推しガイル   作:TrueLight

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僕は作戦を立てた

 僕と姉さん……ルビーは、あれから大人たちの目を盗んでは現状の再認識、お互いの身に起こった第二の生についての擦り合わせをしてきた。ルビーは前世の全部を明かしてくれた訳では無いし、僕も何もかもを打ち明けることは出来なかったけれど。巻き戻る前と明らかに差異がある今世において、ルビーと意識を共有しておくのは非常に重要なことだった。

 

 生前のルビーは母さんの、B小町のリーダーことアイの大ファンだった。難しい病気で満足に出歩くことも出来なかったルビーは、歌もダンスも上手い母さんに憧れていたらしく。先のない未来を憂いて、もし生まれ変わるなら芸能人の子供に生まれたい、その顔は憧れのアイドルが良い、などと溢すこともあったようだ。なので、ルビーの主観のみを考えれば、彼女の生まれ変わりは本人の願いが神様か何かによって叶えられた、と言うような状況だ。

 

 そしてファンとして、完璧で究極のアイドルたるアイの汚点となり得る父さんの存在を断固拒否している。それが、ルビーが父さんを嫌悪する主な理由らしい。

 

 僕からルビーに共有出来たことは、彼女も真っ先に知りたがった、ルビーと母さんに訪れる悲劇について。そして、その発端となった父さんの死についてだ。他にも知っておくべきだと思うことはいくつかあるけれど、今世は巻き戻る前と比較して一致しない点が多々あり、僕自身どこまで話すべきか迷っている。

 

 例えば、今世でテレビに映る母さんは、それがバラエティ番組であれば彼氏について、つまり父さんについてよく質問されている。が、これは僕が一度経験した人生に即して言えば有り得ないことなのだ。僕の知る限り、母さんは父さんとの関係を隠してアイドル活動していた筈なのだから。

 

 他にも、仕事で忙しかった母さんに代わって面倒を見てくれていたミヤコさんが、今世ではあまり家を訪れず、前は居なかったベビーシッターの女性が主に面倒を見てくれている点だとか。これらの違いが、僕の知る未来にどういう影響を与えるか予想できないこともあり、僕が知り得る全てをルビーに教えるのは藪蛇になりかねず、とにかく回避すべき出来事を中心に説明を重ねた。

 

 僕の歩んだ人生との差異から、未確定の情報には教えられないこともある、と言うと、ルビーは胡散臭そうな目を向けてきたけれど。ルビーと母さんに死んでほしくないって想いは伝わってくれたようで、ひとまずは信用してくれることになった。……その認識の中に、父さんを入れてくれるように動くのが、目下僕がすべきことだろう。

 

 僕とルビーは話し合いの末、以下の共通認識を抱くことになった。

 

 数年後、母さんのファンの凶刃により、父さんが死ぬ。父さんの死から数年経っても、母さんは父さんのことを忘れられず、悲しみに暮れることになり。その末に自ら命を絶ってしまう。

 

 それからさらに時が経つと、これは僕も詳細は分からないが、ルビーは苺プロに所属してアイドル活動をすることになる。確かなのは、その先にルビーも殺されてしまう、と言うことだ。

 

 これらを回避するためには、いずれ父さんと母さんに話を聞いてもらう必要がある。防犯についてなのか、極論定期的な引っ越しを提案することなのか、それはまだ考えられていないし、そもそも僕やルビーの転生、あるいは逆行について説明するのかも未定だけど。少なくとも幼児の戯れ言に耳を貸してもらうのは大前提なのだ。

 

 だから、最初にやるべきことは、既に母親としての愛を表現してくれている母さんではなく、あまり顔を見せられない父さんを早々に懐柔することである。そして、一般的に父親は息子より娘を可愛がる傾向にあるため、その役はルビーが担うべきである。この結論に持ち込むことが出来た。

 

 ルビーも自身や母さんの命が懸かっているとなれば否やは無いらしく、渋々ながら頷いてくれたのだった。

 

 ……母さんの自死について、あの時ルビーが口にした言葉や。父さんが命を落とす前に、どれだけ僕たちを愛してくれていたか。そして、誰が父さんやルビーを襲うのかについては、敢えて口にはせずにいる。

 

 それこそ、藪をつついて蛇を出すようなものだと、そう思っているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んふふ~♡」

「……くっつくのは良いけどな、ルビーを落っことしたりしないでくれよ」

 

 そしてその日はやってきた。大学進学に向けて勉強し、壱護さんの元でバイトをする合間を縫って、母さんのオフに合わせて父さんが訪れたのだ。未来……いや、感覚的にはルビー同様に前世と表現を統一した方が据わりが良いか。前世ではそれなりに歳を重ねてから知ったことだけど、やはりこの時父さんは、高校生と言う身の上でありながら、身を粉にして家族を想ってくれていたらしい。母さんもそれを知ってか、本当に愛おしそうに父さんの肩に頭を擦り付けている。

 

 家のソファで、僕を抱いた父さんが座り、その横にルビーを抱いた母さんが腰を下ろして密着していた。前世の記憶が明瞭になるまでの半年ほどの出来事は薄ぼんやりとしているが、父さんが部屋に来るたび、僕たちは同じような位置に居たようだった。

 

「しかし……今日は大人しいな、アクアは」

「たしかに? 八幡が来るたびにぎゅーってしてたのにね」

 

 どうやら意識を取り戻すまではそうだったらしい。おそらく前世の悲劇が刻み込まれた魂が、無意識ながらも父さんを求めていたようなのだ。そして同様にルビーは父さんを毛嫌いし、あまつさえ泣き叫ぶものだから、4人がこの場に揃う時、いつも父さんは僕を。母さんはルビーを抱いて過ごしてきたみたいだ。

 

「体調が悪いとかじゃないよな……?」

 

 父さんが少し心配そうに眉を下げて、僕の脇に手を差し込んで持ち上げた。掲げられた僕は自然と父さんと向き合う形になったが、無表情に両手をわきわきと動かしてみる。赤ん坊が無言で意味も無く動くのは不自然でも何でもなく、父さんも特に何かを疑った様子もなかった。ふっと微笑んだ父さんは、僕の頭を肩に乗せる形で抱いた。

 

「ルビーもちょっと様子が変だな? なんか、ちらちらこっち見てるみたいだ」

「えっ、ホント?」

 

 水を向けられたルビーが、母さんの腕の中でびくりと震えるのが分かった。抱いている母さんは気づかなかったみたいだけど、父さんは僕と同じくらい注意を向けていたらしいルビーの様子にもすぐに気づいたようだ。ルビーには父さんに取り入るように促したのだから、これをきっかけに行動することを願うしかない。人目がある中で僕とルビーが不信感を持たれない最も優れた演技は無言なのだから。当然、父さんが帰るまで僕たちは話すことが出来ない。がんばれルビー、いや姉さん……!

 

「…………んぁーっ」

「ぉおっと?」

 

 数秒黙りこくっていたルビーは、ままよとばかりに一つ声を上げて、もぞもぞ母さんから逃れようとした。その両手の先はこちら……つまり、父さんだ。母さんの焦ったような声に、父さんはすぐ反応して、僕を再び持ち上げた。自分の胸の中にルビーが入ってくるのを邪魔しないように。

 

「お、お? おぉ……」

 

 ルビーが器用に父さんの上へ転がり込むと、父さんは戸惑いつつも母さんに目配せして、僕の身をそのまま預けた。

 

「ど、どうしたんだルビーは……」

 

 母さんに抱き留められた僕に比して、ルビーは父さんの足の上に収まったものの、父さんには背中を向けている。自分が近づくと泣かれてばかりだった経験からか、父さんも抱き上げることはせず、ただルビーが床に落ちてしまわないよう軽く肩に手を添えているのみだ。

 

「えー……な、なんだろうねっ?」

 

 ルビーの態度に困惑しつつもやはり心配の色が強い父さんに対し、母さんはどこか弾んだ様子を見せる。それはそうだろう、母さんからすれば、愛する男性に娘が拒否反応を見せていて落ち込まない訳が無い。父さんの生活を考えればその想いはひとしおだろう。母さんの目に、ルビーの態度は奇跡のようにすら映った筈だ。

 

「でも良かったね、ルビーから近づいてくれて」

「いや……まぁ、そうだな」

 

 心底安心したような母さんに、父さんは喜色を見せつつも曖昧に頷いた。僕自身、父さんが内心どう思っているのか分からなかったし、それは母さんも同じだったようで、それを口に出してくれた。

 

「あれ、そんなに嬉しくない?」

「まさか、嬉しいに決まってる。けどな、ほら。今までルビーは俺のこと嫌ってただろ?」

 

「うん」

「そりゃ寂しかったが、父親的にはちょっとばかし安心もしててな。この年で俺みたいな男を避けるセンサーがあんなら、将来ロクでもない野郎に騙されることも無さそうだろ?」

 

 な? と当たり前のように、父さんは母さんに同意を求めた。すると次の瞬間、

 

「あっはっはっはっは!!」

 

 母さんは僕を抱きしめて、豪快に笑った。

 

「はーっ……もう八幡ってば、全肯定すぎるよぉ……ふふっ」

 

 一通り笑って、涙まで見せてそれを指で拭う母さんに。父さんはふてくされたように言った。

 

「親なんて子供の全肯定オタクくらいがちょうど良いだろ……他人に迷惑かけてなきゃな。それに、女の子はいずれ父親と服を一緒に洗濯されることを拒否した挙句、財布とか無料タクシー扱いし始めるもんだ。ソースはうちの妹。そう言うのが早く来たと思えば良いし、早熟な分ルビーは賢いとも言える。俺がいくらか嫌われようが、ルビーさえ困らなきゃそれで良いんだよ」

 

 俺がルビーを嫌うことなんて無いんだからな、と締めくくって。不満そうだった父さんの表情は、ルビーの背中に視線が向くと、自然と和らいでいた。

 

「────っ」

 

 前世で、ただの記録でしか得られなかった、父さんの愛。その片鱗をじかに感じた僕は、思わず泣きそうになって、それをぐっと堪えた。

 

「────んっ」

 

 同時に、父さんの言葉に思うところはあったのか。ルビーは身体を捻って、背後の父さんに向かって両手を上げた。その意図するところは明らかで、

 

 

「え、お、おう……」

 

 父さんはすぐに、ルビーを持ち上げて、その胸に抱いた。母さんに抱かれた僕と、父さんに抱かれたルビーの視線が重なる。

 

(どう? これで満足でしょ!?)

 

 不機嫌そうな、それでいて面映ゆそうなルビーの目は、そんなことを言っているように見えた。

 

「……アクアより、ちょっと重いか?」

「ねっ! えへへ……」

 

 僕たちの頭の上で。ほとんど初めてまともにルビーを抱いた父さんは、僕とルビーの違いを口にして。その違いを共有できた母さんは、心から嬉しそうに笑みをこぼしていた。

 

 

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