ナナコは可愛いですね   作:ゾエア

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ツクモはかわいいですね

 

 

「コイツは明華の式神だ。」

 

 

渋谷事変後、情勢の動きに疲弊していた菜々子に対して伏黒は手に持ったふるたんを見せた。

 

優しく腕に抱き、ふるたんの腹に顔を埋める菜々子。知らされた明華の最期は、加茂憲倫によって領域内で殺されたということだけだった。明華に何があったのか、東雲とどういったやり取りがあったのかも分からずにただ同級生の死を受け入れるしかなかった。野薔薇も治せず、虎杖とは連絡もつかないという状況が菜々子の神経を削っていた。

 

 

「……うん。」

 

「半ば呪具化してる。俺の式神と似た媒介でできてるみたいだが、枷場が持っといた方がいいだろ。」

 

 

ふるたんは明華の死後も残っていた。術式によって維持されていたかどうかは不明だが、解除されることなく動いている。影法術をルーツとするのか、伏黒は何か感じるものがあるようだったが、菜々子に託すことを決めた。

 

 

「明華の匂いがする。ずっと一緒だったんだね。」

 

「虎杖のことは俺と乙骨先輩に任せろ。真希さんのこと、頼んだぞ。」

 

「大丈夫だよ。虎杖を絶対連れてきてね。あいつも辛いだろうし。それに…お姉ちゃんのこともちゃんと言うんだよ。」

 

「…わーったよ。」

 

 

菜々子のお節介じみた言葉に手を振りながら答えた伏黒は、渋谷へと向かう。虎杖の力が必要だった。呪術師として人を助け続けるために。

 

 

──呪術師達の殺し合いが全国で行われる。五条先生の解放も、死滅回游の平定にも高専の皆の力が必要。だから自分にできることをやらなきゃいけない──

 

 

 

 

 

「君でも駄目か。薨星宮への扉を見分けるのは。」

 

 

 

渋谷事変の最終局面に現れた特級術師である九十九由基は、菜々子からの報告に答えた。高専内で潜伏中である彼女は天元への接触を試みているが、今のところ上手くはいっていなかった。

 

 

「駄目ですね。天元様の意識が散らばってる感じです。途中にある忌庫も、呪具呪物が持ち出されちゃってるので漏れ出る気配弱いでしょうし。」

 

 

高専内の寺社仏閣の扉をいくらか覗いてみたが、天元の拒絶か、はたまた他の理由によるものか。菜々子には薨星宮へと繋がる扉を見つけることができなかった。菜々子は高専内の結界内や至る所に天元の意識が散らばっているような感覚を覚えた。天元以外の要素をあてにしようにも、高専忌庫の気配を探ったりする経験が菜々子にはなかったのだ。

 

「そうか。繋がる扉を総当りすることになるかもな。済まないね 忙しい時に。」

 

 

「いえいえー。真希さんは峠は越して回復が見えてきました。それに、あたしができることは少ないので…」

 

 

「君も貴重な人材さ。反転術式のアウトプットに、その感覚。卑下することはないよ。 それと…、渋谷のあの時、領域を展開した子についてだが──」

 

 

「──明華。あの子お父さんに会いに行くって言ったきりで。あの場に居合わせていたなんて…。」

 

 

菜々子は自分の影に視線を落とした。ふるたんは元気よく菜々子の影へ沈みこんで隠れたり、出てきたりと自由にしている。

 

 

「領域内のことはよく分かっていないが、確実に加茂憲倫の身に何か起こっていた。死滅回游はあいつの仕組んだもの。今はヤツの予定通りにことは進んでいるはず。だがそれだけじゃない何かがあの時起こっていた。明華の父親と思われる東雲が何か関わってる可能性は?」

 

 

「……あいつは部下と体を共有していました。現在の身体が死んでも他の肉体にはあいつが宿っている。全部があいつなんです。もしかしたら──」

 

 

「──それが加茂憲倫の身に起きたかもしれないということか。…君の見立ては正しいかもしれないが、それはつまり…明華君の動きが不自然だったことも、何もかもが疑わしくなってしまうね。」

 

 

「あの時の明華は!…明華は彼女自身の気持ちで会いに行きました。パパを止めなきゃって。あたしが言ってもきかなくて……!」

 

 

ふるたんは声に驚き、影から半身を出して菜々子を見上げた。

自分と会って共に過ごした明華が、あのおぞましい気配になったことなんて一度もなかった。最後まで彼女はずっと明華だった。その筈なのに。

 

 

「…今はヤツの、加茂憲倫の起こした死滅回游についてとにかく情報が欲しい。ヤツの目的や今後の出方は知っておいて損はないはずさ。そのために天元と接触しなければならない。とりあえず今は虎杖君を待とう。」

 

 

 

 

虎杖の帰還。それと共に薨星宮への扉を見つける問題も解決した。虎杖の兄を名乗る受肉体が高専忌庫の気配を感じ取れるということだった。

 

 

「虎杖のお兄ちゃんかー。」

 

 

昇降機で薨星宮本殿に降りながら、菜々子は扉を見つけた本人である脹相を眺めていた。

 

 

「嘘はついてなさそう。少なくとも本気でお兄ちゃんをやってるよ。」

 

「──マジ!?」

 

 

虎杖は脹相の顔をまじまじと見た。脹相は心做しか得意気な顔だった。

 

 

 

奥に進んでも本殿はなく真っ白な空間が広がっていた。薨星宮は閉じられ、天元による拒絶の意思が表れている。

 

「読みが外れたかな?」

 

一同が戻ろうとしたその時、四つ目の異形が声を発した。

 

 

「初めまして 禪院の子 道真の血 祝福の子 呪胎九相図 そして 宿儺の器」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰?」

 

 

「ここに結界を張った者です。ここは死滅回游(ころしあい)の場に選ばれたのですよ。名誉なことではありませんが。」

 

 

佐々木せつこは、突然現れた五条袈裟の男が話す内容を理解できていなかった。意識は浮上し夢から目覚めたような、あるいはまだ寝ているままのような状態で会話が進む。

 

 

「自宅でそれは勘弁してもらえませんか」

 

「おやおや 難しい注文ですね。 はじめから結界の内側にいるあなた達には、一度だけ結界を出る権利があります。あなたが望めば 目が覚めた時に結界の外に出られます。どうしますか?」

 

 

「目が覚めたらって… これは夢なの……?」

 

 

「夢と現実の間。 (まじな)いですよ。」

 

 

佐々木は男の差し出した手を取った。丁寧で穏やかな口調の男は優しく握り、彼女を結界の外へと連れていく。

 

 

「ゆっくり 進みましょう。 気の早い方達が既に外で遊んでいるようです。」

 

 

目を瞑ったまま夢と現実の間を進んでいく。遠くでは巨大な式神らしきものが紫の液体を滴らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「羂索の目的は日本全土を対象とした人類への進化の強制…()()()。」

 

 

かつては加茂憲倫に、今は夏油傑の肉体に宿っている術師のことを四つ目の天元は羂索(けんじゃく)と呼んだ。天元は九十九と乙骨、脹相のうち二人を護衛として要求し、話を続けていく。

 

 

「羂索が取る進化手段は 人類と天元(わたし)の同化だ。」「!!?」

 

 

12年前に進化を始めた天元は天地そのものを自我として、星漿体以外との同化を可能としていた。天元との同化は人間を新しい存在の形に押し上げることとなる。人類が進化することで個としての境界を失った場合、悪意や穢れは瞬く間に伝播し呪霊として顕現することが予想された。

 

 

「進化を果たした今の私は 人間より呪霊に近い組成だ。つまりは──呪霊操術の術式対象だ。」

 

 

呪霊操術。つまり夏油傑の肉体に刻まれた術式を用いれば、人類との同化を天元に強制することが可能だ。そのため、天元の本体は薨星宮で全てを拒絶している状態だった。羂索が薨星宮へと乗り込んで来た場合、護衛が必要であり、そのため特級術師相当の実力者を天元は要求していた。

 

 

「ヤツは少なくとも千年は術師をやっているはずだ。なぜ今になって動いた?」

 

九十九の質問に対して、天元は因果関係を語っていく。

 

「わたしと六眼、星漿体。三つは因果で繋がっている。だが12年前、呪縛の力で因果の外に出た人間が私達の運命を破壊してしまった。禪院甚爾の介入だ。」「!!」「?」

 

真希と伏黒が同時に反応する。

 

 

「そしてそこには呪霊操術を持つ少年がいた。獄門疆以外のピースが揃っていたんだ。獄門疆による六眼の封印さえこなせばわたしを取り込める。だから羂索はこの時代に動いた。」

 

 

「じゃあ死滅回游は何のために行われるんですか?」

 

 

伏黒は天元にそう問いかけた。羂索の目的は天元と人類との同化。死滅回游を起こしたこととどう関わっているのか。天元は答えていく。

 

 

「同化前の()()()だよ。」

 

 

死滅回游は泳者(プレイヤー)の呪力と各結界(コロニー)で結んだ境界を使って、この国の人間を彼岸へ渡す儀式であると天元は語る。日本全土に呪いをかけるために、必要な呪力と結界を死滅回游によって賄う試みだと。

 

 

「これだけの儀式を成立させるために羂索自身は多数の縛りを負っている筈だ。そしてその縛りは──おそらく()()()()()()()()。」

「!!」

 

 

「渋谷事変の終局の最中展開された領域。それを行った東雲の娘はもう死んでいるが、羂索の身に起こったことは予想できる。」

 

「……」

 

 

「東雲という術師だ。彼等の企みによって羂索の精神には東雲が入っている。いや、彼も東雲になったと言うべきか。羂索の企みを知って東雲がどう動くかは予測できない。」

 

 

「あいつなら… 東雲なら、少なくとも死滅回游をすぐに終わらせるようなことはしないでしょう。永続を謳った儀式の中でやりたいこと、できることを好きに試すはずです。」

 

 

菜々子は吐き捨てるように語る。いつの間にか抱いたふるたんは腕に絞められて苦しそうだ。

 

 

「なるほど。しかし羂索としての縛りがあるはずだ。あの子の行動もある程度制限されるだろう。羂索と呪術的に同一の対象とみなされているからな。」

 

 

天元の護衛は九十九と脹相が残ることとなった。死滅回游平定に向けてそれぞれの役割を決めていく。

 

 

「五条悟の解放に必要なもの。これが──獄門疆 『裏』だ。」

 

 

 

裏門は封印解除の手段に用いると言う。対象の術式を消滅させる術があれば、裏門にも入っているという五条悟が復活するとわかった。泳者(プレイヤー)の中ににその術式を持った者がいる。そのために結界(コロニー)へ向かう者が必要だった。

 

 

「秤を呼ばないとね。あたし顔が割れてるから多分会ってもらえないや。伏黒と虎杖。任せたよー。」

 

 

薨星宮から五人が出ていく。真希は呪具の調達に、乙骨は回游への参加。そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「願いを叶える卵。その術式はヒトの生体が用いるには適さないようです。」

 

 

異形へと変質した肉体達の前で、五条袈裟を着た男は事実を確認した。そこにはオレンジ色で透き通った部分が特徴的な卵型の呪物があった。手のひらに乗るほどのそれは、今しがた人々の体に作用しその異常性を発揮したようである。

 

 

 

「雑多な願いは適さないのでしょうか。純粋で明確な願い──次は子供達で試してみることにしましょうか。」

 

 







ワンポイントナナコ

『死滅回游』
羂索が計画した儀式。日本全土の人類を天元と同化させるために計画した。必要な呪力をプレイヤーの殺し合いで集めて、結界を結んでできた境界線が本州四国九州を跨いで完成する。北海道は既に霊場として完成しているので、それ以南を準備することが同化成功への鍵。羂索が仕込んでいた覚醒術師達は参加を宣誓しないと死ぬ。津美紀は羂索の呪力に当てられて寝たきりとなっていたが、渋谷事変後に目が覚めた。津美紀が巻き込まれたことで恵は平定へと動き出した。

『天元』
500年老いたら目が四つになった。星漿体と500年周期で同化しないと進化して凄いことになる。今周期は同化しなかったけど結界術で理性と形を保てている。元々は不死の術式持ってる結界術が凄い人。進化前は女だったらしい。羂索は進化した天元と人類の同化で新しい呪力の形を想像していた。


『獄門疆 「裏」』
裏門。開門の権限はないため、術式を無効化するような手段でこじ開ければ中の五条悟が復活する。表の存在を羂索から隠すために、裏門は封印していた。結局表門が羂索に見つかったので使うことになった。


『六眼』
術式情報を見たり、呪力操作向上までこなす凄い目。この目を持ったヤツに羂索は負けっぱなしだったため、封印に方針を変えた。生後まもなく六眼持ちを殺しても同化当日にまた湧いてくる。六眼持ちは同時に二人は現れないので生かしたままの封印が必要だった。



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