ドクター「何も分からん」 作:オリジニウム爆弾
『記憶の糸は全て解れてしまったけれど……新しい貴方がきっと、答えを見つけてくれるはずよ……だから──』
ドクターの記憶の糸を一本一本緩ませて、解れさせて、解体する。
きっと、この事を娘のように大事にされていたアーミヤが知れば悲しむだろう。
『あ』
手が滑った。
余計なところまで記憶の糸を緩めてしまったせいか、関係ないところまで糸が抜けてしまった。
『ふぅ……』
こういう時に一番大事なのは取り乱さないこと。
軽く息を吐いて一旦手を離して息を吸う。
次に目を覚ました時に、ほんのちょっと残念になってしまうが補修することによってこれ以上は悪化することはない。
焦ることはない。仕立て屋をやっていた頃と同じように糸と糸を結んで仕上げるだけだ。
『……うん。大体こんな感じだった気がするわ』
額に付いた汗を拭ってホッとする。
この先の未来のことはテレジアにもドクターにもわからない。
「ということがあったわ」
「あったわ……じゃなくてさぁ! え、そんな感じで記憶無くなったの!? 雑な仕事しないでよぉ!」
一仕事終えてロドスに戻る輸送ヘリの中で居眠りをしていると夢の中に出てきたテレジアに自分の記憶喪失をした時のうっかりを告白されていた。
「良いじゃない。どうせ目が覚めたらこの夢のことも忘れるんだから」
「そんな夢枕に出てくる妖怪的な存在なの……?」
周りに相談したわけでも、それで何か問題はあったが危機には陥ってない以上、文句も言いにくいのだが、それはそれとして人の頭に手を入れるならしっかりやってほしかった。
「以前は魔王とか言われていたけれど、私は元々はただの仕立て屋だもの。普通に生きるくらいのことはしていたのよ。これぐらいのお茶目は許してほしいわ」
「えぇ……」
「ほら、そろそろロドスに着く頃よ。具体的に言うと五分くらい前だから起きて伸びをするくらいの時間はあるわ」
やたら具体的なお告げだけしていったテレジアが霧散するのと同時にドクターの目も覚めた。
「はっ……なんか、すっごい大事な話をされたのに思い出せないモヤモヤした夢を見た気がする!」
「そもそも覚えてないとかではなく聞いていない話だと思いますよ」
「流石にそんなこと無いと思うけど……」
寝起き早々隣に座っていたアーミヤに手痛いツッコミを食らってしまったが、それにももう慣れてしまった。
「この前の危機契約の蓄音機のギミックだって一回やったはずなのに忘れちゃってたじゃないですか」
編成メンバーも見ずに出撃したり、重装オペレーターのブロックから溢れた敵に対して慌ててキメラを発動したりと散々な指揮だったが、一回の出撃で条件は達成したため、問題はなかった。