空想の錬金術師   作:篠原えれの

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傷の男邂逅編


 

 翌日。東方司令部全体がなんやら不穏な雰囲気になっていた。

 まぁ、今日がそのスカーと交戦する日だろう。注意喚起の話題があがっていた。弟達はニーナのことだと思ったらしく、これ以上ニーナのことで落ち込みたくなかったのか、雨が降っていたが気分的に外の空気が吸いたかったのか、そそくさと司令部を後にしていた。僕もザックと一緒に弟達の後を追いかけた。

 

 「兄さん、ニーナが助かってよかったけど……」

 「あんなことになってるとは思いもしなかったな……」

 

 弟達二人は見事に落ち込んでるようだった。あれで落ち込まないのもどうかと思うので僕もそこそこ元気がないフリをしている。

 アルがエドに話す。

 

 「お医者さんによれば薬の後遺症らしいよ。ヒューズ中佐もむやみやたら被害者を刺激した自分が悪いって落ち込んでたし。刺激って言われてもヒューズ中佐はニーナちゃんのお見舞いに行って、たまたまニーナちゃんが起きられただけなのにね。ヒューズ中佐も、ニーナも、どっちも悪くないと思うんだ僕……」

 「ほんとにな……」

 

 僕は弟達の会話を聞きながら周囲を警戒する。やはりエドはタッカーと言い争ったことでこの間から色々と限界だったようだ。落ち込んだエドをアルフォンスが励ましていた。会話は大体原作と話していた内容と一緒だ。割愛する。僕は、それどころじゃなかったから。

 

 スカーの姿を見かけた。

 殺気をなるべく隠し、気配を隠すことに徹する。

 憲兵の一人がこちらにやってくる気配も分かる。

 申し訳ないが、彼は助けてあげられない。

 ここから先は、僕も死ぬ覚悟でスカーに挑まないといけない。

 僕は、スカーを洗脳する。

 アイザックはこれから、ザックでもなく、イシュヴァール人のザクになる。打ち合わせ通りに。

 僕はアイザックとアイコンタクトを取りつつ、来るべき瞬間を待ち望んだ。

 いよいよだ。

 

 「あ!いたいた!エドワードさん!エドワード・エルリックさん!」

 「……エルリック?」

 「ああ無事でよかった!探しましたよ!」

 「エドワード……エルリック……」

 「何?俺に用事?」

 「至急本部に戻るようにとの事です。お兄さんは?お兄さんにも知らせないと。実は連続殺人犯がこの……」

 「兄貴?兄貴ならすぐ近くに居るけ……ど……」

 「エドワード・エルリック……鋼の錬金術師!!」

 

 僕は気配を消すことに徹していた。だから憲兵の彼も僕が此処にいると気付かない。スカーもまだ気付いてない様子だ。

 エドは僕が居ないことよりも先に身の危険を一目散に感じ取る。

 こいつが連続殺人犯だ。

 憲兵が銃で応戦しようとする。

 

 「額に傷の……!」

 「よせ!!」

 

 スカーはエドが止めるよりも速く、憲兵を殺す。

 これで、エドもスカーの危険度がよく分かったはずだ。

 怯んで動けなかったエドとアルも時計台の鐘がなったおかげで動けるようになる。

 

 「くっそ、兄貴どこだよ」

 「こっち。アル、路地裏はスカー相手だと危険だよ」

 「え、なんで?!」

 「戦ったら分かるよ」

 

 正当防衛だ。まずはアームストロング少佐がやっていた錬金術を参考に、僕は錬金術で道路を破壊する。瓦礫と衝撃波がスカーに襲い掛かる。

 それをスカーは錬金術で次々に破壊。瓦礫による衝撃波も器用に避けた。

 

 「そうか、僕があのまま路地裏で道を防いでも破壊されるだけなのか」

 「ふん、どこでその情報を手に入れたのか知らんが戦闘経験は豊富そうだな」

 「君ほどの戦士に褒めて貰えると助かるよ。僕も一応国家錬金術師だよ、スカー。空想の錬金術師、ミシェル・エルリックだ。弟達より僕を狙った方が戦い涯があるんじゃないかな!」

 

 認識妨害の錬金術を使い、姿を消す。僕を視界に入れたスカーは僕がどこに居るか分からなくなったはずだ。

 

 「なるほど、これが噂に聞く認識妨害の錬金術。影も残さずに姿を消せる錬金術。逃亡、暗殺には向いているスキルだ。接近戦では場所が割れるほか、あまり意味を持たなさそうであるが?」

 「それは僕が、あることに特化した達人だからだよ」

 

 スカーに近付き、1回目の洗脳を施す。スカーは元々、ザクというイシュヴァール人の男と共に行動していたと洗脳する。ザクという男が錬金術を使えることや様々な関係性を追加していく。このセリフも、弟達には僕が相手を気絶させるスぺシャリストだと思うだけで、洗脳のことだとは思わないだろう。気絶させるつもりで攻撃した訳じゃないから当然反撃もされる訳で。

 

 「(洗脳には成功した。あとはザックの存在を消滅させる必要があるけど、これはまぁあとでするとして)……やっぱ僕の体は正直だね」

 「どうした、随分と眠そうだな」

 

 スカーに対し、洗脳を施したことで急激な眠気に襲われる。人体破壊の錬金術が目の前まで迫ってくる。僕はいつ倒れてもいいように認識妨害の錬金術を解除し、壁を錬成。足止めだ。

 

「ふむ、小細工はできるみたいだな」

 

 人体破壊では壁を破壊することはできない。その隙に、スカーと距離を取ることに成功する。

 

 「マジで何してんだ兄貴、睡眠障害持ちなのに何かっこつけて前線でてんだ。ザックさん兄貴頼んだ」

 

 「任されました(氷結系の錬金術は使えねぇな、まったく)」

 

 ザックが今にも倒れそうなミシェルを抱える。

 

 「(予定通り洗脳はできたから、あとはイシュヴァール人のザクになるだけだね)」

 「(はん、好きにしろ。そうなったらあとは敵同士だな)」

 「(政府打倒っていう目的は最終的には一致するんだし、それまでの間だけね。よろしく)」

 

 僕は弟達がスカーと交戦している間に、この日のために用意していた輸血パックを1つ飲み干す。これで眠気が幾分かマシになるのだから安いものだ。

 

 またすぐ眠くなることするんだけどさ。まず、行うのは洗脳の応用。複数人同時、地域全域に作用するような洗脳は最早ただの洗脳ではなくなる。僕はこれを簡単に常識改変と呼んでいる。歴史を変える勢いで改変するのだ。輸血パックで補給しとかないと体力が持たないのは間違いない。

 

 「(さぁ、これで君はイシュヴァール人のザクになった。頼んだよ、この世界の明日のためにも)」

 

 エドの血液をほとんど使って発動されるこの能力は僕の身体を簡単に蝕む。文字通り世界を変えるのだからこれぐらいの代償はつきものだ。2袋目の輸血パックを僕は飲み干す。

 

 さぁ、これで僕の助手。ザック・テイラーは完全に消滅した。かわりにイシュヴァール人のザクという男の悪事がこの世界に追加された。次に僕達の前に現れるのはいつかな。再現することもできるけど、きっと次に会うのは会ったとしてもアイザックとしてだろう。もう二度とザックとしての彼には出会えない。

 

 最初からアイザックがイシュヴァール人と共謀していたとかいう設定にしてもよかったけどさ、ほら、僕の洗脳ってニーナを見て貰ったら分かるように結構相手に負担がかかるんだよね。弟達にも相当無理させてると思う。

 

 国家錬金術師殺害を生業にしたスカーにいきなりそれを強いるのはちょっと酷じゃない?アイザックをイシュヴァール人にしたのは僕なりの優しさかな。

 

 どうせメイのせいで嘘がバレるのだとしてもね。

 

 バレた時はバレた時で第二の洗脳が再度発動するよう保険もかけといた。アイザックとなっても彼とスカーは親友同士であるという設定が生かされる予定だ。

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