不完全少女の生き方   作:出島二人

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期間を置いて初投稿するのを楽しんでいるんだよ貴様は!




20話 帰還

 

 

 

 脱出は極めてスムーズだった。来た時と同じルートを辿ってジャングルから急いで離れ、なるべく近い距離にヘリを降ろしてもらったので、今度は半日程度で済んだ。

 店長が操縦するヘリの機内、ヘッドセットから店長の声が響く。

 

〈それで、コイツを連れて来たと?〉

 

「ええ、まあ」

 

〈どうもパイロットの方!よろしくお願いします!〉

 

 流れで……と言うには少々、いやかなり無理矢理着いて来た研究員。何処かで撒こうと思ったのだが、崖を降りる時にしがみつかれ、その時に括り付けられたロープを辿られたり、逃げる間が無かった。こんなお荷物を抱えて半日で逃げ出せた私を誰か褒めて欲しい。

 

〈元気の良い奴だな、とりあえず帰投するが……何が起こった?〉

 

「それが────」

 

 とにかく、店長に何が起きたのかをかいつまんで説明、しようと思ったら研究員が時折割り込んできて、補足をマシンガントークで行ってきた。

 

〈AI研究か、専門外だがその、デカグラマトンだったか?それについては小耳に挟んだ事がある。しょうもない都市伝説だと思っていたが、同じようにヘイローが発生するとは、とても興味深い話だ〉

 

〈アレには間違いなく意思がある、というのが僕達の共通見解だったんですが、疎通が一切出来なかったんです、今までは、ですが。そう、そこの時崎タキ君が唯一セリブラムと意思疎通が可能な人間!……だと思われます〉

 

〈煮え切らんな……時崎、どうだった?〉

 

「私は話の半分も理解してませんよ……まあでも、確かに声は聞こえました、アレは……自分のとこに来るように促してきて……よく分かりません、多分ナノマシンのせいでしょうけど」

 

〈僕も同じ見解だよ、体内に試作L.I.D.の調整用ナノマシンが入った唯一の人間が君だからね〉

 

「え、私が唯一?」

 

〈アレAIの問題以外に脱走事故とか起こしたりナノマシンの予期せぬ故障で溶けたりする欠陥品だったんだよ、全機体が停止されて、今いるのは新型……ああ、そうだ、体の方は大丈夫?〉

 

「……それなりに」

 

〈僕としては君を失うのは様々な機会の損失に繋がる事だと思っているんだが、上は君をほとんど見捨てるつもりでいる。言い方は悪いが、君は放し飼いのモルモットだ〉

 

〈オイ、何の話だ?〉

 

「……店長には、関係の無い話かと」

 

 私がそう言うと、店長は不服そうにそうか、とだけ言って口を閉じた。それを待ってか待たずか、研究員はなおも続ける。

 

〈発作の間隔は?〉

 

「完全に不定期です。一日に二、三回起こる事もあれば今日みたいに起こらない事もあったり……体に負荷がかかり過ぎると起きやすいような。ここ最近は頻度も高くなってきています」

 

〈ふむ、なるほど、注射の副作用は?〉

 

「頭痛がかなり酷いです。頭の中で何かが暴れてる気がします」

 

〈……あまり芳しくないね〉

 

「覚悟は、出来てます」

 

 いつだって、死ぬ覚悟は出来ている。今は少し先延ばしにさせてもらっているだけだ。やるべき事をやらねばならないから。

 研究員がメモを取るのを止め、こちらに向き直る。

 

〈なら、あと一月保つか分からない、と言ったらどうする?〉

 

〈ちょっと待て、それじゃまるで〉

 

 余命宣告。割り込んできた店長の言葉の続きはすぐに頭に浮かんできた。

 

「そんなに、酷いんですか」

 

〈詳しい事はちゃんとした施設で診ないと分からないけど、僕達の想定より酷いと思う。元々無理矢理蘇生したようなものだから、今こうやって話しているだけでも不思議だけどね〉

 

〈時崎、死ぬのか?おまえ……〉

 

「……はい、聞いてた通りです」

 

〈どうしておまえみたいな子供が……クソ、何か出来る事は無いか?〉

 

〈僕らには、ありません〉

 

 店長の怒りを堪えるような唸り声が聞こえる。私のために怒ってくれるのは少し嬉しいが、どうしようもない。

 

「人はいつか死ぬ、皆死ぬ……そういうものですよ店長、やるべき事をやったら静かに逝くだけですから、私」

 

〈諦観は達観じゃないぞ〉

 

「分かってます」

 

嘘をつくな、怖いくせに。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 エンドロールが終わり、再生そのものも終わる。正直そこまで面白くなかった。

 

「なんか、よく分かんない話ばっかだったね」

 

「最近のトレンドなんでしょ、高尚なメッセージ性が入ってなきゃ名作にはならない〜みたいな……」

 

 鼻を鳴らす。アクション映画なんて格闘!爆発!とにかくド派手に!って感じで良いだろうに。

 

「私は嫌いじゃないけどね」

 

「ん?どうして?」

 

「だって、何かを込めてないと魂に響かないじゃん!そりゃ、そのせいで出来損ないだったらダメだけどさ……」

 

「まあ、その出来損ないだった訳だけど」

 

 不服そうなサイカを横目に、別のディスクを取り出す。次はなんだったっけ。

 

「確かホラーだったと思うよ、化け物に追われるタイプかな?」

 

「……殴って解決できる系?」

 

「多分……?」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

〈着いたぞ、お疲れさん〉

 

 店長の声で目が覚める。変な夢だ。回想にしては全く覚えの無い光景。理想にしてはつまらない光景。

 

〈店長さん〉

 

〈ああ、了解〉

 

 二人が何か話しているが、さっさとヘリから出て行く。店長所有のヘリポートだ、海に面した場所。前に一度来た事がある。

 

「っ、かぁ〜っ……はぁ」

 

 体を伸ばし、凝り固まった筋も伸ばす。これでツケもチャラだ。少し休暇を取ろうか、それともまだもう少し仕事をしようか。時間は少ないが、猶予が無い訳ではないはずだ。そんな事を考えていた時だ。

 

「……う」

 

 唐突な苦痛と熱さに蹲る。視界が急激に黒く染まっていくのが怖くなって、注射を取り出そうとした。

 

「や、ば……」

 

 焦って取り落とし、黒くなる視界の中で必死に手探りで探そうとするが、見つからない。地面に落ちたはずだ、何処へ行った?

 

「落ち着いて!」

 

 研究員の声に少し驚いて止まった瞬間、首に何かが刺さる。注射針だ、見つけてくれたのか。薬液が注入され、数秒と経たない内に痛みと熱が引いていく……代わりに激しい頭痛に見舞われる。

 

「ぎぃぃ……お、え……」

 

 脳みそがかき混ぜられているような感覚。吐き気を催してそのまま地面に黒色の混ざった吐瀉物を撒き散らした。吐血でない嘔吐は久しぶりだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 晴れた視界が揺れ、ぐらりと倒れ込みかけたのを二人に支えられる。横になれ、と言われたので大人しく身を任せ、ゆっくりと体を横たえる。

 

「ヘリの中にストレッチャーがある。持ってきてくれ、さっき言った通り俺のコネで病院の用意はある。運び込むぞ」

 

「分かりました」

 

 そんな会話を聞きながら、私は意識を手放した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 既視感を覚える光景、あれはヴェリタスの人に診てもらった時だったか。あの時は発作の事だけだったが、今回は……研究員の言葉を待つ。

 

「僕の予想通りだ、見てくれ」

 

 輪切りにされた自分の中身を見るのはちょっと気分が悪い。特に頭はなんというか、不安な気持ちになってしまう。

 

「あちこち出血した跡がある。で、それが無理矢理治されてるんだろう、しかもあの薬品で加速させた結果……歪な形になってしまっている、肝臓と腎臓も似たような状態だ。しかもこちらは薬品による副作用で傷ついている、治りが悪い」

 

 研究員が一息ついて、再び続ける。

 

「すぐに治してしまうが故の欠点。臓器移植をしたとしても時間稼ぎにしかならないだろうし、度重なる脳へのダメージはどうにもならない。ナノマシンを今すぐに除去するなり出来れば結果は変わるかも知れないが……僕はその方法を知らない。いや、僕達はその方法を検討すらしていなかった……」

 

「取り出す意味なんて無いから、見捨てる前提だったから、ですかね」

 

 研究員が唸るようにため息を吐く。

 

「……うん、だから、落ち着いて聞いて欲しい。君はあと三週間で、死ぬ。もちろん、無理をしなければ、だけど」

 

 ずん、と、重く、重くのしかかるその言葉。余命三週間。それだけしか生きていられないのか。

 

「もちろん出来る限りの事はしようと思う、君が望むならだけど」

 

「……いえ、もう、構いません」

 

 私は、何処かで死を待ち望んでいたのかも知れない。それを邪魔をして欲しくなかったのかも知れない。研究員の顔は、酷く悲しげだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ、入ってる」

 

 久しぶりに預金を見てみると、目標額に到達していた。先日強奪したあの金も含めると、当分は色々払っていったとしても困らない。まあ、その仮定に意味は無いけど。あと二十日程しか生きられない身だ。

 

「どうしよっかな〜」

 

 サチコも最近あんまり連絡つかないし、やる事が本当に無い。何気なくスマホを開いてみる。

 

『当番空いてるんだけど、来てみる?』

 

 先生だ。通知に気付かなかった。まあ、暇なのは確かだし、久しぶりに顔を出してみよう。現実逃避だ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「あ、タキ、来てくれたんだね」

 

「こんにちは先生」

 

 鬱蒼としたジャングルの不快感から一転、清潔感のあるシャーレの建物は良い。やはり文明社会様々だ。

 

「今日は……ってあれ?そのマスクは?」

 

「こうなってまして」

 

 マスクを下ろして先生に見せつける。縫い合わせるのはチクチクして痛いし面倒だが、こういう時は相手が驚いた表情を見せてくれるので面白い。

 

「そんな怪我、何処で……」

 

「仕事してたら色々ありますよ、でしょ?」

 

 マスクを戻す。今度ピエロのメイクでもして来ようか。先生の顔は暗い。生徒が傷ついて良い顔はしないだろう。善人だ、良い人だ。だからこそ私がこれからどうなるか、言いたくないし、きっと言うべきじゃない。

 

「無理はしちゃダメだよ、私だけじゃなく、傷つく人がいるでしょう?」

 

「……その子のためですよ、こういうのは」

 

 どちらのためなのかは、あえて自分の中でも決めない。逃避だ。

 

「なら、その子のためにも」

 

「分かってますよ……」

 

「本当?」

 

 言葉に詰まる。サチコはきっと嘆き悲しむだろう。後追いまではしないとは思う、のだが。まあそこは知った事じゃない、そう思おう。だがサイカはどうだろうか?

 

「……はぁ、その、お仕事しましょうか?」

 

 先生の視線が痛かった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「──あの、仕事をするのでは?」

 

「いや、今日は休暇にするよ」

 

 あまり浮かない顔だったからね、と先生は言う。やはり分かりやすいのだろうか。

 街中を二人で歩く私達は、側から見たら何に見えるだろう?カップル?家族?友人?先生と生徒?どうあれちょっと面白そうだ。

 

「タキは休日何をしてるの?」

 

「あー……ビデオをレンタルする、とか、映画よく観るんで」

 

「映画館は?」

 

「たまに行きますよ、新作で気になるやつがあったら、ですけど」

 

「じゃあ今公開されてる映画で気になるのはある?」

 

「……全く、一ヶ月後ならあったんですが」

 

 残念だ。期待しているシリーズなのだが、どう足掻いても私は観られないだろう。

 

「なんか、すごく残念そうな顔だね?」

 

「ええ、まあ……一ヶ月後、デカい仕事があって、しばらく先生とも会えないかと」

 

 先生は私がいなくなったら悲しんでくれる人だろう。だからこそあまり心配して欲しくない。先生は助けて欲しいと思っている人間には手を差し伸べてくれる人だろう。だからこそここで私は嘘をついてでも突き離すべきだ。私は助けて欲しいとは思ってないから。

 

「そっか……大変だね」

 

「先生よりはマシですよ」

 

 連邦生徒会の仕事を散々回され、毎日毎日夜遅くまで働いているような人に比べれば傭兵の方がマシだろう。そうかな……?なんて言っているがどう考えてもあの量は異常だろうに。これがブラック労働か。

 

「……長生きしてくださいね?」

 

「善処するね」

 

 少なくとも私よりは長生きするだろうか、内心そんな事を考えていた、その時。

 

「あら?」

 

 どこかで見覚えのある狐の面が、眼前に現れた。

 

 

 






あけましておめでとうございます。

年末の忙しさの中で体調をバカ程崩しました、申し訳ないです。
ペースはあんまり戻せそうにないです。
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