デジモンバトルユニバース -Re:Tri Adventure-   作:地水

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第4話:強襲、森の悪魔

 成田空港、ターミナル内部。

広い世界からこの日本へやってくる、もしくは日本から世界へと旅立とうとする多くの人々が行き交うこの場所。

そこには担任のキヨカに連れられてやってきたカズトとユウナの姿があった。

キヨカ先生はいつもの仏頂面で、カズトはいたって普通の調子で待っているが、ユウナは難しい顔を浮かべていた。

 

「うぐぐ、き、緊張してきた……」

 

「大丈夫か、ユウナ?」

 

「だ、大丈夫……けど、今日が例の転校生さんやってくる日だよね」

 

ユウナが緊張している理由は今日この国へやってくる帰国子女・小太刀ミミの事であった。

久しぶりに日本へ帰ってくる転校生がどんな性格の子なのか気になるのだ。本来なら別段気にすることでもないのだが、それでも気にする生真面目な一面を見せるユウナを見ている様子にカズトは声をかけた。

 

「到着時間までまだ余裕あるし、少し休むか」

 

「ううん、ここで待つよカズト君。私が離れている間にやってきたらいけないし」

 

気遣うカズトに対して、ユウナは気丈に振りまく。

優しくて物事に真面目な絵に描いたような優等生ぶりの彼女にカズトはニヤリと笑う。

彼女の何気ない可愛さの一つに触れていると、そこへキヨカが釘を刺すように呟いた。

 

「藤原、誰かへ気をかけるのはいいが飛鳥だけなのは如何なものかと思うぞ」

 

「えっ、俺はそんなつもりはっ!?」

 

仏頂面で指摘してきた担任のキヨカが口にした言葉にカズトはしどろもどろになってしまう。

いじられて慌てているカズトの姿にユウナはくすりと笑った。

カズトとユウナの二人の様子を見てキヨカは一息つくような仕草をすると、二人にミミについての話した。

 

「知っての通り、小太刀ミミは次の日本行きの飛行機でやってくる。迎える準備は怠るな」

 

顔色を一つも変えずに言葉を発するキヨカに二人は萎縮した。

冷酷な印象を受けてしまう程に自分達の担任は生徒の間でも噂になっていた。

そんな彼も何故転校生のために出迎えをするのだろうか……二人は内心そう思っていた。

 

そんな彼ら三人の前にだが、ユウナが何かに気づく。

「あっ」と漏らした声に気づき、カズトはユウナの向いた方へ視線を向ける。

そこにいたのは先日会話したばかりのクラスメイトの姿があったからだ。

 

――氷川コウシロウ、その人であった。

カズトとユウナは互いに顔を見合わせると、何故彼がここにいるのかと思った。

もしかしたら知人である小太刀ミミに会いに来たのか……? そう思った二人は彼へと話しかけた。

 

「もしかして、氷川君?」

 

「なんでお前、ここにいるんだ?」

 

先日知り合った二人に話しかけられて振り向いたコウシロウは驚いた表情を浮かべる。

 

「あれ、藤原君に飛鳥さん? お二人も来ていたんですね」

 

「それはこっちの台詞だ。お前ひとりでミミのやってきたのか?」

 

まるで奇遇だなと言わんばかりに自然に訊ねてくるコウシロウに、カズトは呆れたようにジト目で見ながら聞き返した。

恐らく自分達と同じようにミミを出迎えに来たのは確かなんだろうけど、どうせなら一緒に来ればよかったのにとカズトは思った。

そんなカズトの隣に立つユウナはコウシロウが担いでいる大きめのリュックに気付き、それについて訊ねた。

 

「ねぇ氷川君、そのリュックって一体……」

 

「えっ!? これはその、あの……」

 

不自然に膨らんでいるその大きめなリュックをユウナに訊ねられてコウシロウはしどろもどろに慌てる素振りを見せた。

一体何が入っているのか、少し興味心を惹かれるユウナだがそれを訪ねようとしたところで、コウシロウへ見知らぬ男の声をかけてきた。

 

「コウシロウ君、待たせてすまない! 頼まれたキャラメルマキアートが意外と人気で、それで込んでしまって……おや?」

 

コウシロウの名前を呼んでやってきたのは、一人の若い男子。

見たところカズトやユウナ達1年より少し年上に思える成熟した容姿にかけている眼鏡が知的な印象を受ける。その両手には近くのカフェで買ってきたであろう珈琲の紙カップを持っていた。

きっちりとした几帳面な口調で話す彼の登場を見て、一番に反応したのは後ろに控えていたキヨカだった。

 

「お前は確か、三年の辰巳ジョウか」

 

「ええっ、き、キヨカ先生!?」

 

まさか学内でも噂されている先生であるキヨカがここにいる姿を見て男子生徒――『辰巳ジョウ』は驚きの声を上げる。

担任が口にした"三年"という言葉が示す通り、ジョウは自分達の先輩に当たるとカズトとユウナは察することができた。

コウシロウの知人なのか親しく話しかけていたジョウは、自分の手に持っていた珈琲をコウシロウに託すと、キヨカへ向かって弁解の言葉を述べていた。

 

「あの、キヨカ先生! 僕は友人でもある小太刀ミミ君を出迎えるためにココに来ているのであってですね、決して学生に必要な勉学を怠っているわけでは……」

 

「それは知っている。それと、誰が辰巳の勤勉さを疑うんだ?」

 

「は、はいすいません!」

 

キヨカのまるで威圧気味な表情と雰囲気にジョウは思わす頭を下げた。

叱られているはずもないのに何故か謝っている自分達の先輩にカズトとユウナ、そしてコウシロウは微妙な苦笑を浮かべていた。

 

少ししてジョウが落ち着きを取り戻すと、コウシロウの伝手で紹介することになった。

先程のぺこぺこと頭を下げていた時と違って、しっかりとした落ち着きのある様子で自己紹介をし始めた。

 

「僕は辰巳ジョウ。城南大学付属高校三年生、まあ君達の2個上の先輩だ。よろしく」

 

「俺は藤原カズト。氷川と同じクラスの一年です」

 

「私は飛鳥ユウナ。クラスメイトです」

 

挨拶を交わす後輩にあたる二人にジョウは少し驚いたような意表をつかれた様子を見せた。

まさか自分の知人にこんな友達がいるとは思ってもみなかったのだ。

友人の一人や二人くらいコウシロウもいるはずだけど、目の前にしてみるとジョウ自身も驚いているのだ。

しかし、先生に連れられてまでここにいる彼らの事が気になったジョウは訊ねた。

 

「君達もミミ君……ああいや、小太刀ミミ君の出迎えに来たのかい?」

 

「はい、そうです。今度私達のクラスに編入してくるんです」

 

「君達のクラスにかい? ああそっか、コウシロウ君とクラスメイトだもんね」

 

自分が口にした疑問をユウナが答えてくれて、そこでジョウはカズト達彼ら二人がコウシロウのクラスメイトとすぐ思い出す。

つまるところジョウ達と同じようにカズト達も日本へとやってくる……いや、日本へと帰ってくる彼女を出迎えに来たのだ。

どんな因果でここまで来たのかはジョウ自身は分からないが、知人であり仲間であるミミが日本にやってくることをここまで迎えられる事にとても嬉しく思う。

そう思ったジョウは不思議と無意識で言葉を漏らした。

 

「ありがとう、カズト君にユウナ君」

 

「「……?」」

 

「きっと君達も彼女に喜ぶと思うよ。僕と、コウシロウ君が言うんだからさ」

 

まるで感謝をするようにジョウは二人へ向けて微笑む。

その意図は何となくだがカズト達は理解し、ジョウに対して二人は笑顔で返した。

まだ見ぬ学友だが、彼らの思う通りに素敵な人物なんだろうなとカズトとユウナは感じた。

そんな彼らが自分の仲間であり友でもあるジョウと打ち解けつつある姿にコウシロウは安堵の表情を見せた。

 

 

――――そんな中、キヨカは目の前に繰り広げられている青春を静かに眺めた後、ふと空港の窓に映る景色へ視線を向ける。

外は雲一つない晴天晴れ、飛行機によっては絶好……だがそんな不穏な影が遠くに見えたような気がした。

それが何を意味するのかは唯一目撃したキヨカ自身にとっては分からなかったが、不思議がる表情を浮かべる様子もなく、視線を学生達へ戻したのであった。

 

 

~~~~

 

 

雲海の上を飛ぶとある飛行機。

日本へと向かうその旅客機、その内部にて日本へ着くことに人一倍楽しみにしている人物の姿があった。

派手な色合いのシャツの上から女性物のジャケットを羽織り、ミニスカートという現代の若者らしい服装をした少女が客席の一つに座っていた。

高校生くらいの年齢に見える彼女――小太刀ミミは嬉しさを隠し切れないでいた。

 

「もうすぐ日本かぁ。楽しみだわぁ」

 

ミミは今か今かと日本につく様子を待っていた。

日本には自分の帰りを待つ仲間たちがいる……それを思うだけで心が弾むのだ。

そんな彼女を見守る存在がこっそりと声をかけた。

 

『ミミ、もうすぐね』

 

彼女の傍らにいる草木を思わせる緑を主体とした体色と一輪の花を咲かせた頭部をもつデジモン『パルモン』。

ミミがパルモンと出会ってからもう数年来の付き合いになる。ミミが両親の都合で日本から離れて海外へと行かなくてはならなくなった時でも共にやってきたかけがえのない相棒だ。

少し大きめのバックに隠れて入っているパルモンはミミに対して嬉しそうな笑みを向けて訊ねた。

 

『ねぇ、ミミ。日本に戻ったらどうする?』

 

「んー、そうねぇ。久しぶりに日本のラーメン久しぶりに食べてみたいって思っていたところなのよね」

 

『いいわねぇ! あとでダイスケ達に連絡して一番はやりのところを聞いてみましょうよ!』

 

「じゃあ空港に着いたら連絡しましょう!」

 

久しぶりの日本食は何がいいかと話題に盛り上がるミミとパルモン。

今は日本近海の上空、懐かしい故郷まですぐ目の前だ。日本到着までちょうど一時間、着くのはもうすぐであった。

 

だが、みんなの期待を裏切るように、突如飛行機の機体内部が揺れる。

 

予想外の揺れに乗客から悲鳴が上がり、内部は一瞬にして騒然となる。

その場にいたミミは何事かと思うと、突如自分の耳に嫌な虫の羽ばたく音が聞こえてきた。

それも普通の虫が起こす小さなものではなく大きな羽音だ。

謎の羽音に気づいたミミは急いで隣にある覗き窓へ近づき、外の様子を伺った。

そして大空に飛ぶ存在を見て、驚きの声を上げた。

 

「あれってデジモン!?」

 

――そこにいたのは、自分の背丈より大きな巨躯を誇る、昆虫型のデジモンだった。

赤い骨格に覆われ、背中の翅を羽ばたかせて飛行機の傍を飛んでいる、クワガタムシのような鋭い大顎を持ったデジモン。

かつての冒険で出会ったことのあるミミはそのデジモンの名前を口にした。

 

「クワガーモン!? なんでこんなところにいるのよ!?」

 

クワガーモン。

成熟期デジモンの一体であり、その強固な防御力と頭部の鋏による鋭い攻撃力を誇る【森の悪魔】。

自分にとって印象深いのは、かつての異世界での冒険ではじめて遭遇した強敵。

あの時はパルモンを含めた冒険の仲間たちのデジモンたちによって撃退できたが、今回は状況が違う。

飛行機が襲われている中、自分をはじめとした乗客達がいるところで無暗に行動を移すことができない。

……もしも今ここで自分が戦う事を選択して、無茶な行動をすれば誰かを危険にさらすことになりかねない。

そう思ってしまったミミは自分の何もできない状況に不満ともどかしさを覚えた。

 

「こういう時どうすればいいの……」

 

『ミミ、落ち着いて。今は地上につけば私も戦えるわ』

 

「うん、でもそれまでにこの飛行機を落とされたら……そうなる前に、何か連絡を!」

 

パルモンに諭されながらミミは状況を考え、自分が今できることを見つけ出そうとしていた。

そして思いついて手にしたのは、自分自身のデジヴァイス。

現代の人間の技術では解析不可能なデータ技術を有するデジヴァイスなら、今の状況を日本にいる皆へなんとか伝えられるのではないか。

そう思ったミミはデジヴァイスの通信機能を起動し、繋がったと同時に日本の仲間たちへ叫んだ。

 

 

「コウシロウ君、先輩、助けて! 上空で謎のデジモンに襲われているの!」

 

 

~~~~

 

 

その一方、成田空港のロビー。

ミミが乗る飛行機を待っていたカズトとユウナの二人の耳に飛び込んできたのは、慌てる様子のコウシロウとジョウの声だった。

振り向いて見ると、彼らは何らかの機械のようなものを見て驚いた。

 

「なんだって!? ミミさんの乗っている飛行機が!?」

 

「コウシロウ君、これ、やばくないかい? もしもクワガーモンがミミ君の乗っている飛行機に何らかの被害を出したら……」

 

どうやら飛行機に乗っているミミが何らかのトラブルに巻き込まれた様子。

しかもクワガーモンという名前を聞いて、デジモンが襲っている模様。

コウシロウは手持ちのパソコンを立ち上げると、何らかのデータを素早く打ち込み、そして答えを導き出す。

 

「……ミミさんの現在通信しているデジヴァイスの場所から位置を推測すると、すぐそこまで迫っています。テントモンが進化すれば追いつけるはず!」

 

「それならば、僕とゴマモンも助けるよ! ミミ君のピンチに放っておくわけにはいかない!」

 

ジョウの言葉を聞いて大き目のリュックから飛び出してきたのは二体のデジモン。

一体は赤い昆虫のようなデジモン――テントモン。

そしてもう一体は白い毛におおわれたゴマアザラシのような見た目のデジモン。

白い毛のデジモン――『ゴマモン』は相棒のジョウへ向かって元気な声で訊ねる。

 

『オイラ達の出番なのかい、ジョウ!』

 

「力を貸してくれゴマモン!」

 

『おうともよ! 任せておいて!』

 

ジョウの頼みを聞いてゴマモンは快く了承する。

その傍らではテントモンがコウシロウに確認をとる。

 

『話はリュックの中で聞いてましたわ。早速行きますさかい』

 

「ありがとう、テントモン!」

 

テントモンの言葉を聞いて感謝するコウシロウ。

そして二人と二体はまるで数年来の仲のように短い言葉でやりとりすると、急いで空港の外へと向かう。

デジモンを連れていた二人に驚きつつも、ユウナはカズトに問いかけた。

 

「ねぇ、カズト君、今の話……」

 

「もし二人の話が本当なら、小太刀さんを含めた乗客が危ない目に遭っている」

 

「じゃあ、私達も助けに行かないと!」

 

ユウナの口にした提案にカズトはうなずくと、急いでコウシロウとジョウの後を追っていった。

まだ見ぬ友達を助けるために、これから起こるであろう多くの被害を防ぐために。

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