「ようやく目覚めたのかね、空想の錬金術師」
「昨晩はご迷惑お掛けしました。ブラッドレイ大総統。」
司令部に入って早々、マスタング大佐の執務室に行こうとしたミシェルであるが偶然ばったりとキング・ブラッドレイに出会う。護衛の部下数名連れて、彼はミシェルと話したそうであった。
「何かご用件でも?」
「氷結の錬金術師、アイザック・マクドゥーガルについて少々。私の部屋まで来るが良い」
「私一人ですか」
「その方が、都合がよいだろう。君も」
面談という名前の尋問かとミシェルはげんなりしながら特に断る理由もないので了承した。
大総統室にて。
「君は2回ほど昨晩、氷結の錬金術師相手に交戦し善戦したと聞いている。一度目は気絶させることもできたとか」
「すぐ起き上がってしまいましたけどね」
「その戦闘の際、彼と会話したかね。例えば、人を殺すのをやめろ等、そういった会話はしたのかね」
「……いえ、特にしていません。彼には確かに、認識妨害の錬金術を使用しました。その後肉弾戦を行い、気絶させました。それだけです。会話する余裕もありませんでしたね。すぐに復活されましたし、彼の攻撃を防ぐために天井付きの壁を錬成したりして防ぎましたが追撃されることなく逃げられました」
「ふむ。確かに、報告通りだね。」
「何か不可解な点がありましたか?」
「なに、氷結の錬金術師が君と交戦したのち、国家錬金術師を含む憲兵殺しを辞めたのでね。その上その場から逃走するようになったのもその地点からだったので君が彼に色々吹き込んだのではないかと思ったのだよ」
――例えば、アイザックと協力関係になり、政府打倒を唆したとか。
「あまりにも、彼にメリットが少ないと思わんかね」
「――……もしかしてですが、これって私、謀反の首謀者相手に政府転覆の協力関係を唆したと疑われたりしてます?」
「そうだと言ったら、君はどうする?」
「どうしようもなく、運が無いなぁと諦めます。捉えるのでしたら、お好きにどうぞ。私と大総統では実力差がありすぎますので。抵抗しても意味が無いでしょう。正直、彼が私を殺さなかったのは運がよかったとしか思えません。そのあとも彼のせいで死にかけてますので。何故彼が殺さなくなったのかなんて私が聞きたいぐらいですよ」
「抵抗しないのかね」
「ここで変に抵抗しても余計疑われるだけですよ。そうですね、弁明させて貰えるとするなら、私が睡眠障害を持っているのは大総統もご存知でしょう。奴との交戦中に目の前で倒れて、多分私はエド――弟達が居なければあの場で死んでますよ」
と、弁明していたらまた本格的に睡魔がやってきたので、能力使ったわりに起きるのが速すぎたからかとか後悔しながらフラフラしていると大総統の反応的に揺さぶってみただけらしくその様子を見て「冗談だよ、ミシェル君」と笑われてしまった。大総統の冗談はわりと馬鹿にできないので、普通に許されただけだろう。今日の面談はあくまで「お前人柱だし、黙認するけどあまり派手なことするなよ」という牽制にすぎない。
「その様子だと確かにまだ本調子では無さそうであるの。昨晩から十分寝たはずでは?」
「それで治れば苦労しないんですよ。アイザックは、見つけ次第捉えます。……面談は以上でいいですか?」
「うむ。よかろう。歩けるかね?」
「大丈夫、です」
ミシェルはふらふらしながら大総統室を後にする。
あれは大丈夫でないなと思われながら。
■
「兄貴!大総統と面談ってお前何したんだよ」
「昨日のアイザックの件でちょっと。ごめんね、エド。大佐に何か話聞けた?」
「聞けたってなんだよ。……また眠そうな顔してんな、兄貴」
「うん。今日は多分、そんなに行動できないからアイザック追うなら明日からだね。迷惑かけてごめん。」
謝るミシェルを見て、エド達は困惑の表情だ。
「それは別にいいけどよ……。」
「想像以上に眠たそうだな」
「空想の。私と話たいことがあるなら聞こうか」
「……ありがとう大佐。できれば今すぐだと助かるかな。えっと、そちらは……ヒューズ中佐で?初めまして。ミシェル・エルリックです。昨日は、本当にありがとうございました。一晩中眠ったままで、本当に申し訳ないです。それから……えっと、グレイシアさんの料理美味しかったです。エリシアちゃんとも一緒に遊びました。ほんとに色々ありがとうございます。」
あまりにも眠たそうなミシェルの表情を見て、困惑するヒューズにヒューズさんらしいなぁと思いながらミシェルは挨拶する。精一杯お礼も欠かさずに。ヒューズとはこれが初対面だ。初対面なのに眠そうにして申し訳ないと謝罪する。
「いや、いいんだよ。しんどい時はお互い様だ。そうか、美味しかったか。よかったよかった。やっぱりお前さん、長男なだけあって一番しっかりしてるな。ロイと話したいことがあるんだろう。ブラッドレイ大総統との面談はもういいのかい?」
「はい。こんな調子なので早めに切り上げてくれたんですよ。ほんとすみません、色々」
「ほんとだぜ兄貴……(なにが一番しっかりしてるだよ。一番しっかりしてるのは俺だっつーの!)」
「あんまり無理したらダメだよ、ミシェル兄さん。(エドワード兄さんがキレてなかったらいいなあ)」
実話この中で一番しっかりしてるのはどちらかといえばアルフォンスだ。皆賢いためぱっと話しただけでは分かりにくいのだ。そのわりに無難な判断をするのでミシェルは得し、次男がささやかにキレる結果となった。
各自に謝りつつ、ミシェル達はその場を離れる。
マスタングの執務室に戻る。
「さて、空想の。話を聞こう。大総統と何を話したのかも気になるが……」
「そうだよミシェル兄さん、なにしたの?」
「面倒なことじゃねぇだろうな……」
マスタングの質問に、弟達も気になるようでこれは自分の話したいことよりも先に素直に話した方が良さそうだなとミシェルは悟る。
「ごめん……、面倒ごとかも……。」
ミシェルの言葉にお前ふざけんなとエドが眉間にシワをよせる。謝罪しながらミシェルは話を続ける。
「明言こそされてないけど僕は僕で、アイザック追えって遠回しに言われちゃったかな。アイザックを逃したせいで僕に逃亡幇助の疑いがかかかってね。無理だけど。僕があいつに接触したのを最後に憲兵や国家錬金術師を殺さなくなって現場から逃亡も始めたからそれで面談。さすがに大総統も、僕のこの状態見て無理なのはわかってくれたから大丈夫。大総統がもし本気で僕を疑ってたら僕この場に居ないから安心して」
「安心してって……お前なぁ……」
エドワードはミシェルの言葉に引いていた。ミシェルはエドワードに信用されていないのだ。
「ふむ、一理あるな。本気で空想のを捕まえようとするなら堂々と面談などしないだろう。今日だって面談等でなくヒューズの家まで行って寝ているところを捕獲すればよかったのだからな。君と直接やり合う方がリスクも高い。……これは牽制、脅しの意味も含まれてるな。エルリック兄弟の長男だけでも国家錬金術師としてアイザックを追えということだろう。別に体を元に戻すための旅は次男と三男だけでもできるであろう?」
マスタングの言葉にミシェルは確かにと納得するがエドは無茶苦茶頭を抱え込んだ。エドワードは、ミシェル(長男)を1人にしとくのが嫌だった。本当に。誰か信用できる相手がいないとほっとけない。吸血はミシェルの錬金術で、己のストックを与えれば大丈夫だろう。でも荒事が発生した時に睡眠障害で寝落ちしてアイザックの時のように死にかけたらどうする?アイザックのせいで死にかけたのにアイザックを追え?冗談じゃない。無茶苦茶嫌で仕方がなかったが、政府の判断はもう仕方ないだろう。文句を言ったところで覆らない。ミシェルの立場が余計悪くなるだけだ。エドワードは、ミシェルに対して不安を覚えていた。試行錯誤の末、答えが出た。
「リオールに行くのは、俺だけならなんとかなるか……?何かあった時、国家錬金術師として対処できる俺が行った方がいいよな……?アルフォンス、クソ兄貴の見張り頼んでいいか……?」
「うん、それでも別にいいよ……」
アルフォンスもエドワードの考えを理解できた。確かにミシェルが心配だった。そんな2人の心配を他所に、原作を知っているミシェルは2人で行ってきていいよとすっとぼけたことを言ってしまった。自分のことを二の次にしすぎである。
「2人でリオールに行ってきてもいいんだよ?」
「「今まさに眠たくて寝落ちしそうな人にだけは言われたくないからちょっと黙ってろ(黙ってて)」」
「……ごめん」
その様子に、マスタングは笑いを堪えるのに精一杯だった。自分は大丈夫と色々ハンデがあるにも関わらず言い切る兄と、それをほっとけないしっかりした弟達。エドワードに関してはミシェルを嫌ってるわりにミシェルのために手段を選ばない様子であるし、ミシェルもそれを理解してる様子だった。
「ミシェル兄さん。兄さんがリオールに行ってる間僕たちイーストシティでアイザック探しだね」
「そうだね。」
「で、クソ兄貴は大佐に聞きたいことあるって言ってたよな。結局なんなんだよそれ」
「……リオールに行けなくなったから、僕もエド達のかわりに元の体に戻るための研究をイーストシティでもできないかと、アイザック探すついでに色々人体錬成とかに詳しそうな錬金術師を大佐に紹介してもらいたくて……」
「ずりぃ!俺も大佐に紹介して欲しかったのに……」
「ならばリオールに行くのを諦めばいいだろう」
大佐の言葉にエドはむっとしながら拒否する。
「それは別。行くだけ行って、一週間か二週間ぐらいで何もなかったら帰ってくるから。だから兄貴、抜けがけはするな。せめて俺が帰ってきてからにしろ」
「さすがに横暴じゃない?」
「俺が居なかったら生きてけねえ奴がなにいってんだ。頼むから俺と合流するまではアイザックの件だけにしといてくれ。それだけでも俺はもうお腹いっぱいなんだよ。勘弁してくれ」
エドの言葉に嘘偽り無しであるのはミシェルも理解できた。大佐の前で自分が居ないと……とか恥ずかしいことも喋ってしまっているし。相変わらずエドワードは嘘をつけないのである。
特にこういう説得を試みる場面では尚更苦手であろうとミシェルは推測する。
その発言で、自分たちの関係がバレるかもということにも気付いてない。アルフォンスと自分の反応で、エドワードはようやく「しまった」という表情をする。悪気が無いのも分かる。本当のことだし。
エドとミシェルの吸血関係を知っているのは、アルの他にロックベル家ぐらいで大佐達はもちろん知る訳が無い。
生きていくために仕方なくとはいえ、最初ロックベル家の彼女らに知られたときは正直怖かった。ウィンリィぐらいだろう。怖がらずに自分たち兄弟を助けようとしてくれたのは。
「エドしか頼れないってなにそれ!私だって血液の提供ぐらいできるわよ!ピナコおばあちゃんだって頼めば助けてくれるよ!もうこれ以上、抱え込まないで!……おいてけぼりにしないで」
勘づかないで欲しいけど、とミシェルは大佐の方をチラ見する。
「ほう。そんなに空想のは頼りないか、鋼の」
「頼りないね。少なくとも一人にはして起きたくない。どこかに消えて、いなくなりそうで俺は嫌だね。絶対」
焦りながらもむすっとした様子のエドワードに、マスタングは呆れながら言葉を述べる。奇跡的に、エドとミシェルの関係に違和感を持たなかったようだ。
「……なら空想のはしばらく私達と一緒に行動するがよい。寝てしまうのは仕方ないにしろ私達の業務は手伝うこと。行き先もイーストシティの東方司令部だ。安全だろう。私達もアイザックを追うことには変わりない。追えと言われたなら任務をこなすしかないだろう。どうかね、空想の。私達と一緒に仕事をしてみないか」
「……僕は全然構いませんが、よろしいので?仕事ができないときは本当にできないですよ」
「それでも構わん。たまに仕事をするときに意見が聞ければそれでよい。錬金術の知識と、戦術・戦略・武術に関しては鋼のと劣らないぐらい一流だろう君は」
「ありがとうございます。」
「そういう訳だ。鋼のと、アルフォンス君。二人は、たまには兄のことは忘れて旅に行ってきなさい。空想のは空想ので仕事を言い渡された以上、そちらを優先しなければいけないだろう。国家錬金術師である以上はそういったことも今後は起きる。頼りなさい、私達大人を」
つらつらと述べられた言葉に弟たちは呆気にとられた。まさか大佐が自ら僕に関して手伝ってくれるなんてとは思ってもいなかったからだ。僕もだけど。吸血云々に関しては血液をストックしとけば大丈夫だし、寝落ちも大佐達が普段アルフォンスやエドがしていることをしてくれるならどうにかなるだろう。
僕としては全然それでもよかった。僕だけリオールに行けないのはむっちゃ名残り惜しいけど。なんならショウ・タッカーを先に紹介してもらいたかったのにそれも駄目って言われてしまったからこれは僕完全に二週間ほどプー太郎ですね……。エド単独ではなくアルフォンスも一緒となると多分爆速でリオールの件が片付くと思うので実際は多分最短三日ぐらいだろう。移動に1日、解決するのに1日、後処理云々済ませて帰宅に1日。もう少しゆっくりしたいとかなら一週間ぐらいか。
行ってらっしゃいリオールに……。僕は僕で、多少は大佐の事務仕事手伝います。アイザック追いながら。
エドは本当に大丈夫かぁ?と多少の不満を見せたが、僕が満足気なのとこれ以上揉めても仕方ないのは分かっていた様子で渋々納得した様子だった。
「兄貴、なんでもいいけど無茶だけはするな。俺達何もできないからな」
「大佐達と一緒に行動するから大丈夫だよ~」
「(不安しかねぇ)」
二転三転、元通り。