この世は理不尽で溢れている。だから、私がこんな目に遭うのは、決して異常な事では無いのだろう。目の前の惨状を見ながら私はそう考えていた。
◇◆◇◆◇
私は10歳の頃、親に売られた。10歳までは私が家事などを全てしたり、金を稼いできたりしていたので家に置いてくれたが、私が売れる年齢になった瞬間、私は実の親に縛られ、呆気なく売られた。私は家事も全部できたし、お金を自分で稼げていたし、顔も綺麗で性格も明るかった為、商品価値は高かったそうだ。私が高く売れた後の喜びの声が、私が聞いた両親の最後の声だった。
売られた後、私を買った御主人様の元に行った。御主人様は機嫌が変わりやすい人で、私と同じ立場の子達が何人も殴り殺されていた。
御主人様に仕える為にいろんな事を教えてもらって、私達は御主人様に御奉仕する事になった。私は他の子よりも成長が早く物覚えも良かったから気に入られ、最も御主人様に御奉仕する時間が長かった。そのせいで寝る時間も自由時間も他の子よりも少ないのに、部屋やご飯が他の子よりも豪華だったせいで自由時間は仲間達からいじめられた。
それでも、6年もの間私は耐え続けた。私は人より五感が優れており、音や匂いから感情が分かったし、目も良く、人や物の気配にも敏感だった。それのお陰でいじめでも酷いケガはしなかったし、御主人様のご機嫌を損ねる事もなかった。幸せとは言えないが、上手く生活出来ていたのだ。
―――御主人様の屋敷を、化け物が襲うまでは。
◆◇◆◇◆
一人、また一人と人の気配が減っていく。血の匂いが鼻いっぱいに広がる。人の恐怖の音が聞こえては消える。目の前には、無惨に転がっている仲間や御主人様の死体。部屋は暗いのに、私の目にはこの惨状がはっきりと見える。
「ほぉ~、これは美味そうだ。お前を殺すのは最後にしよう、稀血。」
数刻前、あの化け物がこの部屋を出る際に言った言葉。マレチとは何かは分からないが、あの化け物は自分を最後に殺すらしい。痛いのだろうか、苦しいのだろうか。仲間達の最後の苦痛の音と匂い、そして死体の苦悶の表情からして、答えは明らかだ。
『カツ、カツ、カツ』
あの化け物の足音だ。私を除く屋敷の人間を全員殺し尽くしたらしい。
「待たせたな、稀血。」
返り血を体中に付けた化け物が、部屋に入って来た。
「あの~、化け物さん?」
勇気を出して化け物に声をかける。
「この状況で鬼であるこの俺に声をかけるとは、中々胆力があるな。なんだ?」
どうやらこの化け物は話に聞く鬼というものらしい。想像よりも人間っぽい。
「私は、どこが美味しそうなんですか?」
「ははは、面白い事を言う女だ。答えは血だよ。お前の血からは美味そうな匂いがするんだ。お前は稀血という珍しい血を持った人間なんだ。俺等鬼は稀血が大好きなんだよ。上手いし、普通の人間何十人分食ったのと同じ力が手に入る。」
「なら、私の血を飲んで満足できたら、私を殺さずに助けてくれますか?」
「……そうだな。俺は今気分が良い。もしお前が死なねえ程度の血で満足できたなら、殺さずに助けてやろう。」
私の血、稀血というものは、人何十人分の栄養があるらしい。なら、助かるかもしれない。
私は、近くにあった割れた皿の破片を使って、かなり深めに腕を切った。
「いっ!―――どうぞ、飲んでください。」
「ああ。」
鬼が私の腕から出る血を飲む。
『ゴク ゴク ゴク』
私の血が鬼の喉を通る音が聞こえる。腕の痛みのせいでこの異常な状況でも、変に落ち着いている。いつもなら嫌悪が態度に出てしまっていただろう。
「……おお!!美味い、美味いぞ!!前に食った稀血とは桁違いだ!!力が溢れてくる!!」
鬼が興奮している。どうやら、私は稀血の中でも一級品らしい。
「……まだですか?」
「まだだ!!こんな美味いもん飲んだ事ねえんだ!!もっと飲ませろ!!」
興奮するあまり、口調が乱暴になっている鬼。気のせいか、どんどん身体が赤黒く染まっているような……
「凄え!これを飲み続ければ、俺は最強だ!!十二鬼月なんて目じゃねえぞ!!はははははは!!」
私の事など眼中にないかのように、無我夢中で私の血を啜る鬼。まるで私を売った時の両親のように、心底嬉しそうに笑っていた。
―――だが、終わりは唐突に訪れた。
「ははははは、は、は?な、何だ?か、身体が、重い?ぐっ!!ぐ、ぐるぢい!!あ、あづい!!のどがやげる!!がらだがやげる!!ああああああー!!」
鬼は急に苦しみだし、一瞬で身体が崩れて死んだ。
私は何が何だか分からなかったが、死の危険がなくなった事で緊張の糸が切れ、その場にへたり込んだ。
◇◆◇◆◇
それからしばらく私はその場から動けずにいた。精神的な疲労からか、それとも恐怖が抜けきってないのか、はたまた別の理由か、身体がピクリとも動かなかった。
いったいどれほどの時間が経っただろう。不意に、私がいる館に気配を感じた。―――その気配はさっきの鬼のものとよく似ていた。匂いも、音も、アレに似ている。いや、気配も匂いも音も、先程の鬼の何倍も濃い。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
空気が重い。立っているだけで潰されそうだ。気配が近づいてくる。今、私がいる部屋の扉の前に立って―――
『ガチャ』
最初に目に入ったのは、肌。青白い、本当に青白い肌だった。そして肌の色によって強調されている赤い瞳が、私をじっと見ている。何故か、見惚れてしまった。
「お前が、アレを殺した稀血だな?」
「は、はい…。」
機嫌を損なえば殺される。機嫌が良くても生かされる保証はどこにもないが、悪くなれば確実に殺される。直感でそう悟った。
「なるほど、確かに通常の稀血とは違うらしい。―――血を寄越せ。」
「はい。どうぞお飲みください。」
さっと先程から血の止まらない腕を差し出す。というか、血ずっと出たままだったのか。道理でさっきから立ちくらみがすると思った。普通なら倒れてしまう程の出血量だ。だが、今ここで倒れたら、確実に目の前の鬼の機嫌を損なってしまう。ここはじっと耐えるしかない。
「ふむ。」
鬼はさも私の態度は当然と言うかのように私を見て、血を啜り始めた。
「これは…!」
血を飲んだその鬼は目を見開き、そして
「――鳴女。」
そう呟いた。
その瞬間、『ベん』と琵琶の音がしたかと思うと、私は襖があちこちに浮いている、不思議な空間に立っていた。
余りにも現実離れした出来事の連続に、これは夢ではないかと思いながら、私は意識を手放した。
――オリ主紹介
身長170cmスタイル抜群の16歳。身体能力は平均よりやや上程度だが、炭治郎と同じレベルの鼻、善逸と同じレベルの耳、伊之助と同じレベルの感覚と柔軟性、カナヲと同じレベルの目を持っている。鬼食い能力はなし。特殊な稀血である(効果は後に説明)。少し人とズレた感性を持ち本来は明るい性格であるが、置かれている環境が原因で塞ぎ込んでいる。恋愛経験はもちろん無し。御主人様に狙われていたが、手を出される前に鬼が来た(グッジョブ)。