カイザー。
皇帝。
そう言われて、皆さんは何を思い浮かべるだろうか。
私が思い浮かべたのは、そう。
ヘルカイザー亮。
別次元の何者かが見ているようであれば自己紹介を。
多分、本来の所属と言うか原作はブルアカ。
そのハズが、現在はカイザーコーポレーションで開発。
お固めなマスコットキャラクターとしてデュエル大会に出場。
しかしてその優秀さから下部組織の銀行オクトパスバンクの代表取締役。
そこから遂には、カイザーコーポレーションの理事にまで成り上がったマシン。
その名も、カイザー・D・M。
ちなみにD・Mは、「デュエル・マシン」と言う意味だそうだ。
PMCではない。
姿はそのままなのだが。
「なるほど。大凡の、見えている事情は分かった」
「はい、カイザー。金額から、貴方の決済が必要ではありますが……」
「構わん。通せ」
「……よろしいのですか?」
出されていた書類に判を押す。
少し驚いた様子で居る部下に、にやりと笑って見せた。
機械の顔面だからちゃんと分かるかは知らないが。
「既に調べは付けてある。当然、裏の事情もだ」
「でしたら」
「綿密に練られているようでその実、詰めが甘い。この件に関しても賛成派と反対派が入り乱れた妥協案――殆んどは受け入れられるとすら思っていないようだ」
「離間を掛けますか?」
「物騒なことを言うな――着いていけないと思う人間に声を掛けるだけだ」
深々と頭を下げる部下に「気にするな」と声を掛け、出て行く姿を見送る。
やはり、おかしい。
デュエル・マシンである私が何故、銀行の代表取締役などやっているのか。
正直それについてはそれほど深い理由はない。
なんやかんや、トップに気に入られたから。
その経緯も単純。
元々デュエル・マシンなので、デュエルをしたから。
いや、今もそうなのだが。
カイザーコーポレーションで開発され、オクトパスバンクのマスコットデュエルキャラクターとして抜粋。
そのままデュエル大会に出場したのがそもそもの始まりだった。
「――フン」
上等な、熱が籠りそうなジャケットを開く。
内側には当然のように、ギースのように、大量の遊戯王のデッキ。
此方の世界では、『デュエルモンスターズ』と言うべきか。
その内の一つを取り出し、デッキの中身を眺める。
「完璧なデッキだァ……」
と言う冗談はおいておく。
強ち、冗談と言う訳でもないが。
一番初めのデュエル大会が問題だったのだ。
既に私の思考が読めている別次元の何者かが居るとすれば、私がどう言った存在かの推測も出来ているだろう。
転生者。
それだ。
恐らく転生特典と言われるモノは、遊戯王のデッキ。
かつて組んだことのあるデッキ全て用意されている、とかそう言うタイプのモノだろう。
何時の間にか置いてあったジャケットの中に入っていた。
神様に遭った訳ではないので何とも言えないが。
予めルールのデータをインストールされていた私は、ペンデュラムとリンクの二つがないことを確認した上でデッキを百個選定した。
この時点で思い返せば、如何に狂った所業だったか。
正直『リアルソリッドビジョン』と言うモンスター達が目の前に居て動く姿に感動して色々見てみたいと思ったのは間違いなくあった。
アニメは見ない、と言うより追う気力のないミームだけの紙派の人間だったし。
「――――確認しておけば良かったのだがな」
独り言つ。
それはそれとして。
あとは一から百までのビンゴマシンを用意した。
後は簡単。
百個のデッキ全てにそれぞれの番号を振った上で、デュエルの始まる前にビンゴマシンをぶん回した。
まさにランダムデッキデュエル。
この世界。
と言うよりアニメの遊戯王全般もか。
一般的なデュエリストなら、魂のデッキと呼んで憚らない一つのデッキに執着している所から考えれば如何にも狂っていただろう。
もっと言えばこの世界。
カードに魂が宿ると称されている世界だ。
しかしエンターテインメントとして見れば、殆んど常に違うデッキを使って勝ったり負けたりする姿は如何にも絵になるだろうと思ったのだ。
一回勝てれば二回目以降からそう言う絵になるだろう、と。
そして、私は勝った。
勝ち進めた。
目を閉じれば鮮明に思い出せる。
「すまないが勝たせて頂くよ? 《人形の幸福》の効果で《超越竜グレイスザウルス》を破壊し、《ドール・モンスター 熊っち》を墓地に送る。そして、《ドール・モンスター 熊っち》をデッキに戻し、蘇れ《超越竜グレイスザウルス》! そしてそのまま攻撃! ――残念ながら蘇った《超越竜グレイスザウルス》は《聖なるバリア -ミラーフォース-》でも破壊出来ないのだよ、お嬢さん!」
一般枠。
「どれだけモンスターを用意しようが、フィールドのモンスターで儀式召喚した《リブロマンサー・デスブローカー》は相手プレイヤーにダイレクトアタックすることが出来る! 更にィ、《団結の力》を装備! 《魔神儀-キャンドール》が居ることで、その攻撃力4100! 行け、《リブロマンサー・デスブローカー》! これにて決済、ワンターンキル!」
セミプロ。
「《スキルドレイン》で効果を無効にした《絶対服従魔神》で攻撃か……! だが、早計だったな! 伏せカードへの警戒を怠った報いだ、《コンセントレイト》! これにより《R-ACEタービュランス》の攻撃力は守備力分アップ! つまりは攻撃力6000! 差し引き2500の負債、吹き飛ぶが良い!」
企業枠。
「発令せよ! 起動指令、起動指令、《起動指令 ギア・チャージ》! この効果で《起動兵長コマンドリボルバー》に装備されていた歯車、《ガジェット・ゲーマー》と《ガジェット・トレーラー》を特殊召喚! 更に手札を一枚捨て《起動提督デストロイリボルバー》をサーチ、特殊召喚! 効果で貴様の伏せカードを破壊する! これで終わりだ、《起動提督デストロイリボルバー》と《ガジェット・トレーラー》で攻撃!」
アマチュア。
「《仮面竜》で攻撃! ッ、グオおオォォォ…………! 効果で、《真紅眼の幼竜》をデッキから特殊召喚……何がしたい、だと? フフフ、このターンに私が攻撃宣言をした回数は六回! 五回以上のため手札から《流星連打-シロクロイド》を特殊召喚出来る! バトル! ダメージステップ時に《流星連打-シロクロイド》の攻撃力は攻撃宣言した回数掛ける1000の攻撃力となる! 電卓を叩くまでもない計算結果――攻撃力7000を耐えて見せろ!」
プロ。
「《召喚僧サモンプリースト》、《氷結界の照魔師》、《氷結界の守護陣》の三体でチューニング! 凍て付く地を、空を、総てを、零へと還せ! シンクロ召喚! 《氷結界の還零龍 トリシューラ》! ――効果で貴様のフィールドのカード三枚を対象に取らず除外! さあ阻むモノは何もない――貴様のライフもこれでゼロへと還る!」
シード枠。
「おっと、そこで《ギブ&テイク》! 貴様のフィールドに《魔神儀-キャンドール》を特殊召喚し、《魔神儀-タリスマンドラ》のレベルを4にする。どうだ、モンスターが増えて嬉しいだろう? それにこちらには《バラムニエル・ド・ヌーベルズ》と《魔神儀-タリスマンドラ》しか居ない。4000以上の貫通ダメージでも来れば残念ながら私は一発だが――おやぁ、せっかくサーチした《パワー・ボンド》が使えないようだなァ!」
優勝候補。
「見事だと認めるが――来てしまったのだよ、《無千ジャミング》を発動! そして、墓地の「アンティークギア」モンスター四体を除外する、《オーバーロード・フュージョン》! 現れよ、《古代の機械混沌巨人》! バトル! 《無千ジャミング》の効果で貴様の《F・G・D》の攻撃力から千の値は消え去り、ゼロ! しかし! 《古代の機械混沌巨人》は魔法の効果を受けず、よって攻撃力4400のまま! 諸とも吹き飛べェェェエエ!」
ベテラン。
「エクシーズ素材となっている《轟の王 ハール》を取り除き、《幻子力空母エンタープラズニル》の効果で貴様の……右の伏せカードを除外! さあ、王の威光をその目に焼き付けるが良い! 《死の王 ヘル》をリリースし、蘇れ! 《轟の王 ハール》! そして攻撃! ――その効果は《轟の王 ハール》と《王の影 ロプトル》で無効にする。はい。《幻子力空母エンタープラズニル》で攻撃」
ダークホース。
「サーチしていた《フェイバリット・ヒーロー》を装備し、バトル! だがその前に伏せカードを《E・HERO サンライザー》の効果で破壊! そして! デュエリストにはデュエリストの舞台があるように! ヒーローにはヒーローの舞台がある! 広がれ、《摩天楼 -スカイスクレイパー-》! これで《リミッター解除》した《Kozmo-ダークシミター》の攻撃力6000を超える、攻撃力6500! 通れ――《Wake Up Your E・HERO》ォォォォオオオオオ!」
そして前回チャンピオン。
1024人の老若男女素人達人入り混じったトーナメントにおいて、その全ての試合で全く違うデッキを使い、勝ち上がった。
初出場初優勝。
しかも全ての試合で全く違うデッキを使って。
ハッキリ言おう。
私は、楽観視していた。
アニメはGXぐらいまでしか追っていなかった。
5D'sも時々見たレベル。
その所為で、デュエルモンスターズが社会に浸透し切り、あらゆる出来事がデュエルの結果に左右される世界がどれほどのものか。
その中で疾風怒濤の快進撃を魅せればどうなるか。
滅茶苦茶人が来ました。
オクトパスバンクに。
大会翌日にマスコットらしくと銀行の前で手を振ってただけで大通りが封鎖されるレベルの人集りが出来たのには顔が引き攣る思いだった。
機械の顔だから引き攣らないが。
封鎖され止まってしまった車から降りて来た人にサインを求められたのも正直引いた。
せめて脇に止めなさい。
通報されて来たらしい警察の方からもサインを求められた時点で最早ドン引きであった。
おい、仕事しろよ。
「――失礼致します」
「どうした?」
「申し訳ありません……また、あの方が…………」
「そうか。通せ、大事なお得意様だ」
「はい………………」
流石にコトが大きくなり過ぎた結果、私はカイザーコーポレーションにお呼ばれした。
まずもってデッキ。
どうやって用意したかについて。
これは、事前に用意されていた資金を全て様々な店でランダムパックの購入に充てたと言うと納得はされた。
五十万あれば理論上、パック百五十の一枚三十としてEXデッキ込みの五十五枚組のデッキを三百個作れると言う寸法だ。
実際買ってあるし、領収書もキチンと貰っているので証明も出来る。
ランダムパックの中身は開けるまで事実上の内容不明と言うことも功を奏した。
ただ、その割には百個のデッキ全てが整い過ぎていた所為で、理事の方々が頭を抱えていたのは笑えたが。
実際、買ったランダムパックの中身は《ワイト》とタメを張れる強さな上にカテゴリ化されていないようなモンスターや《魔法除去》並に扱いに困るカードもそれなりにあった。
狂った強さのカードもあったが、それはまあ、はい。
とにかく、だ。
であるならば次はこうなる。
――本家本元であるカイザーコーポレーションのデュエルマシンがコイツのデッキを使った方が良いのではないか?
と。
実際問題、普通ならその通り。
私は下部組織であるオクトパスバンクに下げ渡される程度のレベル。
当然、カイザーコーポレーション本家でも私を上回るマシンが用意されていたのは至極当然。
デッキについても、私の十倍以上の金を用意した上で構築され、その上で同じ大会の二回戦で敗北していたらしい。
とんでもない修羅の巷である。
とりあえずそうなってしまうと私は何も言えなかった。
所詮、造られたロボット。
命令に反することは出来ない。
物は試しに、といきなり私から全てのデッキを取り上げた上でカイザーコーポレーションのデュエル・マシンと中身を《イレカエル》もとい入れ替える等と言う強硬手段は流石に取られず、百個の中から適当なデッキをお互いに選んでデュエル。
結果。
私の圧勝となった。
十回中十回が私の圧勝となった。
理由は簡単。
相手の手札事故。
通常召喚とガン伏せ以外は何も出来ないと言う事態が十回も発生し、あまりの事態に上層部の全員が顔を覆う始末。
対する私は全然普通に使いこなして相手をしている訳で。
結果。
カイザーコーポレーション全体のデュエルマスコットキャラクターに私は就任することとなった。
デュエルマスコットキャラクターって何だよ。
「カイザー! 次の大会はどれなら大丈夫だ?! いつ出場出来る!」
扉を半ば蹴破るように、一人の男が入って来た。
後に、申し訳なさそうな顔の秘書が続く。
慌てて追い掛けて来ていた部下には手で合図だけ送り、椅子から立った。
「……相変わらずだな。もう少し静かに入れないのか? 一応ここは社長室なのだが?」
「っ……すまん。しかしだ!」
「分かっている、分かっている――」
興奮冷めやらぬ。
そのような面持ちのその男を落ち着かせながら、彼の秘書に軽く顔を向けた。
申し訳なさそうに。
しかし若干興奮した面持ちで大会の予定が渡された。
ざっと目を通せば、出られそうな大会は幾つかある。
本来、プロデュエリストではない私は参加出来ない。
しかし、彼が招待すると言う形なら可能なのだろう。
実際、何度か出ているし。
机から取ったペンで幾つかに丸を付け、ついでに私専用のコピー機でコピーも取っておく。
終わった瞬間、奪い取るようにそれを取った彼が、如何にも獰猛な笑みを浮かべた。
彼。
灰色の髪をした彼は、いわゆるプロデュエリストの一人だ。
その中でも実力、人気、共にトップクラスの超一流。
いや。
この国のプロデュエリストのトップと言っても過言ではない。
しかもその高過ぎる実力に周りは追い付いて居らず孤高、ある種の孤独の域にまで到達している。
だがそれでも、観客の声に応える姿から人気は白熱するばかり。
だった。
如何ながら。
あるいは申し訳ないことに。
だった、のだ。
文字通り、いきなり現れて様々なデッキをランダムに使いながらも確かな実力を備えている私が現れたことで、現在その人気は二分されている。
実力においても伯仲。
嘘だ。
ランダムデッキなのもあって勝率三割程度。
言ってしまえばマスターデュエル次元の私と、ある程度のタネも割れている一つのデッキのみを使って競り勝って来る彼には冷や汗を禁じ得ないのだが。
ともあれ。
千人規模の大会を勝ち抜いた私に、国から招待があった。
プロデュエリストの大会に出てみないか、と。
それに対してカイザーコーポレーションは承諾。
上にそう言われれば否応もない。
変わらず、百個のデッキを携えて参加した。
その中、普通に勝ち進んでしまって決勝戦。
新人対頂点。
ただ一方的に蹂躙されるだけの舞台が予想されていた中、激闘。
激闘。
なんでドラゴン族主体の彼のデッキが、私の【アルバスの落胤】相手に激闘を繰り広げられるのかが甚だ疑問だったが、激闘。
その末。
勝利を手にしたのが私だった。
あの時の沈黙は、いっそ悍ましさすら感じる程。
リアルソリッドビジョンが切れ。
身動ぎすら聞こえない。
周りを見ても、時が止まったように動かない。
観客の呼吸すらその時ばかりは止まっていた中。
負けたハズの彼が哄笑を始めるまで、あらゆるモノが止まっていたのだから。
「失礼致します」
「ああ、ありがとう――まあ座れ。立ったまま話をするのも難だ」
「……すまん。俺は……」
「気にするな」
しろ。
と言いたい所だが、この暴走は別に今に始まったことではない。
あの大会が終わってからずっとだ。
もう確か何年か経っているが、ずっとだ。
暇さえあれば私の所に来てはデュエルを揺する。
それに伴って、個人的な友好関係も築かれた。
銀行としても、と言うよりカイザーコーポ―レーション全体としても、私個人にこの国トップのデュエリストが仲良くしているのはプラスになる。
実際、彼が会いに来る名目として投資や融資の話も持って来てくれている。
お陰様でマスコットのハズの私はあっと言う間に成績トップに踊り出し、一年経たずに代表取締役に納まるに至ったのは最早懐かしさすら覚える。
その後は、お飾りのハズなのに代表取締役としての仕事も何時の間にか余儀なくされているのだが。
まあ、それは良い。
来客用の饅頭を食べている彼の横に、ビンゴマシンを置く。
瞬間、その目が輝いた。
「さて……すまないが細かい話はそちらで進めてくれ」
「はい。では――今回はどのような」
「うおおおおおおおお! さあ、今回はどんなモンスターの声を聞かせてくれる?! 俺を満足させてくれる!?」
丸々二個はあった饅頭を呑み込むように食べ尽くし。
ビンゴマシンを煩い程にぶん回す彼。
エンターテイナーとしては彼が好きなハズの部下も、流石にこの様には呆れた様子。
諦めたように首を振り、見なかったことにして商談に移り始めていた。
対する私はデュエルマットを用意しながら、心の中でため息を付く。
コレがどうなれば、アレになるのか。
どうしても分からない。
「番号は…………コレだ!」
「……なるほど。では、お互いにシャッフルで」
「うん、うん!」
計算機。
あとコインを取り出す。
「――どっちだ?」
「表だ!」
「結果は……正解。どうする?」
「後攻! さあ、早くお前のモンスターの声を聞かせてくれ!」
「分かった分かった……では、私の先行。行かせて貰うぞ――」
分からないモノは仕方ない。
なので精々、私も私で利用させて貰う。
来るかは分からないが、その時には。
お前はお前で、私を自身の満足のために利用している部分があるのだ。
悪く思ってくれるなよ。
なあ、
「――ズァーク」
Q:なんでカイザー理事?
A:私にも分からん。
Q:時系列とかそう言うのは?
A:適当。