえば封鎖に巻き込まれるだろうし、黙ってもらうべきか。

 

「オーケー、僕は個人的に君に着いて行くよ、どう?」

 

「へ?」

 

 研究員の目はキラキラと輝いている気がした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 地上に到着したエレベーターから飛び出し、周囲を見る。次々と避難していく研究員やら警備兵やらが邪魔だ。しかし無理矢理押し通れば目立つ。流れに逆らわないように入ろう。

 

「ちょっと、僕は?」

 

「いや私着いてきて良いなんて一言も……」

 

 研究員の方に意識を向けたせいで、誰かとぶつかり、帽子が外れる。ぶつかってしまった相手をよく見れば、気絶させて服を奪ってトイレに叩き込んだ奴だ。まずい。みるみるうちに顔色が赤くなっていく。

 

「おまえ!!私の服返せ!!」

 

「ちょっ……!」

 

 飛びかかってくるそいつを掴み、なんとか抑え込もうとするが厳しい。銃を持とうにも両手が取られている。

 

「誰か!この口裂け女侵入者だ!!」

 

 黙らせるのに失敗した。敵意が視線と共にこちらを向く。警備兵の何人かが明らかな敵愾心を抱いて銃を構えているのが見えた。だがこの状況で撃てはしないはず。そしてそれは私には全く関係無い事だ。

 

「がぁっ!」

 

 抑え込めないなら壁に叩きつける。頭突きをかまして、腕の力が緩んだのを見計らって天井へ投げる。7m程上まで飛んだそいつが落ちてくる前に、周囲の人間を薙ぎ倒して進む。

 

「止まれ!」

 

 そう言われて止まる奴はいない。ゾンビ映画でもそういうシーンがあるが、今の私がそれだ、ゾンビ側。まあどうあれ聞く耳なんて持ってない。口を大きく開けて威嚇しながら突き進む。

 叫んで、腕を獣のように振るって、顔面を叩き壊して、引っ掻いて、殴り潰す。悲鳴と共に恐怖が伝播していくのが伝わってくる。

 

「あがっ」

 

 ドサッ、と投げた奴が落ちた音がする。それを皮切りに皆が逃げていく。封鎖寸前なのだ、わざわざ相手にする必要が無い事を逃げる口実にしたのだろう。倒れ込んでいる何名かを放置し、私も建物から脱出を……いや、もう一つ口実があった。

 

「ゴリアテ……」

 

 小さな地響きを鳴らしながら、そいつらは私の目の前で止まり、砲口をこちらに向けた。ホルスターから銃を取り出し、足に力を込める。

 主観的な時間を鈍化させ、私はその中で普通の速度で動く……もちろん主観的な普通でだ。これなら砲弾の軌道を読むまでも無い。発射された瞬間に跳躍し、左腕を砲口に突っ込んでやると、中でゆっくりと暴発する。怪我をする前に引き抜き、重力に従って……いると時間がもったいない。無理矢理に手足を使ってゴリアテの前に立つ。

 

「ぬぅぅあああぁぁ!!!!!」

 

 全力で、ゴリアテを蹴り抜く。筋繊維がブチブチと千切れ、骨にヒビが入るのを感じるが、音速を超えている以上は許容すべき範囲だ。砲弾と化したゴリアテがバラバラになりながら周囲の同機種を薙ぎ倒していく。

 激痛が走る。股関節が脱臼したか。ナイフの柄を噛んですぐに戻す。周囲に倒れたゴリアテ以外の敵影は無い、助かった。

 

「ふぅーっ……」

 

 銃を仕舞って走り出す。もちろんあんな速度で動き続けたら死にかねないのでちゃんとした普通の速度で。

 

「普段から運動しとけば良かったよ」

 

 ……もう一つの理由はこの研究員。道から外れて崖の方へ走っているというのに、一切躊躇せずに着いて来る。

 

「本当に来る気ですか?」

 

「もちろん!調べないといけない事もたくさんあるしね!」

 

「でも私ここから降りるんですよ」

 

「それは……こうするよ!」

 

 背中にしがみつかれる。まさかこの状態で降りろと言うのか。

 

「ちょっと!?」

 

「さあ頼んだよタキ君!」

 

 私は乗り物じゃない、と叫びたい気持ちを抑え、手袋と足袋をはめ直した。

 

 






ストックはたくさんあるので期待して待っててね!
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