空想の錬金術師   作:篠原えれの

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2009年アニメ2話
1.昔話をしようか。


 

 僕はリゼンブールで生まれた。リゼンブールはのどかな村で、僕はこの村の空気が好きだった。父は物心がついたころにはすでに居なくなってしまった。帰ってこない父。僕達が、父がどこに行ったのか聞くだけで母さんが泣いていたのを幼いながらに僕は覚えていた。

 

 僕達は三人兄弟で、僕は兄として二人の面倒をしっかり見るようにと、父にさり気なく言われたのを僕は覚えていた。長男だし、兄弟達のお兄ちゃんだし。弟のエドがよく無茶するだろうから見とけって。アルは優しいからなんでもついて行っちゃうだろうしって。困っている人が居たら助けてあげられる大人になれって。そんなの言われなくても分かるけれど、誰かが泣きそうなときも助けてあげるんだぞって。

 いやそれは父さんもできてないじゃんと僕は後から思いながら僕は父とよく会話した。

 

 しばらく家を留守にする罪悪感からか、父は家を出る前、家のすぐ近くで僕達兄弟のためにブランコを作っていたのを僕は見ていた。あの日はどうしても眠れなくて、朝早くから父の様子を見ていたから。黙って見ていたのに、何故かすぐ気付かれちゃったけど。後から見てあれは父なりのやさしさだったのだと思うけれど、それでも母さんの葬式にすら立ち寄らないは子供の僕達にとって、とても寂しさを覚えた。怒りも。

 

 父が居なくて寂しくて、僕達は父の書斎を漁って錬金術を覚えた。本を読めば錬金術は意外とすぐ理解できた。母が流行病で亡くなってからも先生を見つけて鍛えてもらった。あの島での生活はほんと過酷だったよ。

 

 エドがあまりにも母さんが亡くなってから落ち込んでいたから、どうにかしてあげられないかと思っていたら、エドが言ったんだ。

 

 

 「母さんって、錬金術で生き返らせれないかな 」

 「兄さん。それは禁忌だって本に書いてあったよ」

 

 

 アルがエドを止めるが、やっとエドに正気が戻ったような気がして僕もアルもきちんとエドを止めるなんてできなかった。

 むしろ、もし成功したら母さんが帰ってくる、失敗しても母さんが帰ってこないだけであまりデメリットがないように感じた。持ってかれるなんてこの時の僕達は分かりっこなかったから。

 

 

 「だから内緒な。兄貴もいいだろ?」

 「いいよ。僕も手伝う。」

 「よし。やるぞ。」

 「うん!」

 

 

 そうして僕達の誤ちはこの日から始まったんだ。構築式が完成して、僕達はすっかり盛り上がっていた。

 

 

 「水35L、炭素20㎏、アンモニア4L、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3……よし。構築式を書くぞ」

 「うん」

 

 

 式を書いていく。

 

 

 「魂の情報をこれで流し込んでって」

 

 

 ナイフで擦り傷程度の血を作り、材料に血液を流し込む。今思えば、これだけで母さんが生き返るなんて無謀極まりない試みだったんだと思う。

 

 まず、魂の情報が少なすぎる。あと人を創るためのエネルギーも足りていなかった。材料は揃ってるけど材料を煮込むだけのエンジンを錬金術だけじゃ補えなかった感じがする。もっと具体的な何かが必要だったんだと思う。

 

 僕達三人とも資料を信用しすぎて、構築式に全てを委ねすぎてたんだと思う。

 それでも、故人を肉体と魂ほぼ同時に蘇生することができたとしても。

 あの世界でもそれはご法度で。対価を要求されるに違いはなかった。

 だからこれは無茶をした僕らへの天罰だと僕は思った。

 

 人体錬成を実行したその日。僕達は真理を見た。

 

 

 「兄さん、なんか変だよ……?兄さん!助けて!」

 「リバウンド……いや、対価の欲求か……っ」

 「兄貴!くそ、なんで、だよ……!」

 

 

 エドは左足と、アルは身体を全部持って行かれた。

 そして、僕は真理を見て全てを思い出した変わりに、容姿を持って行かれた。

 

 そう、身体じゃなくて容姿。

 アルみたいに身体を全部もってかれた訳じゃなくて五体満足体はピンピンしてる。

 僕の姿を対価として持ってかれたんだ。

 

 容姿だけでよかったとは思う。やろうと思えばあの真理、きっとこの世界との縁を持って行くことだってできたはずだ。

 

 

 『なるほど、偶然ここに辿り着いたってことか。面白いな。んー、でも厄介ごとは持ってくるな?持ってきたら今度こそお前からこの世界と縁を切ってやる。前回の記憶がなくてよかったなお前。くれてやるよ。それがあればお前は十分兄弟との絆から遠ざかることになるだろ。だから罰だ。オレはお前の世界の願い屋と違って優しくないからな。世界を喰らおうって言うならオレもそれなりに動く。精々あがいてみせろ。愚か者』

 

 

 きっちりそれっぽいこともされてしまってるけど、エド達から僕の記憶を取り上げた訳じゃないんだから、それだけで済んでよかったなとは。

 

 いや真理の殺意半端ないから全然よくないんだけど。

 

 そうやって現実に戻ってきた僕は消えかかっていた。真理に無理やり渡されたその記憶と能力は、真理は奪っていないにも関わらず、僕と兄弟から縁を切るには充分すぎた。

 

 

 ■

 

 

 真理が僕に与えたその記憶は話してしまえばそれは僕の前世のことだった。

 できればその記憶は思い出したくなかった。

 今世では普通の人間として過ごしたかったから。

 僕の前世は、普通じゃなかった。

 

 前世は日本人、とかじゃなくて、僕は本当に変わった人生を前世で過ごしたんだ。日本人にあったことはあるけど、君達読者のような本当の日本人にあったことないし、まだ前世は虫です、鹿ですとか言われた方がマシなレベルのマイナーなファンタジー異世界の住人だった。僕って、異世界の住人の癖に日本人と同じ目線でこの世界を見ることができるんだよね。

 それも変わっているポイントだと思う。

 

 『鋼の錬金術師』ってあっちでも人気だったんだよ。僕も好き。

 巻き込まれるのごめんだけど、もう巻き込まれちゃったから仕方ない。

 

 真理を見るまで記憶がなかったんだから、僕がエドとアルのお兄ちゃんな時点で巻き込まれるのは最早必然だったとは。せめて僕が真理を見なきゃなあとも思ってるよちゃんと。僕は人間ができてるわけじゃない。だって、前世もちゃんとした人間じゃなかったから。

 

 僕が真理を見たせいで、大佐が真理を見る必要がなくなってよかったかわりに死亡率はねあがったんじゃとか思うけど、それはもう仕方ない。僕が大佐護るしかないんじゃないかなあ。

 

 僕の前世はね、日本人的に言うと、僕は、僕がマスターと呼ぶ人間のイマジナリーフレンドだった。分かりやすく言うとそうで、更に大雑把に説明すると僕の種族は精霊の扱いになる。

 僕のマスターは(イマジナリー)を現世に具現化するために、核として人工精霊と呼ばれる小さな魔力みたいな物質を選んでたから、僕はちっぽけでも精霊なのね。

 

 前回を思い出すな。前回も、友達欲しさに僕を創造したマスターが死んだことで僕って死にかけたんだったけ。

 

 僕って所詮は空想の存在(イマジナリーフレンド)だからさ。僕を知ってる唯一の人間が死んだら、いくら一度現世に具現化してるとはいえ、それでも僕は消えてしまう訳だ。エドとアルは僕の前世を知らない。だから、このまま何もしなければ僕は消えてしまう。エドとアルは無事だろうか。エドが頑張ってお兄ちゃんしてるな。あれならきっとアルは大丈夫だ。

 

 

 左足からあんなに血がでて美味しそうだなと僕は思った。

 

 

 本当は兄として今すぐエドを助けてあげたいんだけど僕も意識がいよいよやばくなってきた。

 そもそもこの世界に人工精霊は存在するんだろうか。人工精霊の発生源、塔がないからそもそも僕が具現化すること自体難しいような気がする。

 

 あれ、詰んでない?本当にやばい。

 死ぬじゃん僕。

 どうにか僕を作り変えないと本当に死んでしまう。

 人工精霊がそもそも存在しない世界に僕を人工精霊として現世に放置した真理頭おかしいだろ。

 殺す気しかないじゃん。

 

 とりあえず、僕が生き残る方法は1つある。

 

 それは『吸血』だ。他者から吸血することで僕は生き延びることができる。

 僕の肉体構造編成の内容を人工精霊から血液に変換させる、依存させる。

 それで、こっちの世界でも僕は生き延びることができるはずだ。これは僕があっちで生き延びるために考えたシステムの1つだ。

 

 ただの精霊だった僕にはできない芸当だが、あーだこーだ能力を無理やり与えられることに関して僕は慣れっこだ。

 僕は色々あって、精霊の他に『天使』の性質も備えもつようになった。

 天使の力も真理に与えられたから僕はまだ生き残ることができる。人工精霊がこの世界にないのに完全に消滅しないのは十中八九僕の中にある天使の力のおかげだろう。

 感覚的には、6割『精霊』、4割『天使』って感じだけど。

 無理やりにでも天使の力を酷使しないと僕は死んでしまう。やるしかなかった。

 

 この世界には僕を知っている人はいない。どうにかエドが僕のこと気付いてくれたら。

 

分かるかな。僕だって。

 

 僕は今、青髪赤目に、マスターが好きだったエルフの容姿をしている。これが僕の前世の姿で、今の姿だ。

 今世は金髪に金色の瞳で、クセルクセス人の特徴を受け継いでいたから兄弟とあまり変わらない容姿をしていた。

 あまりにも今世と前世で僕は違い過ぎた。

 

 アルの魂をなんとか近くにあった鎧に定着させたエドはアルの無事を確認後必死になって僕を助けようとする。

 アルは存在丸ごともってかれたが、僕は中途半端にこの世に残っていたのもあってどうしたらいいか分からなかったみたいだ。

 母親の人体錬成と、弟の魂を鎧に定着させたことで腕と足をもってかれたと、嘆くことしかエドはできなかった。

 

 

 「うそだろ。なんで兄貴の消滅を止められないんだ!やり方が違うのか……?!生きたままだもんな……!媒介だって用意したのに!ちくしょう、もう一度だ!片手でもやってやる!言ったじゃねぇか!俺は二人とも助けたいって!なんで兄貴はだめなんだよ!」

 

 

 エドが叫ぶ。

 不甲斐ないお兄ちゃんでごめん。

 そうか、僕も助けようとしてくれたのかとエドの言葉でようやく気付いた。

 体はダメでも僕の魂をもう1つあった鎧に入れようとしたらしい。

 血文字で描いた錬成陣は焦げて鎧はダメになっていた。

 よくリバウンドしなかったなと思いつつ、真理的にはその必要ないと判断したのか、そもそも対価が足りないからアルしか救えなかったのだろう。

 欲張りだな。きらいじゃないよ、そういうの。

 大丈夫。そこはなんとかするから。

 

 「兄貴?!」

 「いただきます」

 

 かぷり。

 意識を取り戻したアルが錬成陣を片手で書こうとするエドを止める前に僕は動く。

 瀕死の弟に到底やるべきことではないとは思うけど。生き残るために、ね。

 僕は、誰でもいいから人の血液が必要だった。

 吸血できそうな人間がエドしかいなかった。

 

 エドの血液は想像通り、とても美味しかった。

 

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