空想の錬金術師   作:篠原えれの

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 ミシェルはエドの嘆きをドア越しに聞いていた。

 もちろんロス少尉やブロッシュ軍曹にも聞かれている。

 この周囲の人間には聞かれてしまうがそれ以上聞こえないようにしっかり札を使って防音対策もしているあたり、さすがとしか言いようがない。

 彼はそこまで問い詰められてもなお、平然としていた。

 

 「あんなこと言われて怒らないんですか」

 「悲しんでもいいと思うんですけど」

 

 ブロッシュ軍曹とロス少尉が話していく。今会わせたらまずいのはさすがに2人も察したようだ。

 

 「怒っても仕方ないよ。……多少涙は流してもいいかもしれないけどね。」

 「あの、ミシェル殿。エドワード殿に近付かれるのはやめたほうが。ひぇっ」

 

 ブロッシュ軍曹が止める。それを容赦なくミシェルはどかして、錬金術を使い、ドアの施錠を解錠した。ロス少尉は彼が放つプレッシャーに圧倒されて近付くことすらできなかった。

 

 「ほんとになんなのこの子達、怖いのだけど……!――ドアが開かないわ、やられた……!」

 「すぐにアームストロング少佐に報告します!」

 「急いで!」

 

 部屋に入った彼は、再びドアを施錠する。アームストロング少佐に破られぬよう、わりと硬めにドアを錬成し直し、窓もエド達が逃げられぬように錬金術で失くす。あとでちゃんと直すから大丈夫とミシェルは余裕の表情であるが、弟達2人は焦りに焦っていた。僕は2人に話を聞いてもらいたくて逃げてほしくないだけだよ。なんで怖がるのかなあ。

 

 「勝手に暴れられても困るから、少尉と軍曹を締め出したよ。この部屋に防音効果の札も張ったから好き勝手に喋っても大丈夫だよ。そろそろ腹割って喋ってもいい頃かなって思ってたからさ」

 「大丈夫って、兄貴お前な……!やり方が怖いんだよ」

 「そうだよ。なんで窓を無くしてドアを作り変える必要があるんだよ。おかしいよ」

 

 エドとアルも、やりすぎだと僕を非難する。ドアなんて明らかに物資の違う素材に作り変えたから分かるだろうなあ。幻覚を使えばよかったけど僕も感情的になっちゃって賢者の石を使ってしまった。分かって欲しかったし、別にいいけどね。

 

 「怖い?エドは僕が本当の兄かどうか聞きたいんでしょ。その答え合わせをしにきただけだよ。窓を無くしたのはそうだね。逃げられたら困るからだね。ちゃんと最後まで話すために必要なことなんだからさ。許してよね」

「ふざけんな……!んなことされたら、もう兄貴の正体なんて分かったようなもんだ。少なくとも兄貴は、人体錬成をする前の兄貴じゃないから、俺たちに否定されるのが怖くて俺たちをこの部屋に閉じ込めてるんだ。違うか?!」

 「……」

 

 その言葉に対して、僕は何も言い返さなかった。

 

 「馬鹿野郎!なんで無言なんだよ。言い返せ!違うって!何言ってんだ馬鹿野郎ってさ!」

 

 僕はエドから視線を離しながら首を振る。

 

 「いや、正解だよ。エドの予想通り、ミシェル・エルリックは人体錬成をしたあの日に死んだんだ。僕はミシェルであって、ミシェルじゃない。」

 「――分かりやすく説明しろ、クソ。お前は誰なんだ」

 

 エドが再びミシェルが何者か尋ねた。

 

 「僕もミシェルだからなあ。説明が難しいんだよ。多分、エドやアルが知らない単語を僕は今から喋る。僕は転生者だよ。転生者とは、元の世界で事故や病気などで命を落とし異世界に転生した者のこと。」

 「転生者……異世界に転生した者だって?!つまり……兄貴は、こことは違う世界から転生してきたってことかよ。転生自体が信じられないのに、別世界もあるって信じ難い話だな」

「でも、事実みたい。こういう時の兄さんって嘘つかないから。それが、兄さんの正体?」

 

 転生者という言葉に、弟達は驚く。

 

 「そうだよ。そしてそれは、ミシェル・エルリックにもあてはまる。僕と彼が違うのは、同じ転生者でも前世の記憶と能力があるかどうかだ」

 「前世の記憶と能力……?前世の記憶が戻ったって、兄貴は兄貴じゃねえのかよ。まさか。」

 

 エドワードは自分の疑問に、まさかと1つの仮説を立て自己解決してしまう。その仮説は当たってしまう。

 

 「そうであればよかったんだけどね。あまりにも僕は彼と似ていて、能力を真理に与えられて剥離しすぎちゃったから。前世の記憶を思い出したミシェル・エルリックはミシェル・エルリックではなくなった。僕は真理によって記憶と異能を与えられた者だよ。真理が言ってたな。前世の記憶を与えることでお前と兄弟との縁を断つって。これが、僕が人体錬成したことで発生した本当の対価だよ。分かりやすく容姿って説明したけどあの青髪赤目の容姿こそが本当の僕だ。どちらかと言うと今のこの金髪赤目の容姿の方が僕にとってまやかしなんだよね。だから僕は元の体に戻るつもりはないよ。僕のことはほっといてくれていい」

 

 そこまで言って再度、ミシェルはエドに殴られた。

 

 「ふざけんな。ずっと違和感感じてたの、それが原因かよ。だから元に戻りたがるどころか、死にたがってるってマルコーさんに言われたのかよクソ兄貴……!俺たちと過ごした時間よりも兄貴は前世の方が大事ってか。ふざけんな。なんでそんなに死に急ぐ?!前世の記憶が、あろうがなかろうが、今の兄貴は吸血しないと生きてけない状態なんだ。生きたいって思わねーのかよ兄貴は!!」

 

 そこまで言われても、ミシェルの意見は変わらなかった。

 

 「――ごめんね。この世界に未練がないんだ、僕。それよりもやらないといけないこと、見つけたから悔いはないよ。あ、でも、2人が大切なのは本当。僕なんかの命よりね。僕はね、2人から拒絶されるのが怖くて、むしろ記憶を消さないでここまで真実を話したこと褒めて欲しかったぐらいなのに。結局拒絶されちゃった。話さなきゃいけないことだったから、もういいけど。僕がこれから話すこと、よく聞いて」

 

 ミシェルは自分勝手に話を進める。エドは当然それを許さない。

 

 「兄貴いま、なんて言った。っていうか、もっと自分の命を大事にしろ!頼むから、俺やアルがどんな気持ちで兄貴のこと心配してるとか知らねえだろ」

「うん、知らない。これに関しては方針変えない予定だから僕。――……二人の記憶を消さないでなんとか耐えてるって話しのこと?それも話すよ。僕は、この世界を上手く立ち回るために君たち2人を含む色んな人を洗脳して回ってる。記憶を消したりとか記憶の改変とかもできるよ」

 

 その言葉に再度、2人は目眩を覚えた。

 今までの疑問がどんどん、解決されていくのだ。

 

 「もしかして、兄貴。洗脳するのに条件が発生したりするか。たとえば、一度使えば眠くなるとか。」

 「ちょっと兄さん、それはいくらなんでも」

 

 エドの疑問に、アルが止めようとする。あまりにも無理やりがすぎる推測だったからだ。

 ミシェルは素直に説明に答えた。

 

 「すごいね、この説明だけでそれがわかるんだ」

 「当たりかよ。当たって欲しくなかったんだけどな。前からずっと疑問に思ってたんだよ。兄貴ってさ、何か揉め事持ってきたり俺らと喧嘩したり単独でどっか行く度にぶっ倒れてたから。そしたら不自然に問題が解決しててよ。俺らにも洗脳してたのは気に食わねーが、拒絶されたくなくて使ってたんなら許したる。クソなのは変わりねーけどな。……俺が女になったのは偶然だよな?洗脳関係ないよな?」

「ない。……多少周りの人間に好かれやすくなるっていう効果はあるけど、ない。偶然だったよ。だから僕すごくキレてたでしょ大佐に。それは僕の吸血と大佐のせいだから。これは本当」

 

 そう言って、更にエドは安堵する様子を見せた。

 

 「本当に全部話してくれるんだな、話して貰いすぎて怖いぐらいだが。まだ単刀直入に聞きたいことはある。」

 「なに、エド。僕がこれから話す内容のようなことのような気がするけど。なんでも答えるよ」

 「兄貴、お前――――賢者の石、もってるだろ。それもマルコーさんに見せて貰った奴と同じような奴を、だいぶ前から持ってる。違うか。」

 

 その言葉に、アルと僕は驚きを隠せなかった。アルは純粋に僕が賢者の石を持ってることに対して。

 僕は――この件に関して、無茶苦茶エドが怒ると思ったんだよね。

 エドは、諦めに近いところがあるけど、聞く必要があるから聞いてるみたいな。半ば確信を持って聞いてるみたいだった。

 

 「そうだよ。これに関しては、もっと怒ると思ってたのに。怒らないんだね」

 この一言が余計だったららしい。再度僕はエドに殴られた。

 「怒ってるけど怒っても仕方ねーだろ。すぐにこの状況が変わるわけないんだから。兄貴は俺らが賢者の石について調べるまでの間、ずっと吸血してないよな。もうすぐ1ヶ月近くなるけど?普通なら飢えて暴走する時期だ。輸血パックの在庫もないだろうしな。それに、この部屋だ。幻覚で錬成するにしてもあのドアはやりすぎだ。さっきからアームストロング少佐がこじあけようとしてもビクともしねーのはさすがにな。普通の木材だったよなあのドア。そういう訳で、兄貴が賢者の石を使って吸血しなくても大丈夫なようにしてると踏んだんだけど……なんせ賢者の石の材料が生きた人間だからな。吸血に応用することもできると思ったんだ。」

 「うん、正解。たったこれだけのヒントでよくわかったね。大体正解だよ。あとまだ、教えなくちゃいけないことがあるんだ。これだけ聞いてもらえたら、解放するよ。」

 

 そして、異変が起きた。

 確かにミシェルはエド達にとっての逃亡ルートを全て隠した。

 幻覚で完全に失くしたように見える窓も、外部からは侵入可能だった。

 

 「ぬおおお!ここが2階だろうと吾輩の筋肉があるならどうにかできるのですぞ!兄弟喧嘩もそこまで!」

 

 アームストロング少佐が、窓を突き破って侵入した。

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