「大佐ぁ。兄貴が完全に寝落ちしたので一旦戻って来ましたぁ――」
「一旦戻って来ましたぁじゃない。それより別に報告することがあるだろう。まったく、兄弟そろってアイザックを取り逃がしたと聞いたぞ。空想の錬金術師が土壇場でいつものように力尽きたとか。」
マスタングの怒鳴り声に、エドはむすっと膨れながら報告する。
空想の錬金術師と呼ばれたエドの兄は、ソファでアルの膝を枕にしながらぐっすり眠っていた。アルの姿は人間のままだ。感触や重量なども『幻覚を現実に具現化する能力』の影響で人そのものにできるので痛くも、鎧臭くもないのだろう。
「そこまで凶悪犯って感じじゃなかったぜ?……人を殺さないようにしながら逃げに徹してたから捕まえること事態は簡単だった。油断したというか、気絶させないとダメってそいういうことかよって。憲兵に引き渡したのはいいけど水溜まりを利用して逃げられました」
「なに?
「そうでしたね。僕も鎧じゃなくて生身だったんですけど、大怪我するような攻撃はしてこなかったですよ」
ロイの質問に、アルフォンスが代わりに答えた。その言葉にロイは考え込む。
「そういえば珍しく鎧じゃないのねアルフォンス君」
「はい。身軽で快適ですよ」
アルフォンスが人の姿でいるのが珍しいので、リザが尋ねる。大佐達はアルフォンスの中身がエドの兄のおかげで空洞であることを知らない。鎧の姿でいることが多いぐらいの認識だ。
「ミシェル君はその……しっかりしてるのに相変わらずなのね。肝心なところで失敗するところは大佐そっくりかしら」
「それはどういう意味かね」
「水に濡れたり雨の日は無能になる人と土壇場で寝てしまう人はあまり変わりないってことですよ大佐」
「う゛」
「だはは、言われてやんの――!」
「ミシェル君に気絶させないと危ないって言われていたのに捉える時に指名手配犯を気絶させなかった君も同罪ですよエドワード君」
「すみませんでした……」
リザの毒舌っぷりにロイとエドは次々に轟沈していく。無能はエドの兄だけじゃないと次々に倒していく様は圧巻だった。
リザがさり気なく名前を口にした『ミシェル』という名前はエドの兄のことだ。
ミシェル・エルリック――――16歳。エルリック兄弟長男。13歳の時、国家錬金術師の資格を手に入れた『認識妨害』の錬金術を得意とする錬金術師。弟に史上最年少の記録は突破されたものの『認識』に関する知識ならだれにも負けないのだという。『空想の錬金術師』それが彼の国家錬金術師としての称号だ。知名度としては、やはり弟の方が最年少記録を持っているので有名だが年も一歳しか変わらないのでアメストリス国内で知れ渡っている。エルリック兄弟は錬金術の天才だ、と。
「よぉ!ロイ!氷結の錬金術師の身柄拘束とは急な命令で災難だったな!……ん?もしかして君達はエルリック兄弟かぁ?!」
「はぁ……」
勢いよく、ヒューズが扉を開けて部屋に入ってくる。うるさいのが来たとロイはげんなりした表情を見せる。エルリック兄弟もヒューズ中佐に会うのは初めてなので困惑した表情を見せる。
鎧を着てないとはいえ、兄弟の中で一番背が高いアルを見つけたヒューズは一目散に「長男」だと思って握手を求めに行く。長男は絶賛寝ているのでヒューズが来たことにも気づいていない。
「いやぁ――……君が噂の空想の錬金術師かい?!認識を妨害するのが得意だという……。そちらの赤いマントを着ているのが史上最年少の国家錬金術師殿で?!会うことができて光栄だなぁ!俺はマース・ヒューズ!中佐だ!よろしくなぁ!」
「あの……僕三男のアルフォンス・エルリックです。身長が高いのでよく間違われるんですけど、絶賛僕の膝で寝ているのが長男です。こうなっちゃうと中々起きないのですみません。兄さん、起きてよ~~。目上の方だよ、挨拶しなきゃだよ~!……、やっぱり無理か――……。ほんとにすみません。あとで言っときますので……あ、赤いマントの方は正解です。」
「なにぃ?!君が三男なのか?!鋼の錬金術師殿が三男ではなくて?!史上最年少と聞いてそうかと……ごめんな!空想の錬金術師殿はすごいな!その名の通り存在感の欠片もないではないか!ごほん、コンプレックスだったらすまない。本当に分からなかったので……」
「いえいえ、寝てるのが悪いので全然いいですよ。こちらこそすみません」
「次男のエドワード・エルリックです(兄貴は別に何言われてもいいけど俺にちっこいいうなよ……本当にいうなよ……)」
アルフォンスは困惑しながら握手をかわした。エドは、雑に兄たちを説明するアルフォンスにまぁいつものことだもんなぁと思いつつ、マジでちっこいだけは言うなとヒューズに念を送りながらそれを察したヒューズは兄を悪く言われて気を悪くしたと思い軽く謝罪した。
「ヒューズ、用が済んだのなら帰りたまえ」
「帰るさ、用が済んだらな」
「なに?」
「君達、どうせ宿決まってないんだろ?だったら家に来いよ。」
「え、いいんですか?」
確かに、リオール行きのチケットもキャンセルで宿も決まってなかったエド達は宿をどうしようか悩んでいた。言葉に甘えて聞いてみるとおもむろにヒューズは写真を取り出した。
「妻のグレイシアと娘のエリシアを紹介したい!空想の錬金術師殿はいつ起きるんだ?」
「大体翌朝とかには目を覚ましたりしますね。ここどこ?!って絶対ビビってると思いますが、それでもよければ……。ほんとすみません」
「なるほど……!じゃぁ家で決まりだな!起きなかったら起きるまで泊って行ってもいいからな!」
「いやいやそれはさすがに悪いですよ」
本日のエルリック兄弟の宿、確定。