「お疲れ様です。よく働きましたね 花御。」
上半身の半分を五条悟に穿たれた花御は返事もなく倒れ込んだ。そこに声をかける仮面の男。わざわざ迎えに来たらしい。
「アンタお優しいんだな。あんたのとこの使いっ走りは捨ててきたんだろ?」
継ぎ接ぎだらけの呪霊が話しかける。夏油とともに組んだ東雲という男は信用に欠ける。そのうえ部下を軽く見捨てたところで、真人は彼の人物像を測りかねていた。
「ジュウゾウもよく働いてくれました。彼なしではこの作戦は成功しなかったでしょう。帳を張るには彼が必要でした。ものづくりが大好きな人でしたね。」
「捨てた後に壊しておいてよく言うよ。」
「計画を喋ってしまうと困りますから。それに彼もまた私です。喜んでそうするでしょう。彼の作ったハンガーラックを見てみたかった。口惜しいですね。」
真人は肩をすくめる。
こいつは本気で惜しんでいる。しかし計画を漏らさないため鞣造を壊す決心に迷いはなかった。明らかな異常性。こんなのと夏油は知り合いだったのか。彼も苦労しているんだろう。
少し同情した後に目的のものを確認していく。
「娘もいたんだろ?お前のことバレバレじゃん。ほんとに要るの東雲?」
「問題ありません。私には私の目的があります。あなた方の邪魔はしません。それに彼女も一人前のレディ。自身の目と耳で判断し成長していくのです。」
真人はため息をつく。呪詛師界隈は前途洋洋だな。花御に肩を貸して移動していく。
夏油の言葉を思い出す。
──学生の中にいるであろう宿儺の地雷。そして東雲の目的である菜々子の存在。これに注意して花御には作戦を遂行してもらうよ──
花御は作戦上、学生を殺すことは不可能だった。肩に担がれていた花御が真人に零す。
「真人 殺意にブレーキをかけるのはストレスがたまりますね。」
「花御も呪いらしくなってきたね。」
「この仮面男は東雲んとこの
交流会での襲撃後、捕らえた呪詛師の特徴からすぐに所属が割り出された。男の仮面を外して事情を聞こうとするも、既に精神は
「あの呪詛師が絡んでるってこと…?」
「コイツは末端だろうね。現にまともな装備もしてない。必要最低限の準備だが、仮面と残穢にこの精神状態。間違いないよ。使い捨てにしたんだろう。」
東雲。呪詛師界隈に十数年前突如現れた怪物。新型の呪具呪物の開発にも余念がないが、その材料は容易に予測される。同業者からかけられた懸賞金目当ての者や、犯行を追う術師も数多くいたがいずれも行方不明。今や誰も近寄ろうとしない存在。曰く仮面を被った黒づくめの男。曰く白装束を纏う集団。曰く──
東雲が今回の件に関わっており、呪霊呪詛師が徒党を組む異常性について大人達は思案を続ける。
「高専内の侵入者は恐らく七海さんと遭遇した呪霊です。家入さんの解剖待ちですが、間違いないでしょう。」
特級呪霊による肉体改造は急激な肉体変化によるショック死を与える。そんな変死体はそうそう多くなかった。五条は学生の精神を案じて発言する。
「菜々子には…言ってないの?」
「──言わなくてもいいだろう。彼女は幸い祈手を見てない。呪物の流出もここだけに留めた方がいい。」
「ねぇ。ナナコ…だっけ? それってどういう意味?」
交流会一日目の襲撃が終わり、二日目における個人戦は行われなかった。しかし学生からの要望と五条先生の
「名前?菜々子の意味…。わかんないや。」
「あたしの明華はな 夜明けの華って意味なんだ。パパが付けてくれたのよ。」
「へぇー。そうなんだー!」
人懐っこく話しかけてきた明華に、菜々子も邪険にすることなく和やかに会話している。
「パパが菜々子と仲良くしなさいって言ってたよ。かわいい子だって。あたしの方がすごいんだから!」
「明華のパパ?どっかで会ったかなぁ。明華の苗字って何ー?」
「
「しめの。しめの…。うーんやっぱりわかんないや。名前間違いかな?」
「あぁー!加茂ぉ!あんたバット振りなさいよー!」
加茂は虎杖に話しかけていたのでバットを振ってすらいなかった。
「ほら、こいつだよ。こいつとか知らないの?」
特徴的な明華の帽子から出てきた呪力の塊は、形を成して式神となった。
「なにこれ?」「ふるたん!あたしの式神だよ!10歳の誕生日にパパがくれたんだ!」
それは黒いベチャベチャとした塊だったが、どこか愛嬌のある顔をしている。頭の付け根から羽を生やし、変な鳴き声をあげた。
「ほらふるたん。ご挨拶。」
「大事にしてるんだねぇ。ね。あなたのお父さんってどんな人?」
優しく抱えて頭を撫でる明華を見て、菜々子はそう質問した。手から飛び出したふるたんはプルプル頭を振っている。
「何よ急に…。最高のパパだ!あたしのこといっぱい考えてくれてる。」
「そんな人なら忘れないと思うんだけどなぁ…。」
二人はふるたんを囲んで首をひねる。
「まいっか。…そういえば!京都ってどんな感じ?やっぱりお寺ばっかり?建物低いんでしょ?」
「夏は暑っついよー。それは東京も一緒か。でも風がなくてー。…東京ならさ!遊ぶとこいっぱいあるじゃん!今度一緒に──
二人の会話は長く続いたようだった。