神に愛されし子   作:心身劫奪輝偶像

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「」=人、もしくは人らしき者
『』=人ならざる者
≪≫=その他色々(電話とか)

会話文のイメージはこんな感じ。




第2話

 

「全く、結局何もなかったじゃないか」

 

 

日が昇り切ったとはいえ早朝の時間帯。車を運転しつつ、運転手の男性は思わず愚痴る。

 

彼がこの街にやってきたのは、知り合いから連絡を受けたからだ。

数年前から怪談話として語られてきたこっくりさん。それを利用したのであろう悪霊が様々な人の記憶を食らっているとのことだ。今まで正体を掴めずにいたが、どうやらこっくりさんを模した儀式を行い、その際に他の人間に移り変わっていたらしい。

 

偶々だった。偶々霊感があり、偶々霊能力にもある程度知識のある彼が、一番近かったのだ。

 

 

「あんなに慌てていたから急いで来たと言うのに……」

 

 

呼び出してきた同僚とは、知り合ってから随分たつ。その間にも悪霊がらみの相談は受けたことはあったのだが、今回はかなり焦っていたのだ。

 

やり方が狡猾でとらえるのが難しい。

ここ最近活発化し、次から次へ憑依先を変えている。

このままでは夏が終わるころには近くの学校が丸ごと飲み込まれてしまう。

 

等々、次から次に言われてはすぐ来てくれと懇願された。

 

という訳ですぐさまこの街に向かい、合流した後に痕跡から居場所を探し始めたのだが……。奴が最後に顕現したであろう〇〇中学校。そこで痕跡が完全に消えていたのだ。

 

自然消滅したか、この街に潜んでいる誰かに祓われたか、考えたくはないが瞬間移動に類した能力を手に入れたか。

状況証拠を手に入れようにも年配の坊主二人では校舎に入れるわけもなく、結局監視を続けつつ一旦解散する運びとなった。

 

 

……まぁ詰まる所。骨折り損のくたびれ儲け、と言うやつだ。祓い終わったら寿司を奢ってもらう約束だったのだが。

 

 

「しかし、やはりここは妙だ」

 

 

信号を待ちつつ、窓の外を眺めながら呟く。

この地区……と言うより町に入ってから、とんと霊を見なくなったのだ。善悪問わずで限った場合、人が多いところにはそれなりの量がいるものだ。なのにここに来て半日、未だに見かけた数は両の手で事足りる。

 

てっきり件の悪霊の仕業かと思ったが、その悪霊の姿もない。まるで悪霊はすべて消され、並の霊魂は近づくのを恐れているような……。

 

 

「ハハ、流石に考えすぎか」

 

 

まぁいい、さっさと今日は帰ろう。

最近は訪れてなかったものの、ここの地理は頭に入っている。ここの田舎道を通れば、確か近道になるはずだ。

 

そう考えながらハンドルを切り、脇道に入った瞬間――――。

 

 

 

 

 

「――――ッ!?」

 

 

――背筋を刺されるような気配が、全身を包み込んだ。

 

 

「な、んだこれは……!?」

 

 

体が強張り、車の速度が落ちていく。

もしかしたら気のせいなのかもしれないが、それでもこの体にまとわりつくような気配は間違えるはずもない。

 

いる、それもとびきりの奴が。

 

 

「どこだ……どこにいッ!?」

 

 

もしや件の悪霊か。そう思い、気配を探るため周囲を見渡す。

まさかこの付近に潜んでいるのかと思っていたのだが……なぜこの時、すぐにこの場を離れなかったのか。すぐさまそれを後悔することになる。

 

視線の先、そこには一軒の家があった。

周囲に他の家はなく、まるでそれを避けているかのようにぽつんと建っている。

 

そして視線をその家に固定した瞬間、即座に理解したのだ。

この濃密な気配、その出所はあそこだ、と。

 

だがしかし、自分で対応できるものではない。話に聞いていたよりも強力、ないしは多数の悪霊があそこにいる。

 

これは応援を呼ばねばならない、そう考え今すぐこの場を離れようとした瞬間。建物の入り口が開いた。

 

 

 

 

 

「いってきます」

「……人?」

 

 

こんな所に?

そう思ってしまうのは無理はないだろう。何せあの家から出てきたのは、普通の少年だったのだ。

 

制服を着ているということは、学生だろうか。家を出て、こちらに向かってくる。ただ単に通学路が被っているだけなのだろうが、それでもどこか不気味だ。

 

 

「…………」

「ッ」

 

 

目が合った。

結果的にこちらはぶつからないよう徐行しているように見えている。そこまで不自然ではないだろう。

 

……しかし、なんだこの違和感は?

何か、大切なことを見落としているような――――

 

 

 

 

 

「こんにちは」

 

 

 

 

 

家主が通り過ぎ、彼も家を通過して目標の道に合流しようとしている。

 

あの瞬間、理解した。

妙な違和感、それは感じていた気配が変に分散していたことだ。あの家から発せられた気配が、正面を通るときには若干薄まっていたのだ。

 

つまりそれは、あの家と同等の気配を持つ何かを彼が所有していることになる訳で。

ただし彼に憑りつかれている気配は感じないことから、彼自身の力で奴らを屈服させている事になるという訳で。

そしてこの街に悪霊が少ないのは、もっとやばいやつがあそこにいるからなのは間違いない訳で。

 

 

「いやー、霊能力者の未来は明るいなー……」

 

 

もう二度とこの街には来ねえ。

 

そう、彼は固く心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふむ」

 

 

昼休み。昼食も食べ終わり、雑誌を開きながら思考する。

 

 

「よぉ神木、生真面目委員長のお前が雑誌なんか珍しい……うげっ」

 

 

その姿が珍しかったのか、同級生が神木の背中から声をかける。しかし、彼が持っている雑誌を見て思わずうめき声をあげてしまった。

 

そしてその声に気づいた神木は振り返り、いつもの穏やかな表情で口を開く。

 

「おや、大丈夫ですか?」

「いや、てっきり神木がいる劇団関係かと思ってたからビックリした。心霊雑誌なんて読むんだな」

「観光雑誌の特集ですけどね。この時期おすすめですよ、涼しくなります」

「精神的じゃなくて、物理的に冷やしてくれよそこは……」

 

 

ニコニコしながら話す神木に対し、男子生徒は軽く項垂れながら話す。どうやら彼はこういった系統の話は苦手らしく、今回は完全に想定外だったようだ。

 

 

「まぁララライのことも載っていますよ。実は夏休み期間中、暫く東京に出向くことになりそうで……その間の暇つぶしと言いますか」

「暇つぶしに心霊スポット選択する辺り、本物と言うかなんというか……」

 

 

あーやだやだ、と男子生徒は肩を震わせる。

それを見ながら神木が、なので宿題は頑張ってください、と言うとその意味に気づいた男子生徒の顔が青ざめる。彼の今年の夏は厳しくなりそうだ。

 

 

「まぁ、そういう訳です。戻ってくるのは月末ギリギリになるかと」

「へー、なら東京での土産話でも楽しみにしてるぜ!……お化け以外で」

 

 

そこまで話したところでチャイムが鳴り、男子生徒は自分の席に戻る。そして先生が教室につき、教団の前に立った。

話が始まるのを待ちながら神木は外を見る。日差しは激しく、青空がどこまでも広がっている。

 

 

 

「ほら、そろそろ5限目始めるぞ。……まずは、夏休みの宿題についてからだ」

 

 

中学2年の夏。今年は、去年までに比べて格段に面白い夏になる予感がしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて一先ず今日は……ん?」

 

 

放課後、家まで歩いて帰っていると懐の携帯電話が振動する。

画面を開き、それが知り合いであることを確認すると、通話を繋いで口を開いた。

 

 

「もしもし」

≪もしもし。ひー君、聞こえとる?≫

「あぁ、こんにちは。どうです、この間のお話は?」

 

 

電話先からは、男性の声がする。関西訛りが入った声は親し気であり、神木とも一定以上の交流があるようだ。

 

 

≪あぁ、それなら構わへんよ。最近こっちは閑古鳥が鳴く有様でな、ひー君送るついでに観光でもしようと思っとるわ≫

「それは好都合。あの子たち(・・・・・)を僕一人で東京まで持ち運ぶのは、かなり難しかったものですから」

≪あー、それなんやけどな。……ひー君、ぶっちゃけ何人連れていくつもり?≫

3人(・・)ですね」

≪はえ??≫

 

 

男性が腑抜けた声を出す。それは想定外のことを聞いてしまった声であり、その先待ち受けることを理解してしまった声でもあった。

 

数分の間、あーだのうーだのと言った声が聞こえ続ける。とは言え、その反応が来ることは神木も予想していた。ここから妥協点を探りつつ専門家の意見を聞くために、こちらから口を開く。

 

 

「やはり難しいですか?」

≪……無理や。一時的に置いとける場所も見つかっとらんし、適当に放置すれば奴らは何するか分かったもんやない≫

 

 

そういう男性の声は真剣だ。先程までのおちゃらけた気配はなく、本気でそれらを警戒しているようだった。

だがそれを知っているからこそ、神木はそれらを遠征先に持っていきたいのだ。

 

……とは言ったものの、現実問題はそこまで甘くなさそうでもある。

 

 

≪万全を期したいのはわかるけど、それはしっかりと腰と封印を据えれる場所を見つけてからやな≫

「……そうですね、では2人にしておきます」

≪うーん、複数ヶ所回る気満々やね。……1人にせえへん?≫

「全員連れていきますよ?」

≪ホンマにゴメンて!?≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでよし、と」

 

 

二階の自室。そこで遠征用の荷物をまとめ終えた神木は、その隣で同時に用意していたリュックの中身を見つめる。

そしてリュックだけを持ち、リビングに入って人形たちを眺めて思案する。

 

東京へ行く準備は整った。防御のための新たな駒が手に入ったことで、ハイリスクハイリターンな心霊スポットにも行けるようになったのだ。

 

 

(……とはいえ、あくまで予想。行く前に確かめておいた方がいいだろう)

 

 

そう考えながら、本棚の中から一冊の雑誌を取り出す。それは地元周辺の観光雑誌をまとめてあるものであり、例によって心霊スポットの特集が組まれていた。

 

 

(前から行きたかったが、リスクが大きすぎて回避せざるを得なかった)

 

 

ページをパラパラとめくり、付箋を貼っておいたページで手を止める。

 

雑誌によると、デートスポットとして有名な展望台がある観光所。しかし昔から自殺者が毎年のように出ている、隠れた心霊スポットでもあるらしい。

それだけならとっくに向かっているところなのだが……ここ最近、状況が変化している。

 

まず一つ、明らかな自殺者数の増加。例年に比べて増加傾向にあり、しっかり調べたところ倍程度ではなさそうだ。

そして二つ目、周辺の行方不明者の行き先が個々の可能性が高いこと。隣町どころか、隣の県にまで範囲を広げた際の行方不明者。その目撃情報や残ろうなどを調べた結果、どうやらそこに繋がっているみたいだ。

 

これらより、恐らくだがあの山にいる霊は悪性進化をしている。

それはつまり、より大量の命を吸って生き延びているということだ。

 

 

フフッ

 

 

……と、まだだ。想定でしかないのだから、自分の目で確かめるためにもまずは準備しなきゃ。

 

考えうる想定は、どちらかと言うと数。とは言え個に対する対策も組まなきゃいけないだろう。

 

 

「君と……そうだな。多分東京には連れていけないわけだし、ちょうどいい」

 

 

そう言いながらリビングを離れ、階段下にある札の張られた扉を開く。そこは本来何もなかったのだが、これを見つけたことで増設したものだ。

 

その階段を下り、地下へ降りていく。そして再び現れた扉を開くと、その先には一面傷だらけの部屋があり、中央の床には男性の日本人形がポツンと置かれていた。

リビングにおいてあるぬいぐるみ達とは異なり、それはしめ縄と鎖でグルグルに巻かれている。さらにそれが塩が大量に入った袋に入れられていた。

 

それを袋ごと持ち、リュックの中に入れる。これで準備は完了したので家を出て、駅に向かって歩き出した。

かなり距離はあるが、今日は金曜日。土日に予定も入れなかったので帰りが遅くなっても問題ないだろう。

 

 

 

 

 

……それじゃ、行ってみようか。

 

自殺の名所、隠れた心霊スポット、生気を亡くした人のイき先。

 

I市、S山へ。

 

 





ここまで読んでいただきありがとうございます。

今更ですが、作者は久々の執筆な上にホラー系は初挑戦なので、至らないところが多々あると思います。もし誤字脱字等ありましたら連絡していただければ幸いです。

ではでは、また次話でお会いいたしましょう。
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