ナナコは可愛いですね   作:ゾエア

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メグミはかわいいですね

 

 

 

「どうするかな…!」

 

 

伏黒恵は焦っていた。既に領域を展開する呪力も残っておらず、特級呪霊を一人で圧倒した男との戦いも勝機は見えていない。眼前の白セーターを着た怪物は游雲の節一つを尖らせた獲物で油断なく武装していた。

 

「──伏黒ー!」

 

「枷場!?」「…!」

 

突然路地の隙間から見えた、白い四手から聞き覚えのある声。近くに待機している筈の同級生。それが何故か持ち場を離れている。何が起こって──

 

 

「ご同は、は──」

 

 

四手の男は頭部を游雲によって貫かれた。

菜々子を捕らえていた腕は力なく項垂れていく。暴走した術式によって蘇った禪院甚爾の矛先は、菜々子を連れ去る強者へと向けられた。菜々子は地面に打ちつけられながらも、すぐに立ち上がった。

 

 

「いった!っでも助かった!ありがとうございま…」

 

 

菜々子はその異常性に気づいた。器に降ろされた強靭な肉体。意識の先は──次の強者である──伏黒に向けて殺意を放ち始めている。次の獲物を定めたようだ。そう感じた菜々子が声をあげようとした時だった。

 

 

「おやおやおや しばらく見ないうちに オシャレになりましたね。トウジ」

 

 

 

黒い装備。線の入った仮面。おぞましい程の慈愛と探究心を両立させた気配の主は東雲だった。菜々子を呼ぶ明華の声と死装束による拉致行為。全ての元凶とついに相対してしまった。

 

 

 

「……東雲…!!」

 

 

「ナナコ 元気そうで何よりです。その髪型 似合っていますよ。」

 

「そうそう あの子の肉電球が消えていましたね。 おめでとうナナコ。ようやく解放されたのですね。」

 

 

目を見開き、敵意を向ける菜々子も意に介さず、東雲は拍手とともに惜しみない称賛の声をあげた。

 

 

「──ふ、伏黒っ!今は逃げるよ!傷も見るから!」

「分かった!」

 

 

菜々子はすぐに表情を切り替え、すべきことを叫ぶ。もう恐怖に負けることはないと。東雲が引き留めようと声をかけた時だった。

 

「ナナコ 是非また私のところに来てください。君に見てもらいたいものもたくさん──」

 

 

天与呪縛のフィジカルギフテッド。息子を()()と呼ぶ女と、かつてちょっかいをかけてきた外道。どちらを攻撃するかは明白だった。

 

 

「おっと あなたの状態も興味深いですね。」

 

 

游雲の尖端による刺突。それは容易く装備を貫き、東雲を後方へ突き飛ばした。

 

続けて急所に向かう尖端を手でいなした東雲は呪具を解放する。

 

悠捫(ゆうもん)

 

 

前方に大きく開かれた黒い触手の網。それは引き抜いた游雲で引きちぎられ、白セーターの男は再び距離を取った。

 

 

「おやおや 呪具はそれだけですか。」

 

 

仮面の隙間から放たれた光が乱反射して獲物を狙う。光線を弾きながら天与の暴君が加速する。

 

 

 

「今のうち!行くよ!」

 

「…パパ?菜々子?」

 

身を隠せる場所へ伏黒とともに向かおうとする菜々子の前に明華が現れた。強引に連れ去った祈手の後を追って来たようだ。伏黒の負傷や東雲と男の戦闘に混乱している。

 

 

「明華!あなたのパパは呪詛師!東雲!とりあえず今は──」

 

 

明華とパパの関係性。呪詛師との繋がり。それら全てを思考の外に捨て、明華へ叫ぶ。しかしタイミングが悪かった。

 

 

「素晴らしっ─」

 

 

刺突からの横薙ぎは首をちぎり、仮面がついた生首が明華の元に転がってくる。勝負は決した。止まらない殺戮人形が次に狙うのは…

 

 

「うそ…パパ…!」

 

 

崩れ落ちた黒づくめの東雲だったものに明華が駆け寄る。涙を溢れさせながら声をかけるが、それが返事を返すことはないはずだった。

 

「お願い…返事して…あたしを置いていかないで……!」

 

背後から現れた白装束の男。転がっていた頭部の仮面を剥ぎ取り、自らに装着する。刻まれた縦線から青い光を放ち、徐々に強くなったそれから東雲の声が聞こえた。

 

 

「パパですよ 明華」「……パパ!!」

 

 

明華が認識する父親とはすなわち仮面を被っている者。東雲による刷り込みか、何にせよ異常性が垣間見えた。

菜々子は目撃した現象を理解する。頭や仮面による憑依ではない、どちらも本物。全て東雲だった。つまり祈手も何もかもにコイツは宿っている。

 

 

「さぁナナコ 一緒に行きましょう。」

 

「…伏黒!」「もうすっからかんだ!逃げ一択だろ!」

 

 

手を差し伸べる仮面の男。先程よりも武装は多く、相手は明らかに手強い。伏黒の呪力も頼りないため、二人は逃走しかなかった。

しかし降ろされた甚爾の亡霊は違う。

天与の暴君は既に加速していた。新たな標的を定めてそれは游雲を構えている。繰り出される刺突を腰から生えた尻尾が弾く。

 

 

「あのスピードに対応してんのか!!」

 

 

伏黒では手も足も出なかった化け物と東雲が戦っている。度々放たれる光線と爆炎が夜の渋谷を照らしていた。明華は東雲の味方なのか。分からぬまま伏黒と菜々子はその場を離れようとして──

 

 

「えいっ」

 

 

刃が菜々子を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甚爾と東雲の争いは激しいものだった。放たれる熱戦と轟音。それは必然的に強者の目にとまり、興味の対象になる。つまりは──

 

 

「随分と背負っているな」「おやおや 呪いの王ですか」

 

 

殺戮人形と化した甚爾の優先目標と、東雲の好奇心の対象は同じものとなった。二人は一瞬で宿儺へと迫る。そこに飛ぶ無数の斬撃。二つの影はそれに掠ることなく走る。

 

 

「ハハッ いいぞ!!」

 

 

王からの賞賛にも満足することなく攻撃を加える。游雲による打撃と刺突。東雲の呪具による尻尾と熱戦。宿儺は全て同時にさばきながら余波で地面を砕いていく。

 

 

──呪物による出力向上!!命を賭して流した呪力が爆発的な攻撃力になっているな!!──

 

 

完璧に打撃を受け止めた筈の宿儺が吹き飛ばされる。勢いはビルを三棟貫通するまで止まらない。宿儺は上機嫌に笑う。迫る極太の熱戦を躱し、甚爾との殴り合いを再開する。手数の差が宿儺の攻勢を弱め、少しずつ勢いを傾けていく。

 

 

「ケヒッ まだまだ魅せてみろ!!」

 

「ええ。これからですよ。」

 

領域展開』『伏魔御廚子

 

 

必中と化した無数の斬撃が二者に迫る。強靭な天与の肉体も度重なる斬撃に倒れ、甚爾の顔が変わっていく。やがて降ろしていた肉体も塵と変わり、残るは東雲と宿儺のみとなる。

 

 

 

「おやおや 長くは保ちませんね」

 

 

背中の呪物を消費しながら簡易領域を貼り続ける。連続して排出された肉入りの箱も術式に刻まれて塵と化していく。東雲は右手の砲口に呪力を込めて宿儺へと向けた。高熱が充填されていく。

 

 

 

(フーガ)』『火葬砲(かそうほう)

 

 

 

ビルを越す火柱が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──枷場!クソっ!?」

 

 

驚愕する暇もなく刀が振るわれる。それは伏黒を切り裂き、二人の体勢を崩す。

 

 

「これこれこーいうのよ!」

 

 

上機嫌に声をあげた男は目元に紋様を施し、髪型をサイドテールに留めていた。重面春太は化け物達が暴れている間に弱い方から仕留めることを決めたらしい。まずは金髪の女をいたぶろうと視線を向けた重面は驚きの声を出す。

 

 

「反転術式!?使えんのかよ!!」

 

 

自分の刀創を応急処置。伏黒の目立った傷を直しながら相手から距離を取った。既に伏黒はほぼ呪力切れ。どうすれば──

 

 

「なにしてんのよッ!」

 

 

呪力を込めた拳が重面に突き刺さる。明華だ。そのまま明華は帽子からふるたんを出しながら着地し、呪文を唱える。

 

 

布留部由良由良止布留部(ふるべゆらゆらとふるべ)

 

 

 

ふるたんの体積が膨張し、みるみる大きくなったそれは人型を形作る。目に当たる部分から翼を生やし、後頭部からは尻尾が伸びる。その人型は呪力を腕に滾らせながら──

 

 

「え゛ッ─」

 

 

重面の頭部を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「素晴らしい。この一日は私たちに足りない試練をもたらし──明華を完成へと導いてくれました。試練は愛をより深くします。」

 

 

「そうでしょう ナナコ?」

 

 

 







御廚子の漢字を間違えてました
修正してます
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