「──たかがバイトにそんな期待をかけるほど、今の活動は苦しいか?」
口の端を釣り上げた俺に対し、俺がカエルと呼んだアイドルは目を見開いて驚愕を露わにした。他の面々も反応はそう変わらない。……唯一、
「……なにが、言いたいんですかぁ?」
引き続き反応をくれたアイドルに対し、内心で少しばかり胸をなでおろす。仲間意識の低いグループであることは承知の上だが、俺の発言に対し、この場だけ結束して口々に反論される、という想定もあったのだ。しかし、少なくとも彼女は、B小町を代表して俺の言に応じてくれるらしい。俺が最初に話しかけたから、そんな空気が出来てしまっただけかも知れないが。
「まずは、そっちの質問に答えるところから始めさせてもらう。俺はドルオタじゃないし、当然B小町のファンでもない。さらに言えば──そこのウサギ担当にも興味が無い」
これは意図的に情報を省いているが嘘ではない。俺が
B小町全員等しくどうでも良いという俺の言い分は信じられたようで、少なからず意外そうな表情を浮かべながらも、俺が続けるのを待っている。……当のウサギ担当は、不満そうに一瞬唇を尖らせていたが。
俺が上座だとすればヤツは下座なので、メンバーには見つからなかったようだが、思わず眉を顰めてしまった。俺と星野が顔見知りであるということがメンバーに知られると不味い、ということくらいは彼女にも分かっている筈なのだから。
嘘つきを自称するくらいなら、この場でもそれを貫いてくれ……そう願いつつ、先を続けるべく口を開いた。
「そもそも俺は、やりたくてバイトをやってるんじゃない。社長であるオッサンと、俺の親とで決まった話だ。可能なら今すぐにでも帰りたい……俺がお前らの前に立ってるのは事故みたいなもんだ」
マネージャーから親戚関係だというカバーストーリー程度は聞いたんだろう、納得した様子の面々。あまり俺が虚言を吐いていないためか、今のところ話の内容そのものに違和感は抱かれていないらしい。
つまり、俺がオッサンの親戚で、大人同士の勝手なやり取りでバイトさせられているだけの高校生なのだと。またはそれに近い状況だと誤認してくれている。
金を貰っているから、しなくて良いと言われた仕事は自発的にしているし。オッサンと親とで決まったと言っても書類上の話で、両親に話を持って行ったのは俺だが。そんなことを話すメリットは皆無なので勿論秘匿させてもらう。勘違いを正す必要などこちらには欠片も無いのだから。
「で、だ。さっきオッサンからスケジュール共有を押し付けられた時、ついでにこんなことを言われてな……『せっかくだから適当に駄弁って仲良くなっとけ』、だとさ」
これはオッサンの本意だろう。もはやあの男は、俺が星野、及びB小町に絆されてしまえば良いと考えている。そのうえで、自ら苺プロダクションの力になりたいと思うようになれば、懸念材料を抱え込んで監視できるとも。
意見を
「──いい加減、腹に据えかねてんだよこっちは。俺が室内でだらだら過ごせていたはずの夏休みを奪ったあのオッサンに、一泡吹かせてやらないと気が済まない。そこで……」
スッと右手を持ち上げ、人差し指を順に巡らせる。そして、メンバーそれぞれの顔を通り過ぎた先で──
「いま事務所が売り出しているアイドルグループ──B小町。お前たちを崩壊させることにした」
一瞬の静寂がミーティングスペースを包み。
そして即座に破られた。
「はぁっ!? どういう意味よソレ!!」
真っ先に立ち上がったのはツインテール。本来の気質が漏れたか、声色も真に迫っている。両手でテーブルを叩いた彼女に気勢が削がれたようだったが、他のメンツも内心は同じだろう。……俺も想像より激しい剣幕だったので実は心臓が跳ねていたが、どうにか動揺をねじ伏せて話してやる。
「仕事させられる中で、
本音では後ろに逃げたかったが、それでは計画に支障が出る。気力をすべて足に集中し、俺は立ち上がったツインテールに向かって、引くどころか距離を詰めて見下ろした。
「──っ!?」
途端に逃げ腰になるアイドル。そりゃあ頭一つ以上身長差のある男性に、ほぼ0距離で見下されれば恐怖心を抱くだろう。付け加えて、俺はよく目が腐っていると言われるしな。主に妹にだが。初めて己の目つきの悪さに感謝しつつ、本格的に作戦を遂行する。
「お前らは、今の活動形態に不満を抱いてる。けど、辞めたくても辞められない。あるいは──不満があろうが、B小町にしがみつくことでしか自分を保てない。そんな弱者の集まりだ……違うか?」
この中で誰よりも弱者であることを自認する俺の発言に、そんな内心が分かろう筈もないツインテールは、
「──アンタなんかに、何が分かるって言うの……!?」
そう吐き捨てた。未だ腰が引けているツインテールだが、こちらの言い分は聞き捨てならなかったのだろう。キッと強気に俺を見上げている。……けれど、反論らしい反論は上がらない。B小町全員等しく、だ。
「少なくとも、お前らの間に友情だの団結だのって概念が存在しないことくらいはな。ライブでステージに上がる寸前ですら、ほとんどまともに会話しない。他人の目がある時だけ表面上は和気藹々として親密さを演出してやがる。上っ面の強度って意味なら業界でも上澄みなんじゃないか?」
「見てたのっ?」
嘲笑を以て言ってやれば、それが事実だと本人が認めてくれた。撮影やイベントの現場に俺が居たことがあって、そこでB小町の内部事情に触れたこともあるのだと察してくれた。
これも彼女らの誤認なのは言うまでもない。俺がB小町のライブで控え室に入ったり、ステージ袖で見学していたことなんてある訳がない。ではどうしてそれを知り得たのか?
すべては、マネージャーが。彼女が仕事に使っているPCによって知り得たことだ。このアイドルたちは知らないだろう……マネージャーが、いつかB小町のために使えたらと様々なデータを残していることを。
その中に、いつかみんなで振り返ることが出来たらと夢想して撮り溜めた、裏方視点のオフショットや動画が含まれていることを。未来で和解して、"あの時はこんなこともあったね"なんて笑い合う日が来るかもしれないと……そんな"いつか"を願っていることを。彼女たちは、知る
マネージャーに託された情報を、彼女とは真逆のスタンスで利用することに思うところはある。しかし、もう止まる訳にはいかない。こんなのは氷山の一角でしかないが……すでに、回帰不能点は過ぎたのだ。
「他にいくらでもあるぞ、
そうして、俺は彼女らが互いに見せまいとしてきたモノを