ナナコは可愛いですね   作:ゾエア

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ナナコは可愛いですね

 

「"縛り"による代償、何とかしたいですよね。」

 

 

二つの籠の中に閉じ込められた姉妹。片方には金髪。もう片方には黒髪の女の子が入っている。手には人形を抱えて、少し緊張しているようだった。

夜中にいきなり起こされたのは、黒髪の女の子である美々子であった。夜中にどこかへ向かう双子の片割れを探しにきた菜々子はこの一室に連れてこられた。

 

 

──あたしたちを助けてくれた大好きな人。その人のお願いならなんだってする。そう思っていたけど。今日は健康診断だけだったのに。何をするんだろ。

 

 

「あなた方が入ってるそれ。呪いを()()()()()()()()ことができるんです。中の呪符は術式が刻まれています。発動には代償が必要ですね。」

 

「ヒトとそれ以外ではうまくいかなかったんですが。ちょうどナナコも来てくれた事です。…可愛らしい生体を二つも使うのは惜しいですが。」

 

「二人とも仲良しです。きっと成功しますよ。」

 

 

──何を言ってるんだろう。しばり。のろい。それってどういう──

 

 

「わたしたち… どうなるの?」

 

「 肉体の変質と死。 "縛り"はあなた方の体に災いをもたらすでしょう。この研究の果てに、呪いの可能性と真価に迫るヒントが生まれるのです。あなた方のお陰ですよ。」

 

「ミミコ。あなたは押し付けられる側です。なるべく耐えてくださいね。途中で死んだら、片方も呪いにかかってしまいます。」

 

 

籠に呪力が流れ始める。それと同時に地面に刻まれた印と呪符が怪しく光を放ち始めた。二人は自らの未来を予見したようだった。籠の中でお互いの顔を心配そうに見合わせる。田舎での暮らし。閉じ込められた牢を思い出すような呪籠は二人の不安を掻き立てる。

 

東雲と名乗った男は片田舎で迫害されていた双子を助けたその人だった。全身を黒い装束で包み、顔には独特な黒い仮面を頭部に取り付けている。面の中心には一本のラインが走り、青く光を宿している。掌印を組み、今まさに呪具を発動した。

 

 

 

神様…神様…助けてください…

あたし達ようやく居場所をみつけたんです…

どうか…どうか奪わないで…

 

 

ズンっとお互いの足元に衝撃が走る。何かが始まる。そう菜々子が思った時だった。

 

「な、菜々子…大丈夫。 わたし耐えるから… だから…一緒に…。」

 

美々子はぎこちない笑顔を向けた。目の端に涙を溜めて、震えながら菜々子に声をかけている。

 

「いっ…ひっ」

 

耐えきれずに菜々子は目を閉じ頭を抑える。体は震えながら、悲鳴をもらしていた。ブチブチと肉が裂けるような音が聞こえ始める。

 

 

 

 

 

 

い゛やあ゛あああ

 

隣から聞こえた悲鳴に目を向ける。

美々子が這いつくばっている。肉の音は止まらない。

 

 

「いた… いたい!! いたい!!」

 

「み、美々子! 美々子!!」

 

 

籠の中から手を伸ばしても、叩いても、届かない。反応は加速する。

 

 

いたい゛!!いたい゛!いたい゛ぃ!!

 

這いつくばる頭からブチブチと頭皮を割いて肉が出てくる。それは徐々に頭部を覆って──

 

 

 

「ころして… ごろして!! おね゛がい…」

 

 

目は眼窩から飛び出し、無垢な光を見せる。鼻筋を裂きながら眉間まで到達した口は縦に開くようだった。爪は黒々と伸び、体中の皮膚は伸びきって軟体動物じみた姿。美々子の()()()()であった。

 

「こほぉ。…ほぉ。」

 

 

それは小刻みに震えて体液を垂れ流し、菜々子を見つめている。

菜々子はそれを見て震えながら涙を流す。いつも一緒。いつも二人は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナナコ、相変わらず研究も手伝わず、お絵描きですか。」

 

「君はかわいいですね。」

 

研究所の一室で菜々子を優しく撫でながら東雲は話しかけた。

 

 

「そうそう。美々子の受けた『呪い』が分かりましたよ。素晴らしい結果です。」

 

「!!」

 

菜々子は話に食いついた。異形と化した美々子と行く宛てのない菜々子は未だ東雲の元から離れてはいなかった。

 

 

「あのような副産物が得られるとは。やはり呪術は驚異的です。」

 

「二重に受けた"縛り"による結果がもたらしたものは、『肉体の変質』だけではなく、『死ねなくなるもの』だったのです。」

 

 

移動しながら語る東雲。その()()に怯えながら、菜々子は一室の扉を開ける。

 

こ ふ

 

臼のような万力にすり潰され、隙間から染み出た体液と骨片達。そこから溢れ出たかのように倒れる異形の姿。美々子だったそれは涙を流しながら声をあげた。

 

 

「御覧下さい。 すり潰したはずの手足も生えてきています。蘇るのはこれで九回目ですが…、少々形がいびつになる程度で済んでいます。反転術式では再現出来ないレベルです。」

 

「……ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫…!美々子…。大丈夫だから。逃げてごめんね…。」

 

「もうアイツの好きになんか、させたりしないから…!」

 

「あたしが…、あたしが…なんとかするから!!」

 

 

美々子を背負いながら逃げる。片目の潰れた無垢な異形はみぃみぃと声を上げながら、背中で大人しくしている。

血痕が暗闇に続いていた。

 

 

 

「美々子…。分かる…?」

 

お気に入りだった人形遊びにも、返すものは生物的反射だけだった。

 

 

必死に集めた呪物も、呪具も、美々子には苦しむだけだった。不死身の肉体。その呪術的価値は計り知れない。守るためには、楽にするには──

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら美々子ー。先生作ったよー!可愛いねー。」

 

ここは東京都立呪術高専の地下室。その部屋はおびただしい数の呪符を壁に貼り付けていた。しかし中央にある天蓋付きのベッド内には様々な人形が座っていた。今しがた追加された白髪のサングラスをかけた人形は、彼女の自作であるようだ。

 

 

「──それで、もう大丈夫かい?」

 

特徴的な目隠しをつけた白髪の長身は、菜々子に声をかけた。時間が迫っていた。別れの言葉を言わなければならない。

 

 

「美々子…。またすぐ会えるからね…。今までごめんね…!」

 

最後に美々子の頭を優しく撫でる。

 

 

「…お願いします。」

 

その白髪の男は分かっていた。異形と化した肉体の特異性と、()()()()ということを。見えすぎる眼を持ったことを少し後悔しながら、掌印を構えた。

 

 

「ま…待って…」

 

菜々子は駆け寄った。

 

「美々子! ずっと! ずーっと一緒だからね…。」

 

「美々子…ありがとね…。」

 

 

 

 

術式順転と反転によって生み出された仮想質量。それがぬいぐるみ達を分解していく。その肉体は解けるように──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや」

 

「反応が消えていますね。おめでとうナナコ…。ついに成し遂げたんですね。」

 

「あなたにはたくさんのお礼が言いたい。」

 

「是非とも──また会いたいですね。」







泣きながらかいた
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