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「ティム・マルコー…………えーと……ティム・マルコーの賢者の石に関する研究資料……。やっぱり目録に載ってませんね。本館も分館も新しく入ったものは必ずチェックして目録に記しますからね。ここに無いって事は、そんな資料は存在しないか、あっても先日の火災で焼失したって事でしょう。――ってもしもし?」
エドはダメ元で国立中央図書館に駆け込んで見てみたが、やはりマルコーの研究資料は存在しなかった。
あまりにもあんまりである。
賢者の石とは?その成り立ち、作り方からすべてが分かったかもしれないのに。
エドはあまりにもショックで座り込んで魂の抜けた表情をする。
それをミシェルが受付に謝りながら、なんとか起こそうとする。
「すみません、こんな受付の目の前で憔悴しちゃって」
「大丈夫だけど、君は平気なのね……」
「まぁ、僕は付き添いで来てるだけだからね。あと護衛も兼ねてるかも。用事があるのはエドとアルぐらいだよ」
「そうですか」
そう言い切ったミシェルも色んな意味で容赦なかったが。
ミシェルの言葉に受付の女性も返事をするぐらいしかできなかった。
「エド、それにアルも。そんなに落ち込んでも仕方ないでしょー」
「だって、資料があったかもしれないのに、火事で燃えてなくなるって、あんまりだ……。」
「むしろなんで兄さんはそんなに落ち込んでないのさ」
ギラリ。エドとアルは悟った。これは小声で説教を垂れ流すパターンのクソ兄貴だと。
詰め寄られて小声で猛抗議を受ける。
「そりゃぁ、この間言った通りだね。僕はマルコーさんの研究には興味ないの。天然の賢者の石には興味あるけど。マルコーさんのあれは人工物だし。ろくでもない方法で作ってあるかもしれない研究資料なんて必要ないんだよ。むしろ見たら駄目ってマルコーさんと一緒になってNGだしたでしょう」
「だぁぁくそ。なんで兄貴はじゃぁ来るんだよ。用事ないなら宿舎で寝てたらいいじゃねーか!」
「ロス少尉とブロッシュ軍曹だけだと君達簡単に振り切れるから見張りに決まってるじゃん。無茶しないかどうかと、それから僕も護衛兼ねてるから」
「嫌な護衛じゃん!学校の先生か!」
「嫌な護衛でも学校の先生でも結構です!」
「「ふん!!」」
最早名物となっているエルリック兄弟の喧嘩であるが、この兄弟本当によく喧嘩をする。主に長男と次男が。
それを見かねた別の司書が、余計かもしれないがと助け船をだした。
「あ!シェスカなら知ってるかも。ほら、この前まで第一分館にいた……」
「ああ!シェスカの住所なら調べればすぐわかるわ。会ってみる?」
「誰?分館の蔵書に詳しい人?」
「詳しいって言うか……あれは文字通り「本の虫」ね」
ぱぁと、エドが嬉しそうに「教えて」と尋ねる。
「行くの?」
「行きたいに決まってるだろ、兄貴は別に来なくていいですぅー」
「僕、そこまで鬼じゃないよ。まったくもう。」
「え、来るの?」
「そりゃぁ護衛だし」
「え――」
「兄さん、我儘言ったら駄目だよ。気持ちは分かるけど」
「……だな」
「(むすっとしてるけど、あれでいいのかしら。というか空想の錬金術師殿も私達の護衛対象なんだけど護衛気取りしないで欲しいわ)」
「(ほんとですよね、どうするものか。俺ら気まずいですよね)」
仲直りしたのかまだ喧嘩が続いているのかよく分からないような状況にロス少尉やブロッシュ軍曹は困惑する。
二人は兄弟が行きたいところを行くしかないので、じっとこの険悪ムードに耐えた。
■
「あれ――――?留守ですかね?」
「明かりがついてるから居ると思うけど。失礼します……うわっ!なんだこの本の山!!」
「本当に人が住んでるんですかここ!?」
住んでるんだなぁ。本が崩れて下敷きになってるからなんとかして助け出さないと。
「え、兄貴?」
「これだけの本の山だから……崩れて下敷きになってるかも。探すの手伝って」
「うえぇ?!」
「シェスカさーん!いらっしゃいませんかー?」
「おーい!」
探すこと5分、アルが崩れた本の山を見つける。
「だれか――……」
「あれだよ!兄さん!あの本の山!人が!!人が埋まってる!!」
「うわぁあ掘れ掘れ!!」
大急ぎで助けを求める声を元に本をよけていく。
「あああああ、すみません!すみません!!うっかり本の山を崩してしまって……このまま死ぬかと思いました。ありがとうございます~~~!」
「どーいたしまして……」
ぜえぜえ、とエド達はやっとのことでシェスカを助け出す。
「お姉さんがシェスカさん?第一分館に詳しいかもって紹介してもらって来たんだ僕達」
「あ、はい。私がシェスカです。私、本が大好きなもので、分館に就職が決まった時はすごく嬉しかったのですが……でも、本が好きすぎてその……仕事中だという事を忘れて本ばかり読んでいたものでクビになってしまいまして。病気の母をもっといい病院に入れてあげたいから働かなくちゃならないんですけど……ああ~~~本当に私ってば本を読む以外は何をやっても鈍くさくて、どこに行っても仕事をもらえなくて……そうよ、ダメ人間だわ、社会のクズなのよう……」
「(大丈夫かよ、このねーちゃん……)あ――……ちょっと訊きたいんだけどさ。ティム・マルコー名義の研究所に心当たりあるかな」
「ティム・マルコー……マルコー……」
少し考えて。覚えがあったのかシェスカは答えてくれる。
「ああ!はい、覚えてます。活発印刷ばかりの書物の中で、めずらしく手書きで、しかもジャンル外の書架に乱暴に突っ込んであったのでよく覚えてます」
「……本当に分館にあったんだ……って事はやっぱり丸焼けかよ……。あー……くそ。完全にふりだしに戻るじゃねーか」
「今度こそ諦めるしかないね。ああ……;」
エドとアルが今度こそ終わりだという表情をして落ち込む。これで諦めてくれると嬉しいんだけどなぁと僕的には思うが、シェスカ的にも困るだろうしここは彼女を助けるためだと思って僕はあえてこれ以上のことは言わないでおいた。叱ることもしない。
「あ……あの、その研究書を読みたかったんですか?」
「そうだけど、今となっては知る術も無しだ……」
「私、中身全部覚えてますけど」
「は?」
「いえ、だから……一度読んだ本の内容は全部覚えてます。一字一句まちがえず。時間かかりますけど、複写しましょうか?」
「ありがとう本の虫!!」
「虫ですか……」
「エド、喜ぶのはいいけれどちゃんと報酬を支払うんだよ」
「あったりめーだ。やったー!シェスカさん、研究書の複写お願いします!!」
エドは上機嫌でシェスカに研究書の複写の依頼を行った。
■
さすがに、その複写が今すぐできあがる訳じゃないので、ティム・マルコーの研究書はできあがり次第研究資料を受け取る流れになった。
その間に大佐と合流して大総統に結婚の報告をしなければいけないのだが、エドはすっかり浮かれていた。
「アル、よかったな!研究資料書いて貰えるってよ」
「うん!よかったね兄さん。……本当にできるのか不安だけど……」
「ま、できなかったとしても少しでもその内容が分かれば上出来だ。よかった、ほんとに。ちょっとでも手掛かりがあるのは嬉しいぜ」
「エド、嬉しいのは分かるけどこの後の予定覚えてる?」
「え。今日はもう何もねーだろ。あるとしたら明日。大佐が来るのは別に大丈夫じゃねーの?……あ。そうか、大総統に報告しねえといけないんだった。女になったことやら、結婚するやら、ああ……」
研究資料を貰うまでに色々やることが山積みだった。