推しガイル   作:TrueLight

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俺は彼女らを赦さない

「──い、いい加減にしてください……! あなたにアイの……ッ、わたしたちの、な、何が分かるんですか……!?」

 

 気弱な性根を覗かせつつ、それでも新野(パンダ)は、叫ぶように言った。

 

「ウサギのこともB小町(お前ら)のことも知ったことかよ。でもな……()()のことなら、なんとなく察しがついてるぞ。都合の悪いことを何もかも不動のセンター様に押し付けて。自分を添え物に貶めたんだから、完璧な存在であるべきだって偶像を強要してる、アイドル未満の臆病者だってな」

 

 いい加減にしろなどと言われても、矛を収めることなど出来ようはずもなく。むしろ、このB小町初期メンバーであるアイドルが激憤するのを待っていた俺は、内心飛び掛かって来ないかビクビクしつつも、表面上は意気揚々と続ける。

 

「お前はブランディング上、初期メンバーと特に仲が良いってことになってるようだが……色々情報収集するうちに不自然な振る舞いが目についたんだよ」

 

 事務所に保管されている、B小町のインタビュー記事のスクラップなんかに目を通して抱いた違和感。

 

 裏方視点のオフショットや動画をはじめとした、B小町メンバーの真の顔。それを検めることで確信に変わった、この少女に対する印象。

 

「お前はとにかくウサギの弱音を否定する。『緊張している』と聞けば『アイなら大丈夫』と返すし、『自信が無い』と聞けば『アイは誰よりも凄い』と返す。他人がウサギを悪く言えば、すぐにフォローしつつさり気無く撤回を求める。ファンや記者にはウサギを支える美談に見えてるんだろうな?」

 

 否定の声は──やはり無い。彼女本人も、メンバーもそれぞれに心当たりがあるらしいことは一目でわかった。……ただ俺の発言を認めるというには、新野(パンダ)がこちらを睨みつける形相は激しさを増していたが。

 

 俺がどう話を転がすのか、ある程度は察しているのだろうか? 下手に期待させたり落胆させたりしないよう、間を空けず続けた。

 

「けどな、俺みたいな粗探しのプロにはこう言ってるように見えるんだよ──"アイはB小町のセンターなんだから、弱気になるのは許さないぞ"ってな。これは俺の思い込みか?」

 

「…………ッ!」

 

 眉根を寄せて歯を剥く新野(パンダ)。図星だったのだろう、期待通りの反応に思わず素で笑みが漏れてしまう。本当に俺の妄想でしかない可能性と五分だったのだ、思い通りに事が運んで安心した。

 

「運営にプッシュされてる不動のセンター。自分に活躍の機会を与えない目の上の(こぶ)。お前は自分を慰めるために、"アイには勝てないんだからしょうがない"って言い訳を用意した。だが、ウサギ自体が小物になると言い訳に説得力が無くなる。だからお前は──ウサギが。"アイ"って存在が貶められるのを許容できない。そうだろ?」

 

「っ!」

「うぉっ!?」

 

 瞬間、新野(パンダ)は俺に詰め寄ってシャツの襟を掴んだ。両手で引き寄せ、たれ目がちな目元にも眼光鋭く、怒りを露わにした。

 

「結局……っ、な、なにが言いたいんですか……!?」

 

 身長差のせいで中腰になることを強いられており、凄むには間抜けな様だっただろうが。目の前のアイドルに侮られなければ問題無いと隅に置き、動揺を隠して返答する。

 

「ウサギが諸悪の根源だって言ったがな、()()()()()()()()()()()ってことだよ。俺程度が分かることだ、そこの不動のセンター様が完璧には程遠い()()だなんてことは、古参のお前がよっぽど知ってた筈だ。けどお前は見て見ぬふりを決め込んだ。自分をウサギより下だと卑屈になって、ウサギには自分より上であることを()い続けた」

 

 頬を叩かれるくらいの覚悟を決めて、俺は新野(パンダ)の力に逆らわず、あえてこちらから顔を近づけた。そのアイドルの両目を間近に覗き込んだ。

 

「……っ!」

 

 ごくりと唾を飲む音が聞こえた。視界の端で喉が動くさまが見えた。両目を見開いた少女に、俺は冷酷に言い放ったのだ。

 

「お前も同罪だ。B小町がボロボロなのはウサギとパンダ、お前らのせいだ。加入したメンバーはグループの色に染まらざるを得ない。その色を作り上げたのはお前らだ。お前ら二人こそが──B()()()()()()()()()

 

 かくり、と。そのアイドルの膝から力が抜けた。俺の襟を掴んでいた両手も同様で、そのまま少女は床に崩れ落ちる。糸の切れたマリオネットのように俯く少女の表情は窺えない。だが、すぐに顔を上げることは出来ないだろう。

 

 この反応が、自らの罪を認めた証拠であり。背後から向けられているであろう視線を感じ取って、彼女から立ち上がる力を奪っているのだ。現に、B小町の面々は床に座り込む少女に各々視線を向けている。それぞれの瞳から様々な感情を察したが、それを考えることはしない。彼女らが互いにどういう目を向けるか、それは十分コントロール出来た筈だ。……そう思わなければ、話を進めることが出来ないのだ。

 

「さて、プレゼン……どっちかっつーとネガキャンか。楽しんでもらえたか? B小町(お前ら)がとっくの昔から詰みかけてるグループだってことは十分理解してもらえたと思うが。アイドルを辞めてくれる気にはなったか? だとしたら事務所の仕事が減って、俺というバイトを雇ってる余裕も無くなると睨んだんだが、どうだ?」

 

 意図して新野(パンダ)の横に立ち、一目で状況を認識できるよう立ち回る。グループの内情を無遠慮にばら撒き、不和を、亀裂を拡大させる俺と。その罅を入れる原因となった初期メンバーとを、他のメンバーが見比べられるようにする。

 

「もうB小町(お前ら)、解散した方が良いと思わないか?」

 

 現実に、どちらが起こりえるか。悠々と立つ俺はB小町の解散を表していて。座り込む少女はB小町の再起を表している。どちらかが──未来を指し示している。そう認識させる。

 

 10秒経たず、何かを探るように目の前の机に視線を落とすアイドルが出た。それに倣うように次々とメンバーたちは()()()目を逸らす。……星野(ウサギ)ですらそれは同じで、30秒も経つ頃には全員が机に影を作っていた。

 

 1分……2分。壁の時計を眺めていたが、誰も口を開くことは無い。……B小町がこのまま、今までのように上っ面を取り繕って活動できるなどとは誰も思っていない。それは明らかで、けれど。それでも、方法は思いつかなくとも──B小町にしがみつきたいという想いの発露だった。

 

「──はぁ。()()()()()()

 

 わざとらしくため息を吐き、ラノベ主人公のようにやれやれと鼻につく態度を見せる。──言葉とは裏腹に、俺は安堵していた。なんなら笑みすら浮かべてしまいそうだったが、眉間に力を入れてどうにか我慢する。不承不承といった感情を演出する。

 

「まっ、自分らから解散しますなんて言い出す勇気があれば、そもそもこんなことにはなってないか。お前らが自主的に辞めてくれれば面倒は少なく済んだが──プランBと行こう」

 

 B小町だけに、なんて寒い洒落を思いついたが、どうにか喉の奥に引っ込める。甲斐あって、まだ何かあるのか、と。アイドル連中の気を引けたようだ。ぴくりと肩を震わせて、各々の首が少しだけこちらに向いたのを視認した。

 

「お前らは俺を、運営に対する窓口にしようとしたが。その意趣返しをさせてもらおうか──お前らが、一致団結して俺を追い出せ。そう運営に嘆願するんだ……全員でな」

 

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