「う~ん……やっぱり無いのかなぁ……?」
B小町の解散ライブを観に行った翌日。俺は妹の奇行に付き合わされていた。あのアイドルが撃ち出した6発の弾丸、そのうちの一つが俺たちの手元にある訳だが……その表面を、内側を。小町は虫眼鏡片手に注意深く観察している。無論、見つけ出そうとしているのはヤツのプライベート番号。そんなもの見つかる訳は無いのだが、妹は熱心に……というよりは執念深く続けていた。
「そんだけ探して無いなら無いんだろ。他の5発に入ってたんだろうよ」
「それが違うんだよお兄ちゃん! SNSで検索したら、空のカプセルの画像載せてるアカウントが5つあるの! だからね、きっとこのカプセルに入ってるんだよ!!」
まくし立てながらスマホの画面を見せつけてくる妹。鬱陶しいそれを片手で防ぎつつ反論してやる。
「当たったからって馬鹿正直にSNSで公開する必要はない。空のカプセルだけ載せて偽装してるんだよ。仮に他の5発の持ち主が無いと思ってるとして、このカプセルに隠されてる確率よりも他の5発に隠されてる確率の方が高い。もっと言えば、今言ったどのパターンよりも、そもそも6発全部に入ってないと言う方が説得力がある。どこに自分らのファンだからって理由だけで連絡先教えるアイドルが居るんだよ、ただのパフォーマンスだろあんなもん」
この際、本当にそんなアイドルが居るかどうかは関係ない。未練がましい妹の、B小町に対する執着心をどうにかする方が大切だ。
「それじゃあお兄ちゃんはアイが嘘ついたって言うの? あんなに真剣にファンのことを想って、どんな気持ちで解散するかを教えてくれたのに! ふつうは恋愛したいからアイドル辞めるなんて隠すに決まってるじゃん! それを正直に打ち明けてくれたんだよっ? 絶対カプセルのどれかに番号は入ってるんだよ!!」
アイは真摯に、誠実にファンに向き合っていたのだと盲目的に説明してくれる小町。俺は処置なしと判断し、好きにしてくれとばかりにソファへ深く背中を預けた。今まで嘘をついていたと正直に打ち明けたとして、その後に嘘をつかない保証なんて無いんだよなぁ……むしろ前科がある分信用できないとすら言える。が、本当にB小町を、アイを好きでいたファンほど彼女を疑おうとはしないのだろう。
どんなに熱心なアイドルファンだろうが、心のどこかでは彼女たちに男がいる可能性を否定しきれはしないはずだ。本心から否定できる人間は、仮に恋愛がらみのゴシップや、あるいは本人からの報告があろうと信じようとはしまい。話題が出るたびにバッシングが飛び交う時点で、微粒子レベルだろうがファンの中で常に疑念は存在している。
それを自覚しているファンほどアイの告白は真摯に聞こえたんだろう。今あのアイドルに特定の男は居らず、けれど彼女はそれを欲している。アイドル活動の中でその欲求が大きくなり、ゆえにアイドルを辞めるけれど、その相手は応援してくれたファンの中から見出したい。随分ファンにとって都合の良い偶像だ。居てたまるか、そんなアイドル。
「お兄ちゃんも部屋の机の周りとか探してきてよー。もし番号見つかったら、電話するのはお兄ちゃんなんだよ?」
「なんでだよお前がやれよ……誰が連絡したって同じだろ」
「えっ? ……い、いやダメだよ……アイは彼氏が欲しいんだから! ちゃんとお兄ちゃんが電話するのっ」
ちょっと期待したな、妹よ。さもありなん、俺のためというスタンスを崩さないようにしているが、結局のところあのアイドルと一度でいいからお目にかかるなり会話するなりしてみたいというのは小町本人の欲求なのだ。可哀想に、あんなアイドルに
「そうだとしても、ステージから男だけ狙えたとは思えん。女性客に当たって連絡が来たところで問題にならんだろ。友愛って言葉もあるんだ、その場合は友達になれるんじゃねぇの」
そんな経緯で成り立つ友情など存在しないだろうが。小町は「そうかなぁ」などと言いつつ満更でもなさそうにカプセルを弄っている。正直な妹だ──。
ピンポーン。
──早いな、と。インターホンの音に眉を寄せながら、来客の正体を確信しつつ行動力に呆れかえる。解散した翌日だぞ、もっとなんかやることあんだろ……。
「出てくる」
妹に気を遣って立ち上がった。
「小町出るから座ってていいよ、番号探すの疲れちゃったし。どうせお兄ちゃんのお客さんじゃないし」
が、座っているよう手で促される。何てこと言うんだこの妹は、言って良いことと悪いことがあるぞ……まぁ、俺に客なんぞ来る訳がないという評価には同意するところだが。
しかし間が悪いことだ。今回に限っては、妹の俺に対する固定観念は裏目に出たと言える。もはや邂逅は時間の問題だったのだ、小町がどういう反応をするのか、純粋に楽しませてもらうとしよう……それが現実逃避に等しくとも。
「…………。…………。…………?」
なんだ? 小町が「はいはーい」などと言いながら扉を開く音は聞こえた。ドアスコープ確認しろっつっただろとは思ったが、もはや手遅れなので咎めることはしまい。しかしその後、廊下の先、玄関から聞こえてくる物音は無かった。
「何してんだ……?」
小町に制されて座ったソファからもう一度立ち上がり、玄関に向かう。廊下から顔を出したと同時──「ぅわっ」と。少し慌てたような声が耳に届いた。……昨日も聞いたはずなのに、どうにも耳慣れない
「──あっ♪ 八幡! 久しぶりっ……で、どうしよう、妹さん」
「──ッ」
再び来訪した
「お、おい……!」
すぐに駆け寄り、アイから小町を受け取りながら、その安否を確認する。まさか、興奮して気絶したとかか? 実際に起こるのかそんなこと……! 一応救急車とか呼んどくべきなのか?
予想だにしなかった状況に焦る俺に対し……アイは中腰で小町の顔を観察して、特に感慨なさそうに口を開く。
「うーん……たぶん、緊張して気絶しちゃっただけだと思うよ。握手会とかでも何回か見たことあるから。ケッカンメイソー……なんだっけ、そんなカンジ。10分もすれば起きるんじゃない? もしそうじゃなかったら病院行った方が良いかもだけどね」
「…………そりゃどうも」
冷静に説明してくれる元凶に対し、思わず半眼を向けつつも謝意を示した。
「で、何しに来やがった」
「分かってるクセに。
にこっと、人好きのする笑みを浮かべて。その女は悪びれる様子もなく