推しガイル   作:TrueLight

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俺は取り繕わない

 マネージャーとの食事から数日空けて、来たる土曜。俺はマネージャーのPCを借り、中に保管されているデータを漁っていた。目的は当然B小町について。……今更ながら、マネージャーもよく許してくれたものだと思う。このPC、場合によっちゃ事務所で一番価値のあるブツだからな。

 

『今日の午後にこの前みたいな仕事を振る予定だ。それまでは今まで通り事務作業しててくれ』

 

 出勤直後。当初の相談には無かった仕事を放り投げる気満々のオッサンから送られてきたメッセージに、俺は苛立ちつつも冷笑を浮かべた。ムカついた理由は言わずもがな、嗤ったのはオッサンが俺の仕事を把握していないからである。オッサン本人も言及していたが、俺が手を付けられる程度の仕事などとっくに片付いているのだ。

 

 つまり、午後まで完全にフリーとなった俺は、マネージャーからサイゼと車で聞かせてもらった、B小町についてのあれこれを裏付けるデータやら新情報やらを探っているのであった。

 

「…………」

 

 星野を戴くB小町の現状打破を目標に据えて数日。夏休みの課題を進める傍ら作戦は練ってきた。成功するかどうかは賭けだ、勝算は無いに等しいかも知れない。だが、失敗したところで俺が失うものも同様に無いのだから、その時はまた改めて作戦を練ればいい。

 

「…………」

 

 マウスのクリック音ばかりが鳴る事務所で、様々なデータが保管されたフォルダを次々に開いていく。そのたびに俺の立てた作戦は改善、補強されていき……同時に、マネージャーの苦労が(しの)ばれた。

 

 B小町についてのこれだけのデータを、現在(いま)のグループ状況と照らし合わせて、マネージャーがどんな気持ちでまとめてきたのか。俺が察するには余りある情報量だった。

 

 そうして数時間、アイドルグループそのものや、事務所の裏側を掘っていると、容易く作戦決行の時は訪れる。

 

『B小町の連中そっちに置いといたから、以前(まえ)のヤツと含めてスケジュールのリマインド頼むわ。あと、どうせ悪ぶっても空回るんだし、せっかくだから適当に駄弁って仲良くなっとけ?』

 

 オッサンの薄ら笑いは容易く思い浮かぶ。今朝のメッセージと比べ、さらに腹の立つメール及びB小町の予定が届いて数分後、指示通り彼女たちは事務所にやって来た。

 

「おはようございます……あの。社長から、お話は聞いてますか……?」

 

 前回同様、新野(パンダ)の呼びかけに応じて。俺は社長からの要請に従い席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「確定してる件は以上だ。質問あるか?」

 

 心構えもあれば僅かながらの経験もあり、最初よりは遥かに早くスケジュール共有は終わった。書類を引っ張り出して確認した時間を合わせても1時間程度だろう。

 

 俺が口にした各々の予定を、それぞれ手元に残したことを把握しつつ見渡せば、特に気になる部分は無かったらしく、問いが投げられることは無かった。

 

 ──では、ここからが本題だ。

 

『ちょっと欲が出てきた。アイの精神面を安定させたお前が、B小町全体に良い影響を与えてくれるんじゃないかってな』

 

『事務処理以外の仕事も担ってもらう』

『ちょっとした雑用を頼むくらいだ』

 

『どうせ悪ぶっても空回るんだし、せっかくだから適当に駄弁って仲良くなっとけ?』

 

 言質は取った。オッサンが俺に求めるものは把握している。──多分に拡大解釈させてもらうけどな。

 

 つまり……B小町の現状を改善するって仕事を、このミーティングの席で、俺の裁量で実行しても良い、ということだ。

 

 あのオッサンがいずれ用意するだろうそんな席で、良いように操られるなんざ断固拒否する。やれと言うなら勝手にやってやる。これはあのオッサンに対する、俺の復讐なのだ。

 

「じゃあスケジュールについては終わりだが……なぁカエル。こっちから質問良いか?」

 

「……えっ? な、なんっ、ですか?」

 

 毛先がドリルのように螺旋を描いているツインテール。イメージアニマルにカエルをあてられたメンバーに話を振れば、びくりとして姿勢を正していた。

 

『社長サマからアドバイスだ。ひとつ、お前みたいなお優しくて不器用な素人が悪人ぶったって、あのアイドル連中にはなーんの効果も無い』

 

 やはりあのオッサンの言葉はあてにならない。少なくともB小町の面々に対し、俺の言動は好意的に受け取られてなどいないのだから。固唾をのんで俺の言葉を待つ彼女らを見て、ポジティブな感情を一抹でも見出せるほど頭お花畑じゃない。

 

「この前、俺がドルオタかって聞いてきただろ。どういう意図があった?」

「それは……別に、深い意味は無いですけどぉ。一応あたしたちアイドルだし、誰か推してるメンバーが居て、そのファンだから入ったのかなーって……」

 

 俯き、言葉を選ぶようにして答える。……その目が一瞬、星野(ウサギ)に向かったことを俺は見逃さなかった。

 

『わたしは壱護──社長の決定に従うし。立場上、事務所やアイの助けになっているあなたを手放したくはない』

 

『そういう考えがあると説明したうえで──わたしは、あなたに協力しても良いと思ってるわ』

 

 社長(うえ)部下(した)に挟まれ、継ぎ接ぎだらけの和を保とうと奮闘するマネージャーを思い出す。彼女の助力を受けて、今俺はここに立っていることを強く意識する。

 

 俺の目標。その達成だけを求めたなら、きっと違うやり方があっただろう。しかし義理立てする相手が出来た。掌を返されるまでは社長であり。空席となった、立場を尊重すべき対象には、新たにマネージャーが座ってしまった。

 

 管理職という立場を最大限配慮した立ち回りを要求された俺は、返答してからこちらの顔色を窺っている様子のアイドルに続けた。

 

 これが現状、最善の手であると信じて。

 

「なるほどな……そこの星野(ウサギ)信奉者(シンパ)か見極めて、使えそうなら事務所に対する窓口にしようとでも考えてたか……滑稽で笑えてくるな、B小町(お前ら)

 

 以前より強く意識する。最高に最低な自分の姿を。そうして卑屈さを強調して、陰湿に問題を突きつけるのだ。

 

「──たかがバイトにそんな期待をかけるほど、今の活動は苦しいか?」

 

 星野(ウサギ)付属品(アクセサリ)に甘んじる、惨めな己の現状を。

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