いよいよ、査定の日が近付いてきた。
この数日間、努力を重ねてきたが何も研究成果を得られなかった。
資格を剥奪されることだけは避けなければ。
やはり、生き残るにはあの手しかないのか。
妻に続いて娘まで。妻とは違い娘はまだ幼い。
自殺する可能性は低いだろう。
私は合成獣になった娘も大事に育てられる自信があった。
生きた人間を使えば喋る
それだけで国家錬金術師になれるのに、どうしてみんなやらないんだろうな?
■
ショウ・タッカーが床に錬成陣を書いていく様子を
すぐ姿を消したのもあり、ショウ・タッカーは青髪赤目エルフ耳のミシェルを見ても気のせいとしか思わなかっただろう。
ショウ・タッカーがニーナに睡眠薬を飲ませたのも見ていた。
ショウ・タッカーが犬の夕食に睡眠薬を混ぜたのも見ていた。
異変に気付いたアレキサンダーが夕飯を食べなかったが、ショウ・タッカーは無理やり睡眠薬入りのドックフードをアレキサンダーに食べさせていたのを見てミシェルは確信した。
今日がその実行の日だ。間違いない。
ニーナが寝てくれているのは都合が良い。そのまま寝ていてほしい。
犬も無理やり寝かすのを見ると本気だろう。
ショウ・タッカーの表情に全く正気さがなく、完全にその表情は死んでいた。
いよいよニーナとアレキサンダーが錬成陣の上に乗せられそうだ。
助けるなら、今しかなかった。
「――やっぱり、そうなってしまうんだね。タッカーさん」
ミシェルは背後から近づいてタッカーを気絶させる。
なるべく過労と思われるような気絶のさせ方を目標に。
床に倒れ込んだショウ・タッカーは気絶したとも思ってないだろう。
彼が目を覚めるのはこの現場が残った状態の翌朝だ。
弟達と、本体がこの現場に来たら目覚めるように設定してある。
錬成陣が誤作動したら怖いので、ニーナとアレキサンダーは錬成陣のすぐ近くではあるが確実に錬成陣に触れない場所、二人を運ぶ際にタッカーが実際に使っていた移動式の寝台に寝かす。
これだけでも十分証拠になる。
ニーナとアレキサンダーが中途半端に起きてしまわないよう念入りに再度気絶させる。かわいそうだが下手に起きられても困るのである。
起きて貰いたいときは起きて貰う方法があるので、例え薬が残っていたとしても大丈夫だろう。
僕はじっと、本体がやってくるまで静かになった現場を見張っていた。
全ては、ニーナとアレキサンダーを護るために。
僕は、本体がやってきたら分身体として消滅する予定だ。
■
分身から得た情報によると、等々タッカーさんはやらかしたらしい。
原作通り天気も悪いし、大丈夫かと不安になるが分身曰くタッカー一家は全員無事だそうだ。全員事件現場を押さえるために気絶してるみたいだけど。錬成陣もあるし完全に事故現場みたいになってるそうだ。
タッカーが起きたら色々言い訳されそうな状態ではあるが、ニーナとアレキサンダーは絶対に起きられる状態ではないため言い逃れできる状態ではないみたいだ。
タッカー邸に僕達は等々やってきてしまった。
「今日は降るなこりゃ」
その日は曇って、雷が鳴っていた。エドワードが雲の様子を見て呟く。
アルフォンスは玄関の鐘を鳴らすが、タッカーやニーナが出て来る気配はない。
「こんにちはー。タッカーさん、今日もよろしくお願いします」
静まり返ったタッカー邸は不気味さを増していた。
「誰もいないのかな?」
「タッカーさん?」
「心配ですね」
「そうだね」
エドワードは現場を見つけてしまった。
悲鳴をあげる。寝台に不自然に寝かされているニーナとアレキサンダー、合成獣を錬成する際に使用する錬成陣を見てエドワードは青ざめる。
「これは……タッカーさん、過労ですね。無茶しすぎですよ(娘と犬を使って人語を話す合成獣でも作ろうとしたか?どうかしてるぜ)」
ザックがタッカーを介抱する。アイザックですらこの状況は簡単に理解できた。場に残ってあった錬成陣が全てを物語っていたのだ。
それどころじゃないと錬成陣を見て真実に気付いたエドワードはザックを払いのけ、タッカーの胸ぐらを掴んで無理やり叩き起こそうと引っぱたく。
「おいアンタ!何しようとした!!!!!!!ニーナとアレキサンダーを使って、何を創ろうとした!!!!!!ふざけんな!これが父親のすることかよ!!!!!!」
殴られたタッカーは、そういう設定にしてあったので飛び起きた。
分身は僕達がタッカー邸に入った時点で消滅を確認してある。
痕跡も残らない。
起きてすぐだったということもあり、よく状況を理解できなかったのか、誤魔化すこともなくありのままのことをタッカーは述べた。
「ひどいじゃないか、あともう少しで完成するところだったんだ。私は人語を理解し、話せる合成獣を創ろうとしたんだ。それが過労で失敗するなんて、ついてない。研究費用が確保できなくなる。国家錬金術師ではなくなる。全部、全部、君達のせいだ!ふざけるな!これは私達の生活がかかっているんだぞ!娘だって、そうなることを望んでいた!」
その言葉で、エドワードは完全にキレた。タッカーを全力で殴る。手加減せず。許してはいけない。
「兄さん!」
アルフォンスが静止するがエドワードは止めなかった。本気で壁にタッカーを押さえつけた。
「そんなわけねぇだろ!例え生活ができなくなってしまったとしても、合成獣になってしまったら、もう二度とニーナとアレキサンダーは元に戻らねぇんだ!人の命をなんだと思ってんだ!こんなことが許されるわけないだろ!こんな……人の命をもてあそぶようなことが!」
エドワードの怒号に対し、タッカーも反論した。
「人の命!?はは!!そう、人の命ね!鋼の錬金術師!!君のその手足と、兄の容姿!睡眠障害!それから弟!!それも君が言う人の命をもてあそんだ結果だろ!?」
ニーナがさり気なく父に話してタッカーも勘づいていたのだろう、まさか僕のことまで完全に言い当てるとは思いもしなかった。
面を喰らってしまった。スカー戦でどうせ大佐達には洗脳のこと以外は大体のことを説明するつもりだし、別にバレても困らないけどこれは計算外だったかな。
これに関しては、僕が何もしなくてもエドワードがブチ切れて成敗してくれるので何も言うまい。
どれだけエドワードにボコられてもタッカーは理屈を覆さない。
「がふっ……はははは!同じだよ、君も私も!」
「ちがう!」
「ちがわないさ!目の前に可能性があったから試した!」
「ちがう!」
「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!ごふっ!!」
「ちがう!!俺たち錬金術師は……こんな事……俺は……俺は……!!」
自責の念もあったのか、エドワードはタッカーを殴り続ける。
さすがに止めないと。
僕が動くよりも先に、アルフォンスがエドワードを止めた。
「兄さん、それ以上やったら死んでしまう」
そう言われて、ようやくエドワードはタッカーを離した。
「はは……きれいごとだけでやっていけるかよ……」
「……タッカーさん。それ以上喋ったら今度は僕がブチ切れる」
タッカーはその言葉でようやく黙った。結構な怪我を負っているが大丈夫だ。まだ錬成陣は生きている。気絶させないと、ニーナとアレキサンダーが合成獣にされてしまう。
「数日前に、君の姿を見かけた。娘が言っていたのと大体同じ容姿をしていたので、後からすぐに君だと分かったよ。すぐに姿が消えてしまったから幻だと思ったんだがね。よく考えるとアレは君が得意とする認識妨害の錬金術だったんじゃないかい?君はこの数日間、なんらかの方法で弟達と過ごしながらずっと僕を見張っていた。違うかね」
「……お喋りがすぎるよ、タッカーさん」
弟達に聞かれちゃったじゃないか。あぁ、もう。めんどくさい。
タッカーが全てを話す前に僕は彼を再度気絶させた。
僕が相手を気絶させることに関して、達人だというのは弟達も知っている。
「兄貴、今の話」
「妄言だよ。世の中には知らなくていいこともあるんだよ、エド」
僕はまた、弟達を洗脳してしまった。