Verloren Violet   作:烊々

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第一話 「女神」

 

 

 かつて、世界には二種類の『人間』がいた。

 『神界』に住まう『天上の民』と、『ゲ界』に住まう普通の人間。

 膨大な魔力を持ち、寿命が長い天上の民は、ゲ界の民のことを見下し、支配しようとしていた。

 そのために『モンスター』を創り出し、定期的にゲ界に送り込み、ゲ界の発展を妨げていた。

 だが、ある時を境に、この天上の民と呼ばれた者たちは、世界から姿を消した。ゲ界の民にその理由を知るものはいない。

 しかし、世界にはかつて天上の民が創ったモンスターが未だ残り続け、ゲ界の民の脅威となり続けている。

 そして────

 

「今日こそあなたの力を奪ってやるわ! ホワイトハート!」

 

 ある天上の民が創り上げた最強のモンスター『女神』たちが、自身の目的のために、終わりのない戦いを続けていた。

 

「『ヴォルケーノダイブ』ッ!」

 

 女神『ブラックハート』が放つ爆炎を纏った斬撃が、女神『ホワイトハート』を襲う。

 

「ちぃ……っ」

 

 ホワイトハートは手に持つ戦斧で爆炎を薙ぎ払い、斬撃を受け止める。

 吹き飛んでいった火の粉が、民間人の居住地に降り注ぎ、民家を焼いていく。

 

「……っ!」

「余所見?」

 

 民間人の被害に気を取られたホワイトハートの隙を付き、ブラックハートが剣を突き立てる。

 

「てめえ……っ」

 

 ホワイトハートは咄嗟に回避しようするが間に合わず、剣が脇腹を掠める。

 

「痛……ぅ」

 

 傷が浅く、大したダメージになっていないことから、ブラックハートは追撃を諦め、反撃を考慮し距離を空ける。

 

「……いい加減にしろよ!」

 

 ホワイトハートが怒りを叫ぶ。

 

「私たちの使命は、こうやって殺し合うことじゃねえ!」

「またその話? もう聞き飽きたんだけど。世界を守る、だっけ?」

 

 何度も拒絶してきた説得を性懲りも無くまた試みようとするホワイトハートを、ブラックハートは鼻で笑う。

 

「そうだ! 世界を、人を守護し、導く! それが私たちに与えられた使命だ!」

「……違うわ」

 

 はっきりと、ブラックハートは言った。

 

「私たちは、完全な存在になる為に生まれてきたのよ」

 

 先程のようにホワイトハートの言葉を嘲笑うのではなく、その言葉を明確に否定するように。

 

「争い合い、力を奪い合い、今よりも高みの存在へと進化する。それが私たちに課せられた使命よ」

「いつまであの謎の声に唆されてんだよお前は!」

「唆されてるのはあなたよ! あなたにもあるはずよ! 有り余る力を持ちながら、心の中心にある"欠乏感"が!」

 

 ホワイトハートは、ブラックハートの言葉を否定できなかった。

 『欠乏感』、ブラックハートが言ったそれは、ホワイトハートの心にも確かに存在するからだ。

 そして、その欠乏感を埋める為には他の女神を全て倒しその力を奪い更に上の存在へと進化するしかない、という誰に言われたかも忘れてしまった言葉に、ブラックハートは囚われているのだ。

 

「私はあなたを……全ての女神を斃して、完全へと至るのよ! その後になら、あなたの言う使命とやらをやってもいいけどねえ!」

 

 ブラックハートは剣を握り直し、再びホワイトハートに突進する。

 ホワイトハートも迎撃のため斧を握り直す。

 

「……このっ!」

 

 すると、数百メートル先から射出された、エネルギーの塊でできた槍が、二人の間を掠めた。

 

「「……っ!」」

 

 人では目の届かないほどの遠距離に浮遊する攻撃の正体を視認した二人は、武器を下ろす。

 

「そういえば、ここら辺はアイツのテリトリーだったわね」

 

 二人の視界の先で、三人目の女神『グリーンハート』が再びエネルギーの槍を向けていた。

 向けられてはいたが、放たれることはない。これ以上この場所で戦えば次は当てる、という警告を意味していた。

 

「興が削がれたわ。漁夫の利でも狙われたら嫌だし、退いてあげる」

 

 そう言って、ブラックハートはその場を飛び去る。

 ブラックハートとしては、三つ巴の乱戦は避けたかった。乱戦となると、勝敗に実力だけでなく運も絡むからだ。

 しかし、運が悪いと負けるから戦いたくない、ということではなく、自分が勝つ理由を運に左右されたくない、というプライドである。

 

「……」

 

 ホワイトハートとしては願ったり叶ったりの状況だった。あのまま続けば、今回はどちらかが死ぬまで戦うことになっていただろう。

 グリーンハートに礼をするように軽く手を振り、その場を去った。

 

「……やっぱり、こうなるよな」

 

 ホワイトハートは飛びながら、大地を見渡す。

 先程の戦いの影響で、ブラックハートの繰り出した攻撃だけでなく、自分の振った戦斧の衝撃や、攻撃を撃ち合った余波が、木々を薙ぎ倒し、建物を破壊し、地面を抉っていた。逃げ惑う人々の姿もあった。

 

「私は……どうすればいいんだろうな」

 

 嘆きが、口から漏れる。

 

「教えてくれよ、イストワール……」

 

 自らの親とも呼べる者の名を口にしながら、逃げるように飛び去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      超次元ゲイムネプテューヌ

 

        Verloren Violet

 

        第一話「女神」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女神ブラックハートとホワイトハートの交戦による周囲の被害によって住居を失った二人の少女は、次なる住処を求め、南下していた。

 

「大丈夫、コンパ?」

「大丈夫です。早く街まで行かないと、モンスターに見つかっちゃいますから」

 

 周囲を索敵しながら前を歩く少女『アイエフ』と、息を切らしながらもアイエフの少し早い移動ペースに合わせる少女『コンパ』。

 今この世界に、安全な場所はほとんど存在しない。

 ダンジョンと呼ばれる人の住まない土地ではモンスターが闊歩し、人の住む土地は稀に女神の戦闘に巻き込まれて消滅する。

 

「何が女神よ。人々を苦しめておいて……っ」

 

 しかし、希望はあった。

 女神の中の一人グリーンハートが、南の土地に居座り、周囲に住む人々をモンスターから守っているらしいのだ。

 ゲ界の人間は、基本的に女神を含めモンスター全てを嫌っており、女神は人間のことなど気にも留めていないと思っている。

 だからこそ、女神と人が共生しているというグリーンハートの噂は、アイエフもコンパも半信半疑であった。

 

「南の街……本当に、女神様が守っているんですかね?」

「どうでしょうね? でも、そんな噂程度のものに頼るしかないのよ」

 

 ブラックハートが出没する西のエリアを避けて南下するには、モンスターの生息地である東の森を駆け抜けるしかない。

 目的地以外にも、モンスターの生息しない土地に小規模な村はあるが、自分たちのような難民を受け入れることはできないだろう。

 

「日が落ちる前に森は抜けたいわね……」

 

 森を歩いていると、急にアイエフはコンパを腕を握る。

 

「……見つかったわ」

「えっ?」

「走るわよ、コンパ」

「は、はい!」

 

 何かを察したアイエフがコンパの手を引き走る。

 すると、狼型のモンスターたちが鳴き声をあげ、二人を追い始めた。

 

「よくわかったですねあいちゃん……!」

「気配がしたのよね。あれぐらいの奴なら戦ってもいいけど……音を聞いて他のモンスターが集まってきたら困るから……」

「そうですね……逃げるです!」

 

 アイエフの風魔法で加速した二人は、このペースなら逃げられると少し気が緩んだ、その時……

 

「グァアアアッ!」

 

 前方に狼型モンスターのボスと見られる巨大な狼が姿を現し、鋭い爪を振るう。

 

「あ……っ」

 

 一瞬反応が遅れ、アイエフは死を覚悟した。

 

「あいちゃん!」

 

 しかし、コンパが咄嗟にアイエフを押し、大狼の爪を受ける。

 

「うぅっ!」

「コンパっ!」

「ぅ……ぇえいっ!」

 

 コンパは傷口から血を流しながらも力を振り絞り、自身の持つ巨大な注射器に入っていた毒薬を大狼の目に噴射する。

 

「あいちゃん……逃げ……て……」

 

 そして力尽き、地面に倒れる。

 

「……っ、あんたを置いて逃げるわけないでしょ!」

 

 大狼が目を閉じて怯んだ隙に、アイエフはコンパを背負って駆け出した。

 

「どうしよう……コンパが死んじゃう……!」

 

 コンパは、即死するほどの怪我ではない。しかし、治療をしなければ危ない怪我ではあった。そして、そんな猶予は今のアイエフには存在しない。

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 アイエフはコンパを背負いながら走る。

 しかし、追いかけてくるモンスターとの距離は縮まっていく。

 

「あぁっ!」

 

 すると、何かに躓き転ぶ。

 蔦と泥に塗れた、棺のような箱だった。

 

「何よこれ……」

 

 すぐに立ち上がり、逃げようとした直前、箱に書かれた文字が目に留まった。

 

「『C.P.U-004 Neptunia-Purple Heart』……?」

 

 そして、文字の下には、ガラス張りのような窓があり、中に少女の顔が見えた。

 

「女の子……? でも……」

 

 箱の中に眠る少女に、アイエフは膨大な力を感じ取る。明らかに人間ではない。

 そして、頭の中にある予感が浮かんだ。

 

「これってまさか……」

 

 少女の姿をしているが人間ではない膨大な力を持った存在。

 

「女神……?」

 

 モンスターが悍ましい鳴き声を上げながらどんどん近づいて来る。おそらくもう逃げ切ることはできない。

 だから、アイエフは目の前の意味不明な物体に賭けるしかなかった。

 

「……っ!」

 

 アイエフは、箱に絡まる蔦を千切り、泥を払い落とす。

 

「女神なんていう大層な名前してるなら……!」

 

 蔦や泥をどけると、箱の真ん中に明らかに起動を意味する大きなスイッチが姿を現した。

 

「人を救ってみなさいよ!」

 

 そしてアイエフは、そのスイッチに思い切り握り拳を振り落とした。

 

『リミッター……ミス……セーブ……システムエラー……』

 

 すると、箱が発光し、電子音声が流れる。

 

『システム……リブート……サクセス……オーバーライド』

 

 ガション、と音が鳴り、箱の中の冷えた空気が白い煙となって外に出る。

 

『……ネプテューヌ、起動』

 

 そして、箱が開いた。

 

「グォオオオオッ!」

 

 同時に、追いついてきた大狼型のモンスターの爪が振り下ろされる。

 しかし、その爪は、大狼の腕は、一定の高さより下に落ちることはない。

 

「……」

 

 箱の中の紫髪の少女……女神『ネプテューヌ』が起き上がり、大狼の腕を掴んで受け止めていたからだ。

 

「……」

 

 そして、ネプテューヌは大狼の眼をじっと見る。

 

「グ……ゥゥ……!」

 

 たったそれだけで、大きな威圧感を覚えた大狼は、数歩後退した。

 ネプテューヌはゆっくりと箱から立ち上がり、外に出る。

 そして、箱に手を翳すと、箱が紫色の光に変わり、形を変え、紫色の剣となる。

 女神が剣を握る。ただそれだけで、ただでさえ息の詰まるようだった威圧感が更に増す。

 

「ガ……ァァァッ!」

 

 威圧感に耐えられなくなった大狼が、ネプテューヌに襲いかかる。

 

「……っ!」

 

 ネプテューヌが軽く剣を振ると、大狼の腕が切り裂かれた。

 

「『クロス……」

 

 そして、ネプテューヌは腕を一瞬交差させ、地面を蹴って前進する。

 

「……コンビネーション』ッ!」

 

 技名と共に繰り出した五回の斬撃により、大狼は斬り刻まれ、消滅した。

 ボスが敗れたこと、そしてネプテューヌの威圧感に怯え、狼の群れは一目散に逃げていった。

 カプセルが起動してから、たった数十秒のことだった。

 

「……」

 

 ネプテューヌが、アイエフたちに振り向く。

 そして、口を開き……

 

「ねぷぅ〜……」

 

 安堵したような独特なため息を吐いた。

 

「いやぁ目覚めて初めての戦闘だったから少し不安もあったけど、なんとかなるもんだね〜」

 

 アイエフは、目を丸くした。

 先程まで気をやらずにいるのに精一杯だったほどの威圧感を放っていた女神が、見た目相応に無邪気に喋りだしたのだ。

 

「えっと、わたしの名前はネプテューヌ! よろしくね! 君の名前は? あ、でもそれよりも……」

 

 ネプテューヌは、ポカーン、とするアイエフの隣に倒れ込んだコンパを指さす。

 

「とりあえず、その子の応急処置しよっか」

 

 

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