世界樹の姫がダンジョンにいるのは間違いだろうか 作:ポテトサラダ
「おお……ここが、オラリオ!」
私の眼前に広がる巨大な門と、そこに入るために列を成す商人や、私のように目を希望に輝かせて喜び勇んで進んでいく少年少女達。彼らは皆、この迷宮都市オラリオに入り、夢を掴むためにここにいるのだ。
「ようアンタ、名前は?」
オラリオに入るため列に並んでいると、私と同じぐらいの年齢の少年少女達が声をかけてきた。見たところ、その貧相な見た目からして辺境の村から上って来たのだろう。
国が国ならば、この子供たちはすぐにでも死刑だっただろうが、ここはオラリオ。強さこそが正義。いずれ英雄になる可能性がある人たちを邪険には出来ない。
「私はアグニカ帝国第四皇女、エミーリア・ヴァイス・アグニカ。尊い我が身に話しかけるのは私の国では重罪だが、君たちの勇気に免じて赦そう」
「おう、よろしくなエミーリア!俺はカイルってんだ」
リーダー格の少年と思わしき人物が何の躊躇いもなく握手を求めてくる。私はその手を取り、カイルの目を見る。真っ直ぐで、無邪気な目だ。きっとこういう人間がやがて英雄と呼ばれるようになるのだろう。
「出会ってすぐでナンだが……エミーリア、俺たちのパーティに入らないか?」
「パーティか………君のファミリアは?」
「いや、まだ入ってない。けど俺たちは【ロキ・ファミリア】に入ろうと思ってる」
「そうですか……であればファミリアは共に出来ないだろうな。私は【ヘスティア・ファミリア】に入るつもりなのだから」
詳しい理由は無い。ただぼんやりと、そうするべきだと魂が囁くからだ。この囁きに従えば私は破滅の運命から逃れられる。故に【ヘスティア・ファミリア】を選ぶのだが────どうやら、カイルという少年は気に食わないらしい。
「【ロキ・ファミリア】といえば大陸中に名を響かせる大英雄のファミリアじゃないか、なぜヘスティアなどという無名を選ぶんだ?」
「そうすべきだ、と思ったからだ。君には関係ないだろう?だがパーティの話は受けてもいい。ダンジョンは大人数で慎重に行かねばならないからな」
魂が囁く。迷宮は残酷であると。モンスターは容赦ないと。油断をすればすぐに全滅するのだと。魂の底にこびりついた叡智がそう告げるのだ。
その後、無事にオラリオに入ることの出来た私たちは別れ、私は神ヘスティアを探しに、カイル達一行は【ロキ・ファミリア】の拠点に行った。
神ヘスティアを探す途中で街を歩いていると、何組かの若い冒険者達にパーティの打診が入った。
「どうかこの私と─────」
「お前、俺の仲間になれ!」
「うるせェ!行こう!」
下らない雑音だと無視していると、屋台が立ち並ぶ道の真ん中で私よりも若い男の冒険者が掴みかかってきた。どうやら、私がパーティに入らなかった事に激怒しているらしい。
「このクソアマ……!見た目が好みだからレベル2のこのボクが誘ってやったのに!舐めた事を言いやがって!」
「だから言っているだろう?すでにパーティを組む先約があるのだ。それに私とて貴様のような下賎な男と行動を共にしたくない」
「ブッ殺すぞ!」
これ以上の口論は不毛だと思い、男の首を斬り落とそうと剣に手をかけた時、私と男は何者かによって引き剥がされた。
少し下の方を見ると、麗しい黒髪を湛え、山のような双丘を揺らす小さな少女が立っていた。そうか、この方が神ヘスティアだ。
「やめないか君たち!それに冒険者くん、君も女の子ひとり相手にムキになるなんてダメじゃないか!」
「あぁ?テメェ……いや、そのイかれたファッション。神様か……くそっ!」
「逃げるのか、賢い選択をしたな冒険者」
「っせーな!次会ったらブッ殺すからな!」
負け犬の遠吠えを心地よく聴きながら神ヘスティアに向き直り、その御前に跪く。あのダメ冒険者と口論した事で神ヘスティアに見える事が出来たのだ、今度会ったら皇族の技でも見せてやるとしよう。
「ちょ、どうしたんだい?そこまでの事はしてないよ!」
「神ヘスティア。どうか私を貴女のファミリアに加入させて欲しい!貴女ほどの神徳がお有りの神であれば、きっと多くの団員を抱えているのだろう。しかしこのエミーリア・ヴァイス・アグニカの名において────」
「ちょちょちょ!待っておくれよ!本当に言ってるのかい!?だってボクはいま……その、ヘファイストスのとこに居候してるし……多分、キミが望むようなコトは出来ないんじゃないかな……」
「えっ」
おかしい。そんな筈はない。私の記憶は、私の魂は神ヘスティアのファミリアにさえ入れば破滅を免れ、白い光の英雄と共に輝かしい道を歩める筈だ。
慈愛と名声に満ちた神ヘスティアが、鍛治神ヘファイストスに居候?そんな話、聞いた覚えがない。
「ファミリアを探しているのなら、ボクの所は少しだけ待っていて欲しいんだ。絶対、絶対必ずホームを手に入れて、キミを正式に迎え入れてみせるからね!」
「わ、分かりました……それまで、別のファミリアに入っていようと思うのですが、どこが良いでしょうか?」
「そうだね……アストレアのとこなんて良いんじゃないか?キミが正義を志すなら、だけどね」
◆
「え〜、この子が今日から私達の仲間になるエミーリア・ヴァイス・アグニカだ。みんな、仲良くしてあげて欲しい」
結局私は【アストレア・ファミリア】に入団する事にした。正義の女神アストレアを主神とするこのファミリアでは、正義を追い求める事が重要なのだと聞く。何故だか魂がここを離れたがるように騒つくが、特段なにも不味いことはないだろう。
「さて、早速だけどエミーリア。君にとって正義とは何か?聞かせてくれるかな」
「正義────ですか。無論、勝利だ。如何なる歴史においても、凡ゆる事例においても、勝利者こそが正義であり、敗者は悪だ。違うか?」
少なくとも、私がアグニカにいた頃はそのように教わり、そう生きてきた。熾烈な序列争いによって私の母は何人もの兄妹を始末してきた。それに、私は生まれながらの勝利者でもあった。
ステイタスが無くとも発動できる『奇蹟』。そして純然たる生物としての格の違い。それらを以て、私は生存を勝ち取ったのだ。
「ふぅん──────なら、これはどうかな?」
団長であるローヴェルの動きがブレる。次の瞬間、私は
「ッ!?堅い────!」
「へぇ、やるね!まだステイタスも刻まれてないってのに!」
再びローヴェルの動きがブレ、
「かはッ……!」
「今の結構本気だったんだけどな……」
内臓が幾つか損傷している。目の前がチカチカする。骨も何本か折れて、立つこともままならない。だが、私は負けない。皇族とは、負けてはならない生き物である。
「うっそ、まだ立てるの!?」
「オイ新人、もう諦めろって!」
「や、やめましょうよ、これ以上は死んでしまいます!団長!」
「………うーん、分かったよ。エミーリア、君のガッツに免じて、その歪んでしまった正義が正しくある事を認めよう。さ、みんな、エミーリアを治療して!」
【アストレア・ファミリア】の魔法使いらしき女が私に手を向け何かを呟いたかと思えば、私の身体から傷や痛みがどんどんと減っていく。回復魔法、それも全癒魔法とは。アグニカにもこれ程の使い手は居なかった。
その後、傷の癒えた私は女神アストレアに見え、ステイタスを刻んで貰った。アストレア様は私が持つ天賦の才を褒めていたが、それと同時にどこか悲しい目をしていた。
「エミーリア、貴女には『
「……読まずとも、解ります。それは私の持つ生まれながらの『奇蹟』。己の死という結果を無かった事にする破格の奇蹟。誰が私にこんなものを与えたのかは、まだ分かりませんが……きっと、善意なのでしょう」
「そうね。『戦姫廻生』には何度も使いこなされた跡がある。きっと、辛い思いをしてきたのでしょう。でも、安心しなさい。ここには仲間がいるわ」
「仲間……ですか。そうですね。私より強い人間など初めて見ました。『戦姫廻生』の能力で、私自身の能力も底上げされているのもありますが、技量においても優られるとは」
「貴女達の戦いを見ていたけれど、恩恵無しであそこまでやれるなんて凄いわ。きっと貴女ならすぐにアリーゼに追いつける。頑張りなさいな」
アストレア様からの激励を貰い、私は仲間達の元へ戻る。魂の叫びを無視しながら。今すぐに逃げろという、魂の叫びを。
今までずっと私を助けてくれていた魂の声を聞かず、皆を信じてしまったから。故に私は────全てを、失う事になったのだ。
エミーリア・ヴァイス・アグニカ
《基本アビリティ》
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《発展アビリティ》
《魔法》
《スキル》
【戦姫廻生】・記█の██。
・死███避。
・██率██。