空想の錬金術師   作:篠原えれの

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 エドの機械鎧がやっと破壊された。幻覚も解除していいかな。

 

 「兄さん、どうしたの!幻覚張って!エドワード兄さんが!」

 「ごめん、そうしたいのは間違いないんだけど」

 「限界そうだな。倒れないだけ誉めてやろう。その姿もまやかしとは」

 

 血液切れで僕も限界が近付いていた。顔面蒼白の僕にアルも気付く。

 僕自身の幻覚もいよいよ解除されそうだし。血液のストックはあともう1袋あるけど、アルの目の前で堂々と飲むわけにもね。

 直接エドから貰うでいいや。

 霧が濃くなりすぎて大佐達ここまで辿りつけないと思うんだよね。

 まだ大佐達来てないし、ちょっとやばいかもね。

 

 「神に祈る間をやろう」

 「あいにくだけど祈りたい神サマがいないんでね」

 「あんたが狙ってるのは俺とクソ兄貴だけか?弟……アルも殺す気か?」

 「邪魔する者があれば排除するが、そうだ。今、用があるのは鋼の錬金術師……貴様と、空想の錬金術師だけだ」

 「そうか、じゃあ約束しろ。弟には手を出さないと。俺を殺せばクソ兄貴も一週間後には勝手に死ぬ。ていうかもうやばそうだから今俺を殺せばクソ兄貴も勝手にもれなく死ぬんじゃねーかな。」

 「ほう。何もかもが変わってる兄弟だ。兄は慕わぬのか」

 「大事だよ。できれば生きて欲しいと思ってる。でも、無理なんだ。俺が死ぬと兄貴も死ぬ。そういう関係なんだよ、俺達」

 「何言ってんだよ。ミシェル兄さん、エドワード兄さん止めないと!なんで止めないんだよ。二人とも何考えてんだよ」

 「分かった、約束は守ろう。ザク。殺すのはこの二人だけだ」

 「了解した(この状況、私も空想の錬金術師を殺さないといけないようになってきた。どうするべきか)」

 

 アルフォンスの悲鳴が聞こえる。

 大佐達はまだ来ていない。やはり幻覚を使い過ぎた弊害によるものだ。

 威嚇射撃だけでも十分役立つんだなぁと思いつつ、僕は行動に出た。

 正直、僕はもう限界だった。

 今すぐ弟の血液が欲しくてたまらなかった。

 

 だから僕はどうするか悩んでいたザクの包囲を潜り抜けることができたし、エドの前に立ちふさがることができた。

 

 「なにッ!?」

 

 大量の血しぶきが舞い上がった。

 

 ■

 

 「これはひどいな」

 「何をしたらこんなことになるんですかねぇ」

 「これは、どういう状況だ」

 

 現場は異様な空気に包まれていた。

 雨が降っていたのに地面には大量の血痕が付着していた。

 霧が濃く、その上まだ戦闘が続いてる気配すらあった。

 

 「スカー!どうする。あのバケモン、何度殺しても再生しやがる!(暴走したら容赦なくなるとは聞いていたが、あまりにも容赦無さすぎだろう。バケモノめ)」

「慌てるな。恐らく大半は殺したように見える幻覚のものだ。殺した感触がしなかった。本当に殺したのはあの1回切りだろう。やられたな。このような切り札があったとは」

 

 スカーは、暴走したミシェルとの戦闘が続いていた。

 正気がなく、繰り出してくる攻撃も殺傷性が高いものばかりであり、避けないと致命傷を負うものが多かった。

 

 「あれではまるで理性を失くした吸血鬼ではないか。エルリック兄弟とは、本当に不思議が多いものだ」

「霧が晴れてきた。さすがに軍に包囲されてそうだな。あの化け物はどこに……!」

 

 霧が晴れた。それすなわち、ミシェルの限界を意味する。元々最低限の幻覚しか行えなかったのが全く幻覚を使用することができなくなったのである。ミシェルは、エドワードの首筋にむしゃぶりついた。吸血を熱心に行っていた。死にかけた体はボロボロで、容姿を誤魔化すことなんて出来る状態ではなかった。なお、エドワードの体はミシェルの血液を全体に浴び、真っ赤になっていた。何が起きたのか分からず、彼は放心していた。

 それは、アルフォンスに関しても同様だった。

 

 銃声が聞こえる。

 霧が晴れて、安全を確保できると確信したマスタング大佐による威嚇射撃だった。

 

 「そこまでだ。本当にひどいありさまだな。……鋼の。そこで眠っているバケモノについてあらいざらい説明しなさい」

「バケモノじゃねーよ!さっきまでの戦闘見てたんなら十分バケモノかもしれねぇけどよ。……兄貴だよ、大佐」

 

 血まみれのエドワードを見て、大佐は呆気にとられた。

 ミシェルによる吸血を大佐達はばっちり見てしまっていたのだ。エドワードを助けなければと思ったが、エドワードは抵抗するまでもなく、それを通り越して放心していた様子であるし、アルフォンスの鎧に中身はないしで。何から手をつけたらいいのか分からなかった。エドワードのそれが返り血かどうかも分からない。ミシェルらしい人物を見ると明らかに首を一度吹き飛ばされたあとがあり、彼の首から下は血だらけであった。そのほとんどがエドワードにかかったのだろうかと予測するしかなかった。

 今まで見ていたアルフォンスはどこに等様々な思いがあったが、スカーが、幻覚がどうのこうの喋っていたので、ミシェルの力によるものだろうとマスタングは無理やり自分を納得させた。

 今までマスタングは自分だけがエルリック兄弟の秘密を知るのだと思っていたが、まだまだ彼らの闇は深そうであるとも再認識した。

 

 「そこの青髪赤目の耳長がミシェル・エルリックだと?正気か。耳長なのはよくても明らかに首が吹っ飛ばされて再生した後があるだろう」

 

 「まあそうなるのが普通だよな。大佐、訳はあとで話す。――……煮るなり焼くなり、好きにしてくれ。」

 

 「処遇はあとで好きなだけどうにかできるが、まずはそこの2人からだな。凶悪犯2人を相手に生き残れたのはさすがとしか言いようがないが、国家錬金術師殺しの容疑者……この状況を見て明らかになったな。タッカー氏の殺害事件も貴様らの犯行だな?」

 

 「……錬金術師とは元来あるべき姿の物へと変形するもの……それすなわち万物の創造主たる神への冒涜。我は神の代行者として裁きをくだす者なり!」

 

 「私はそれに従じる者だ。貴様らはこの国がなにをやろうとしてるのか知らぬのだ!これは罰である!」

 

 「(国がなにをやろうとしてるのか知らぬのか、だと?確かに争いが多くなっては来ているが――)思い上がるな。どのような根拠があれどだからって一方的に人を殺していい理由にならない!世の中に錬金術師は数多いるが、国家資格を持つ者ばかり狙うというのはどういうことだ?」

 

 「……どうあっても邪魔をすると言うのなら貴様も排除するまで」

 

 「……おもしろい!」

 

 マスタングは銃をリザの方に投げ捨てる。火を放つつもりだ。なお絶賛この場は雨が降り続けており、湿気も凄まじくとても火花をだせる状況ではなかった。

 

 「マスタング大佐!」

 

 「おまえ達は手を出すな」

 

 「マスタング……国家錬金術師の?」

 

 「いかにも!「焔の錬金術師」ロイ・マスタングだ!」

 

 「神の道に背きし者が裁きを受けに自ら出向いてくるとは……今日はなんと佳き日よ!!」

 

 「私を焔の錬金術師と知ってなお戦いを挑むか!!愚か者め!」

 

 その刹那、ホークアイが大佐を蹴り飛ばす。危機一髪、マスタングはスカーの人体破壊を回避することができた。

 

「いきなり何をするんだ君は!」

「雨の日は無能なんですから下がってください大佐!」

「あ、そうか。こう湿ってちゃ火花だせねぇよな」

 

 無能が炸裂した瞬間である。無能と部下に罵られマスタングは精神的ショックを受ける。

 

 「わざわざ出向いて来た上に焔が出せぬとは好都合この上ない。国家錬金術師!そして我が使命を邪魔する者!この場の全員滅ぼす!!行くぞ、我が友よ」

 「――後ろだ!」

 「やってみるがよい」

 

 アームストロング少佐がスカーに挑んでいく。その巨大な体と拳を生かして繰り出された攻撃のパワーは凄まじく、壁を粉砕するほど。

 

 「む……新手か……!!」

 「奴が豪腕の錬金術師だ、友よ」

 「ふぅ――む。吾輩の一撃をかわすとは。やりおる、やりおる。国家に仇なす不届き者よ。この場の全員滅ぼす……と言ったな。笑止!!ならばまず!!この吾輩を倒してみせよ!!この豪腕の錬金術師……アレックス・ルイ・アームストロングをな!!」

 「……今日はまったく次から次へと……こちらから出向く手間が省けるというものだ。これも神の加護か!」

 「兆しは我らにあり(少佐一人だしな。大佐は無能状態だし、やろうと思えばいくらでもどうにかできる。今後味方となる連中ばかりだからできれば殺したくはないのだがな)」

 

 少佐が小岩をおもむろに放り投げる。錬金術で殺傷力が高い突起物に変化させるためだ。

 

 「ふっふ……やはり引かぬか。ならばその勇気に敬意を表して見せてやろう!わがアームストロング家に代々伝わりし芸術的錬金術を!!」

 

 錬金術で変化したそれを、勢いよく投げつける。

 スカーは当然、その攻撃を避けられる。

 

 「もう一発!」

 「!!」

 

 地面に亀裂が走り、スカーとザク目掛けて錬金術が放たれる。

 鋭い針山のように地面が盛り上がる。

 それをスカーは物体破壊の錬金術で破壊していく。

 

 「少佐!あんまり市街を破壊せんでください!」

 

 ハボックが悲鳴をあげる。後処理するのは一体誰だと思ってるんだという意味の苦情だ。そういう意味ではミシェルも盛大に街を破壊してるので人のことは言えない。むっちゃ寝落ちしてるし現行犯でもないので誰にも文句言われないのだが。エドワードは戦闘を少佐に任せながら血をぬぐっっていた。想像以上に血まみれだった。

 ハボックの苦情に対して、アームストロング少佐が反省してる様子はまったくなさそうでる。

 

 「何を言う!!破壊の裏に創造あり!創造の裏に破壊あり!破壊と創造は表裏一体!!壊して創る!!これすなわち大宇宙の法則なり!!」

 「何故脱ぐ」

 「て言うかなんてムチャな錬金術……」

 

 上半身の筋肉美を見せつけた少佐は、敵味方問わず盛大に周囲からドン引きされていた。

 

 「なぁに……同じ錬金術師ならムチャとは思わんさ。まだもう一人の方はよく分からぬが、お主もそうなのだろう。スカー、そしてザクと名乗る男よ」

 「錬金術師……奴も錬金術師だと言うのか」

 「(兄貴の奴、幻覚も使わないで寝落ちしてる。相当疲れてんだな。)やっぱりそうか。ザクって奴はアイザックみたいな錬金術使うから分かってたけどよ。アルはそいつの錬成でやられたんだ。氷柱以外に大剣も作れる。ものすげー速さで錬成陣描いてたから氷とかの方が得意なんだろうけど」

 「なるほど、それほどの力量がある錬金術師なら、通常の錬金術以外に氷結の錬金術師と似たようなことはできると考えた方がいいな。スカーの方は「分解」の過程で錬成を止めている、ということか。錬金術の錬成過程は、大きく分けて「理解」「分解」「再構築」の3つになるからな。そういうことか」

 「自分も錬金術師って……じゃぁ奴の言う神の道に自ら背いてるじゃないですか!」

 「ああ……。しかも狙うのはきまって国家資格を持つ者というのはいったい…」

 

 ミシェルが起きていたらイシュヴァール人がどうのこうの好き放題喋るのだろうが、力尽きて寝落ちしているためほぼ原作通りの展開が起きている。

 

 ザクは目的(アルの破壊とエドの機械鎧破壊)を達成したので必要最低限の動きしかしてない他、スカーやアームストロング少佐が死なない程度に攻撃を繰り出している。大剣装備のままだ。氷柱や氷の衝撃波、水蒸気爆発等色々出来る状態ではあるが、再度攻撃をしてしまったら被害が尋常では無さそうなのでよほどスカーに氷攻撃を指示されない限りはしない方針だ。

 

 「(ふむ……大柄な体に似合わぬ軽いフットワークと……常人ばなれの破壊力。更に錬金術とのコンビネーション。たしかにやっかいではあるが………)」

 

 「追いつめたり!!」

 「(……ここぞというところで大振りになる。ここだ!!)」

 

 人体破壊の錬金術を繰り出そうとする。それをまっていたかのように少佐はスカーを相手に間合いを開けていく。

 

 「射撃だ、避けろ!」

 「!!」

 

 リザによる射撃だ。

 

 「やったか!?」

 「速いですね。一発かすっただけです」

 

 スカーはリザの射撃を避けられていた。サングラスが外れ、褐色の肌に赤目の容姿があらわになる。ザクも容姿バレしないようにサングラスをしている。この国でイシュヴァール人は目立つ。ミシェルなりに配慮はしていた。

 

 「褐色の肌に赤目の……!!」

 「……イシュヴァールの民か……!!」

 

 容姿がバレ、ザクが何も言わないとはいえ反撃をしないあたり疲弊しているのだろうとスカーは判断する。

 

 「これ以上の戦闘は厳しいか、ザク。」

 「すまん、あまり役立てそうにない。錬成陣が破損した。修復に時間がかかる(殺さないためとはいえ、余計な言い訳を考えないといけないのはめんどくさいな)」

 「……分が悪いか。(ザクの氷結系の錬金術でと思ったがこの人数では錬成陣を描けるような隙もないな)」

 

 ザクはスカーの視線で、地下に逃げるんだなと察する。

 

 「おっと!この包囲から逃れられると思っているのかね」

 

 問答無用。地面に大穴を開け、スカーとザクはその大穴に逃げて行く。

 

 「うわあああ!!」

 「あ……野郎地下水道に!!」

 

 包囲をしていた憲兵達が悲鳴をあげ、大穴を除いたハボックは驚愕を隠せない。まさかこんなことをするとは。

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