デジモンバトルユニバース -Re:Tri Adventure- 作:地水
それはデジモンにとってはかけがえのない記念日。
当時の選ばれし子供達が未知の世界へ旅立ち、デジモンというかけがえのない相棒たちと出会ったその最初の日。
この物語は、デジモンと人間が共存が実現した時代より約20年前の物語。
チーム・イズモの彼らやもチーム・ロムルスの二人も生まれてはいない時代、主役となるのは選ばれし子供達。
新たなる冒険が今始まる。
何処かの空間。
闇を体現した漆黒の空と遠くで輝く光だけが存在するそこは凡そ生物が住めるような無の世界であった。
そこは宇宙……水で埋めつくされている青い惑星・地球に住む人間達がそう呼んでいるその世界にて、一つの戦いが起きていた。
黄金色の鋭い残光が流れ星の如く宇宙を駆け巡る"存在"がいた。
それに続いて謎の妖しい輝きを放つ三つの光が迫り、光線のような攻撃を真っ直ぐ発射する。
黄金の光は放たれた光線を掻い潜り、逆に銀色に光る剣を産み出して攻撃を仕掛ける。
黄金色の光から繰り出された銀色の剣を三つの光に包まれた存在はそれぞれのやり方で撃ち砕く。
一体は生み出した獣の頭を作り出し、獣の口から出した刃で剣を断ち切る。
一体は何処からともなく出現した黒い手で剣を握りつぶす。
一体は生み出した赤い砲門から強烈な砲撃を放った。
妖しい三つの光は黄金色の光を取り囲むと、逃げ場を塞ぐようにそれぞれの手段で攻撃を仕掛けてくる。
黄金色の光はまともにその攻撃を受けて、その光は消え去り、代わりに姿を現したのは一体の人型の存在。
宇宙の闇に溶け込んでしまうような漆黒の鎧に金色のラインが走り、背中にはマントを靡かせる。
頭部を覆う兜から覗かせるつぶらな瞳にはこの絶望的な状況を決して諦めていなかった。
『ここまでか』
漆黒の戦士は三つの妖しい光を真っ直ぐ見据え、手に持った大きな剣を武器を構える。
戦士が持つその黄金の大剣からは光の粒子が漂っており、次第に光を増していく。
剣からの黄金色の光が放っている光景を見て妖しい光は驚きの声を上げる。
『貴様、その一撃で命をかけるつもりか?』
『構わん……ここでお前達を食い止められるなら、この命は惜しくない』
謎の妖しい光の一体……獣の刃を振るった者に対して漆黒の戦士は答えた。
目の前で取り囲んでいる彼らを
黒い鎧の戦士は黄金の刃を振るい、光り輝くその斬撃を妖しい光へと飛ばした。
三つの光はそれぞれ避けようとするが、回避しきるそれより前に黄金色の攻撃が掠めた。
『ぐぅっ!?』
その一撃は多大なダメージを負わせ、さらに光の動きが鈍る。
包まれていた光も粒子となって消えていき、あとに残されたのは消滅しかかっている異形の姿。
このまま自分達は何もできず消えるのは明白だが、それは放った相手自身も同じ。
漆黒の戦士の握る黄金の大剣は罅割れ、鎧からは青い光の粒子が血の如く流れ落ちて消えていく。
瞬く間に己の姿形が消えていっている漆黒の戦士は三体の異形に呟いた。
『お前達に彼らを、この世界を明け渡すわけにはいかない』
『彼らの未来は、彼らのものだ』
『いずれ彼らが我々と共に並び立つその時まで……我々は、数多の脅威を切り払う剣として、幼き彼らを守る盾として』
体の輪郭が宇宙へと溶け消えていく中、戦士は最後まで諦めない闘志の意思を宿した瞳で見澄ましていた。
やがて完全に消えた後、取り残されたのはそれぞれ奇妙な模様が入った二つの卵型の物体。
卵は引力に従って、そのまま二つの流星となって地球へ飛んでいく。
『……』
三体の異形は自分達の脅威となっていた存在が消えた事を確認すると、宇宙の闇に溶け込むように消える。
間違いなく深手を負っている状況では自分達の野望を果たすことはできないと悟り、退くことを決めたのであった。
彼らが向かうのは、闇より深い暗き深淵……宇宙のどこかに、しかし確かに存在する、途方もない何か。
新たなる脅威が人類に迫ろうとしていた。
これは、序章の物語。
誰もが知らない、たった一人の守護者の孤独な戦い、記憶の欠片。
消えた彼らが向かうのは青い惑星・地球。
そこは、今まさに人類が未知の出会いと遭遇する新時代の幕開けの真っ只中であった。
デジモンバトルユニバース
Re:tri Adventure
それは、まだようやく暖かくなりかけた春の頃。
東京の中心では"悪魔のような怪物"が起こす大きな事件が起きている頃、『私』は出会った。
いつも通っている塾の帰り、私――『飛鳥ユウナ』はその日、運悪くその事件の余波に巻き込まれてしまった。
辺り一帯に溢れかえった一つ目の謎の生物……のちに"クラモン"と知ったそれに、私は襲い掛かられていた。
「はぁ、はぁ、……なんで、なんなのこれ!」
まるで津波のように溢れかえるクラモンは私の元へと押し寄せてくる。
去年買ったばかりの少し新しい春靴で必死に逃げようとする私をクラモンが迫る。
電子音声で作られたような不気味な鳴き声を上げて迫るその異様さに私は恐怖した。
「ひぃっ……!」
自分らしくない悲鳴を漏らしながら、私は逃げる足を速める。
こちらを見ているクラモンの視線を背中に突き刺さっている事を感じながら、私は近くの森林公園の中へと入る。
逃げる途中でパソコンやTVといった電化製品から出てくるクラモンを見て、近くにいるのは危険だと感じて近くの森林公園へ辿り着いた。
ここから隠れる所もあるし、やり過ごすことができると思ったからだ。
少し走った先にあった少し大きな樹木に隠すと、見つからないように座り込んだ。
ベージュと白の少し長めのスカートが土で汚れる事を気にせず、私は恐怖に耐えかねて泣き出しそうな声を出してしまう。
「もうなんなのよ……いやだよぉ」
目尻に涙を浮かべ、私は泣きべそをかきそうになる。
本当なら私はこのまま家に帰って、今日習った事の復習をして、それを終えたら就寝する。
春休みに入ってからの短い日常にいたはずの私は唐突に非日常へと放り込まれてしまった。
謎に包まれた未知の生物が蔓延り、襲い掛かられる中で逃げ場が次第に失っていく中……私は何処か心細く感じた。感じてしまった。
このままあの生き物に襲われて、命を落とすんじゃないかって。
そう考えるだけで沸き上がった恐怖で体が固まってしまい、体が震えて身動きができなくなる。
手には親から持たされた携帯電話が握られており、電話をかけようとするが全然繋がらない。
「家にも連絡つかない……いったいどうしたらいいの」
もはや泣き出すのは時間の問題と言わんばかりに私は顏を両腕に埋めた。
今は隠れていて見つからない状況だが、いつまでもそういう状況ではいられない。
すぐ傍には人とは異なる気配がいまだに漂っており、それを感じて私はハッと我に返って口をふさぎ、息を止める。
……不気味な電子音声のような鳴き声が近くから聞こえる。
それだけでも私を怖がらせるには十分だった。
今にも恐怖で叫び出しそうになるまさにその瞬間、不意に耳に聞こえてきたのは。
『こっち、だよ』
「えっ……」
耳に届いたのは幼いような、優しい声。
周囲を振り向くと、木々に遮られる中でまるで導くように"何か"が淡く光っていた。
謎の光に導かれて草木を掻き分け恐る恐る近づくと、そこにあったのは……水晶のような、機械のようなそんな中間の物体。
中央部にはディスプレイが設けられており、そこから光が放たれていた。
「なんなのこれ……」
私は恐る恐るその物体へ手を伸ばす。
まるで光る星へと手を伸ばすような、夢のような感覚になりながら私は手を伸ばす。
触れて手にしたその瞬間、ぽこんと軽い音と共に、その"小さな存在"が現れた。
『ふぅ! やっと出られた!』
黄金色の蛇のような体躯を持った謎の生き物。
一瞬私は驚くが、その生き物から発せられた優しい声を聞いて目元に浮かべた涙は引っ込んだ。
『ねぇ、あなたが私の声を聞いてくれたんでしょ? 出会えてよかった!』
「えっと、あなたは?」
『キョキョモン。キョキョモンだよ』
黄金色の生き物――『キョキョモン』は私に対してそう名乗ると、私の方へ近づいてきた。
戸惑う私を他所にキョキョモンは細い体でするりと私の体を這うと、まるで犬や猫のようにすり寄ってきた。
先程の一つ目の生物とは違う何処か愛らしさに何となく安心感を覚えたのだった。
「ふっ……ふふっ、くすぐったいよ」
『人間、あったかい。あなた、名前なんなの?』
「えっ、えっと、私はユウナ。
先程の恐怖心は何処へやら、人懐っこいキョキョモンを見て少し心が安らいだ。
まだ出会って間もないのにこの子との親近感に妙にしっくりくると感じるのだ。
未知の出会いに私が笑顔を浮かべていると、草木が揺れる音が聞こえてくる。
急いで振り向けば、そこにはこちらへと近づいてくるクラモン達がやってくる光景が視界に入った。
すぐさま恐怖心が襲い掛かろうとするが、その前にキョキョモンが叫んだ。
『ユウナ、こっち!』
「えっ、キョキョモン!?」
『こっちから気配がする! こっち、こっち!』
キョキョモンに連れられて私は何処かへと逃げていく。
こちらに気づいたクラモン達が追いかける中、キョキョモンに連れられてとある場所のやってきた。
そこは森林公園に設けられた広場であり、隠れる場所がなく視界が開けている……。
一見見つかりやすい場所へとやってきた事に驚いたが、そこへさらに私を驚愕させたものがあった。
――向こうからやって来た紫色の毛並みを生やした小さな生き物がクラモン達へ突撃したからだ。
『どけどけどけー! どりゃあああああ!』
紫の生き物は人の言葉を発しながら、クラモン達を蹴散らしていく。
一体何が起こったのか、戸惑う私……そこへ、誰かが声が飛んできた。
真っ直ぐとした、多分同い年ぐらいの男の子の声だった。
「大丈夫か!?」
「えっ……」
急いで振り向くと、向こうから走ってきたのは一人の黒髪の少年。
男の子にも女の子にも見える顔立ちの彼は私の隣に辿り着くと、安否確認をしてくる。
「えっと、怪我はないか?」
「うん……だ、大丈夫」
「そっか……おい、ドリモン!戻ってこい!」
『わかった!』
私が何処にも怪我がない事を確認すると、彼は紫の生き物――『ドリモン』はドタドタと足音を立てながら戻ってきた。
ドリモンは前に出てきたキョキョモンと並び立つと、クラモン達に正面を向かいながら唸り始める。
『『グルルルル……』』
唸り声を上げる彼らを見て、クラモン達は迫りくることを辞める。
その代わり一ヶ所に集まり、光に包まれてその姿を変えていく。不気味な笑い声を上げながらクラモンは別の姿形へと変わっていった。
異様に長い手と大きな口と不気味な二つの目を持った頭部が特徴的な生き物――"ケラモン"となったそれは、依然笑い声を上げて襲い掛かろうとする。
向かう先にいたのは、ドリモンとキョキョモン……このままでは危ない目に遭うのは明白だ。
私は叫んだ。小さい身でありながら、初対面であるはずの私を守ろうとする君の名を叫んだ。
「キョキョモン!」
必死に叫ぶ私だったが、ここでとある事に気づく。
手に持っていたあの水晶が光っていたのだ。まるで呼応するかのように光るそれを見て驚く私の横で、男の子は叫んだ。
その手には、私と同じあの水晶が握られていた。
「ドリモン!」
男の子と私、二人が目の前の小さな彼らに対して名前を叫んだその瞬間。
私と彼が持っていた水晶が光り出した。それと同時小さな彼らが光に包まれていく。
先程の生き物と同じように。
襲い掛かろうとしていたケラモンはその光に吹き飛ばされ、距離を離され……。
ドリモンとキョキョモンは勢いよく叫んだ。
『ドリモン、進化!』
『キョキョモン、進化!』
……やがて光が収まると、そこにいたのは二体の生き物。
片やドリモンが変化した、大きな尻尾と紫色の毛並みを生やし、小さな羽根を生やした獣。
片やキョキョモンが進化した、黄色い体躯に戦国の鎧を思わせるパーツを取り付けた獣。
先程の小さな体からは想像できないような大きさへと"進化"した二体は高らかに名乗り上げる。
『ドルモン!』
『リュウダモン!』
ドリモンが進化した『ドルモン』、キョキョモンが進化した『リュウダモン』。
二体は態勢を立て直したケラモンを見据え、地面を蹴って走り出した。
『ハァァァァ!』
『ヤァァァァァ!』
まず攻撃を仕掛けたのはリュウダモン。
頭部の兜を向けて体当たりをし、ケラモンをそのまま突き飛ばす。
ケラモンは負けじとその大きな口を開き、そこから破壊光弾・クレイジーギグルを繰り出す。
放たれたクレイジーギグルの光弾をドルモンは自身の口を開き、迎え撃った。
『食らえ、メタルキャノン!』
口から放たれた鉄球・メタルキャノンはケラモンのクレイジーギグルとぶつかり合い、そのまま消滅。
ケラモンが隙ができた所へ、ドルモンとリュウダモンがそれぞれ同時に迫る。
『ダッシュメタル!!』
『居合刃!』
ドルモンが放った鉄球を放ちながら突撃してくる技・ダッシュメタルがケラモンの逃げ場を失い、そこへリュウダモンの口から放った刃による攻撃・居合刃がケラモンの体を捉えた。
その鋭い一撃はケラモンの体を貫き、ケラモンは地面へと倒れ伏した。
ケラモンが倒れ伏したことにより、その場に漂っていたクラモンは何処かへと消えていく。
未知の脅威をなんとか退けた事を知り、私はへたり込んだ。
「た、助かった、の?」
「そう、みたいだな……えーっと、何はともあれ無事でよかったよ」
へたり込んだ私を見て、少年は照れくさそうに頬を指でかきながら、手を向ける。
私はその手を握って立ち上がるとと、少年ははみかみながらこちらを見て口を開いた。
「えっと、君……デジヴァイス持ってるってことは多分、君と同じ……所謂選ばれし子供達、だよね」
「選ばれし子供達? それに同じってどういう……そもそも、さっきの生き物といい、この子達って一体なんなの?」
「えっ、君……もしかして、デジモンの事知らないの?」
まるで信じられないような驚きの表情を浮かべる男の子。
選ばれし子供に、デジモン?
聞きなれない単語に私は疑問符を浮かべ、傍らにて喜ぶドルモンとリュウダモンを一瞥した後、男の子に訊ねた。
「あなた、何者なの?」
「……カズト、
彼――『藤原カズト』は私にそう言いながら、目線を逸らして照れくさそうな表情を浮かべた。
当時の私は彼との最初の出会いがこれから起こる世界を揺るがすほどの大きな事件に巻き込まれる事に、まだ何も知らなかったのだ。
これは、今から約22年前のお話。
異世界からの未知の生物『デジモン』と人間が共存する前の昔の時代で起きた事件の先駆け。
二人の男女が経験した青春と冒険の物語。