不完全少女の生き方   作:出島二人

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初投稿を繰り返すくらいなら死んでしまえ





22話 迫る

 

 

 

 腰に回された腕を剥がし、ベッドにそのまま放置する。しばらくは立てないだろうし、立てたとしても私を追いかけるのは無理だ。出来た時間でシャワーを浴びに行く、最中。

 

「……う」

 

 また発作。黒い血があちこちから流れ出る前に、注射を首に刺す。一拍置いて、全身から熱と痛みが消え──激しい頭痛が起こる。

 

「ぐぐぐぐ……」

 

 ドス黒い血管が浮き出た自分の手に噛みつき、叫ぶのはなんとか堪える。しばらくして、深呼吸。ようやくまともに動けるようになったのでベタつく服を脱ぎ捨て、浴室に入る。

 久しぶりに鏡で見た自分の顔。縫い合わせた頬が実にパンクだが、それ以上に目を引くものがあった。

 

「いつの間に髪が……」

 

 全体的に伸びた金髪に黒い毛が混じって、不思議な色合いになっている。こんな風にした覚えは無いが、血が黒色になっているのだから、こういう変化もそう不自然でも無いのか?蛇口を捻り、お湯を出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 用意するものは通帳、銃、ナイフ、いつものバックパック、それとアタッシュケース。行き先がブラックマーケットの闇銀行だからと言って重装備などする必要は無い。というか、私が分かりやすく武装して行くとマズイ。

 

「と、時崎タキ!」

 

 ろくに武装していなくてもこうなるからだ。あからさまに怯える銀行員を手で制し、マーケットガードへの連絡を止める。

 

「暴れ散らかしたのは悪かったと思ってる、でももしガードを呼ばれたらまたあの時の繰り返しになる」

 

「それは脅迫で?」

 

「勧告、だからやめて欲しい」

 

 そう言うと観念したのか、銀行員が受話器を置いた。

 

「……本日は、どのような御用で参られましたか?」

 

 事務的な口調、仕事モードか。

 

「金を下ろしたい、5000万、早めによろしく」

 

「かしこまりました、他には?」

 

「無い、急いで」

 

 ケースを渡して座席に深く座り込む。少し寝たい、目を閉じた。

 

「お客様」

 

 何分か経ち、声をかけられる。首を軽く振って眠気を飛ばした。

 

「こちら、ご確認ください」

 

 ケースを受け取り、中を見る。確かに満額入っている。

 

「ありがとう」

 

 蓋を閉め、立ち上がる。

 

「そんな大金、何に使うか個人的に聞かせてもらっても?」

 

「……愛した女のためだよ、さして面白い話じゃない」

 

 自分でもカッコつけた台詞だと思うが、事実だから仕方ない。

 

「それで赦されたいと?」

 

 彼女の声がする。再び首を振る。

 

「ずいぶんと素敵な話ですね。マンションでも購入されるつもりで?」

 

「ま、そんなとこかな。じゃ」

 

 ケースを手に、ゆっくりと出口へ向かう。まあ、二度とここには来ないだろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お待ちしておりましたよ、時崎タキさん」

 

「……」

 

 奴の目当てのモノを雑に投げ渡す。

 

「確認しました」

 

「詳細を聞いた事が無かったけど、それでどうするつもり?」

 

「CL社と取引を」

 

「……なんであそこと?」

 

 聞きたいのですか?と言われたので、適当に頷くと、気を良くしたのか、あるいは元から語るつもりだったのか、とにかく黒服は再び何処にあるのか分からない口を開いた。

 

「動かなくなった身体を動かす技術、例えば補助具のような……CL社は元は下半身不随の人間に歩行をさせる為のパワードスーツ等を開発していました。それらの研究の中で全身麻痺、あるいは昏睡状態の人間の身体を動かす方法を模索していたのですが……コストの問題か、研究が凍結されてしまったのです。そこにこの金と、班目サイカを使って一枚噛ませてもらおうかと」

 

「……要は、5000万で彼女をよく分かんない研究の実験台にするように進言するって事?」

 

「端的に言えば」

 

 腹立たしい、不愉快な物言い。やはりコイツは嫌いだ。まず見た目が良くない。不快な笑い方もそうだが、とことん神経を逆撫でしてくる。

 

「それで……結果が出るのはいつ?」

 

「具体的にいつ、とは言えませんが、近いうちに連絡を入れましょう、果報は寝て待て、と言うでしょう?」

 

「近いうち、ね」

 

 いつになるやら。その頃には死んでてもおかしくないだろう。

 

「なにか不都合でも?」

 

「いや、別に?後は任せる」

 

 そう言って私は踵を返し、部屋を出る。残り少ない時間をどう使ったものか。

 そうだ、一つだけ、やるべき事があったのを思い出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 当然、行くのは彼女のいる病院。いつものようにお見舞いだ。

 

「ちょっと時間空いちゃったけど、来たよ」

 

 いつもと変わらない姿に安堵すら覚えた。変わったのは私だけか。

 

「……大変だったよ、あんな大金稼ぐのは」

 

 備え付けの椅子に腰掛ける。ろくに寝てないせいか体が怠い。ため息を吐く。

 

「君に言う事じゃないね、ごめん」

 

 手を取り、拝むかのように手で挟む。

 

「もし、君が目覚めた時……私がいなくなってても、元気でいてくれたら嬉しい」

 

 そんなくだらない事を願っていると、またあの声が聞こえる。

 

「酷い奴。アナタ無しに生きてなんていられないのに!って言って欲しいの?」

 

「……かもね」

 

「責め甲斐の無い態度」

 

 声が消える。一抹の寂しさすら覚える。

 

「もう行くよ」

 

 きっと、最後になるだろうから。彼女に聞こえてなくても再会は誓わない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 病院から出てスマホの電源を入れると、いくつかの連絡が入っていた。

 一つ目はサチコから。会って話がしたいと。もちろん未読無視。

 二つ目は店長から。こっちも会って話がしたいらしい。後で行こう。

 三つ目、黒服。これを見たらすぐに折り返しの電話をかけろとの事だ。不吉な予感がする。まずこれからか。

 

「もしもし」

 

『時崎タキさん、アナタに残念な報せが』

 

「サイカ関連?」

 

『いいえ……単刀直入に言いましょう、アナタに5億の懸賞金がかけられました』

 

 思考に空白。疑問や困惑を口に出す事すら出来ない。何故だ?

 

『これは親切心からのご連絡です。すぐに逃げた方が良いかと』

 

「……分かった」

 

『では、ご無事で』

 

 通話が切れる、と同時に、周りの人間がこちらを向いているのを認識する。全員スマホを見たり、画面と見比べたり……ぞわ、と、背筋が粟立つ。すぐに銃を取り出し、その場からトップスピードで離れようと────銃声。

 

「がっ……!」

 

 側頭部に、おそらくは対物ライフルの弾が直撃したのだろう。首から嫌な音が聞こえ、意識を手放しそうになる。

 

「い、ぎぃぃぃぃ!!」

 

 手に強く噛みつき、気付けをする。出鼻を挫かれたが、すぐに主観的な周囲の時間が鈍化していく。

 この一発を皮切りにこちらへと駆け出す周囲の連中、ここに私がいる事が割れた以上、どうにかして逃れるしかない。さてどうするべきか。体勢を立て直し、辺りを見渡す。

 

「しめた」

 

 見つけた目標へ向けて跳躍し、軽く蹴りを入れてやる。それから配線をゴニョゴニョして出来上がりだ。けたたましいエンジン音が響いた。

 

「逃げるって言ったらコレでしょ」

 

 近くの駐車場に停まっていたバイク、映画でもこういうシーンは大好きだ。もちろんヘルメットは着けない、要らない。即座に発進し、銃撃から逃れる。

 しかし当然後ろから車が追ってくる。カーチェイスの始まりだ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時速150kmでかっ飛ばす私の後を追う連中を撒く為、無理矢理反対車線に入り込んでやったが、当然のように向こうも逆走を始める。

 

「しつこい……」

 

 当然、ドライブバイで撃ってくるのを車体に当てられないよう立ち回らないといけないが、少なくとも三台が後ろについている。厄介だ。

 破砕音、片方のミラーが撃たれて弾け飛んだ。流石にやり過ごせない、投げナイフを引き抜く。

 

「ふッ!」

 

 車体を蹴って体を捻りながら真上へ跳び上がり、銃も引き抜く。時間の鈍化、再び訪れたそれを使い、ナイフをタイヤへ投げ、銃弾を運転手と、窓から体を乗り出して撃ってきている奴へと叩き込む。震える腕はなんとか左手で掴んで抑えた。

 

「うおぉっ!?」

 

 バランスを崩し、横転した一台目に巻き込まれ、二台目も大きくクラッシュ。変に飛び出した運転手が後続の三台目のフロントガラスに突っ込んだのを見ながら、そのままバイクに乗り直す。対向車線から離れ、本来の方向に戻り、右を見やる。

 

「あー……私のせいじゃないよ、コレは……」

 

 ニュースになるレベルの大事故だ。さっさと逃げよう……しかし、何処へ?アテは無い、どうしたものか。とりあえず補給がしたい。イヤホンを取り出し、店長に電話をかける。

 

「もしもし」

 

〈よう時崎、無事か?〉

 

 どうやら私の状況が分かっているらしい。話が早くて助かる。

 

「なんとか……弾とか、ナイフとか、色々補給したいんですけど」

 

〈初仕事の場所に行け、984だ、分かるな?〉

 

 私と店長のみが知っているあの初仕事、ホテルの一室でターゲットにハニトラを仕掛けろと言われ……危うくプライベートでターゲットに刺されかけた苦い記憶が蘇る。

 

「分かりました、では」

 

 

 

 






岡本太郎もそう言っていた気がする
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