デジモンバトルユニバース -Re:Tri Adventure-   作:地水

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第1話:何でもないとある朝

 ――――2年後。

 

2度のデジタルワールドの危機からデジモン達と人間を救い、そしてとあるデジモンが引き起こした事件……通称『アーマゲモン事件』を解決してから約2年が経った。

人々は束の間の平和を過ごし、当時解決に注力した主要人物達……選ばれし子供達と、その相棒であるデジモン達はそれぞれの生活に戻っていた。

 

ある者は青春を勤しみ、ある者は将来の夢のために頑張り、ある者は友との友愛に育む。

 

デジモンと人間の共存の道が見え始めた頃、物語はとある二人から始まる。

 

 

 

~~~~

 

 

 

東京都練馬区。

平穏な町中に立っているとあるジャンクショップ・フジハラ。

そこの一室のベッドにて寝ている人物がそこにいた。

短く整えた黒髪に女子とも見間違えるような中性的な顔をした若い少年は白いシャツに半ズボンという寝間着姿で惰眠を貪っている。

 

「すぅ……すぅ……すぅ……」

 

部屋の主である黒髪の少年……藤原カズトは目覚める様子もなく寝息をたてていた。

今年で高校生になった彼はPCをはじめとした機械弄りが得意な事以外彼も何至って普通の男子。

しいて言えば、とある出来事で出逢った"奇妙な隣人"がいるくらいだが……そんな彼の部屋の部屋が一つの人影が扉を開けて入ってきた。

 

「カズト君、起きてる?」

 

カズトの部屋に入ってきたのは、一人の少女。

栗色の長髪を腰まで伸ばし、丸く愛らしい小顔を有した彼女……飛鳥ユウナは物音立てず静かに部屋の中に入ると、カズトが寝ているベットの元へと向かう。

未だに寝ている彼の顔を見て、優奈は呆れながら声をかてた。

 

「カズト君、カズト君ってば」

 

「う、うーん……」

 

「もう朝だよ。起きて」

 

「あ、れ……ゆうな?」

 

誰かに起こされてゆっくりと瞼を開けながら起き上がるカズト。

最初は寝惚けておりユウナの事を分かっていなかったが、次第に視界が明らかになっていくとその顔が赤くなっていく。

 

「ゆ、ユウナ!?」

 

「おはよう、寝坊助さん。よく眠れた?」

 

「なんで……今日は用事があってこっちには寄ってこないって」

 

「今日はちょっと無理言ってこっちに寄る時間作ったの。君の事だから」

 

いつものように花が咲くような笑顔を向けるユウナに、カズトは内心タジタジになる。

趣味である機械弄りを夜中までやっているせいで夜更かし気味になっており、そのためにユウナがこうして起しに来ることが多いのだ。

 

――――あの日、自分が相棒と共に助けた少女であるユウナは、今となってはこうして自分の家にやってきて起しに来る仲となった。

友達、と言われればそれ以上の関係だとも思えるし、かといって恋人という関係かと言われれば……まず彼女へそんな感情を抱いていいのかという疑問にぶつかる。

ともかくなんとも言えないようなはがゆい関係が2年も続いており、今日もこうして起しに来たのであった。

 

少し見惚れながら考えているカズトの様子に不思議そうに見ていたユウナは声をかけてきた。

 

「カズト君、カズト君ってば。もう、まだ寝惚けているの?」

 

「ああ、今起きるよ……あと、今から着替えるからオレの部屋から出て下で待っててくれないか」

 

「わかった。おば様達にそう言っておくね」

 

ユウナが部屋から出ていく所を見届けると、カズトは先程までため込んでいた溜息を吐き出し、内に秘めた思いをつい零す。

その頬は若干頬を赤くしていた。

 

「まったく……寝惚けて何かあったらどうするんだよ。ユウナのヤツ」

 

ポツリと呟いたカズトの言葉は自身の部屋に響くだけ。

机の上に置かれた水晶のようなアイテム『デジヴァイス』を手にとって、カズトは自身の身支度をし始めた。

 

 

 

~~~~

 

 

 

ユウナが二階から出て、喫茶店も兼ねている店内のカウンター席へ顔を出す。

そこにはユウナより年上な大人の女性が朝食の準備をしており、こちらの方へ振り向くと笑顔で出迎えてくれた。

 

「あら、ユウナちゃん。カズ坊の様子どうだった?」

 

「はい、カズト君ったら私が来た事にびっくりしてました」

 

にこやかな笑顔で話すのは、この店の店主を務めている女性『藤原 アヤネ』。

長い銀髪を後ろに纏め、出ているところは出て締まっている所は締まっている女性的な丸みを帯びた体形という魅力的な外見をした彼女は手に持ったカップをユウナへと差し渡す。

中には珈琲が継がれており、香ばしい匂いが漂っていた。

 

「これ一杯飲む時間はあるでしょ? 飲んでいきなさい」

 

「ええっ、いいんですか?」

 

「いいよいいよ、あたしの奢りだから!」

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

ユウナはアヤネから受け取った珈琲のカップを受け取ると、カウンター席に座って口に含む。

珈琲特有のほろ苦さと事前に入れられた砂糖の甘味が体に染みていく。

普段何かと忙しいユウナにとってはとても美味しく感じられた。

 

「はぁぁ、美味しいです! アヤネさん!」

 

「そう? かわいい子にそう言ってくれるとありがたいなぁ、私もさ」

 

「ふふぇっ!? そんなっ、可愛いだなんて」

 

「謙遜するんじゃないっての天使ちゃんよぉ。カズトがあなたのような女の子に興味を示すなんて初めてなんだからさ」

 

アヤネに褒め言葉を告げられて困ったように焦るユウナ。

カズトという名前を出されて顔を赤らめる所を発言した当の本人はニヤニヤとしながら笑っていた。

意中の相手の事になるとユウナが面白い反応するのでアヤネの悪戯心がうずくのだ。

次はどうしてやろうかしら、という茶化しを考えようとしたところへ聞きなれた声が二人に届いた。

 

「何をちゃかしているんだよ」

 

「あ、カズ坊、おはよう。ようやく起きたんだ」

 

店内にやってきたのは、身支度を整えて制服姿となったカズトだった。

カウンター席にいるユウナの隣の椅子に座ると、ジトリとアヤネの方へ呆れかえった視線を向ける。

まるで何か余計な事吹き込んだんじゃないだろうなと言いたげな目で訴えてくるカズトに、素知らぬふりで返しながら一人前の朝食を用意した。

焼かれたトーストの上にちりばめられたチーズとトマトソースに加えて切られたピーマンやウィンナーソーセージという意外とボリュームのある料理。

いわゆる"ピザトースト"と呼ばれるそれは簡単なポテトサラダと珈琲が注がれたカップと共に出てきた。

カズトは自身の用意された食事をを当たり前のように視線を落とすと、いただきますと告げて早速ありついた。

 

「いただきます」

 

「どう、カズト。あたしお手製のピザトーストの感想は」

 

「いつものおふくろの味、って感じだな」

 

「なによぉ、そんなにお母さんの食事がありきたりなのがいけないのぉ?」

 

「そう言ってないだろう」

 

大げさに悲しく振る舞っているアヤネにカズトはジト目で呆れたような視線を向ける。

二人のやり取りを見てユウナは静かに珈琲を飲み進めると、カズトに声をかける。

 

「カズト君、今日の授業は1時限目から国語あるよ。予習してきた?」

 

「ん? あー……どうだったかな、してきたようなしてきてないような」

 

「はぁ、その様子だとしてきてないようね……君って数学とか機械工学とか、興味ある教科だと結構優秀なのに」

 

「そうかぁ? そうでもない気がするんだが……」

 

もぐもぐとピザトーストを食べ進めるカズトへユウナは半ば呆れたような声を出す。

最早二人の仲のいい日常会話はこの店での日課となっており、その様子を毎回間近で見ているアヤネはニコニコと微笑ましく見守っている。

……そんな小悪魔的な笑みを浮かべる様子にヒヤリとしながら、カズトはあっというまに朝食を食べ終えた。

するとそこへユウナの声が上がった。

 

「カズト君、ほっぺの所ソースがついてる」

 

「え、マジか? どこだ?」

 

「動かないで、えいっ」

 

ユウナはカズトの頬にピザトーストのソースがついている事に気づくと、彼の頬に手を添えて指でそのソースを拭った。

そして指についたすぐに自分の舌でペロッと舐めとると、何事もなかったのようにカウンターの机に備え付けられた紙ナプキンで拭いた。

一瞬の出来事にアヤネは感心しつつ、カズトに耳打ちした。

 

「カズト、ちゃんとエスコートしないとアンタが乙女男子になっちゃうわよ」

 

「なんでだよ!?」

 

素っ頓狂な言葉を放ったアヤネに対し、目を見開いて驚いてカズトは突っ込む。

 

……そんなこんなでカズトの朝食を終え、ジャンクショップ・フジハラから出ようとする頃。

準備を終えたカズトとユウナの二人は、少し慌てながら店から出て、カズトの有するオンロード型のバイクで通学しようとしていた。

 

「じゃあおば様、行ってきます」

 

「行ってくるよ、アヤさん」

 

「カズ坊、ユウナちゃん、いってらっしゃーい!」

 

バイクにエンジンをかけ、発進したバイクを駆るカズト達が通学路へ着くところまで見送るアヤネ。

彼らが今日の学業へと向かっていく背姿……そして、彼ら二人の後を追うように走る2つの小さな影。

人間にしては少し小さい体をした『何か』が消えるまで見届けると、アヤネはジャンクショップ・フジハラへと引っ込み、今日の仕事にうち込むことにした。

 

 

~~~~

 

 

数十分後、カズトの駆るバイク……安全運転を気にした速度で走るバイクの後を付いて行くように、2つの影があった。

バイクの後に走るのはドルモン、その背中に捕まっているのはリュウダモン。

あの時、不思議な出会いを迎えた彼ら二人は今、高校生となったカズトとユウナの元で共に生きていた。

ドルモンはカズトと、リュウダモンはユウナと。

それぞれテイマーとパートナーデジモンとして絆を結び、共に生活をしている。

あの事件以来、目立ったデジモンの起こす事件には関わってなく、平穏な日常を過ごしていた。

 

そんなカズトと共に走るドルモンは相棒へと声をかけた。

 

『カズトー、ようやく起きたかー』

 

「ドルモン……お前先に起きていたのか」

 

『うん、カズト気持ちよく寝ていたから』

 

「起してもよかったんじゃないのか?」

 

『ボクが起こしても起きないだろうし、ユウナが起こす方が必ず起きるじゃないか』

 

「……お前なぁ」

 

ドルモンの言い分に対してヘルメット越しに眉を顰めるカズト。

確かにユウナの声を聞いて起される方がなぜかスンと起きられるが……。

その一方でカズトの身体に抱き着いているユウナの方へ、リュウダモンが話しかけていた。

 

『ユウナ、今日のご飯は何作ったのー?』

 

「それはね、お昼になってからのお楽しみだよ」

 

『楽しみだなぁ。ユウナの料理、わたしもカズトも楽しみにしてるんだよ』

 

「カズト君も?」

 

『だってユウナのご飯食べるカズト、いつもニコニコしてるんだもの』

 

「ふえっ!?」

 

リュウダモンの言葉を聞いて、ユウナはヘルメットの下で頬を赤らめた。

いつもカズトと共に昼食を取っている事がよくあるが、その時の彼の美味しそうに食べる笑顔がとっても好きなのだ。

彼のために手作りの料理を作ってきた結果、自然と腕前が身についたのだ。

 

片や相棒に言われて不満を抱え、片や相棒の言葉で自分の想いを思い知らされる。

相棒のデジモン達に色々と言われ、感情を揺さぶられたまま通学路を進んでいく。

 

やがて辿り着いたのは、カズト達が通っているとある高校。

その名は"城南大学附属高校"、多くの生徒が通っているこの学校は世界に轟かす有名人を輩出しているらしい。

世の中にデジモンが知られつつある今、城南大学はデジモンに注目している……という噂もあるらしい。

謎の噂が漂っているこの高校へ辿り着いたカズトとユウナは一旦人気のない場所へ向かうと、自身のデジヴァイスをドルモンとリュウダモンへ翳す。

 

「そろそろ学校だ。ドルモン、大人しくして入れくれ」

 

『ああ、ユウナの手助け借りないように学業励めよ』

 

「リュウダモン、窮屈な思いさせるけど我慢してね」

 

『うん、お昼までバイバイだよ』

 

それぞれの会話を終えると二人のデジヴァイスから光が灯り、ドルモン達の姿はその中へと吸い込まれた。

いくらデジモンの存在が認知されつつあるといっても彼らは別の世界の生き物、学校へ堂々と連れて行けばどう言われるか分からない。

相棒の二体をデジヴァイスの中にしまったカズトとユウナは通学に使ったバイクを指定の駐輪所まで納めた後、校舎へと入って教室へと向かった。

 

教室に辿り着いてはいると、そこには既に自分の担任教師であるスーツ姿の一人の男性が立っていた。

肩まで伸ばした銀色の長い髪を一纏めにし、氷のように冷たく鋭い視線が入ってきた二人を射抜く。

ビクリ、と肩を震わせたカズトとユウナはその担任の先生の名前を口にした。

 

「「お、おはようございますキヨカ先生」」

 

「ああ、おはよう」

 

銀髪の男性……『東森(とうもり)キヨカ』はカズトとユウナを一瞥すると、挨拶の言葉を口にする。

一見冷酷無慈悲を地で行くような雰囲気を醸し出す彼だが、キヨカは二人の方へ顔を向けると

 

「おい、藤原」

 

「は、はい!」

 

「お前、今日は飛鳥に起こされただろ」

 

「何故それを」

 

「昨日、飛鳥には朝早くから学校の手伝いを頼んでいたんだが、今朝連絡が入っていつもより遅く来ると言ってな」

 

そう言いながらキヨカは氷の冷たさで差すような鋭い視線をカズトへ見やった。

少し目を見開いたカズトは隣を見やると、ユウナがごめんと言いたげに手を合わせていた。

やれやれといった様子で再び戻すと、キヨカは話を続けた。

 

「藤原、お前も飛鳥と一緒に手伝いをしろ」

 

「まあ、いいですけど……ところで何をするんですか?」

 

「転校生の案内だ。この学び舎に新しい仲間がやってくる」

 

そう言いながらキヨカは手に持った資料を二人へ手渡す。

カズトとユウナは受け取ったそれを覗くと、そこには一人の女性生徒の写真が貼られていた。

活発そうな見た目と雰囲気の彼女の名前は、こう書かれていた。

 

 

――――小太刀ミミ、と。

 

 

 

~~~~

 

 

 

同じ頃、城南大学附属高校の校舎屋上。

そこには一人の男子生徒が携帯電話片手にパソコンを操作していた。

携帯電話越しに居る相手の言葉が男子生徒に届いた。

 

「じゃあコウシロウにいる高校にミミが転校するんだな」

 

「そうですね。こっちは海外からの転校生も寛容ですし、海外の留学生にも対応してますからね」

 

「そっちはジョウ先輩もいるからなぁ。昔みたいに会えないのはちょっと寂しいけど、夢の為だもんな」

 

「心配いらないですよ、タイチさん。僕たちはいつでも会えるじゃないですか。デジモンの皆とも」

 

携帯電話越しの相手に話している男子生徒は何かに対して懐かしそうに呟いた。

若干赤毛気味な茶色の髪を短く整えた生真面目さと幼さを印象を受ける彼……『氷川コウシロウ』はパソコンの画面に映し出された情報を目を通す。

それは、この世界にいるデジモンとのコミュニティであり、多くの人数がデジモンと共に暮らしているのが分かった。

 

「そうだ、タイチさん。最近仲良くなった海外の知り合いから連絡がありまして、近いうちに日本にやってきて会う約束をしてるんですよ」

 

「へぇ、コウタロウのか? どんな奴なんだ?」

 

「最近実はデジモンとパートナー関係を結んだそうで。その時に僕たちに会いたいって」

 

「俺達ってことは、ヤマトやソラ、タケルやヒカリにダイスケたちもってことか?」

 

「僕達のデジタルワールドの冒険が聞きたいんですって」

 

「へえ、オレ達の冒険か!」

 

彼の嬉しそうな声を聞いて、コウタロウはふと頭上を見上げて、想いを馳せた。

空は青く広がっており、日差しを遮る雲は少なく、若干暑さを覚える。

 

そう、あの日、初めて出会ったあの夏の日もこんな空だった。

コウタロウをはじめとした"選ばれし子供達"の冒険は、あの日始まったのであった。

 

 

選ばれし子供達の新たなる冒険が始まるのは近い。

それは、新たなる脅威と新たなる出会いを意味しているのであった。

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