「あー……マネージャーからスケジュール確認を押し付けられたバイトだ。とりあえず予定を共有させてもらう」
送られてきたメールの内容は、今後二週間程度のざっくりとしたスケジュールと、その中でも各メンバーの出演が決定しているイベントやら番組やらの詳細だった。こちらが処理している書類なんかと照らし合わせることで、メンバーに勘違いさせることなく共有出来るだろうし、俺に割り振っても問題ないと判断したようだ。
一つ言わせてもらいたい。ふざけんな……!
今俺は、オフィス内でパーテーションに区切られたミーティングスペースに立っている。目の前にはB小町のメンバーである7人のアイドル。
アイドルのスケジュール確認とやらのノウハウが無い俺は、マネージャーからのメールに記載されている情報だけを頼りにキャビネットをひっくり返し、B小町の出演に関するそれに沿う書類を抽出し、齟齬が無いか確かめ、それを日付順にまとめるという作業を唐突に振られたのである。マジふざけんな。
マネージャーが帰ってきたら文句言ってやる……。
そんな思いを胸にとっとと確認を終わらせようと口を開きかければ。
「はいはーい! 事務員さんてドルオタですかぁ?」
そんな声に邪魔をされた。視線を向ければ当然アイドルが座っている。毛先がドリルのように螺旋を描いているツインテール。名前は生憎憶えていない……が、ありがたいことにB小町メンバーにはそれぞれイメージカラー及びアニマルが割り当てられている。メンバーごとに書類を分類している俺は、名前は把握しておらずとも顔と動物は関連付けて記憶していた。
このアイドル連中からの心証を損ねたい俺にとって、名前を無視して動物を呼び名に使えるのは都合が良い。その記念すべき一人目は、何の因果か過去に俺も背負った動物を担当している。
俺は何の躊躇いもなく、そのアイドルに返答した。
「違う。話の腰を折るなカエル」
「な──ッ」
ビシリ、なんてオノマトペが見えそうなほどコミカルに体を硬直させたツインテールのアイドルを尻目に、俺は一方的に言葉を続ける。
「先に言っておくが、俺は名乗るつもりも無ければお前らの名前を覚えるつもりもない。とっとと予定を確認するのがお互いのためだ、無駄口叩くな」
出来るだけ高圧的に言って、長方形のテーブルに座った7人へ順に視線を飛ばす。概ね期待通りに、気を害した様子を見せてくれるアイドルたち。……約一名、不思議そうにこてんと首を傾げているが、
「……異論ないな? これから伝えるのは全部確定してる仕事だ、それぞれスマホのカレンダーなりスケジュール帳なりにメモしてくれ。まずは今週……明日はウサギ、ネコ、カエルの三人が──」
俺のことは気に食わずとも、自分のキャリアに影響する話だ。それからは誰も茶々を入れず、無事確認は終了──するかと思っていたんだが。やはりと言うかなんと言うか、一人のアイドルが口を挟む。
「あれ? その仕事って全員じゃなかったっけ」
「知らん。俺が貰ったメールと片付けた書類には5人で
「えーっ? 久しぶりにみんな揃ってステージ立てると思ったのに。なんとかならないのー? 事務員さーん」
甘えたような声で言うのは
その様子は一枚岩には到底見えなかった。同意するように頷いている者。我関せずの者。そして……一瞬ではあったが。
『B小町のセンターなんて言われてもさ、メンバーには避けられてるんだよ』
それなりに話を聞く中で、仲良しこよしグループでは無いことなど承知の上だが。ただギスってると表現するには、なかなか複雑な内情がありそうだ。
俺には全く関係の無い話だけどな。
「俺に言うな。仕事取って来てんのは社長とマネージャーだろうが。俺を巻き込むな」
「でも仕事貰ってる側のわたしたちだけじゃ覆りそうも無いし。一緒にお願いしてくれるだけで良いから。ね?」
……? なぜか食い下がる
「ふざけんな、俺は事務処理のバイトなんだよ。このスケジュール共有だって契約から逸脱してる。マネージャーの顔を立ててこんなことしてるけどな、俺はお前らアイドルになんざ関わりたくないんだ。そもそも、俺に決まった仕事内容捻じ曲げるような力がある訳ねぇだろ」
それを受けた
そこで、ようやく俺は気がついた。その二人、
「……なんだよ。誰に言われても俺はスケジュール共有以上の労働なんざしないからな」
何に驚いているのかは知らんが、言いたいことは言わせてもらう。俺の言葉が自分たちにかけられたことに気づいたか、それぞれ気まずそうに視線を合わせてから、再びこちらに目を向ける。どうやら黙って続きを聞いてくれるらしい。
「来週初めから続けるぞ。イヌとカエルの二人が──」
時に
スムーズにとはいかなかったものの、30分と経たないうちに押し付けられた仕事を終えたのだった。もしかしたら1から10まで間違えている可能性もあるが、
しかし……資料を漁って内容を吟味していた時間の方が長かったことに、一抹の不条理を感じずにはいられなかった。