不完全少女の生き方   作:出島二人

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お久しぶりです。こちら初投稿となります。


5話 吟味

 

 

 私はこの先生という人間のやる事なす事に対しかなり、いや、とても驚かされている。まさか大家に直接、それもミレニアム生を伴って“()()”に行く事になるとは。確かになんとか出来るからとは言われたけれども。

 

「──以上の理由からこれは不当な処置であると言わざるを得ません」

 

「えーっと……」

 

 先程までミレニアム生に詰められていた大家の顔が汗マークの表示をする。困っているようだ。

 

「大家さん」

 

 助け舟を出すかのように先生が口を挟む。別に助ける気は無さそうだが。

 

「ここを彼女に使わせてあげてくれませんか?」

 

「……」

 

「お願いします」

 

 丁寧なお願いではある。あるのだが、妙な威圧感があるような気がする。恐らく気のせいだろう。きっと。

 

「わかりました……」

 

 私を追い出そうとした理由は割と単純だった。傭兵業に精を出す学生ではない人間。側から見れば明らかに不良、スケバンだ。違うとは言い切れない。一年もお世話になっているが、この期に乗じて追い出してやろうというのはある程度納得できる動機だった。少し腹は立つけれど。

 

「シャーレ所属の生徒としてタキさんとの契約を更新します」

 

 なのでこうした。超法規的組織であるシャーレ預かりの生徒となる事で身分の保証は出来るらしい。よく分からないがそれで事務所が使えるなら文句は一切無い。それに、何処かに属するのも悪くない。生徒、という点には少し引っかかるが。私は本当に生徒なのだろうか。そんな顔をしていたら先生に「タキも大切な生徒だよ」と言われた。うーん。

 

「良かったねタキ」

 

「先生、ありがとうございます、それと……」

 

 今回の功労者であるミレニアム生の子に視線をやる。

 

「早瀬ユウカよ、名乗ってなかったわね」

 

「ありがとうございます、早瀬さん」

 

「どういたしまして」

 

 良い笑顔をする人だなぁ。とても可愛い、ぐちゃぐちゃにしたい。

 

 

◇◇◇

 

 

「えっと……私の事務所にようこそ?」

 

「お邪魔しまーす」

 

 目の前に広がる荷物とゴミの大海原、は言い過ぎだが、相当に散らかっている。叩き出された時のままだ。

 仕事が無いと気力も出ない。片付ける気力も出ない。仕事をすると気力が消える。片付ける気力だって消えていく。そう、これは決して私のせいじゃない。

 

「これは……」

 

 早瀬さんが顔を顰めた。先生も笑顔のまま固まった。言い訳はやめよう。単に私が片付けられない女なだけだ。目を伏せて反省。

 

「ゴミ捨てくらいは手伝うよ」

 

「ありがとうございます……」

 

 今日の予定は全て片付けで埋まりそうな気がする。すごく嫌だ。

 

 

◇◇◇

 

 

「タキ、これは?」

 

「この本……置いといてください」

 

「こっちはどうするのかしら?」

 

「そのチラシはゴミ袋に」

 

「えっと……これは……」

 

「あ、無くしてたシャツ……先生!それゴキブリついてる!」

 

「わぁっ!?」

 

「ちょっと!こっちに投げないでください先生!……あれ?いない?」

 

「何処行った!?何処!?」

 

 

◇◇◇

 

 

 疲れた。片付けはコツコツとやるべきだった。今回の教訓として心に刻んだそれがいつまで続くやら、私にも自信は無い。少なくとも投げナイフでゴキブリを殺すなんて経験は二度としたくない。頭と胴が離れていながら平時と変わらず動く様は気持ちが悪過ぎる。教訓よりも嫌悪感の方が強いかも知れなかった。

 

 とりあえず、先生はシャーレに戻って仕事を再開するらしい。昨日もかなり遅い時間まで書類をまとめたりしていたようで、目の下にクマが出来ていたが、休む訳にもいかないとの事だった。そんな先生を心配して早瀬さんも着いて行った。ちょうど当番の日だとか。私にもその当番の日とやらが来るのだろうか。

 

「……さて」

 

 今はそんな事より、久しぶりに依頼の文章と睨めっこだ。こんな街だ、荒事やら非合法の仕事やらには事欠かない。量は確かに減っているが、それでもまだ稼げはする。あと少し稼げれば良いんだ。

 

「機密文書の奪取……また……」

 

 デジタル社会において、最も信頼できるのは紙媒体だ。改変が極めて難しく、物理的に盗み出す以外の方法を取れないという利点がある。

 強硬手段を取る訳にはいかない。それにはこちらの武力が足りないし、ヴァルキューレに追い回されるのはもうごめんだ。マスクが無ければ指名手配されていたに違いない。顔を覆った程度の擬装で特定出来なくなる杜撰な体制には少し呆れる。私自身の腕が良かっただけかも知れないが。

 ゴミの下から引っ張り出したカップラーメンにお湯を注ぐ。タイマーをセットしてただ待つだけの時間。少し考えて、スマホを取り出す。

 

「もしもし」

 

 通話越しに安堵のため息が聞こえる。四日程連絡しなかっただけでこれとは。

 

〈なぁに?何処行ってた?〉

 

「色々あって」

 

〈色々って便利屋に捕まったりシャーレの先生のとこに泊まったり?〉

 

「知ってるなら大丈夫だって分かるでしょ、てか助けてよ」

 

〈アタシの事忘れてたでしょ?おあいこ〉

 

 割と理不尽。めんどくさい女だ。まあそんなところも可愛い、と好意的に見ておこう。

 

「そんな事より仕事の話」

 

〈了解、今回もアレ?盗む系?〉

 

「盗む系、依頼者の素性は分かんないけど、ライバル企業のCL(クルース・ラチェルタ)社ってとこの書類を盗んで来いって話。盗むモノの内容もぼかして書かれてる」

 

〈『知る必要(Need To Know)』の原則ね〉

 

 私達のような傭兵が知るべき情報と知るべきでない情報の選別を、雇う側が行う。面倒な考え事が減るのは良い事だ。それに……

 

「そうそう、私らから漏れるの警戒してるんだろうね、秘密を守る、なんて曖昧な約束じゃどうにもね」

 

 勘違いしがちだが、決して私達が情報を意図的に漏らす事を警戒している訳ではない。そんな事をしたら仕事が来なくなる。ただ、ヒューマンエラーはどれだけ気をつけていても起こり得るのだ。あるいは拷問をされる事だってあり得る。その可能性を思い浮かべた瞬間、爪の無い爪先が痛んだ気がした。流石に耐える訓練はしていない。

 

〈前金は貰った?〉

 

「今振り込み確認した……300万」

 

 依頼文の通りだ。こちらを逃したくないのだろう。そんなに切羽詰まっているのか。

 

〈うえっ、マジで?〉

 

「相場を知らない訳じゃなさそうだし、私だけじゃ相当面倒くさい事になるかも」

 

 こういう仕事には協力者が必要だ。ハッキングや索敵をこなしてくれる人員がどうしても要る。

 

〈だからアタシね、はいはい〉

 

「君には期待してるよサチコ、5:5で良いよね」

 

〈オッケー、今夜決行?〉

 

「うん、よろしく」

 

〈はーい、そんじゃ五時間後にね、タキ〉

 

 通話を切った瞬間、三分経った事を示すアラーム音が鳴り出す。ピッタリだ。ちょっとした達成感。嬉しい。

 

 

 






ストックを増やしたいと思ってキーボードを叩いてたら一週間くらい経ってました。

他に言うことはありません(傲岸不遜)
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