1
あれから一週間たった。最短三日はかかるとは思ってたので、やはり日頃の疲れもあるのかわりと弟たちはゆっくりイーストシティに戻ってきた。原作だと一日とか半日でリオールの騒動片付けてたもんね。移動に時間かかるし、僕のあれこれだけじゃなくてリオールの内容も疲れるといえば疲れるから。
ロゼがめんどくさい女すぎる。親しい人の死に中々立ち直れないという意味では僕達も一緒なので人のこと言えないが。よくも悪くも彼女は昔の僕達だ。色々再確認するにはちょうどいい時期だろう。
「お帰りエド。リオールでは大変だったね」
「なんだよ、もう兄貴は知ってるのか」
「そりゃぁね。後処理を軍に任せたんだから知らない方が無理あるでしょ。」
「アイザックの方は……全く進展無さそうだな兄貴」
「面白いぐらい目撃情報がないね。」
「ないって……お前なぁ」
「そのかわりマスタング大佐の書類仕事半分ぐらい終わらせてきたから、仕事はきちんとしてたよ。サインとか書類確認はさすがに大佐の仕事だからやってねぇって押し付けてきたけど整理整頓とか僕でも出来そうな書類作成とかホークアイ中尉のお仕事手伝ってきたよ」
「まじか……。……その辺はさすがだな」
と、表向きエドとは何もなかったように会話しているが実話あれから進展が全くなかったわけではない。僕は僕で密かにアイザックと合流し、さらなる洗脳と認識妨害の錬金術を施すことに成功している。僕単独だったから無茶苦茶スピーディーにことが進んだ。
アイザック生存は、少しでも「約束の日」にむけて戦力を補充するための行為の1つであるが、人一人生かすことがこんなに大変だとは思いもしなかったというのがミシェルの今回の感想だ。アイザックに関してはヒューズ中佐を生かすための予行練習として、分かりやすい実験体、と思うしかないだろう。
ニーナとタッカー氏に関しては、どうするかはまだ決めてない。アイザックやヒューズ一家と違って彼らは生き残る術を持ってない上に犯罪者だ。敵が多すぎるわりに他者依存が強いので今後生き延びる確率の方が低いのだ。
ニーナはアイザックの中にある賢者の石を使えば元に戻すことができるだろう。タッカー氏は?よくて資格剥奪の上中央で裁判にかけられて獄中だろう。賢者の石の材料に使われなければいいが、可能性としては五分五分だ。
ニーナに関しては、元に戻すことができたとしてもその後どうすればいいのか原作通りであればあるほど完全に詰んでいるのだ。生き延びるための術を彼女は持ち合わせてない。アイザックの賢者の石を使って助け出すことが出来たとしても、上に真実を報告することができないためニーナは政府に身の安全を保障してもらえない。
しかもショウ・タッカーの存在が今度はニーナにとって敵になる可能性があるため(国家錬金術師として査定に頭を悩ませての犯行だったので彼は元々今後どう生きたらいいのか理解すらしていなかった。ニーナと犬のキメラ、人語を話すキメラという完成品を奪われたことで発狂する可能性がある。)、彼までちゃんと生きられるようにしろと言われるとやりたくないが勝つのである。アイザックとヒューズ中佐と違い、2人は戦力にならないしメリットがないのだ。
死から生き延びるには最低限、銃の扱い方や逃亡するための知恵周り、ヒューズ中佐並の知識が必要だ。
それでも死ぬときは死ぬのだ。
それをただの少女ができるかと言われるとできないだろう。
もし現段階から彼女を生かそうとするなら彼女には急速な成長が必要になる。全盛期のミシェルならそれもできなくないだろうが、洗脳や常識改変に使用制限がある以上それも難しいだろう。せめて彼女がメイのようなスペックがあるか、保護されるべき環境がヒューズ中佐一家のような状態なら生きられたのにとミシェルは思う。
ニーナだけなら護れるか?ミシェルは考えた。もし、ニーナが、父親の手によってキメラになることを防ぐことが事前にできるのだとしたら敵は父親だけになるだろう。軍もニーナの味方をしてくれるため、もしキメラになる前に助けることができたら彼女を救うことができる確率は跳ね上がるだろう。
ミシェルは基本的には無理しない方針ではあるが、助けられるなら助けたい気持ちもあった。それと同時に、アイザックのときのようにノープランはもう嫌なので色々考えていた。アイザックのようにどうでもいい存在ならノープランでもいいのだが下手に助けて詰むような事態も避けたかったのでニーナに関しては本当に考える必要があった。
もしニーナを助けることができたらその今後であるが、先程も話した通りやはりキメラにならないことが大前提であろう。キメラの状態で助けると本当に詰むのだ。ニーナを元に戻すことはできる。その後がめんどくさい。ミシェル達以外誰も彼女を保護できないのである。ニーナがキメラにさえならなければ軍は彼女を味方し、彼女はヒューズ家みたいな一家が彼女を保護してくれるだろう。
どうせヒューズ中佐もミシェルが助ける予定ではあるので、ニーナの保護を頼んでも許されるだろうと言うのが勝手な予想だ。
ニーナの父親も娘をキメラにさえしなければ妻をキメラにした悪人ってことで捕えられるだけだ。獄中死か賢者の石の材料かっていう点はどうしても変えられないが仕方ないだろう。真っ当に生きることを諦めた人間ってのは、最後は大抵ろくでもない死に方をするものだから。
ミシェルは今回に関して、なるべくグレイシアとエリシアは巻き込まないつもりだ。もし巻き込まれるようなことがあれば、彼女らの死は防げられないだろう。ヒューズ中佐に関して、彼を救うために彼には大半のことを忘れてもらうつもりでいるのだ。エンヴィーよりも速く、ミシェルは彼が真実に気付くのを止めることに自信があった。
場合によってはエンヴィーを誰よりも速く抹殺することも心に決めていた。できればエンヴィーに関してはグラトニーの胃袋事件が終わるまで生きていて欲しいので殺したくないところではあるが、ケースバイケースでやる時はやるつもりだ。
ミシェルは、行き当たりばったりでも原作を知っている以上最悪の事態を避けることに絶対の自信があった。
「エド、紹介したい人がいるんだ」
「え、誰」
ミシェルの後ろに、金髪青目の高身長の男がやってくる。マスタング大佐の部屋に出入りできるぐらいだからよほど信用できる人物なのだろうが自分たちが居ない1週間の間になにがあったとエドワードは驚きを隠せない。
「ザックさん。この間僕が倒れてたところを助けて貰ってそれからずっと僕の助手をしてもらってる」
「よろしくおねがいします」
ザックと紹介された男が、あまりにも優男オーラを出してくるのでエドワードは苛立ちを隠せなかった。イライラした原因はザックというよりもミシェルの言葉の方がでかかったが。
「助手って。おい、大佐!あんだけ偉そうにしてたわりに、やっぱりクソ兄貴の見張りができてねーじゃねぇか」
「兄さん、さすがに失礼だよ」
「あまりにも空想のがどっかに消えてはぶっ倒れて帰ってくるのでな。困っていたから私としても大助かりだ」
「ほんとにその説はご迷惑おかけしました。申し訳ないです」
アルフォンスがエドワードを宥めつつ、ミシェルも大佐に謝罪していた。
ミシェルとしては内心全く反省していないがぶっ倒れたのもアイザックにさらなる洗脳と幻覚を施したからである。逃亡していたアイザックがあまりにもボロボロで治癒する必要があったのとそれに便乗して扱いやすいように色々調整したのである。調整した結果、出来上がったのが「ザック」という金髪青目の高身長の男であった。身なりを整えたらそこそこアイザックもイケメンになるのである。びっくりするぐらい別人になってしまったが。
「いつもあんな風にフラフラ消えてしまうんです?事前に言って欲しいぐらいでしたよ」
「兄さんのあれって本当前兆が無いから難しいんですよね。本当に申し訳ないです。どこか消えていなくなったと思ったら倒れるのはもう僕達慣れっこなんですけど絶対そうって訳でもないので説明するのが難しいので……申し訳ないです」
「兄貴もあれって自覚症状ないだろ?もう何回も喧嘩したことだしな……。強いて言うなら俺達の前から突然消えるのが前兆だなって思うようにしてるけど」
「大将たちでも手こずってるんですね、大変な訳だ」
「本当申し訳ない……」
ハボックの質問に謝罪しながらアルフォンスが答える。ミシェルが倒れてしまうのは負担が強い洗脳系の能力を使ってしまうからである。
寝落ちしない認識妨害の錬金術と幻覚系の能力しか使わない時もあるので、本当の寝落ちのタイミングが分かるのは本人にしか分からない状態になっていた。『洗脳』という能力は便利であるが、寝落ちするのはこれ使ってるからですね等安易に説明できないため睡眠障害という言葉で誤魔化すしかないのである。
アルフォンスがザックに質問する。
「ザックさんはいいんですか?お仕事もありますよね?」
「ちょうど仕事がクビになった日に、ミシェルさんをばったり見つけてしまいまして。」
その言葉に空気が死ぬ。主に弟達二人の空気が。マスタング班はもう聞き飽きた話なので慣れっこであるが、エドワードは恐る恐る、ザックに対し(そんなイケメンなのに)何をしたらクビになるんだと聞いてみた。
ザックの設定はこうだ。元々飲食店の店員で、長年病気で介抱していた奥さんの病状が悪化し、休みを貰えないかと聞いたところ飲食店の経営悪化もありクビになってしまった。今はもう奥さんも亡くなってしまって一人身でやることがない。彼の設定はミシェルが一通り考えたものである。
彼の葬式帰りの現場(※ミシェルの幻覚によるもの)を、マスタング組は見ているし、なおその飲食店はミシェルが幻覚で作ったので、もう潰れて存在しないしミシェルが作った偽の書類と偽物の人々の記憶だけしか残っていない。
「介抱していたらうわごとでこちらに連れてきてと説明を受けまして、あのときは大変でしたね。そのあとも色々縁があったので給料弾むから助手にならない?とスカウトを受けまして。」
ザックが喋る。その言葉に、ハボック、ホークアイ、ブレダがそれぞれ話を続けた。
「初めてミシェルがいなくなった日だもんなぁ。俺らむっちゃ探してましたよね?」
「本当、霧のように姿を消すのが得意みたいで戦場では出会いたくないタイプですね。まったく気配も探れませんでしたから」
「ザックが居てくれるとだいぶ俺ら助かるよな?」
「悔しいですが助かりますね」
「ザックほどミシェルを探す達人は中々いないでっせ」
「「(無茶苦茶信用されてる……)」」
どれだけ迷惑かけたんだよ、とマスタング班それぞれの愚痴を沢山聞いたエドワードはさすがに飽きれたようなジト目でミシェルを見るようになった。
「ほんとにその節はご迷惑おかけしました……」
さすがのミシェルもこの時ばかりは謝罪した。