初投稿となっております。息抜き回です。
「ここよ」
アル社長が指した先にあったのは小ぢんまりとした屋台。柴関ラーメンと暖簾に力強いフォントで記された、店主の意気を感じる昔ながらの屋台だ。
「おお、いらっしゃい」
モフモフの店主がこちらに声を掛け、それに呼応した隣にいる少女が遅れて「いらっしゃいませ」と言う。
「げ、便利屋と……新規さん?」
「あ、どうも」
とりあえず当たり障りの無い挨拶を。常連に連れられて来る飲食店は少し気まずいものだ。
「武装探偵の時崎タキ、凄腕よ」
そんな紹介は恥ずかしいから止めて、という言葉は武装探偵という名称に困惑する事で引っ込んでしまった。武装探偵?
「へぇ、探偵さんねぇ」
モフモフの店主、いや、大将か、に感心したような目で見られる。気恥ずかしかった。耳が赤くなっているのを悟られたくない。フードは被っているけれども。
「ご注文は?」
そうこうしている内にアルバイトであろう少女が助け舟を出してくれた。感謝の念を込めて、なるべく自然な笑顔で、
「醤油ラーメン一つ」
どうせ奢りだ、味玉とかも付けてもらおう。
◇◇◇
食事は栄養補給の手段に過ぎない。だが人間はそこにクオリティを求める。なるべく美味い物を、なるべく健康に良い物を。ラーメンという品は前者に寄った食事だ。ズルズルと麺を口の中に送り込み、その味を堪能する。この感じ、彼女も好きかも知れない。いや、好きだった、か。
「どうしたの?ここのラーメンの味に感動して言葉も出ないのかしら?」
アル社長の自慢げな声が落ち込みかけた心を引き戻してくれる。
「そうかも」
「ちょっと、なんでアンタが得意げなのよ」
「ハハ、嬉しいもんだねぇ」
「大将?」
和やかな雰囲気だ。本当に。そんな雰囲気に浸れていた。スマホの通知を見るまでは。
◇◇◇
便利屋と別れ、私はとある廃ビルへと足を運んでいた。アレが指定した場所だ。
内部は銃痕、瓦礫、破片、そういった争いの痕跡、破壊の残滓に溢れていた。少し気が滅入る。スマホを取り出し、時間を確認する。待ち合わせの時刻だ。明かりの差さない部屋の隅、暗い闇からそいつは現れた。
「お久しぶりです、時崎タキさん」
黒いスーツ、黒い靄に覆われたような見た目の顔。初めて会った時、こいつは『黒服』と名乗った。黒ばかりだ。
「呼び出しに応じたということは、決心なされた、と見てよろしいですか?」
「……」
「肯定である、と認識します」
勝手に話を進める黒服。なんというか、有無を言わさぬ雰囲気だ。
「本来、我々は金銭を対価として受け取る事はありませんが……必要に駆られましてね」
「そんな事は良い、重要なのは」
「ええ、分かっています」
言葉の先を先読みされた事と感情の読めない靄のかかったような、あるいは靄そのもののような顔を見つめる事に耐えられずに目を逸らす私に、黒服は何も言わない。沈黙に耐えれず口を開く。
「5000万だっけ」
「
ふざけた話だ。私は率直にそう思った。
◇◇◇
今の私に帰る場所は無い。事務所とかつて呼んでいた建物の一室から追い出され、学校に所属しない私には、帰れる場所などありはしない。今になって大家にナイフを突きつけてやろうかという気分になってきた。まあ
何処か、なんでも良いから雨風を凌げるような場所が欲しい。明日の予報は雨だ。いくらなんでもびしょ濡れにはなりたくない。
ふと、思い出した。シャーレ、つまり『先生』の事を。あまり会いたくはない、だが廃ビルなんかで眠るよりはマシだ、間違いなく。噂によると常に門戸は開かれているらしい。セキュリティとかはどうなっているのだろうか。日も落ち、夜の帳が下りてきた。とりあえずシャーレに行こう。あわよくばシャワーとか浴びたい。
◇◇◇
執務室、と表記されたドアをノックする。三回きっかり。
「どうぞ」
ここまで完全にスルーだったが、施錠がされていないのは本当にどうかと思う。ここに至っても例の先生とやらは警戒無く通そうとしているのも度し難い。警戒心が必要ない程強いのか、それとも何か策があるのか、あるいは余程のバカなのか。ドアを開く。
「あ、初めまして、だよね」
この人が、先生か。
「……初めまして」
拍子抜けするほどの凡庸さ。ありきたりな人間の特徴をしているが、大きく異なる点がある。頭の上にあるべき物、ヘイローが無いのだ。という事はつまり、私がもし変な気を起こしてナイフで突いたりなんかしたらヘイローが壊れる……否、死んでしまうという事だ。ますます訳が分からない。
「えっと……時崎タキって言います」
「……あ、学校に在籍してないんだね」
何故バレた?
「ええ、まあ……つい先日自分で構えた事務所からも叩き出されちゃって、ホームレスです」
「家賃を滞納してたとか?」
「いえ、引き落としされる予定がどうも上手く支払われなかったらしくて、その一回で」
途端に先生が怪訝な顔をする。どうしたのだろう。
「それについて何か言われた?」
「いえ、特には……ただ出て行ってもらうとだけ」
眉間に皺を寄せた先生がタブレットに何か言っているが、聞き取れない。通話でもしているのかなと思ったので口は出さない。少し間を置いて先生が顔を上げる。
「それについて相談したくて来たの?」
「いえ、別に、ただ今日だけ泊まらせていただけないかなと……迷惑ですよね」
頬を掻きながら不躾な頼み事をする。普通は受け入れないだろう。普通ならば。
「うん、良いよ」
どうもこの先生は普通であるとは言い難いようだった。
◇◇◇
あったかいシャワーをゆっくり浴びれるだなんて、なんて贅沢なんだろう。
「はぁ……」
シャワーヘッドが垂れ流すお湯を頭から被り、乾いて髪に張り付いた血を泡で浮かして流していく。便利屋68を相手にしておいて大怪我をせずに済んだのは僥倖と言うものだ。あちこち出来た擦過傷や切創には絆創膏でも貼っておこう、明後日には治る。足の爪先に水と洗剤がやけに沁みると思ったら爪が剥がれかけていた。すごく痛い。
シャワー室の床に座り込んで、先生に言われた言葉を振り返る。
『泊まってもいいけど、代わりに明日一緒に行って欲しい場所がある、タキの家もきっとなんとか出来るから』
あまりよく分からないが、先生の言葉なら信用しても良い気がする。あまり指の先を見ないようにしながら、剥がれかけた爪をつまみ、一気に剥がした。
「────ッ!」
その瞬間、激痛が走り、固く結んだ口から思わず悲鳴が漏れる。ここにも絆創膏を貼っておこう。本当に痛い。何か別の事を考えて気を紛らわせよう。例えば5000万。
深くため息を吐き出す。稼げない訳ではない、ないのだが、肝心の仕事が無い。危険な仕事でも困難な仕事でも良い、とにかく探さなければ。メチャクチャ痛い。
立ち上がり、栓を回して水を止める。気持ちは良かったが気分はちっとも良くならなかった。それに足の指が痛いし。剥がした爪は備え付けのゴミ箱に捨てた。
借りたバスタオルとドライヤーで大雑把に体と髪の水気を取り、コンビニで買ってきた絆創膏や消毒液、軟膏やらを使って傷の手当てを開始する。これがまた痛い。
「ぐぐ……」
沁みる。ただただ沁みる。足の指の消毒なんか端的に言って地獄だった。痛覚を意図的に無くせる技術とか無いものだろうか。
「ふぅ……」
手当てを終え、髪をドライヤーで乾かし、服を着直して休憩室へ。先生は別で寝るとの事だったので、私の寝床はとりあえずここという訳だ。ちょうど良い二人掛けのソファーがある。ベッド代わりにさせてもらおう。とりあえず横になる。
「明日は、先生に付き合って、で、終わったら……」
思ったより疲れが溜まっていたのか、意識を手放すのは容易かった。ソファーに意識が沈むような感覚を覚えた時には、私は夢の世界へ叩き込まれていた。
初投稿でした。便利屋68のテクストが強過ぎる。
怪我を自分で治療してるマッチョメンが好きなんですが痛みに悶えているとより良いですよね。顔を顰めながら傷口を縫ってたりしたらすごい良いと思います。
もちろん美少女がそれをやるのも好みです。キヴォトス人は硬過ぎるからどう怪我させたものか……