「お前ほんと面白い冗談言うな、俺が主人公な訳ないじゃん」
「まぁ、信じる信じないは好きにしたらって感じだね。因みに、今もだけど僕はちゃんとした人間じゃなかったから人生のほとんどは『鋼の錬金術師』の追体験だ。よかったことも、不幸なことも大体全部ね。原作通りか、気になったら、僕に聞けばいいと思うよ。結構この世界、アニメとか漫画とかごっちゃになってるからね」
「そのアニメとか漫画とかなに?」
「あー……そうか、この世界今思えばアニメとか漫画もそういう概念がないのか。ラジオはあるけど、映像っていう概念がないからテレビも分からないだろうしな。なんでも話すって生き込んでみたはいいけど、説明すればするほどエド達が知らない現代用語が……。」
思わず僕は頭を悩ます。
「それでもいいから全部話して。現代用語ってのも正直よく分からないから」
「あーはいはい、分かった。そんな皆も気になるみたいな表情しないの。全部話すから!」
そうして、ミシェルによる現代用語解説大会が始まったのだった。
■
「さすがに全部説明するのは疲れた」
すっかり説明疲れでへとへとになったミシェルがソファで伸びる。
ブロッシュ軍曹やロス少尉も現代用語なるものの説明を聞いて面白かったようである。
「俺らの姿がそのままテレビっていう小さな箱に映るんですねえ、すごい技術だ。しかもほぼ景色そのまま見れるみたいなでかい箱もあるんですねえ」
「この姿もそのままそっくり映像に移せるなんて、しかも映像だけじゃなくてラジオみたいに声まで。すごいものね」
「ぜひとも見てみたいものですな」
「漫画もすごいよ。手作業で僕達のことを描いて物語として残すなんて、まるでシェスカみたいなことをできる人があっちにはいっぱいいるんだねえ」
「あーアル、シェスカのは、また違う。あれは僕達の世界でもかなりやばい部類の天才だから。彼女みたいなのは瞬間記憶能力者って言って、もし存在したら魔導図書館みたいな兵器扱いされるから僕達の世界でもかなり厳重に保護対象だよ彼女。この世界に魔術とか魔法とかの概念がなくてよかったね。漫画やアニメといった創造物は小説とかと一緒で自分が思い描いた話を好き勝手に描くことができるから彼女みたいに全て暗記して複写する必要もないんだよ」
「魔法もあっちの世界にあるの?!」
「え、教えてくださいよ!」
「あー、話すんじゃなかった。っていうかアルなんで小説があるのに漫画やアニメも似たようなものだって思わないんだよ~」
「ごめん兄さん、あまりにも聞き慣れないものだったから……」
また説明することになり、すっかりミシェルは頭を悩ませた。
エドが満足気に話す。
「すっげえな。あっちの世界って話を聞けば聞くほどこっちの世界より科学技術が進んでるんだな。一度でいいから、行ってみたいもんだ」
「君は有名人だから分かる人には歓迎されるだろうね。少佐とかアルも、えっと少尉たちもね(アージェリカとか見たら大興奮だろうな、まぁあっちの世界は
「そう言われると恥ずかしいもんですな」
「え、私達も有名人なんですか?!」
「そうだよ~。っていうか、エドと話したことのある人達は、悪者だろうが、味方だろうが大体みんな有名人だから。あっちに行った瞬間君達はこういう人だとか、できることとかみんな分かられるよ」
「それもそれで、なんか怖いな」
「君が
「……そっか。ありがとな、兄貴。全部話してくれて」
「全部説明するって、決めたからね。僕が分かることは全部説明するよ」
大体満足したのか、エドも僕の話を聞いて疲れたようである。
しばらく、僕達は休憩していたが、エドがはっとしたように地図を広げ始めた。
それを見た僕は、あぁ、やっと気付いてくれたと安堵する反面、これ放置したらマスタング大佐に今度こそどやされるのではという恐怖感で胸がいっぱいになった。絶対エドが怪我したらこっち来るじゃんマスタング大佐。こわい。
第五研究所ね、うん。行かなくてもいいんだけどさ、賢者の石の錬成陣とかあるし行って欲しいんだよね。
なんかあったらいつでもフォローできるようにはしてるけどさ!アルは大丈夫でもスライサー兄弟に、ぼっこぼこにされるエド放置するの怖くない?!
原作通りになってほしくてエドの機械鎧の不備をあえて見逃したのは僕だけど、こうなったらあの時修理してもらうんだった。
もうどやされることに関しては土下座してでも許して貰おう。エドの説得に失敗したらだけど。
こうなったエドを止められる自信は僕にはない。
僕がダメ人間って言われる所以だ。もうあきらめよう。
「刑務所周辺で不審な建物……これだ。ここってなんの建物か分かる?」
ロス少尉が咄嗟に資料を調べる。
「えっと……以前は、第五研究所と呼ばれていた錬金術研究所ですね。現在は使用されていないただの廃墟です。崩壊の危険性があるので、立入禁止になっていたはずです。これがどうしたんですか?」
「ほら、兄貴が言ってただろ。賢者の石の材料に、生きた人間が使われるのは間違いないけど、国が実際に使うとしたら犯罪者とかだって。特に中央は真っ黒だから、刑務所とか怪しいって思ったんだよ。それに、錬金術研究所って、マルコーさんが居たところじゃん。じゃぁ、ここだ」
「彼が居たのは第三研究所でしたけどな」
少佐がむっ、と助言する。それにエドは驚く。
「そうなのか。まぁ、市内の研究所は全部俺見て周ったんだけど、どこも怪しいところなかったんだよな。廃棄された研究所があるってことまでは知らなかったけど。どう?兄貴、俺の推理まちがってねえ?」
エドが、正解かどうか聞きに来る。すっかり信用してくれているようである。正直に僕も解説する。
「間違ってないよ。むしろ大正解。感想としては、原作もマルコーさんからヒント貰ってその場所あててたけど今回は僕からその場所あてたかぁって感じ。どうするの?止めても絶対行くでしょ君達」
閉じ込めた僕が言うのもなんだけど、好奇心旺盛な弟達2人を止めるなら肯定に肯定を重ねるしかないと諦めたように諭した。アルとエドが驚いて話しかけてくる。
「よく僕も行きたいって分かったね兄さん」
「ええ。そりゃ行きたさしかなかったけど、兄貴俺らのことどう思ってるの」
「好奇心旺盛なじゃじゃ馬。あるいは死にたがり」
正直に感想を述べた。だってそうじゃん。ずっこけられても今更でしょ。
「ひでえ言われようだな。ここって因みに何があるんだよ。そこまで言って止めねえってことは行っても大丈夫なんだろ俺達」
「大丈夫だよ。エドが全治数週間の大けがして、僕が大佐に今度こそ殺されるんじゃないかっていうデメリットはあるけど。」
「駄目じゃん。なんでもっと止めねえの」
「見て貰いたい錬成陣があるからなんだよ。例えば、賢者の石の錬成陣。まぁ、ここで見せちゃってもいいんだけどね。どう?今ここで賢者の石の錬成陣について教えてもいいから行くのやめない?マスタング大佐にどやされるのほんとに嫌なんだよね僕」
この通り、と土下座する勢いで僕はエドに頼み込む。情けない。
でも仕方ないじゃん、マスタング大佐に、半殺しにされるよりずっといいじゃん。
「別にいいけどよ、なんで俺そんな怪我する羽目になるんだ。そんなやべえ奴いるなら軍に通報した方が……いや、軍が作ったやべえ奴なら通報しない方がいいのか」
「そのやべえ奴らのためにも行かない方がいいと思うんだよね。結局そいつらも死刑囚の成れの果てで国の被害者なんだけどさ。最後は証拠処分でホムンクルスがやっつけちゃうから。うーん、そいつらの詳細も話してあげるから行かないでほしいなあ。頭とか腹とか怪我したくないでしょ?」
「したくない。けど、行きたさしかないんだよなあ。」
「分かった。どうしてもというなら僕の幻覚で追体験できるよ。それでどう?!覚えてるから再現できるよ!?」
「よし、それでのった!」
「ありがとうエド!!」
ミシェルとエドが、今度こそお互い納得したように握手した。お互いの欲求が満たされた瞬間である。
「(なんなのこの兄弟、もう慣れてきたけど色々規格違いだわ)」