タナトス。
精神分析に置いて、『死に向かう欲望』。デストラドーとも言う。
逆に『生きる欲望』をエロスという。
そして、タナトス……殺意や狂気が限界に達した時、人は怪人へと変わる。終わりなき殺人衝動を持ち異能を扱い人を殺す。ただ殺し続ける。
「だけどね、人が人を一番殺していた時期………戦争中に、タナトスが溢れていたと思うかい? そりゃ怪人も多く生まれたさ。でも、怪人より人が人を殺す割合のほうが多かった」
「そうか………」
「人は狂気に飲まれずとも、冷静に人を殺す。どうやって殺すか考え、どうやって全滅させるか考え、時にはより苦しめる殺し方を、時に誰にも気付かれぬうちに目的の人数を葬る殺し方を、理性を持って思考する。僕はこれを、ギリシアの戦争の神に因み『
眼の前の少年相手にケラケラと笑う幼子に、少年はどうでも良さそうに欠伸をする。
「今の君がまさにそれだ。殺すための技術を学び、己で武器を作る………狂気の如き殺意を持ちながら頭はクリアに牙を研いだ……怪人という呼称は相応しくないなぁ…」
秘密裏に怪人を倒す存在がいる。
怪人の凶器や装備品……通称遺物を用いて怪人の力を使う少女達。そんな彼女達は敬意を込めて、こう呼ばれる。
怪人麗嬢と!
とはいえ遺物がなければただの人間。対して怪人は個体差はあれど高い生命力を持ち中には不死身に近い再生能力を持つものもいる。
故に怪人麗嬢達は遺物の主が再生能力持ちの場合を除き休息の場を必要とする。それが怪人麗嬢達を囲う学園の付属病院。
そこが、襲われた。サイコキラーと呼ばれるタイプの怪人DEAD FACE。ナースのような姿をし、剥き出しの歯茎、眼孔に存在する2つの口が特徴の怪人だ。
メスに刺されたものは徐々に皮膚が剥がされていく。
遺物を持たぬ怪人麗嬢印南は遺物に飲まれかけた怪人麗嬢を正気に戻す力を持った怪人エロスこと須藤遊真とともに病院内で生き残り………怪人麗嬢九十九と合流すべくメモの『B22』に従い遺体安置所に来ていた。
しかしそこにDEAD FACEも来ており、遊真は二人を逃がすために戦闘。死にかけた際DEAD FACEが女の形をしていることに気付き怪人エロスとしての本能に覚醒。肉体性能差で圧倒するも、顔が人間に戻りかけているのを見て動揺した隙を疲れ形勢逆転。
そのまま皮膚を剥がされそうになった瞬間………
「ぐぎゃあ!?」
DEAD FACEが吹き飛ばされた。
現れたのはコートを着て顔をフルフェイスで隠した人物。
怪人を壁まで蹴り飛ばしていたことから、恐らく怪人か怪人麗嬢………。
「あ、あんたは…………」
「カイジン」
「!?」
男の声。怪人麗嬢ではない……。たしかに言葉が通じる怪人はいるし、DEAD FACEもそのタイプ。だけど、この自称怪人は何処か違う。言葉は通じるが話が通じない怪人と違い、こちらを殺意を向けていない。
「ガアアアアアア!!」
「あぶねえ! そのメスに触れたら──────は?」
立ち上がったDEAD FACEがメスを放つも全て片手で掴み取られる。反応速度が人間のそれじゃない。やはり、怪人?
「遊真君! 無事か!?」
「!? サキ、あれは敵!?」
「……解らない、誰だ?」
フルフェイス男を見て困惑するサキと九十九。フルフェイス男は二人を一瞥した後、興味をなくしたのかDEAD FACEに向き直る。
人体切断用の電動メスを振るうもフルフェイス男は手首を殴り、蹴りに肘を打ち込み、拳に裏拳を当て腹に手を当て、床がひび割れる程の震脚を持って吹き飛ばす。
「強い………戦闘技術が、達人の域だ」
「か、かっけえ………」
「でも、怪人は怪人の力じゃないと………」
「アアアアアア!!」
と、人の皮膚の山に突っ込んだDEAD FACEが人の皮膚のドレスを纏いながら飛び出してきた。
「キャハハハハ! 貴方の皮も剝いデあげル!」
「ほう………」
「待ってくれ!」
と、フルフェイス男の横に立つ印南。
「僕も手伝う。大勢の人間に対する凶行を許してしまい、遊真君に頼り、命まで危険にさらしてしまった。麗嬢の恥だ………僕がケリを………がっ!?」
返答は蹴り。
やたら内部に響く鈍い痛みが印南を襲う。
「サキ!」
サキを攻撃したフルフェイス男に九十九がボウガンの矢を放つがあっさり受け止められ投げ返される。その隙とばかりに迫ったDEAD FACEを、印南が斬る。
「暴走………じゃないか。邪魔って、言いたいのかな? でも、僕だって麗嬢なんだ。怪人相手に何もしないなんて僕には………」
「うるせえ黙れ。邪魔だ」
そう言って取り合わないフルフェイス男は印南の肩を掴み後ろに投げるとDEAD FACEに向き直る。
「あれは俺が切る。相手してほしけりゃ、遺物に全てを委ねるんだな」
「…………」
この男は、違う。誰かを救うためとか、憎いからとか、そんなありきたりな感情ではない。ただ殺したいから殺す。純粋な殺意がそこにあった。
「よクも………」
「傷が………再生能力持ち!」
「ガアアアアアアア!!」
「…………大して硬い装甲も持たねえが……まあ、試し切りにはちょうどいい」
そう言って、男は
「鉄を燃やし鉄を打ち、目指すは骨肉命運断つ至高の一刀…………故に死ね、至高の証明として」
ザンッと右肩から股下まで両断されるDEAD FACE。心臓は無事………ならばまだ再生する……はず、なのに。
「ぎゃああああああ!? 痛い! 痛い痛イ痛い痛い痛い!!」
再生しない。傷口から流れた血溜まりでのたうつDEAD FACEの体は確実に死に近付いていた。
「斬られた者は斬られた者らしく血の海に沈め。神であろうと悪魔であろうと、負けたのならさっさと死ね」
暴れていたDEAD FACEだったがすぐに事切れた。残ったのはフルフェイス男に………怪人麗嬢達。警戒し武装を構える怪人麗嬢にフルフェイス男は特に興味もなさそうだ。
「………少年、無事か?」
「え、ええ………」
「よく生きてるな………ああ、お前が怪人エロスか。なるほどなるほど………俺もカイジン………宜しくな」
「…………本当に、怪人なんですか?」
「人ではないからな。ただあいつは、字を変えて呼んでいたな……」
『人は命を殺すために常に変化を続けて来た。どれだけ法律だ倫理を改めようと変わらぬ人の在り方。それを持って己という存在を改めた者………』
「改人………」
改人サムライソード。
この存在は後に、彼らの運命を大きく変えることとなる。
改人サムライソード
元々は怪人を目撃し、殺してみたいと思ったただの一般人。殺せる武器を模索し日本刀に決め自ら刀を打った。
素手で熱した鉄に触れてる間になんか手と融合してたが気にせず制作している間に刀が完全融合した。
能力は刀生成と再生能力阻害に万事両断。刀は新しいもの程硬く鋭くなる。
姿は変わらないのでフルフェイスやコートは市販のもの。
本人自身再生能力は高いが一つの戦闘に区切りがつくまでOFFにしている。理由は単純、卑怯だから。
因みにただの人間だった頃から怪人を素手で制圧できる程度には格闘技を極めている。
怪人(?)LOVEクラフト
自称人類を愛する存在。怪人という呼称は自称。
本人曰く長生きだから新しいことが大好き。改人の名付け親。