推しガイル   作:TrueLight

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僕の先輩

「監督、本日はアクアがお世話になります」

「いやいや。それより例の件、話は通ってるんだよな?」

「心配しなくても、お願いして今月から事務所の所属にしてもらったよ」

 

「ちょ、ちょっとアクア! すみません監督、いつもは大人しくて礼儀正しい子なんですけど……」

「あーいや、良いから。お堅いとこっちもやりづらいしな……あんまり生意気だと困ったことになるだろうが」

 

 果たして、僕は苺プロダクション所属の子役として、五反田監督のもとで世話をしてもらえることになった。世話と言うのはもちろん、演技の指導だとか、映像作品の撮影に使ってもらうって話。

 

 監督は業界内に居て自分の身の振りこそ気を付けるものの、自分が多少雑に扱われても気にしない懐の深い人物だった。僕が生前、彼に甘えることが出来たのはその人柄あってこそだ。

 

 だから、早く生前と同じ態度で接することが出来るよう、意識して馴れ馴れしく接した結果としてこんな感じになっている。僕は監督の身内ヅラをするし、監督もそれに関して目くじら立てたりはしない。でも保護者としては、苦言を漏らさざるを得ない訳だ。ミヤコさんには悪いけど、見逃してもらうしかない。

 

 ──じゃないと、いずれ僕がボロを出すのは明らかだったし。それくらい、前の僕は監督に良くしてもらっていた。もらい過ぎていた。

 

「それじゃあ私は、撮影が終わるまで現場を離れるけど……良い? アクア。監督やスタッフの方に失礼が無いようにしてね? でも、何かあったらすぐ周りの大人に頼るのよ?」

 

 離れるとは言ってもすぐ駆け付けられる場所に居るだろうに、ミヤコさんは心配そうに念を押してきた。車の中でも散々言われたんだけど……普通に考えれば、1歳半程度の赤ん坊を仕事の現場に置いて離れるとなれば、そこまで大袈裟な口ぶりでも無いように思えた。

 

「うん。監督の言うこと、ちゃんと守るよ」

「ええ……じゃあ、行くからね? ちょっとでも疲れたと思ったらすぐに休憩するのよ?」

 

 それからも何度かちらちらこちらを振り返りながら、ミヤコさんは現場を後にした。毎回これが続くとなると申し訳なくなるから、早く慣れるしかない。僕は子役としての仕事に、ミヤコさんは赤ん坊の役者をマネジメントすることに。

 

「行ったか……早熟だろうが身内から見ればただのガキってか」

「まぁ、今まで大人しい子供の振りしてたし。僕が──天才児だって言うのを隠さなくなったの、監督に挨拶した後の話だし」

 

 両親にミヤコさん、壱護さんを説得するのはなかなか骨だったけど。当然、最難関は父さんだった。他の3人は芸能関係者だからもともと受け入れる土壌があったけど、父さんは正真正銘の一般人だ。それも、子煩悩の。今でもどうして許してくれたのかは判然としない。

 

 父さんのことだから、例え赤ん坊の言うことでも、本人の望むことを優先したいなんて思っていても不思議ではないから、考えるだけ無駄かもしれないけれど。親は子供の全肯定ファンで良いなんて恥ずかしげもなく言えちゃう人だし。

 

「天才児なんて自称するな、あんまり言い触らしてるとむしろコケにされるぞ」

「他に的確な表現が思いつかなかっただけで、別に本当に自分が天才だなんて考えてないよ。それに、こんなこと言うのは監督の前でだけ」

 

「……いまさらお前が誰かにけしかけられたなんて疑っちゃいねぇけどな。擦り寄り過ぎだし、俺の作品のファンって言うにはちょっと俺を舐めすぎじゃないか?」

「心外だな。ミヤコさんも言ってただろ、いつもは大人しいのにって。それは自分を偽ってるからだよ。逆に言えば、僕が生意気言ってる監督は本当に心を許してるってこと」

 

「はいはい、そりゃ光栄なこった……それじゃあいい加減、仕事に入りますか。お前はちょい役だが、それでも子役として初めての撮影だ。気合入れろよ」

「監督の望む通りの映像になるよう、努力するつもりだよ」

 

「……役者が演技にどう向き合うか、なんてのに正解は無い。でも、お前のそれはぺーぺーの子役が抜かすには魅力に欠けるな。ほれ、あの中に共演者が居るから挨拶してこい。お前の先輩の大物役者サマが控えてるから、ちったぁ参考になるだろ」

 

 そう言って監督は控え室として使われている建物を指さして、他のスタッフたちの元へ向かって行った。

 

「参考、ねぇ……」

 

 呟いて、ひとつ息を吐いた。この映画の撮影では、僕の他にも子役がいる。それも、監督の言った通り僕とは比べ物にならないくらい大物が。挨拶してこいと言うのも理解は出来るけど、本心はガキ同士仲良くしてろってことだろうか。

 

「……一応、顔は合わせといたほうがいいか……」

 

 正直なところ、僕は他人の前で猫を被るのが得意だ。じゃないと、芸能界に潜り込んで関係者と交友を深めて仇を探すなんてことは出来なかった。……まぁ、初めから誰とでも仲良くできたとは言わないけど。たくさんの失敗を重ねて、それを省みて。そうした末に身に付いた技術とも言えるだろう。しかし……。

 

「さすがに子供の相手はほとんど経験が無いな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして。苺プロ所属の星野アクアと申します。本日はよろしくお願いします」

 

 控え室の戸を開き、確かにそこに居た人影を確認して、僕は自己紹介した。こちらに背を向けていたその子が振り向くと同時に頭を下げる。この子がどんな性格かは知らないけど、丁寧にする分には悪いことは無いだろう……子供相手に何やってるんだろうって思いもあるにはあるけど。

 

「……ふぅん。かなのことは知ってるのよね」

 

 頭の上からそんな言葉が返ってきて、「うわぁ……」なんて声が出そうになった。さっき監督が「あんまり生意気だと困ったことになる」なんて言ってたと思うけど、絶対この子のこと思い出してただろ……。子供なんて生意気なくらいが可愛げがあるだろ、なんて僕の良識的な部分が言ってるけど、それは自分が関わらないからこその綺麗ごとでしかなかった。

 

 でも、挨拶に関して及第点が取れたのは間違いない。とりあえずこの路線で言葉を続けて良さそうだ……なんて考えつつ、僕は顔を上げた。そこには、偉そうな言葉通りの態度で腕を組む女の子の姿があった。

 

「もちろん。有馬かなさん、10秒で泣ける天才子役としてドラマなんかで活躍してますよね。お会いできて光栄です」

 

 はて、ここまで仰々しい言葉で話す必要はあるんだろうか? そもそも言葉の意味を理解してくれてるんだろうか……そんな疑問は尽きなかったが、当の女の子は満足そうに頬を上気させていた。

 

「分かってるじゃない! コネの子だって聞いてたけど、立場は分かってるみたいね! かなとおんなじくらいの子たちは大人にばっかり媚売って、かなのことは舐めてるみたいだったけど。あなた分かってるわね!!」

 

 めっちゃ分かってる連呼するな……それくらい他の子役の態度が腹に据えかねたのか、単に語彙が少ないのか。どっちかと言えば後者っぽいけど……それよりも。2歳くらいにしては随分口が回る子だ、この子に出会えたのは思ったよりも幸運だったかも知れない。

 

 要するに、僕やルビーはあんまり言動を気にしなくても良いかもしれない、ってことだ。目の前の女の子のように、前世の記憶なんて無い子供だとしても、これくらい大人びている……マセているの方が適切か? とにかく、小難しい言葉を知っていて、それを操るのは珍しいにしてもあり得ない訳じゃない。そんな子と知り合えたのは大きな収穫だ。

 

 あまり調子に乗ってボロを出すのは良くないけど、気にし過ぎて疲れてしまうのは避けられそうだ。監督の言う通り、他にも参考に出来る部分は大きいだろうし、取り入るのが正解かな。

 

「僕は今月から役者になったばかりで、現場では迷惑をかけてしまうこともあると思います。その時は遠慮なくご指導ください。有馬さんの足を引っ張らないよう、精一杯がんばります」

 

「んふー! 良いわよ、ダメなところはかながちゃーんと教えてあげる! そろそろ撮影の時間だから、現場に行くわよ! ついてきなさいアクア!」

 

 どうやら子分の存在はお気に召したようで、天才子役はるんるんで現場に向かおうとする。その時、有馬かなが開いた戸の先で、段ボールを抱えた女性が通りかかった。撮影スタッフの人だろう。

 

「ADさん、かなのカバン持って!」

 

 瞬間、有馬かなは当たり前のように自分の鞄を預けようとした。両手が段ボールで塞がっている、大人に対して、である。

 

 マジかこの子供……。

 

「えぇっと……」

 

 さすがに怒られるかと思ったがしかし、ADと呼ばれた女性は困ったように笑うだけで注意したりはしない。マジか芸能界……有名になると子供だろうがこんな言動が許されるのか……。

 

「ADさん、苺プロの星野アクアです。今日はよろしくお願いします。かなさん、僕に持たせてくれませんか? 後輩として教えてもらう身ですし、これくらいはさせていただきたいです」

 

「そーお? まっ、別にいいケド。あなたも役者なら、スタッフを使うことを覚えないとダメよ? でも、それはかなくらい有名になってからでも遅くないかしら。じゃあほら、預けてあげる」

 

「ありがとうございます。それじゃあADさん、僕たちは現場に向かうので。また後でご挨拶させてください」

「え、ええ。また後でね……」

 

「かなさん、行きましょう。早く向かって、演技について色々教えてもらいたいです」

「仕方ないわねー、じゃあ付いてきなさい! かながしっかりシドーしてあげる!!」

 

 僕の子役として初めての撮影現場は、そんな小物ムーブから始まった。




感想で原作より双子の年齢が幼い段階で監督と出会っていると誤解させてしまっていますが、考察などを参考に原作・アニメの時系列に沿っている設定です

https://diagram-traveling.com/oshinoko-time-series/

こちらを参考に、アクアは1歳半、有馬かなは2歳半とさせていただいています
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