世界樹の姫がダンジョンにいるのは間違いだろうか   作:ポテトサラダ

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初めての冒険

 

大勢の冒険者達が闊歩する道を【アストレア・ファミリア】のメンバー達と共に歩く。団長のアリーゼは私達が正義のファミリアなのだと来る途中に言っていたが、そうとは思えないほど殺気を浴びせられている。

 

「エミーリア、どうしたの?」

 

「えっと……?」

 

「セルティ。セルティ・スロア。魔導士(メイジ)で、雷の魔法が得意なんだ」

 

ファミリアに入団して一日二日の私は、元々の気質もあってか人名をあまり覚えていない。確かに、セルティの名前は入団時に聞いたはずだったが、ダンジョン攻略の為に夜なべして準備を整えた為忘れてしまっていたようだ。

 

「よろしく頼む、セルティ。さっきの話だが、私達を見る視線が妙に殺気立っていてな。気がかりだっただけだ」

 

「あー……それはしょうがないかな」

 

たはは、と笑いながらセルティは経緯を説明する。どうやら、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の壊滅により発生した秩序の崩壊が尾を引き、オラリオは現在『暗黒期』と呼ばれる時期にあるようだ。

 

それ故に、正義たる【アストレア・ファミリア】は多くの闇派閥(イヴィルス)から蛇蝎の如く忌み嫌われている。要するに、私達は喧しい邪魔者という事だ。

 

「どう?分かったかな」

 

「………著しく面倒だというのが分かった。願わくば私のダンジョン攻略にイレギュラーを持ち込まないで欲しいものだな」

 

バベルという名前の巨塔の地下にダンジョンはある。その殆どが上級冒険者で構成された【アストレア・ファミリア】ならば上層と呼ばれる階層は一気に駆け抜けていくらしいが、今回はダンジョン初心者である私を考慮してゆっくり行くそうだ。

 

「エミーリア、前方にゴブリンよ。楽な相手とはいえ、油断は禁物!」

 

「私に指図するな!」

 

敵は一体。小さな子供ほどの大きさしかないゴブリンだ。だが、もしかしたら伏兵が潜んでいるかもしれない。念の為、余力を残しつつ戦うとしよう。

 

『グルル……」

 

「………っ!せぇあっ!」

 

睨み合いに耐えられなくなったゴブリンが僅かな隙を見せる。その瞬間に大きく踏み込み、首を斬り落とす。戦いにおいて、敵を仕留めた瞬間こそ最大の隙となる。

 

「エミーリア、後ろ!」

 

「読んでいたぞ!獣風情が!」

 

アグニカ帝国騎士団長仕込みの剣術をもって背後に発生した敵を一刀の下に斬り伏せる。大きな犬らしきモンスターが妙な色の石を落として塵になる。

 

「お疲れ様、初めてのモンスター討伐はどうだった?」

 

「まだ……終わっていないかもしれないぞ、警戒を怠るな!」

 

治癒師のマリューが油断し切った声と表情で近づいてくるが、いつ毒を持ったモンスターが現れるか分からないのだ、毒を受ければ人間は死ぬ。最新の注意を図らねばならない。

 

「警戒するのも良いけどさ、早く下に行こうぜ?アリーゼの動きにあそこまで着いて来れたんだ、オマエなら中層にも行けるだろ」

 

「ライラ、だったか?小人族(パルゥム)、貴様この手のダンジョンを舐めているらしいな。実力が如何にあろうとも、結局は一撃で死ぬかもしれないんだ」

 

「アタシが?ナイナイ、レベル3冒険者がたったの一撃で死ぬものかよ。肩の力抜けよ、アタシ達は全員がレベル2以上、アリーゼに関してはレベル3、それもトップクラスだ。よっぽど事がねえ限り負けねえよ」

 

「戯言を……!」

 

もはや話にならない。ここは敵の巣窟だというのに、何故こんなにのんびりして居られるのか理解出来ない。セーフルームでも無いというのに寛げる精神が分からない。

 

「ライラ、エミーリアの言う通りです。ここはダンジョン、少したりとも気を抜いてはいけません」

 

「ほう……」

 

話の分かる者が居たようだ。緑色の外套を羽織ったエルフの、確か名前はリュー・リオンだったはずだ。レベル3冒険者で、強大な魔法を有していると聞く。

 

「エミーリア。貴女は正しい。いつ敵対派閥に襲撃されるか分からないのですから警戒するのは正しい行動です。そうですね?」

 

「ああ、タダでさえ厄介なのに油断までしているなど、敵にとっては格好の的だ」

 

リオンと目が合う。どうやらリオンとは気が合いそうだ。同じ慎重を是とする者であれば安心して背中を預ける事ができるというものだ。私はリオンに微笑みかけ、先へと進む。

 

「敵前方複数匹。エミーリア、一人でやれる?」

 

「ふざけるな、せめてツーマンセルを組め。と言いたいところだが、受けて立とう。リオン、バックアップ頼めるか?」

 

「私がですか?わかりました」

 

現れたモンスターはパープルモスの小さな群れだった。毒の鱗粉を持ち、何名もの冒険者を葬ってきた危険モンスターだ。鱗粉を出させる前に、速攻で決める。

 

「アグニカ闘殺法!奥義、【地衝斬】っ!」

 

ダンジョンの地面を削りながら火花を散らしつつ大きく斬り上げる。パープルモスの一体を切り裂いた後、火花が鱗粉に引火し広範囲に大規模な炎が鱗粉を媒介として燃え広がる。

 

「殲滅完了────。アグニカの剣技、とくと見よ!」

 

「倒してから言うんだね、それ」

 

「しっかし驚いた!魔法でしょ、それ」

 

アマゾネスであり武闘家のイスカが我がアグニカ秘伝の技を魔法呼ばわりしてきたことは不愉快だが、所詮は魔法使いの少ない人種だ、魔法という事にしておくとする。

実際は、剛力で火花を発生させて刀身を熱し、その熱で赤熱した斬撃を喰らわせる技なのだが、今回は炎が拡散したのでこのような結果になっただけであり、断じて魔法などではない。

 

「………魔法、のようなものだ。鍛錬すれば誰でも出来る」

 

「うーんと、魔法はどちらかと言えば素養の方の要素が強くて……」

 

セルティが何やら言ってくるが、気にせずに警戒しつつ探索を続ける。ダンジョンは恐ろしく、先に進む毎に私の本能というべきモノがピリピリと疼き、警告を発するのが分かる。

 

「あれ、おかしい。アリーゼ、この階層……こんなにモンスター少ないはず」

 

「確かに。みんな、警戒して!異常事態(イレギュラー)よ、もしかしたら闇派閥の襲撃かもしれない。いえ、絶対そうよ!」

 

狼人(ウェアウルフ)のネーゼが警告する。確かに、モンスターの数が少ない。私はこれまで15階層ほど降ってきたが、そこはどこもモンスターの巣窟とでも言うような場所であり、到底静かな場所ではなかった。

 

「静かだ──────」

 

誰かがそう呟いた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()。咄嗟に回避すると、案の定手斧が飛んできたので、それを掴み飛んできた方向へ投げ飛ばす。

 

「ぐあっ」

 

「敵一人にダメージ。追撃をする、カバー頼んだぞ!」

 

「初めてのダンジョンにしては判断早くない!?」

 

後ろから【アストレア・ファミリア】の仲間達が追いかけてくるが、気が抜けすぎている。恐らくはレベル1である私が攻撃を防ぎ、あまつさえ反撃までした事で油断しているのだろう。

 

「ば、馬鹿な……この俺の、『気配遮断B』をもってしても、気づかれるだと……ぐほぉっ!」

 

「この目は闇をよく見通す。そういうことだ」

 

「まさか貴様────!フッ、なら仕方ない……」

 

何がそういう事なのかも、仕方ないのかも分からないが何もできないように襲ってきた冒険者の四肢を叩き折り感覚を研ぎ澄ませる。

 

「い、いてぇじゃねぇか……流石は『漆黒の翼』サマだもがっ!」

 

「……………………誰?」

 

これ以上根も葉もないことを喚き散らされては面倒なので余裕そうな冒険者の顔面を殴打し前歯が無くなるまで殴りつける。後からアリーゼ達が倒したらしい冒険者達を担いで駆けつけてくる。

 

「エミーリア、何してるの……?」

 

「敵を排除中だ。これからバラバラにして撒く。モンスターどもに食わせてやれば証拠も残らんだろう?それより残敵はどうした」

 

「やってる事まんま闇派閥じゃんよ……コイツらはこのまま捕縛して連行。分かった?」

 

「了承した。納得はしない」

 

「一言多いんだよお前……」

 

この場所はあとで覚えておくとしよう。影になっていて見え辛い上に、上級冒険者であるアリーゼ達も気付けなかった程に高い技量を持っていたからかもしれないが奇襲する事に成功した冒険者がいたのだ。

ここを使えば入れ食いだろう。

 

「─────引渡し、感謝します」

 

地上に戻った私たちはギルド職員に闇派閥の冒険者達を引渡し、ファミリアの拠点である『星屑の庭』に戻る。帰るなり「早速」とアストレア様の元へ連れて行かれ、私はステイタスを更新した。そこそこしか伸びていない。

思う所は無い。元より恩恵なしの人間の中では上位存在だったのだ。気軽にポンポン上がる方が問題というものだろう。

 

「そう気を落とさないで。トータル100の成長は凄いのよ」

 

アストレア様はそう仰ってくれたが、私の身体感覚に何ら変わりが無い以上、大した成長では無いのだろう。いずれ【ヘスティア・ファミリア】で栄光を得る為に私は強くならなくてはいけないというのに、歯がゆい思いだ。

 

「やはり、我慢ならんな。おいアリーゼ、私はダンジョンに潜る。仲間は適当に募る、貴様らと一緒だと妙なのに絡まれてしまうからな」

 

「何、気になる子でもいるの!?」

 

「死にたいならそう言え」

 

拠点を飛び出た私がバベルのある広間へと向かっていると、丁度ダンジョンに潜ろうとしていると声をかけてくる子供がいた。────と言っても私と同じぐらいの年齢だが。

 

「アンタ、エミーリアだよな?」

 

「誰だ貴様は。馴れ馴れしく私の名を……カイルだったか。息災か?」

 

やって来たのは、【ロキ・ファミリア】のエンブレムを装備に縫い付けて御機嫌な姿のカイルだった。確かオラリオの門で別れて以来だったはずだ。元気でやっているらしい。

 

「俺は元気だぜ。何かよく分からねぇんだけどさ、俺には才能があるらしくてな?試しに27階層まで潜って帰って来たらよ、すげー英雄視されちまって────」

 

「そんな事を自慢する為に私を呼び止めたのか?私はこれからダンジョンに潜るんだ、用がないなら消え失せてくれないか」

 

「まあ待てよ!新進気鋭の俺……正確には、俺とあそこにいるアイズって子と一緒にダンジョン行かないか?」

 

カイルが指を刺した先には金髪金眼の美しい少女が立っていた。年は私より一つ少ない程度だろうか?その手には剣が握られており、その瞳はそこにいない敵を見据えていた。

アイズと呼ばれた少女はカイルに近づくと、カイルの首根っこを鷲掴みにした。

 

「……カイル、行こう。27階層へ」

 

「待て待て待て!エミーリアも連れて行こうって話だっただろ!?」

 

「誰?」

 

「私はエミーリア・ヴァイス・アグニカ。気軽にエミーリアとでも呼んでほしい、冒険者アイズよ」

 

「俺の時と態度違くねぇ?痛え!」

 

やかましいカイルの膝を蹴り、アイズと握手を交わす。当然だ、敬うべき戦士とそうで無い者以外の区別はついている。この金髪の少女は文字通りカイルとは生物としての『格』が違う。

カイルにもそれなりの覇気はあるのだが、それはそれだ。

 

「あなたも強いの?」

 

「腕は保証する。これでも昔は一人で『切り裂き熊』を逆に切り裂いたものだ」

 

「………レベル3下位くらいの実力。分かった、行こう」

 

アイズ、カイルと共にダンジョンへと潜っていく。全くモンスターと出会う事なく12階層へ辿り着いた時だった。小竜(インファント・ドラゴン)が13階層へ繋がる階段を塞ぐように待ち構えていた。

その足元には幾多もの冒険者達の死骸が転がっている。明らかなイレギュラー。恐らくは何者かの策謀か。

 

『グオオオオ────ッ!』

 

「ここは私が……」

 

「敵一体!落ち着いてかかれば勝てる相手だ!」

 

現在のパーティはレベル2が一人、レベル1が一人。不明者が一人という何とも冴えないパーティだが、インファント・ドラゴン程度ならば余裕を持って勝てるだろう。

 

「まあ待てよ、お前ら。俺がどうして単独(ソロ)で27階層まで行けたか見せてやる」

 

「馬鹿を言うな!アグニカ闘殺法……アイズ!?何故止める!」

 

油断まみれの顔でニヤつきながら黒い剣を引き抜き始めたカイルを助ける為に飛び出したところをアイズに止められる。その表情は真剣だった。

だが、このままではカイルは無惨に頭から齧られて死んでしまうだろう。それとも生きたまま火に焼かれて焼死?

今なら止められる、今ならまだ間に合うというのに。

 

「心配してくれてサンキュな!フゥ────『絶技用意』切り裂け!【シュヴァルツ・グラム】ゥ!!!」

 

黒い奔流がカイルの持つ黒い刀身から溢れる。インファント・ドラゴンは本能的に恐怖を感じたのか、悲鳴をあげて逃げ出す素振りを見せ、そのままバラバラに切り刻まれ、魔石を残してその命を終わらされた。

魔法だ。圧倒的な力だ。これが魔法、究極の法。魔なる法。まさしくこれが魔法なのだろう。そう思えるほどの威力だった。

 

「………そうだ、カイル。その魔法の燃費はどのようなものか聞いても?」

 

「おう、全く精神力(マインド)使わねえぞ。だから連発できるってこったな!」

 

「話は終わった?なら早く行こう」

 

フンスフンスと鼻息を僅かに荒くしながらアイズが急かす。カイルに導かれるまま歩いていくと、数時間後には『中層』の楽園である18階層に到達していた。

18階層、ダンジョンの楽園とも呼ばれていると【アストレア・ファミリア】の拠点にあった図書室にあった本に書いてあった。

 

「ようカイル!今日はどんな冒険をするんだ?」

 

「カイル、新鮮なポーションが入ってる。買ってけ」

 

「替えの武器は要らねぇか?」

 

リヴィラの街という冒険者で構成された街に入るなり、カイルの周りには人が集まっていた。皇族である私を差し置いて人気者とは許せないが、カイルの偉業を知る者ならば然るべき態度だろう。

 

「おっ、カイル。今日は女連れか?エラい別嬪さん達だな。ってかそこの金眼の方は最速でレベル2になったとか言う……!」

 

「確かにそうじゃん。なら隣の碧眼の方は……誰だ?」

 

「金髪碧眼、それに子供。案外どこにでもいるもんだからなあ」

 

確かに私は金髪碧眼だが、その括りで一纏めにされるのは些か腹立たしい。私の金の髪はその他雑種の髪よりも色が鮮やかで、狐人(ルナール)よりも綺麗だと評判だった。

碧い眼だって、古英雄アキレウス譲りのものだ。百は下らないほどの世代を重ねても色濃く残る瞳に宿った魔法は衰えを知らない。

 

だというのに、この俗物どもは。

 

「ああ、コイツはエミーリア。今は俺とパーティを組んでてさ。何でも、どこぞの皇女様なんだってな。だよな、エミーリア?」

 

貴様も貴様だカイル。私はどこぞの皇女などでは無く、一万年以上の歴史を誇るアグニカ帝国の皇女だ。────などと反論は出来るのだが、余計な諍いを生むわけにはいかない。

ここは大人の対応をしてやることにした。

 

「そうだ。しかし私が皇女というのと冒険者である事は別のものだ。私のことは一冒険者のエミーリアとして接してくれ」

 

「だってさ!よろしくな!」

 

「………何してるの。早く行こう」

 

アイズに急かされ、私たちは必要最低限の支度をして19階層へ潜ることにした。火妖精の羽衣(サラマンダー・ウール)に、水妖精の戦衣(ウンディーネ・クロス)。破損した時のためにこれを3着ずつ。

そして回復アイテムは持てるだけ持った。これなら中層以降のイレギュラーや強敵にも対抗しうるだろう。

当然、即死効果を持つ敵がいつ現れるか分からないので警戒は怠ってはいけないが。

 

「な、なぁエミーリア。そんなに荷物必要なのか?ポーチがパンパンじゃないか」

 

「馬鹿か君は?いや、馬鹿だな君は。お気軽にダンジョンから脱出する事が出来るアイテムが無い以上、万全の支度をして行くのが冒険者として正しいだろう」

 

「でもなぁ……まいいや、俺が付いてるんだ、アイズもエミーリアも、俺が守ってやるよ!」

 

「盾を持たない君にタンクが務まるとは思わないがな。術師は後ろに下がっているといい」

 

19階層を進んでいても、中々敵と出会さない。カイルの何らかの力が働いているのだろうか?そう考えていると、20階層に入った瞬間、階層の中からとてつもない殺気を感じた。

殺気はいくつも膨れ上がり、こちらを狙っているように思えた。

 

「……カイル、アイズ。この階層はまずい。一度引き返さないか」

 

「強敵が居るなら、望むところ。エミーリア、怖いの?」

 

「ビビんなって!俺たちが付いてんだからさ!それにアイズはレベル2だぜ、お前よか強いんだから安心しろよ」

 

「……私は、一応逃走経路を確保しておく。マッピングしながら進むことになる、援護しろ」

 

既存の地図を見ながら、壁を注視したり道なき道を探っていると、妙な空白を発見した。ダンジョンの構造上、「何かある」はずなのに何も無い、ぽっかりと空いた穴だ。

 

「………ここは。何?」

 

穴の部分に行ってみると、たくさんの酒樽や保存食、保管されたポーションに武器のスペアらしきものが陳列されていた。

ダンジョンのイレギュラーには違いないのだろうが、些かこれは人工的すぎる。生活の跡があるのだ、ダンジョンで暮らす人間がいると考えるのが自然だろう。

 

「……この宝珠は一体?」

 

「エミーリア、避けろ!」

 

「ッ!?」

 

カイルの声で咄嗟に横に跳ぶ。直後にずしん、という轟音と共に石竜(ガーゴイル)が私に向かって突貫してくる。それに合わせてすれ違いざまに一撃を入れ───られずに()()()()()()()()()()()()()()。ガーゴイルの動きを先回りし斬り付ける。

 

『グッ……オオッ!?』

 

「驚いたか、モンスター。諦めることだ、私を倒したければ……ッ!?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。慌てて回避すると、その僅か一秒後に私の立っていた位置に業物と見られる刃物が無数に突き刺さっていた。

 

「アイズ!魔法を使うぜ!『絶技用意』…!」

 

「モンスターは皆殺しにする」

 

カイルが魔法を詠唱し、アイズが駆ける。数的不利を背負っているが、こちらには切り札が二つもある。レベル2と高威力連射可能の魔術師だ。

この場で私が出来る役割、それは──────。

 

「こっちを見ろッ!不細工ども!ゴミ山から生まれたゴミめらが、マトモに生きれると思ったか!?ははは、笑わせる!」

 

『オオオオオッ!!!!』

 

挑発だ。本職の守護騎士(ガーディアン)聖騎士(クルセイダー)には及ばないが、この程度の罵倒なら出来る。

案の定怒って向かってきたモンスターを捌きつつ、カイルの魔法を待つ。

 

「ほらどうしたリザードマン(トカゲ野郎)!そんな雑な剣筋では当たるものも当たらんぞ!」

 

『グォァァアアアアアッ!!!!!!!』

 

しかしこのリザードマン、剣筋が戦い慣れている者のそれだ。恐らく、これが本にあった『強化種』という奴だろう。

このリザードマンが持つ業物も、恐らくは殺した冒険者から奪い取ったものに違いない。同業者の死に思う所は無いが、危険を放置するわけにはいかない。

 

『オオオッ!!!』

 

「ぐッ……ふ、は、はは!良い子だ、リザードマン。良く刺した!」

 

『グ……?ッ!?アアッ!アアアッ!』

 

リザードマンの剣の突きを腹で受け、その剣を腕ごと掴む。じき魔法がこっちに飛んでくるはずだ。あの威力の魔法を喰らえば無事じゃ済まないだろうが、その為の万全の用意だ。

鞄の中には万能薬(エリクサー)がある。これさえあれば、生きてさえいるだけで何とでもなる。

 

「今だ撃て、カイル!」

 

「ふざけんな!撃てるわけ……ねぇだろうが!お前を巻き込んじまう!」

 

「私なら大丈夫だ、このリザードマンを殺せ!お前がやれ!お前しかいない!アイズは一人で5体と交戦中だ!」

 

『グ………!おい、アンタ!自分も死ぬ気かよ!?考えを改めろ!」

 

「はは、モンスター風情が何、を……?」

 

今、モンスターが喋った?いや、あり得ない。そんな事はある筈がない。たとえあったとしても、現に乙女の腹を剣で貫くような奴と話す事はない。

 

「クソ……ちくしょおおおおおっ!【シュヴァルツ・グラム】ゥゥゥ!!」

 

「良いか、オレっち達は敵じゃねぇ!今日の事は忘れろ、良いな!?グォァァアアアアアッ!!!』

 

リザードマンが小声でそう言った後、大声を出して離脱する。それと同時にモンスター達が一斉に逃げ出す。

しかし魔法は発動された。あとは私が消し炭になるだけだ。黒い力の奔流が私を包む中、微かだが悲痛の慟哭が聞こえたような気がした。

 

 

 

          ◆

 

 

「……何?20階層の『隠れ里』が見つかった?」

 

薄暗い部屋の中、愚者(フェルズ)を名乗る魔術師は焦りを帯びた声で問いただす。通話可能な宝珠、それ越しに聞こえたきた報告は、フェルズの想定を遥かに超えていた。

 

「そうだ、金髪の嬢ちゃん二人と魔術師の坊主一人だけだった。坊主の方はあんまり気にしなくても良いかもだが、嬢ちゃん二人はヤベェ」

 

「タシカニ、アノ青イ瞳のホウハ……コチラノ動キヲ読ンデイルヨウダッタ」

 

「未来視か……?わからん。だが助かるよ、こちらでも動いてみる。その内の誰かと会話した者は?」

 

「オレっちは青い瞳の方の嬢ちゃんと喋ったぜ。つい挑発に乗っちまった。多分あん中で一番冷静で、一番頭がぶっ飛んでる。自爆覚悟でオレっちの剣を受けるなんてな……」

 

「名前は分かるか?」

 

「確か……エミーリア、そう、エミーリアって呼ばれてたな」

 

「エミーリアだな。分かった。情報提供感謝する。隠れ里についてはまた後日結界を貼らせてもらう」

 

フェルズは夜になったのを見計らい、エミーリアを捜索する。ギルドの名簿から【アストレア・ファミリア】所属だという事を割り出し、公式に報告されているステイタスを確認する。

 

「レベル1……総合評価Gほどの冒険者がリドやグロスと渡り合った……?おかしい、圧倒的な差が存在している筈だ。エミーリアの団員に尋ねてみるとしよう」

 

【アストレア・ファミリア】の周りで団員が歩いているのを確認したフェルズは闇から現れるように団員に接触する。出来るだけ怪しまれないよう、穏やかな口調を使うようにフェルズは心がけた。

 

「こんばんは、【疾風】。ひとつ、尋ねたい事があるのだが、よろしいか?」

 

「明らかに怪しい人物と話すつもりはありません。ファミリアの緊急事態中です、部外者はお引き取りください」

 

「……それは、エミーリアの失踪のことで間違いは無いだろうか?」

 

「ッ!なぜそれを……!まさか貴様ァッ!!エミーリアをどこへやった!」

 

激昂して詰め寄ってくるリューにフェルズは対応しきれず、壁に叩きつけられる。魔法がかかったフードによって骨の顔を覗かれる事は無かったが、もしも覗かれていたならばフェルズはモンスターとして粉微塵にされていただろう。

 

「私も彼女を探している。本音を言うと、彼女の強さの秘密について探っている。それと、勘違いしないで欲しいのは、私は闇派閥ではない。それは神に誓おう」

 

「…………エミーリアはどこに?私に接触してきたと言うことは、何か知っているのでしょう」

 

「私の仲間から、最後に20階層で見たと教えられた。今から向かえるか?」

 

「……仲間を呼んできます。貴方はどうするのです」

 

「私は先に20階層へ向かう。合流は20階層の出口で行おう」

 

【アストレア・ファミリア】の拠点に戻ったリューは寝ずに会議をしている仲間達を呼び、ダンジョンへと向かう。完全武装した戦乙女達が怒りの形相でダンジョンへと向かう様は、それを見ていた闇派閥を心底恐れさせた。無論、通りがかった者達も軒並み恐れさせた。

 

「ま、待ってください!ダンジョンは今危険な状態にありまして……!」

 

「退いて。仲間が待ってるの」

 

ギルド職員がまるで戦争に向かうような面持ちの【アストレア・ファミリア】を制止する。しかしそれを無視して団長であるアリーゼ・ローヴェルは前へと進む。

 

「お願いしますっ!我々としても、【アストレア・ファミリア】に壊滅して欲しくないのです!せめて話だけでも!」

 

「………何?」

 

「現在、20階層において複数体の『黒いモンスター』を確認中。ご存知の通り、何者かが招いた事態です。【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】も協力体制にあります。どうか協力をお願いします!」

 

「分かった、集合場所に向かう。でも私達の仲間が20階層にいるの。なるべく早くにお願いね」

 

そうして少女たちは死地へ向かう。大きな絶望と戦いの地へ。その先に、無数の犠牲があることを知らずに。

 

 




エミーリア・ヴァイス・アグニカ
《基本アビリティ》
力:I27 耐久:I14 器用:I46 敏捷:I13 魔力:I0
《発展アビリティ》

《魔法》

《スキル》
【戦姫廻生】・記█の█承。
      ・死███避。
      ・因█率██。
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