そこからは俺の独壇場と言えた。彼女らは自身の秘事を暴かれながらも、他メンバーに対しても同様に行われるソレに対して耳を塞ぐことは出来なかった。
「例えば──ネコ、ハムスター、ペンギン。事務所が押さえたコマの他に、報告もせず自腹でレッスンしてるよな? ネコはダンストレーニング、ハムスターとペンギンはボイストレーニングだったか。それぞれ、そこのトレーナーに伝手で仕事回してもらえないかって軽々しく口にしてるようだが……これは
それはコンプライアンス意識の欠如と言うには些細な出来事だっただろう。しかし、彼女らが事務所に隠して行っていたそれらは、実際にマネージャーの元に届いている訳で。声高に咎められる事じゃなくとも、問題にしようと思えば出来なくもないライン際。
そして、問題にされてしまえば彼女らは黙り込むしかない。そんなB小町メンバーの小さな問題行動は、積もり積もってそれなりの量になっている。こちらが言及すれば、その全てに完全無欠の反論を行うことなど、十代のアイドルには土台無理な話なのである。当然だが俺にだって絶対無理だ、有利な立場から糾弾できる側で本当に良かった。
「カエルとイヌに関しては面白いネタが上がってるぞ? ペアで動くことが何度かあったみたいだが、カエルはユニットとして活動できないかマネージャーに掛け合ったことがあるらしいな? ──相棒にする予定のイヌ担当には黙って、だ」
「──ッ!?」
「ち、違うから! ちょっとした思い付きで相談しただけよ!! もし運営も乗り気なら言おうって……!」
俺に真っ先にアプローチをかけてきたカエル担当のツインテールは、比較的親身に接してくれているマネージャーにも色々話を持って行っていたようだ。その中の一つが、イヌ担当のメンバーとデュオユニットで売り出すこと。ファンの反応から需要を見出したらしい。
なぜそんなことがわざわざPCにデータとして残されていたかと言えば、それがカエルの独断専行であり、相方予定のイヌが欠片も認識していなかったから。B小町内での協調性の欠如、その一例として書き留められていたのである。
ギョッとした表情のイヌに目を向けられ、カエルは肩を縮めて俯いた。
……申し訳ないが、こんなのは序の口だ。まだまだこのアイドルたちが、互いに対していかに道義に
「ハムスターにペンギン。アンタら俺より年上だよな? 俺が咎めるようなことでも無いかも知れんが──打ち上げで飲酒することがそれなりにあったらしいな。まぁ付き合いも大事なんだろうが……メンバーに迷惑がかからないと良いな?」
どうして知られている? そんな顔を見せた後、恥じたように、やはり俯く二人。そりゃそうだ、同じ卓の年少から咎めるような目を向けられるんだから。
社長に比べて自分は各関係者に舐められている節がある、とはマネージャーの言だが、B小町の醜聞に成りえる情報が裏から集まっている時点で、それは彼女の人徳であり努力の成果なのだろう。それを、俺は惜しみなく振るい続けた。
「あとパンダ、お前別の芸能事務所の男と頻繁に会ってるらしいな?」
「男と言えばカエル。事務所が管理してるSNSアカウントでゲーム実況者にDMするのはどうなんだろうなぁ」
「匿名掲示板で内部事情をべらべら喋ってる奴もいるな? バレてないと思ってるみたいだが、事務所側には筒抜けだぞ、見逃されてるだけで」
ただただ、彼女らの独り善がりな行動をあげつらうこと十数分。B小町の面々は俯きながらも、時折互いの顔を盗み見ているようだった。
次は何を言われるんだ、あの子はそんなことをしていたのか──。
自らの行いに対する後悔。それを顧みれば他人を咎めることは出来ないだろうに、別のメンバーの振る舞いには不満や怒りが込み上げてしまう。事ここに至って、彼女たちはグループと呼べるような存在ではなくなってしまっただろう。
だが、彼女らは気づいていない。ただ一人、未だ名前が挙がっていないメンバーが居ることを。
そして……その糾弾は、これから行われるのだということを。
「まぁこんなところか? ──あぁ、グループにネガティブな視線が向くって意味なら……ウサギについては、そんな話は見つけられなかったな」
俺が水を向けると、当然のように注目は
「さすがは不動のセンター様だ。B小町にとってマイナスな評価になるようなことはしていない。素晴らしいプロ意識だな」
そして──怒りが覗く。
早合点するな、などと口にする必要はない。俺は次いで言い放った。
「だがリーダーには全く以て向いてない。──B小町がこんなザマなのはお前のせいだ。だろ? ウサギ担当」
「──?」
他のメンバーの目には、何が言いたいんだ、と。疑問は同様のこと……微かな期待が滲んでいた。
「お前らをバラバラにするための材料として色々口にしたが、そもそもの話だ。どうしてお前らは崩壊寸前で継ぎ接ぎだらけのグループなのか。それは事務所がウサギをメイン、あとは添え物扱いでプッシュしていて、それをB小町の誰も望んでいないからだ──当のウサギ本人さえも」
「…………」
視線が交互する。俺と
「嫌だったんだよなぁ? 自分だけが活躍することも。それを不満に思ったメンバーの嫌がらせを事務所が重く見て、他のメンバーに通達もせずにクビにしたことも。そんな社長の強権に怯えて、否定的な意見が言えない空気感も。──その原因として、メンバーにキツイ目を向けられることも。何もかもが嫌だった。そうだろ?」
厭らしく目を細め、ニタリと口元を歪める。嘲る様を隠さない俺の言葉を
それは俺に対してか、
「お前は一切の不満を口にしなかったな? それが、それこそが原因だ。B小町がこんな有様になった諸悪の根源だ。自分を優遇する事務所に。勝手にメンバーをクビにした社長に。本心から話せないメンバーに。その否定的な視線に。ハッキリ"不満です"と言えば、こんなことにはならなかったんじゃないか?」
ならなかった訳がない。星野がそうしてきたとしても、現状はたいして変わらなかった筈だ。他メンバーの出番については申し出たこともあるようだが、現実としてアイはプッシュされ続けている。
B小町のみならず、事務所全体に蔓延してるアイ押しの雰囲気を、当人とはいえ星野の言動だけでどうにか出来たなんて思っちゃいない。……それでも、俺はその罪を星野ひとりに押し付けた。
「自分はそう思っていなくても。センターとして……B小町の中心人物として、ウサギは見られてきた。リーダーなんて器じゃなかったとしても、ある程度はその役割を期待されていた。お前らだってそうだろ? ウサギが何とかしてくれればって少なからず考えた筈だ。ウサギは他のメンバーにも出番をって一応は運営に頼んでたみたいだが、結果は伴っていない。お前らの反感を和らげるポーズだと捉えるには十分だ」
もう一度、右手を持ち上げる。しかし伸ばされた指は、メンバーを巡ることは無く。ただ一人を指して、告げるのだ。
「流されるままで自分ってモンが無い。
「──いい加減にしてください!!」
──来た。
先ほどのツインテールと同様に、しかしさらに激しい剣幕で、一人のアイドルが立ち上がった。
「あなたにアイの……ッ、わたしたちの何が分かるんですか!?」
叫んだのはパンダ担当。B小町の、初期メンバーの一人。
そして俺が……B小町におけるウィークポイントだと睨んでいる存在──新野。
「ウサギのことも