エドは欲深い。知識欲、探求心の塊だ。絶対作り方を知りたいとか聞くに決まっている。大佐が察して止めてくれたら嬉しいけど、原作でも少佐はエドの知りたがりを止められなかったし、ここは僕の出番かな。どうせ止めても無駄だと分かっても、マルコーの信用を得られるのは大きいかもしれない。エドは多分僕に黙ってでも、シェスカに頼って賢者の石の作り方を把握するでしょ。
「エド。ダメだよ。資料を見せてくれなんて言わない方がいい。」
「どうしてだよ、兄貴。やっと手掛かりが見つかったのに。」
「エド。マルコーさんの後悔に満ちた表情を君は読み取れないのかい。この石、多分結構とんでもない曰く付きだよ。知ったら絶対に、後悔する。知らない方がいい。」
「それでも、俺達は知らないといけないんだよ。アルもやべぇけど、兄貴だって相当しんどいだろ。俺が居ないと一週間も生きていけない癖に、なんでそんなに欲深くねぇんだ。俺はともかく、元の身体に戻らないと猶予のない二人のために。俺は、知る必要がある。マルコーさん、この通りだ。資料を見せてほしい!」
頭を下げる勢いでエドはマルコーに頼る。
その様子に、マルコーは驚きを隠せない。
「その少年が言う通り、これはどうしようもない私の過去の過ちの1つだ。マスタング大佐、この2人はいったい……。」
「国家錬金術師だ。2人ともそうなる。私が推薦した。元の体に戻らないと猶予がない、という話は本当だ。上には、知らせられない内容にはなるがね。」
「こんな子供まで……。マスタング大佐も経験したはずだ、あの内乱の醜さ、過酷さを。どうしてこの二人を錬金術師に?知らないはずがない。人間兵器としての己の在り方に耐えられず、資格を返上した術師が何人いたことか!」
「……生きる希望を見出すためにかな。私が初めて出会った時、弟の方は廃人のようになっていたからね。元の体に戻るという目的だけでも、十分彼らは生きる目標になると私は思ったまで」
「バカなマネだっていうのは、わかってる!それでも!!……それでも、目的を果たすまでは針のムシロだろうが座り続けなきゃならないんだ……!!」
■
マルコーに、僕達のことを話した。人体錬成のこと、アルのこと、吸血のこと。なんでマスタング大佐がこんなところに居るのかも聞かれたが、それも話した。詳細は名誉のために省いたが言っちゃえば結婚の挨拶のために里帰りだもんね。
「結婚するんですか、はぁ。また急な話で、おめでとうございます」
「挨拶に行く途中で、偶然ドクターを見かけただけなんですよ。騒がせて申し訳ない」
「俺は、その……防犯のために男装してるだけ。できればマルコーさんも俺のことは男扱いしてくれるとうれしいかな。最近物騒だし」
「それは別にいいですが……」
「マルコーさん。それで、資料は見せて貰えるんですか」
「特定人物の魂の錬成を成し遂げられた君なら、完全な賢者の石を作り出す事はできるかもしれん。……それでも、資料を見せることはできん!兄の命がかかっているとは聞いた、それでもこれは見せられないものだ。結婚するのなら、なおさら。君のお兄さんの判断は、ただしい。話は、終わりだ。帰ってくれ。お兄さんには申し訳ないけどね、元の身体に戻るだなどと……それしきの事のために石を欲してはいかん」
「ありがとう、マルコーさん。優しいんだね」
にこっと、僕はマルコーに笑顔を見せる。マルコーさん事態は嫌いじゃないんだよな僕。本当に優しい人だ。エドと大佐が結婚すると聞いて、尚更賢者の石の資料を見せる訳にはいかないと思ったようである。でないと、その生活が破綻する恐れまであったから。
「なにが優しいだ。全然優しくないだろ!兄貴、なんでもうちょっとねばらないんだよ!」
「この人は十分、僕達の事を考えてくれてるよ。それぐらい、危険なものなんだよ。賢者の石って。知れば不幸になる代物なんだよ。地獄を見るよ」
「兄貴。くっそ。なにがいけないんだよ!俺達、とっくの昔に地獄なら見てきただろ!」
「それに大佐も巻き込んだら駄目だと僕は思うけど」
「よしなさい、二人とも。鋼のも冷静になりなさい。こればかりは空想のが正しい。私としては地獄の果てまでついていく覚悟はあるがね」
とっつきあいの喧嘩になりそうであるが、見せるかどうかはマルコーさんだ。物分かりのいい僕を見て、マルコーは申し訳なさそうに「駄目だ」と言い切った。
「帰ってくれ」
マルコーはミシェル達が帰っていく様子を窓からじっとみていた。
マルコーは思った。ミシェルになら資料を見せてもいいかもしれない。いや、よくないのだが。犠牲者が出る石なんて、そんなものの資料を渡されても困るだけだろう。
それでもマルコーは彼に生きて欲しいと思った。
彼なら、資料の場所を託しても弟夫婦を巻き込まないで賢者の石の作り方を理解するだろう。生きて欲しい。吸血しないと生きられない身体になってしまったというのに、彼は焦るどころか元に戻ることを拒絶してるようではあった。まるで死ぬことを望んでいる風にも見えた。
ほっとけない。
マルコーは考えた。彼に見せても資料を探すなんてことはしなさそうだ。やはり賢者の石の資料を見たがってた鋼の錬金術師を頼るしかないのだろうか。マスタング大佐を巻き込むことになるのは心苦しいが、あの様子なら大丈夫だろう。
マルコーは悩んだ。彼を見捨てるのは、惜しいと。
その様子を、ミシェルは姿を消しながらじっと見ていた。
■
僕達は再びリゼンブール行きの列車を待つことになった。
僕とエドで喧嘩してしまったので空気がすっかり死んでいたが、マルコーのことは原作通り中央には報告しない方針で良さそうだ。マスタング大佐も、彼に色々思うところがあったらしい。
「さっきはすまなかった……」
「マルコーさん……」
マルコーが慌てて、手紙をもって駅までやってくる。
「私の研究資料が隠してある場所だ。真実を知っても後悔しないと言うならこれを見なさい。悩んだが、君たちのことが心配になってね。――とくに1番上の、お兄さん。何故そんなに、この世に対して未練がない素振りをするのか分からないけどね。一方的に残される者の悲しみも知った方がいい。だから私は、君にこの資料を託す。少しでも生きる希望を見出してくれたまえ」
そう言って、マルコーは僕ではなくエドに資料の場所を記した手紙を託した。あのやりとりだけで僕が死にたがってるってよく分かったなマルコーさん。こわっ。それを抜いても、確かに僕に託しても調べないのはもう目に見えてたからね。あえて興味津々なエドに渡すとか分かってるじゃん。マルコーさんがそれを渡したのなら、僕はもうエドを止めないよ。
僕が死にたがりなのは、もう仕方ないんだよ。
僕が前世の記憶を思い出した時点で、とっくの昔に、ミシェル・エルリックなんて存在は死んじゃってるんだから。
マルコーさんから手紙を受け取ったエドは、その言われように驚きつつも場所が聞けたのはありがたかったので軽く彼に会釈する。
そのあと盛大に僕とエドで大喧嘩したのは言うまでもない。