これが初投稿を示す態度か?
バイクを持って下水道を通ったり、建物の上を通ったり、人目に触れないようにしてなんとか目的地に辿り着く。バイクは陰に停め、ホテルに入り込んだ。
「984号室は空いてます?」
「ごゆっくり」
鍵を受け取ってずかずかと廊下を歩き、階段を登り、984号室の鍵を開けて入り込む。一時の休息だ、ベッドに腰をかけ一息ついた。
「ん……」
冷蔵庫が閉まり切っていない、気になる。開いてみると、マガジンがいくつか、それに手榴弾、追加の注射もある。用意が良い。服の下に入れていく。
しかし、誰にこの懸賞金はかけられたのやら。5億ともなれば相当だ、動機が単なる怨恨とは考えづらい。どうあれこれからもっと酷くなるだろう、こうやって休息出来る時間なんて二度と無いかも知れない。と、その時。
「なんだ……」
バリバリと窓が揺れる。ヘリでも近くにいるのだろうか────この状況でヘリが?
「ぐっ!」
即座に床に伏せる。次の瞬間、機銃の掃射が部屋を襲った。頭だけはしっかり防御しながら耐える、耐える。
数分が経ち、顔を上げると、部屋には大きな穴が。奇跡的に私には当たらなかったが、もうここはダメだ。ヘリが近づいてくる。
かと言って扉から出ようにも恐らく部隊が待機している。そういえば……すぐさま扉の方へ走り、扉を蹴り開けた。
「出たぞ!」
やはりいた。ここを切り抜けるにはこの手の中にあるモノしか無い。いや、多分、だけど。
「注目!」
頭上にそれを掲げる。閃光弾だ。
「バッ──」
炸裂。手を少々火傷したが、すぐに治るので問題無し。代わりに銃を抜く。時間の鈍化。タックルの要領で閃光で怯んだ奴らを全員弾き飛ばす。空に浮いた連中目掛け、手榴弾を投げつけ、更にそれごと蹴って全員を一箇所にまとめる。銃をホルスターに仕舞い、窓から飛び出す。9階の高さだが、まあ、問題は無い。私の着地とほぼ同時に手榴弾が爆発する。
「よし……」
だがまだヘリは残っている。こちらを捕捉した。
「よくない……」
陰に停めていたバイクへと走る。後ろから何かの発射音が聞こえ、首と視線を向ける。
空対地ミサイルだ、まずい。また銃を取り出し、飛来するミサイル目掛け、撃ち込む。
狙い通り直撃した銃弾が、ミサイルの爆発を誘引する。だが近過ぎた。吹き飛ばされ、背中から街路樹に叩きつけられる。かなりの激痛だが、転がっている場合ではない。立ち上がり、またバイクへ走って、ようやく乗り込む事に成功する。
「早く早く……」
線をショートさせ、エンジンをスタートさせるのに必死になる。次のミサイルが飛んでくる前に早く!
祈りが通じたのか、エンジン音がけたたましく鳴り響いた。しかし。
「クソッ!!」
二発目のミサイル、今度は迎撃出来ない、バイクがイカれては困る。だが私が傷つく分にはすぐに治る、ならば。急発進し、ハンドルの根元に手をかけ、宙返りの要領でバイクの前に体を投げ出しながら、無理矢理跳躍する。
「るおぉっ!」
背後に着弾したミサイルの爆発からバイクを庇い、車体ごと回転しながら空中で再び搭乗。都合よく着地は出来なかったので腕をサスペンション代わりに衝撃を和らげ、天地逆転。そのままアクセルをふかせば、何事も無かったかのように走り出せる。
「当然追ってくるか……」
機銃を回避しつつ、次の策を考える。
◇◇◇
ヘリに追跡されながら逃走する事一時間。そろそろ燃料が危うくなってきた。
「……この先、確か」
しばらく先にはトンネルが。あそこで撒けるだろうか?だが対策を取られていないとは思えない。おそらく出口で私を待ち伏せしている。さあどうすべきか。
機銃を更に避け、なんとかトンネルへと差し掛かる。ヘリは────
「来ない……!」
流石に狭かったようだが、私もこの先に行くのはマズイ。考えろ。
◇◇◇
一人生け捕りにするだけで5億。そんなチョロい仕事に飛び付かない奴はいない。日銭を稼ごうと躍起になっている私らみたいな傭兵なら尚更だ。
「おっ、こっちのルートに来るみたいだぞ」
「僥倖、黒いバイクだっけ?」
「そうそう、撃ち漏らしさえしなきゃ良い。他の奴らに先んじて捕まえる」
「アイアイ」
ターゲットの名前は時崎タキ、何をやらかしたのか、ここまでの額が一人にかかる事はそうは無い。誰かを敵に回したか、誰かが彼女を欲しがっているのか、どちらかは知らない。重要なのはその首にかけられた賞金だけだ。5億の為なら多くの車が通る道路上で仁王立ちしながら見張り続けるくらいワケない事だ。
「見えた!バイク!構えろ!」
相方の声にハッとなって意識を集中させる。チラリと見えたそれは間違いなく黒色のバイク……だ、が。
「誰も乗ってない!?」
困惑する相方の声を後ろに、トンネルの中へと駆け出し、転倒したバイクに近寄る。よく見ると、アクセルにテープが巻かれ、無理矢理走らされていた。
「中だ!探そう!」
そう叫び、車が行き交い、クラクションを鳴らされる中、トンネル内部を見渡す。だがいない。どうやって逃げた?
「……ん?」
ふと目についた、荷物を運搬しているであろうトラック。まさか乗り移ったのか。だとするとマズイ。
「一手遅れた……!」
すぐさま仲間達に連絡を入れる。どうにかして追跡しないと、5億がパーだ。
◇◇◇
「あ〜……痛い……」
注射を打った後の頭痛に耐える。咄嗟に中に乗り込んだトラックは何処かへ食糧を運ぶ所だったようで、中には乾パン等が大量に積まれてあった。一つ拝借し、貪る。味気ないが、今後食事が出来る機会なんてろくに無いかも知れない事を考えると、こんなのでも嬉しい。
ひとまず空腹も落ち着いたところで、注射を打って思考に浸る。
「ヴァルキューレに捕まえてもらえば安全、じゃないか。それに先生にも迷惑がかかる……」
私の立場は無所属生徒ではあるが、シャーレ預かりの生徒でもある。捕まっただけでなく獄中で死ぬ事になれば、色々と面倒な事になりかねない。それはとても嫌だ。溶けて死ぬだろうから大丈夫だとは思うが、少なくとも人目につく所で死ぬ訳にはいかない。海とか、山奥とか、そういう場所が良い。
「どうせ死ぬのに逃げる必要あるの?」
彼女の声。今度は姿まで。
「それは……」
返答に詰まる。実際、どうしたものか、この期に及んでまだ悩んでいる自分がいる。もうすぐ死ぬのに何故私は。
ふと、適当な答えを思いついた。
「じゃあ、綺麗な終わり方をしたいからって事にするよ」
「綺麗な終わり方?」
「捕まって、檻の中で溶けて死ぬなんて、観客はそんなの納得しないでしょ?少なくとも、私ならエンドロールの最中に帰るね」
そう、主人公が死んだり、救いが無い終わり方をする事もあるが、それでも幕が下りれば、ああ、これでこの映画は終わりなんだな、と認識させられる。エンドロールとはそういうものだ。
持論ではあるが、あの退屈にも見える時間は咀嚼する為の時間だ。映画館から出た後に是非や評価は考えるとしても、描写はすぐに飲み込む必要がある。そんな時に、納得出来ず、不快だ、として立ち去るのはもったいない。私の人生を、死に方を観ている観客がもし居るなら、もし立ち去られたら。そんなのは、悲しい。つまらないと言われたくはない、ただの人殺しの短い生涯でも、せめて何かを感じ取って欲しい。
「観客が出て行った後、面白かった、とか、思って欲しいからね」
ふと、彼女の隣にカメラを見つけた。
「……撮ってる?」
「そりゃね」
「最高……」
ひとまず少し寝ておこう、体も、頭も、結構限界のようだし。
◇◇◇
「中に生体反応、ターゲットかも」
「アレが動物を輸送してるように見える?」
「……うん、見えないね」
そう言った後、ミサイルランチャーを取り出し、橋の上のトラックに狙いを定める。
「この川に叩き落とそう、準備は?」
「いつでも」
しっかりとロックオンしているのを確認し、引き金を引く。砲口から飛び出したミサイルは空に曲線を描き、そのままトラックの横っ面に直撃した。
「さあ出てこい時崎タキ……」
◇◇◇
正直言って、虚を突かれた。寝耳に水というやつだ。車体に何かが直撃したのか、横転……ではなく、横に回転しながら落ちていくような。
「何浮いてんの?」
どれだけ車がぐるぐる回っていようが、重力とは無関係にさっきまで床だった場所にずっといる彼女が羨ましい。
「分からない……これからどうなるんだろ」
私はそう率直に言った。すると彼女は笑って、
「死ぬかもね」
そんな事を言った。
直後、浸水が始まった。
「まずっ……」
川にでも着水したのか、回転の勢いがゆるやかに止まり、私は強かに頭を打ちつけた。一秒だけ視界が眩んだ、だけだったが、入ってきた水は既に膝をつく私の下半身を飲み込んでいた。
「と、扉に……!」
そう思い、ぐちゃぐちゃになった荷物を掻き分け、上に行ったドアへ向かうが、開かない。完全に歪んでいるせいか、開く様子が無い。銃を握り、なんとかぶち抜こうとするが時既に遅し、車体はほとんど浸水、水の底への一方通行だ。扉近くに溜まっていた空気を求めて顔を出し、なんとか息をする。
「はぁっ、はぁっ、開いてよ……!」
両手で押し開けようとするが、歪んでいるのか、びくともしない。体勢も位置も悪いせいだろうか、今の私にはどうしようもない。
十秒と経たない内に、車体が完全に水に沈んだ。目一杯空気を吸い込みはしたが、もってあと三分も無いだろう。
窒息。このキヴォトスで人が死に得る要因としては、最もポピュラーだと言っていいかも知れない。必死になって扉を殴りつけるが、まともに力が入っていないのか、びくともしない。それでも繰り返し殴り続ける。
「ごぼっ……」
口から大きく空気が溢れる。限界だ、もうこれ以上は。そう諦めかけた途端、拳が扉を跳ね飛ばした。金具ごと吹き飛んだのが見えた。車体に手をかけて一気に浮上を──いや、何か、上から落ちてきていた。
「!?」
よく見れば、それはトラックだ、もう一台のトラックが降ってきていた。体が二台のトラックに挟まれ、今度こそ身動きが取れなくなる。まずい、意識が。こんなのは綺麗な終わり方じゃない。
彼女の笑い声が聴こえた気がして、私の全てが暗転した。