ナナコは可愛いですね   作:ゾエア

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マヒトはかわいいですね

 

 

「東雲さぁ…オレらで殺っちゃおうよ。」

 

そんな物騒な言葉を語るのは継ぎ接ぎの人型呪霊だった。照りつける陽光と穏やかな砂浜が領域を構成している。海に浮かぶ特級呪霊の展開した領域内で、真人は額に縫い目のある男──夏油にそう提案した。

 

「ダメだ。というより意味が無い。殺すよりも勝手に動かれる方が面倒だしね。」

 

「んー?あいつは手下に取り憑いてんじゃないのー?たまに顔出してる東雲は全部同じ魂の形だし。」

 

 

真人の術式の特性故か、彼は東雲の特異性の一端に気づいていた。しかしそれは秘密の一部でしかない。そのため夏油は提案を却下した。

 

 

()()が東雲さ。自らの魂の情報を他人に植え付けている。自身のネットワークで同期を行えば全員が情報を得るから経験値も桁違い。面白いやつだよ。」

 

「そういう術式か。魂を弄ると人間はあんまり持たないよ。使い捨ての残機増やしてそこまで強いか?」

 

「いいや、使用する呪物の術式。劉胤廟(りゅういんびょう)だ。自分の意識が混ざったりして使う者はだいたい発狂するんだが…」

 

「それで自分を増やしてるわけね。じゃあ術師連中もそれでやり放題だ。奪ってこようか。」

 

 

真人はやる気を出したように体を起こす。東雲の性格、というより精神性を嫌った真人は余程彼とは仕事したくないらしい。しかし、その仕草も夏油は手で抑える。

 

 

「待て待て。劉胤廟は廟の名の通り建築物だ。大きな部屋ほどある大型の呪物。使用時も儀式並に手間があるし、たまに植え付け先の精神を壊してしまう。私達で使うにはメリットが少ない。」

 

「えー?そいつ取るなり壊すなりしようよー。あいつムカつくんだよね。人間の魂してないけど、呪霊でもないしさ。」

 

「そういうの分かるんだ。うーん。五条悟の封印まで協力すればいいさ。その後は君たちの目的を果たすだけ。東雲も何やら企んでるみたいだが、呪具や呪物だけに警戒すればいい。」

 

 

東雲とは計画を遂行するためのビジネスライクな関係。夏油からのアドバイスとともに、真人はひとまず我慢することにした。

 

東雲は陀艮の領域内には入ってこない。結界内に意識を移すのは手間があるらしい。そのためこの会話を聞いていなかった。

 

「メカ丸を東雲に殺ってもらえばいいじゃん。ちょうど手の内見れるんじゃない?」

 

 

「聞いてみようか。娘にも迷惑をかけたみたいだしね。」

 

波の音が穏やかに響いている。

 

 

 

 

「残念ですが、私はメカマルに手出しできません。」

 

 

早速東雲に聞いた夏油であったが、あえなく断られた。好奇心の赴くままに動く東雲にしては珍しいと感じた夏油は理由を問いただす。

 

 

「理由を聞いてもいいかな?」

 

「明華に怒られてしまいました。()()()()手を出すなと。教育機関としての功績を少し調べようとしていたのですが…。」

 

 

どうやら娘には弱いらしい。肩をすくめた夏油はため息とともに戻っていく。時間の無駄だった。

 

「おやおや 悪態がかわいいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パパ これはなあに?」

 

 

明華がまだ高専に入学するよりも前の出来事。研究所で発見した小さな箱型の呪物。手のひらサイズのトランプケースのような大きさのそれは上面に空いた穴から肉の音を鳴らした。

 

 

「それはメイという女の子です」

 

 

明華は箱の穴を覗き込む。肉襞が奥まで続いていた。

 

 

「…あたしと違う…」

 

「その子は私を助けるためにそういう形をしているのですよ。」

 

 

明華は顎に手を当てて思案する。パパを助けるため。それって…

 

「パパ 助けてほしいの?」

 

「ええ 私は呪術の明日を見届けねばなりません。ですが一人ではとても…」

 

「貴重な協力者も出て行ってしまい…──」

 

明華は背中に抱きついた。そして東雲の顔を見上げる。

 

「ね あたしが助けてあげよっか」

 

「なんと頼もしい 是非ともあなたにしてほしいことがあるのです。」

 

「えへへ!」

 

明華は朗らかに笑った。東雲は優しく明華を抱き上げる。

 

 

 

 

 

「こんばんは! 元気?」「さお…は…ぶぃ

 

研究所内で単純作業をこなす男に明華は話しかけた。男の側頭部は凹み、視線は空を漂っている。目に光を宿さずに、意味の無い声を上げ続けていた。

 

 

「そいつ話しかけても返事しないよ。」

 

見かねたヒノデが明華に呼びかけた。

 

 

「知ってる。祈手になれなかった人達だ。」

 

「栄養剤だけで毎日毎日、ずっと働くなんてえらいじゃない。続けるのが一番大変だってパパも言ってた。」

 

はふ

 

ヒノデに抱っこしてもらった明華は男の頭を優しく撫でる。男は小さく声を発しながらも大人しくしていた。

 

「パパも毎日毎日頑張ってる。だからあたしがパパを特別にしてあげるんだ。」

 

「あたしはパパの『特別』だからね!」

 

「……そうかい…。」

 

 

 

 

「交流会で会うのは()()大事な方…私の助けになってくれる方です。その相手を明華。君にお願いしたいのです。」

 

交流会の前日、東雲は明華にそう伝えた。

 

「……」

 

明華は顔をむくれさせ、手元の式神を抱き寄せる。

 

 

「大丈夫。 きっとすぐお友達になれますよ。」

 

東雲は明華の頭に手を置きそっと勇気づけた。明華は未だ嫉妬の色を隠さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「竹下通りにあるクレープがね!生地がもっちりしてて──」

 

 

目の前の金髪の女の子。パパの特別。私がその筈だったけど…

 

 

 

 

──聞いた 聞いた 色んな楽しみ 色んな友達。見たことない景色。

楽しい!楽しい!

したことない顔!使ったことない声!もっと…もっと…もっと…一緒に…

 

 

 

 

 

「明華 10月31日の夜 お時間はありますか?」

 

 

──突然のパパからの連絡。その日は任務が入っているけど──

 

 

「こちらからお伝えして任務はお休みしましょう。ハロウィンパーティです。ぜひ渋谷で楽しみませんか?」

 

 

「パパと!?行きたい行きたい!」

 

「ではそのように。お友達も後から駆け付けてくれるはずです。とても楽しい夜になりますよ。」

 

 

 

明華は鼻息荒く電話を切った。パパからのお誘い。あたしがパパを助けてあげるんだ。菜々子も、高専のみんなも──

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