彼等の見る光天   作:無記名 to 稿

2 / 6
中編

キーボードを叩く。

高級車も、悪くはない。

揺れないからだ。

駆動音が静かに響く中、無言で指を動かし続ける。

投資の話だ。

間もなく開かれるデュエルモンスターズの世界大会。

それへの注目度は現状、非常に高い。

とは言え。

我が国では大凡、他国の実力者が如何にズァークに喰らい付けるか、と言う視点である。

それについては私のデュエル・マシンとしての頭脳から見てもその通りなのが何とも言えない所ではある。

部分的に見れば勝っている者も居る。

しかし、総合的に見れば頭一つ抜けている。

「まあ、ウチの国のトップと互角くらいかな……」と言う評価が大多数なのだ。

実に恐ろしきはズァーク。

その従える、四体の龍と魔術師達だろうか。

 

「理事」

「…………着いたか。ありがとう」

 

軽く礼を口にし、降りる。

駐車場に止めに向かっている車は無視し、一人で正面口へと進む。

当然、暫く前にアポイントは取ってある。

警備員にも軽く手を振り、そのまま自動扉を抜けた。

全身を覆うような冷房の風。

受付嬢が目を向けてきたが無視して突き進む。

既に十何度、あるいは何十度にもなるか。

幾度となく出入りをしている勝手知ったる場所だ。

彼方も、ある意味特徴的過ぎる私を見て、そのまま自分の仕事へと戻ったのが横目に見えた。

 

「……さて」

 

突き進んだ先で、ジャケットからカードを取り出す。

来過ぎてIDカードまで貸し出されている始末。

良いのか、色々と。

思わないでもないが、ここへの融資は率先して行っている。

それもあってのことなのだろう。

何となく弄んでいたソレでキーを開く。

有名無罪。

あるいは実力者無罪、とでも言おうか。

強いデュエリストであり余程のことをしなければ、現行犯でもない限りは無罪みたいな風潮が割とある。

それも一助となっているのだろう。

微妙に納得行っていない自分自身を無理矢理納得させながら、入り込んだ。

部屋の中には何やら様々なメーターの動き回っているモニター。

その前に座り、私が入って来たことにも気付かずキーボードを叩き続けている浅黒い肌をした短髪の男。

時間を確認するが、五分前。

強引にでも声を掛けねば何時までもそのままだ。

三十分過ぎても気付く気配すらなかったこともあった。

慣れていることだが。

額を軽く押さえ、その肩を叩く。

 

「――博士」

「おっ、おお――もうそんな時間だったか。申し訳ない」

「いや、まだ五分前だ。それに急ぎのことではないが、な?」

「そう言って貰えると助かるが、君を引き留めていると後が怖い――報告させて貰う。少し待ってくれカイザー」

「今日中であれば幾らでも。赤馬博士」

 

慌てた様子で席を立ち、キャビネットの一つに向かう博士を見送る。

赤馬零王。

下の名前だけ見れば、アニメのラスボスを張れそうな名前。

だが、彼はそう言った人物ではない。

研究者だ。

それも、凄まじい。

ソリッドビジョン。

それを応用し、デュエルモンスター達にあたかも命を吹き込んだ。

リアルソリッドビジョンの開発者。

まさに稀代の研究博士。

それが彼だ。

 

「――見ての……いや、分からないか」

「申し訳ないが銀行マンなのでね。機械はトンとダメだ」

「マシンの君が言うのかい?」

 

軽口を交わしながらソファに腰掛ける。

機械の私が乗っても、軋みの音一つ鳴らさない上等品だ。

もう一度、モニターに目をやるが。

なるほど。

分からない。

やはり大人しく報告を聞くしかないな。

私の望みは、

 

「別次元の観測は変わらず上手く行かないよ……」

 

私自身では叶えられないのだから。

 

 

 

ズァーク。

即ち、《覇王龍 ズァーク》。

その特徴的過ぎる名前から、そこに繋げるのは余りにも容易い。

そうなればその眷属。

「覇王眷竜」モンスター達はどうなのか、と言う疑問もある。

まあ、彼等だか彼女等だかは配下である四体の龍に連なる何かなのだろう。

とにかく。

《覇王龍 ズァーク》。

あのモンスターと言えば何を思い浮かべるだろうか。

そう。

激重な融合条件。

も、だがそちらではなく。

ペンデュラム召喚。

それである。

確か《覇王龍 ズァーク》がペンデュラム召喚関連のラストを勤めていたようなことを聞いた記憶がある。

事実、パッケージやCMを飾っていた《覇王龍 ズァーク》がペンデュラム効果を有している以上は強ち間違いではないだろう。

故に心配があった。

恐らくペンデュラム召喚は、ズァークが開発した召喚方法とかそう言う感じなんだろう。

しかしペンデュラム召喚。

あの、ペンデュラム召喚。

悪名高きペンデュラム召喚。

当初はまだ良かった。

弱かった方だし。

よく分からないしそこまでだった。

しかし。

四体の竜の首を刈られて漸く鈍った【征竜】が、ある意味では始まりの狼煙か。

デッキ融合の【シャドール】。

殴り合う、儀式召喚の【影霊衣】と名ばかり融合【M・HERO】。

あっさり重なる【光天使テラナイト】。

ここは、全く以って良くないが、まだ良い。

しかし。

漸く始まった【ペンデュラム召喚】の時代。

いや、始まってしまった時代。

ある意味始まりのペンデュラム【クリフォート】。

そして、本当の地獄の時代。

【EMEm】。

【EM竜剣士】。

ペンデュラム一強。

しかし。

EXデッキ封じの【真帝王】。

大量展開の【彼岸】。

漸く落ち着いてきた流れ。

凄まじい制圧力の【ABC】

ラッシュ攻撃の【Kozmo】。

落ち着いた筈だったのに。

凄い雑に重なっていく【十二獣】。

至高の龍ってコッチだろ【真竜】。

思い返す。

別に全てがペンデュラム召喚の所為とは言えない。

だが、だ。

責任の一端は間違いなく握っているだろう。

主に【EM】が。

だからこそ。

ソレを押し留めるために決意した。

まだない、ペンデュラム召喚。

その一強環境にならないよう、せめて足掻こうと。

 

 

 

「ザー……カイザー……?」

「ああ……すまない。少し、考え事をな」

「全く……まあ、分かりますよ」

 

そう言いながらも。

まるで爆発物でも取り扱うように慎重な手付きで、そのカードを持ち上げた。

黄色い通常モンスター。

茶色い効果モンスター。

紫色の融合モンスター。

青色の儀式モンスター。

白色のシンクロモンスター。

黒色のエクシーズモンスター。

そして来るだろう、ペンデュラムモンスター。

 

「コレを知ってしまえば――理解してしまえば」

 

それら全てと違う、紺色のカード。

そう。

リンクモンスター。

その普及に努めるため、私は彼に協力を願った。

 

「中々気疲れもあるでしょう」

 

気疲れは貴方もそうだと思うが。

と言うのは流石に口にしない。

リアルソリッドビジョン。

その開発により彼、赤馬零王はあらゆる名声も名誉も手に入れた。

恐らくは金銭的な諸々も相当入り込んできたハズだ。

何せデュエルモンスターズ。

この世界の娯楽含めあらゆる根幹を担っているデュエルモンスターズに、間違いなく新しい歴史を刻み込んだのだ。

この世界の歴史書に未来永劫その名を刻まれ続けるだろう。

実際、既に歴史の教科書に載っているとも聞く。

しかし何も良いことだけではなかった。

デュエルの激化。

そして事故の発生。

あのズァークが対戦相手を、リアルソリッドビジョンの事故で大怪我を負わせてしまった。

幸か不幸か、ズァークは無罪に終わっている。

私と出会う前のことでもあるし、今更ほじくり返すようなことでもないから触れたこともないが。

それより今は、赤馬博士の話だ。

リアルソリッドビジョンの事故。

起きた事故はあくまで設備の不具合から生じた事故であったそうだが、どうやらそれが博士に何かしらの影を落としたと見える。

比較的出ていた表への露出も減り、何をしている訳でもない研究に時間を費やしていたようだった。

だから声を掛けた。

声を掛ける隙が出来ていた、と言い変えられるか。

 

「コレを見付けた――いや、このカード達に見出された私の使命と考えている。気にするな」

 

当初は融資の一環として。

しかし本筋は、調べて欲しいカードがある、と。

リンクモンスターを持って訪問した。

当初は「知らないカードだな」と困惑と少しの面倒臭そうな雰囲気の混じったモノだったが、一週間後の再訪問の折には完全に顔付きが変わっていたのを覚えている。

謎のカード。

守備力もない。

発行された形跡すらない。

しかしこれは間違いなく、デュエルモンスターズのカードである。

ならばこれは何だ。

と。

正式な調査が始まった。

デュエルモンスターズのカードの正式な調査とか、一体なんだ。

グールズの偽造カードとかそう言う関係の何かか。

等と思わなくもなかったが、とにかく正式な調査が始まった。

暫くは進展なし。

週一度にあったメールでのやり取りでも常に『進展なし』の文言のみ。

そしてそれが五回目に達した段階で、業を煮やした風を装い取り返しに向かったのだ。

モチロン本当に取り返すつもりはなかった。

赤馬博士以上の研究者を知らない以上、彼に頼らざるを得ないのだから。

しかしそれが上手く行った。

未知を目の前にソレを奪われるのは辛かったようだ。

長い言い争いの末にこの研究に専念すると言う言質を得、無事に終わった。

 

「異世界。あるいは異次元のカード…………」

「実際、情報を得られているのだ。間違いはないのだろう?」

「分かってはいるんだが……」

 

言い争いの中。

「この世界の何処にもあるはずのないカードなのだ」と口にした博士。

それに対し、「ならば異世界のカードなのだろう」と返して。

二週間以内に成果を見せられないなら返して貰うと言ったまさかその三日後には成果を出して来るとは流石に思っていなかった。

何でも、カードから放たれているパワーと同じパワーを探り出す装置を研究所の諸々利用して翌日には組み上げ、時折僅かに、しかし確かに開く別次元の存在を探り当てたらしい。

別次元の存在を示唆して三日で成果まで出すとか。

本物の天才過ぎて内心ちょっと引いた。

と言うかカードパワーとは何だ。

雑に強いカードのことか。

まあ、成果が出た以上はと追加でカードを渡したら半ギレされたが。

糸口も掴めてないのに渡す訳がないだろうに。

そう言うと悔しそうに睨まれたのは、記録に鮮明に残っている。

 

「もしかすれば、別次元にも私が居たりはするのかとね」

「パラレルワールドと言うヤツか」

「そう。私自身との共同研究が出来れば一層この研究も捗ると思うんだが……」

 

そう言うその目はキラキラと輝いて見える。

恐らく、未知に触れるのは、どれほど高名な研究者に成ろうともワクワクする事柄なのだろう。

分かる。

私も、新しいカードを見ればどのようなデッキに合うかを考えてしまう。

とは言え。

幾つもあるカード。

リンクモンスター。

その一枚。

この世界には未だ存在していない種族。

サイバース族。

リンクモンスターと共に登場したこの種族もまた、未だにこの世界には存在していない。

と言うことになっている。

博士に預けている物と、私のジャケットの内側にあるカード達以外には。

 

「お前自身を見付けるよりも、これらのカードの次元から情報を取れるのが先じゃないか?」

「夢がないな……いや、その通りではあるが」

 

ため息を付くのを無視し、モニターに目をやる。

別次元の観測。

観測し、その世界のデュエルモンスターズの情報を得る。

ソレを以って此方の世界に更なる発展と進化をもたらす。

表向きな理由としては。

そのため手にしていたリンクモンスターを赤馬博士に預け、実際に観測には成功。

だが、そこまでだ。

既にそれからどれほど経ったか。

観測は出来たが、切れ切れのそこから得られる情報は僅か。

どうやら世界同士が安定、あるいは拮抗しているためか、次元に観測出来るだけの隙間が生じないのだ。

それでもそれらの情報を基にデータの更新を進めているが、私の持っているデッキのカードあってこそ。

そんな調子なのだから、仮に別次元の赤馬博士が居るとしても見付け出す等、夢のまた夢だろう。

 

「…………お前達がこの世界で動けるようになるのは、何時になるのやらな……」

 

胸元を。

ジャケット越しにデッキを撫でる。

僅かに温もりを持った気がするのは流石に気のせいだろう。

この調子ではペンデュラム召喚が先か。

出来れば先にリンクモンスターの動ける環境を用意したい。

具体的にはEXモンスターゾーンを増設したいのだが。

あの大暴れはもう見たくない。

 

「…………」

「…………」

 

一応用意され、キャビネットから出されていた報告書を捲る。

これを見るまでもなく、遅々として進んでいないのは分かっている。

沈黙が研究室を満たす。

そのままどれだけ過ぎたか。

不意に扉が開いた。

IDカードがなければ開けない研究室だ。

そうなれば入って来る者は限られる。

誰か予想するまでもないとは思いつつそちらに目を向ければ、予想通りの彼女が居た。

 

「やっぱり……お久し振りです、カイザーさん」

「久し振りだな、レイくん」

 

挨拶してくる彼女だが、既にそのデッキを取り出している。

どうにもならないだろう。

等とは思いつつ赤馬博士を見るが、予想通り、軽く頭を下げられた。

そうこうしている内にもその博士を押し退けるように私の前に座った彼女がデュエルディスクを構える。

しかしそれは手を振って断り、プレイマットを取り出した。

 

「…………相変わらずですね」

「悪いか? だがそう言う君も変わらない」

 

口にしながらスーツのポケットから電子ビンゴマシンを取り出す。

電卓サイズで自動的に一から百までの数字を出してくれる凄い奴だ。

あるかも知れない野良デュエル用に用意しておいたのだが、使用例は少ない。

最初の大会を優勝してすぐの頃はともかく、ズァークとやり合ってからは、少なくとも両手で数えられる人数の人間としか使っていないだろう。

 

「私が、ですか?」

「ああ。一応これでも社長のつもりなのだが……そんな私に野良デュエルを仕掛けてくるのは君とズァークぐらいのものだ」

 

出た数字のデッキをジャケットから取り出し、シャッフル。

最近はデュエルディスクに任せて手でシャッフルしない者も居るらしいが。

彼女は少なくとも、私とする時は大体マットだからか手慣れた様子でシャッフルしている。

交換シャッフルしてテーブルに置いた。

 

「――――ズァーク……」

「……?」

 

何やら不穏なことを。

思わず見やる。

普段なら、そのまま意気揚々と私にコイントスに移らせてくる。

しかし、それを急かしてくる様子もなく、俯いている彼女の姿に思わず手を止めた。

真横に閉じられた口。

僅かに窺える瞳にチラつく、憎しみの色。

彼女。

赤馬レイ。

赤馬零王博士の唯一の肉親である彼女は、プロのデュエリスト。

顔とか何か、CMとかで見たことのあるような気がするのだがそれとは微妙に違う顔な気もする。

正直、遊戯王のアニメの登場人物はパーツ的に見ると似ている部分が多くて当てにならないと気付いたのは後になってからだったが。

当初は何かしらの重要人物かとも思ったものだ。

特に何も起きてないから、単に考え過ぎなだけなのだろうが。

ともかくデッキを用意だけして一向に手を進める様子のない彼女に、一度コインを置く。

赤馬博士もその様子をどこか困惑した様子で見てきている。

つまり、これは博士からしてもある種の想定外なのだろう。

肉親だからこそ相談し辛いことでも。

隣に居るのは別として、肉親以外から話を聞いてみたいことがあるのも分からないではない。

一先ず、口を開くのをただ待つ。

恐らく、僅かな間をおいて、彼女は口を開いた。

 

「……………………彼」

「彼?」

「ズァーク」

「ああ、彼か。彼が?」

「彼とも、こう言う風にデュエルをするんですか?」

「……マットで、と言う意味か?」

「はい」

「銀行に彼が来た時はいつもそうだな」

 

答えた瞬間。

その顔に動揺が走ったのが見えた。

次の瞬間には表情を取り繕っているが、確かに。

流石はプロのデュエリスト。

デュエル・マシンでなければ見逃していた所だろう。

しかしそれを億尾にも出さぬよう努めながら、思い返すように顎を撫でる。

 

「……うん。最初の二回程度だな、デュエルディスクを使ったのは」

「彼は……その。リアルソリッドビジョンのデュエルでしか満足出来ないのだと思っています。違うんですか?」

「それは間違いようもなく、間違いだな。アイツはむしろ、リアルソリッドビジョンでデュエルはあまりしたくないんじゃないか?」

「彼が? あの彼が? まさか……」

 

何処か吐き捨てるように口にする。

デュエル中ならともかく、平常時にここまで攻撃的なのは珍しい。

故にこそ。

ふと、考える。

彼女の思い浮かべているズァーク。

その姿は、どのようなものか。

恐らくは世間一般。

四体の龍と魔術師達を駆使し、相手を容赦なく叩き潰す姿。

覇王。

居並ぶモンスター達の姿から、誰が呼び始めたのか、そのように称されている姿なのだろう。

ああ、なるほど。

ソレか。

この国でのトップは彼だ。

言い換えれば。

そして事故をある意味で「起こした」のも。

父親の開発したリアルソリッドビジョンをあのような使い方をしている代表格が、彼だ。

しかし違う。

アレは単に、仕事用の外面みたいなものだ。

 

「リアルソリッドビジョンでのデュエルは――少なくとも、君達にとって観客を楽しませるエンターテインメントだと思うのだが、どうだ?」

「……はい。その一面は確かにあります」

「私は百のデッキを使いこなすデュエル・マシンとして普通にデュエルすればそれだけで絵になるから良いが、ズァークは違う」

「どれも自由に使えるのは凄いと思いますけど……」

「彼は、エンターテイナーだ――故にこそ…………あー……」

 

口にしていながら、今更に言い淀む。

思わず。

赤馬博士を見やる。

彼に対しても中々失礼なことを言っている気がしたのだ。

実際その表情が僅かに硬くなっている。

しかし、私の口を止めようとはしない。

内心で謝りつつ、その先を口にした。

 

「……リアルソリッドビジョンで人が怪我をするような事態になろうとも、彼は観客がソレを望むならソレを優先する。優先してしまう、そう言う種類の人間だ」

「! …………」

 

開き。

何か口にし掛けた口。

しかしそれから何も出ることはなく、閉ざされた。

ズァークの取り巻く状況。

当時の取り巻いていた狂乱を思い出したのだろう。

あるいは対戦相手の研究の中でその時の映像ぐらい、目にしたのかも知れない。

アレは、異様だった。

興奮から来る認識力の欠如があったかも知れない。

それでも。

私はあの映像の中に、人間の悍ましい業を見た気がしたほどだ。

気がしただけだが。

大怪我を負った選手を目にしながらも。

もっと。

もっと。

もっと。

もっともっともっと。

際限なくその先を望み続けていた観客達の姿に。

 

「………………望まれてするが彼は別段、エンターテイナーであっても普通の人間だ。罪悪感もあれば、気疲れもする」

「…………」

 

再び俯くその顔。

唇が、内に巻き込まれている。

思う所があるのだろう。

それが今は、どちらに対してなのかは知らないが。

 

「観客が私を打ち倒す姿を望みながらもそれを成せなかった彼が銀行にまで乗り込んできたのは、今思い返せば別におかしなことではなかった。観客の望みを叶えられなかったのだから」

「……あのデュエルは、素晴らしかったと思います」

「しかしその後はともかく、あの時の観客が望んでいた物とは違った。そうだろう?」

「………………」

「まあ――なんだ、なんやかんやあって彼とはマットでデュエルすることの方が恐らく多い。勝てた私だからこそ、と言うのもあるいはあるのかも知れないがな」

 

こう。

シリアスな空気は苦手だ。

顔が見えないほどに俯いてしまった赤馬レイも。

静かに、そして強く目を閉じている赤馬零王も。

別にそう言う姿が見たくて口にした訳ではない。

何と言うか。

誤解されているだけだと不憫と言うか。

言い訳だが、そう言う気持ちが湧いたから、とりあえず弁解しておくか位の言い分でしかなかったのだ。

本当は生粋のサディストなのかも知れないし。

生身の人間相手にしないと盛り上がらない質なのかも知れないし。

まあ、私としては。

リアルソリッドビジョンでデュエルを楽しめるなら大人しく楽しみたいだけなのだ。

「吹っ飛ばせ」だの「殺せ」だのと。

物騒なことを言って来る観客は、出来れば出禁にしたいぐらいだ。

前の世界で言う競馬のように、無視するのが一番良いのだろうが。

一先ず、渡されていた報告書を懐に捻じ込む。

 

「…………デュエルする空気じゃなくなったな」

「あ……」

「赤馬博士。今日の所はこれで……」

 

伸ばし掛けた手を止める。

唐突に、私のデッキが崩れた。

いや。

崩れた、と言うほど激しくはない。

デッキトップが少し滑った、と言う方が合っているか。

ちょうど五枚、マットの上に滑り落ちた。

 

「モンスター達は戦いたいみたいですね。やりましょうか」

 

有無を言わさず。

さっと自分のデッキトップから五枚をマットに置きながら彼女が言う。

手を宙に彷徨わせる私に対し、その指先がマットを叩く。

にこやかな笑みだが、何とも言えない威圧感を感じる。

先程までの空気は何だったのやら。

仕方ない。

ため息を付き、コインを取った。

 

「――どっちだ?」

「裏です!」

「結果は……外れ。先行を貰おうか」

「はい! 今度はどんなモンスターを見せて下さいますか!」

「落ち着きなさい……では、私の先行。行かせて貰うぞ――――レイくん」

 

 

 

そうして日が流れ。

やがて、ある一報を耳にした。

いや嘘だ。

耳にした、と言うのは嘘だ。

テレビ越しに見ていた。

カイザーコーポレーションとして大会のスポンサーもしていたのだから当然のこと。

あとは、そう。

友人の勇姿を記録しておいてやろうか、と言うぐらいの気持ちで。

赤馬親子はリアルソリッドビジョン開発者と娘もといプロデュエリストと言うこともあって、現地に招待されてその場で見ているそうだが。

世界大会。

そこで己の力を見せ付け、世界チャンピオンに到ったズァークの姿を。

 

 

 

『これで終わりか!?』

 

『もう俺と戦うヤツは居ないのか!?』

 

『戦えるヤツは居ないのか!』

 

『俺は――まだ満足していない!』

 

『もっと強く!』

 

『もっと激しく戦いたい!』

 

『誰か!』

 

『誰か居ないのか!?』

 

『立ち上がる者は!』

 

『立ちはだかる者は居ないのか!?!』

 

『――――』

 

『――カイザー!!!』

 

『最早、お前だけだ!』

 

『俺を、俺達を満足させてくれェェエエ!!!』

 

 

 

「……あいつ、満足民だったのか」

 

テレビを消し、見なかったことにした私。

その元に掛かってくる大量の電話。

無視するために電話線を引き抜きながら、思わずそう呟いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。