転生銀色バ、銀色に染める   作:アールワイ

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ども、素人投稿者です。

盆休みなんで投稿です。


ではどうぞ


証明

 

 

 

「クソっ!」

 

 控え室に拳を叩きつける音が響く。白毛のウマ娘─ナイトランサーはライブが終わった後、抑えていた感情が爆発していた。

 

「プランもステータスも完璧だった! 私なら勝てた、勝てるはずだったんだ!」

 

 胸に装飾されたエンブレムを握り締める。見事に加工されたそれの精華な尖端が掌を刳る。家の象徴を表すエンブレムが血で染る。

 

「私は誓ったんだ……一族の未練、皐月賞だけは絶対に獲るって…………」

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 私がまだ幼く小さい頃、屋敷の一部屋に飾られたトロフィーを母様が見せてくれたことがあった。

 

 

「にほんだーびーに……きっかしょう?」

「ああ、私達はこれまでクラシック三冠のうち、日本ダービーと菊花賞を勝ったんだよ」

「それってすごいの?」

「とんでもなく難しいことさ。でも、ランサーなら私達が取れなかった皐月賞も勝って三冠ウマ娘になれるよ」

 

 

 幼い頃から走り方を教わり。自らの才能を自覚し始めた時期、母様は私に仰った。誇りある我ら一族はクラシックに活躍したウマ娘を多数輩出しており、世間からは名家と言われるまでに成長した。数々の名バを輩出して多くのGIを勝ってきたが、どうしても勝てない冠があった。

 

クラシック三冠、その一冠。皐月賞。

 

 この一つがどうしても勝ち取れなかった。我が家の名を馳せた歴代のウマ娘達ですら届かなかった五月の悔恨。まさに呪い……、私は何処か諦め気味の家の者に嫌気がさしていた。

 

(見てろ。私は皐月賞を勝ち……三冠をとる!)

 

 トレセン学園に入って。最高のトレーナーを見つけて。レコードも出した。何もかも順風満帆……そう思っていた。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

[一着はアルギュロスレウス! 七馬身差で圧勝、クラシックの一冠目はアルギュロスレウスが手にしました!]

 

 負けた……完膚無きまでに負けた。最後方からの一気。奴だけ次元が違う。あんなのに勝てるビジョンが浮かばない。

 奴が弥生賞を勝ったのはフロックだと思っていた。レース映像を見たが、ドリフトスピードの不調以外に特筆すべきものは無かった。

 

 でも実際に走って解った。ドリフトスピードは不調だった訳じゃない。()調()()()()()()()のだ。

 

「あの幻覚は……」

 

 3コーナー手前、目眩がしたかと思えば私の視界は銀色に塗り潰されていた。母様から聞いたことを思い出す。

 

限られたウマ娘のみ会得することが出来ると言われる。

 

領域(ゾーン)

 

 時代を作るウマ娘は必ず入ると言われている()()。具体的なことは分からないが、きっとあれが()()なのだろう。

 

『ランサー、あなたなら必ず領域に入れるわ』

(母様……私は…………)

 

 現実は非情だ。一番人気の私でも、期待されていたレコードホルダー達でも無かった。この時代に創世者として選ばれたのはアルギュロスレウス……彼女だった。

 

 最後の直線で坂をも気にせずに走り抜ける後ろ姿に私は、どうしてか世界の広さを知った。彼女が日本だなんて狭い場所じゃなく、最高峰の()()()()の上に立っているのを見た。

 悔しかった。彼女に敗北を認めた私自身にも、圧倒的な強さを持つ彼女にも。

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

「お疲れ様、ナイトランサー」

 

 顔を上げるとアルギュロスレウスが扉にもたれかかっている。雰囲気と勝負服がスーツなのも相まって洋画のギャングの様にも見える。

 

「……何の用だ?」

「君と少し話がしたくてさ」

 

 そう言いつつズカズカと室内に入って椅子に座る。光を内包する銀色の双眸が私をなぞるように見つめる。

 腕脚を組んで全てを見透かしたかのような視線で彼女は口を開いた。

 

「ねえ、ナイトランサー。私、気になるんだ」

「何がだ?」

 

 アルギュロスレウスの意図が読めない。何を考えてるのか解らない。怖い……畏怖に近い感情が私を侵蝕する。

 

「最後の直線。君の速度が落ちた。説明してくれるかな?」

「……っ!」

 

 心の臓まで震わせるほどの低音の声で訊かれる。あれは支配者の眼だ。軽い動作で狩ることの出来る獲物を見る眼だ。レース中とそう変わらない威圧に私は指ひとつ動かせない。

 

「皐月賞を勝ったのはこの私、その事実は決して覆ることは無い。だが……だがな、ナイトランサー。私は君達に我が覇道の行先を空けて欲しいんじゃあないんだよ」

 

 冷や汗が止まらない、心臓の鼓動が五月蝿い。彼女にとって私はカエルですらない。路傍の石─今の私はそれだけ彼女と格の違いがある。

 

「黙っていては何も伝わらないよ」

 

 改めて実感した、私はこいつに勝てない。レースは身体能力、戦術、運の要素でできている。私はこいつに”運”でさえ勝てない。私の本能(ウマソウル)が言ってる。こいつには私たちが掴んだ”運”すらぶち壊す”力”がある。どうしようも無い理不尽を目の前に、私は絶望した。

 

 

(私は何の為に走る……?)

 

 

 今まで母様達が取れなかった皐月賞を勝って三冠になる、そんな私の夢は潰えた。ならこれからは? これから、私は何の為に走ればいい…………?

 

「『もう何の為に走ればいいかわからない』」

 

 ……? 奴は今何と言った?

 顔を上げれば、奴が犬歯を煌めかせている。

 

「……我は銀の王。アルギュロスレウス。いずれ最強を示し、全てのウマ娘の頂点に立つ者。汝は我に何を見る?」

 

 視界がモノクロになってぐらつく。

 

「たかだか一度敗けた程度でこの有様か。見えないのか? 我の屍の上にある黄金が。世界中に轟く喝采の栄誉が」

 

 奴は私の前に立って顔を近づけてくる。

 

「我は王として汝に指標を与えよう。道は己で決めればよい。それまでは、我が汝の指標となろう」

 

 ()()が私の中に入り込む。拒絶する暇なんてなかった。むしろ心地良い、さっきまで苦しんでいたのが嘘みたいだ。そうだ、そうだった。

 

 

 私は何故、皐月賞を勝ちたかったのか。三冠を取りたかったか。ウマ娘は何故走るのか。

 

 

 

 

 

 簡単だ、私達は走る為に生まれてきた。()()()()()()。理由なんてそれだけでよかったんだ。家族、悲願、憧れ……それら全てに意味なんて最初からなかった。今はただ、目の前のこいつに勝ちたい。

 

 

「私は貴女を倒す。倒して全てを手に入れる!」

「そうだ……それでいい」

 

 私の視界に色が戻る。

 

(ああ、世界はこんなにも色鮮やかだったのか)

 

 呪縛から解き放たれた私の体は、信じられないくらい軽かった。

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

「……アハ……アハハハハハハハハハハハ!」

 

 自身の控え室に戻る道中に堪えきれずに笑いを吐き出す。両手で頬を抑えても指の隙間から笑みは零れる。

 

「掴んだ。私は()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 ()に皐月賞が取れなかったからじゃない。前も私は皐月賞を勝った。でも、()()()()が七馬身差になった。

 今回のレースはレコード。それも全出走者がその圏内の異例のレース。私達()()は長年の研究と効率化によって年々進化()()()()()()()。コースの芝やダートだって日本は高速化するよう改良する傾向にある。だからレコードなんて段々と更新されて当然だし、それが時代の移り変わりであることを顕している。

 でも全員がレコードのレースは? 世界中探してもこのレース……いや、この世代のみだろう。

 

 

()()が始まる!」

 

 

 前も世間で騒がれた果てしない激闘の時代の代称。()()宿()()()()()()()()()()が渦巻いたあの時代がまた訪れる。憎悪が身を焼き、厭悪が精神を壊し、怨恨が思考を満たす()()レース(時間)が始まる。

 

 

「アハ♥」

 

 

 冷めきらない身体に熱がまた灯る。もう次が待ち遠しい。私が最強()であると、今すぐにでも証明したい衝動を抑えられない。

 

「次は誰を崩壊させようか」

 

 

 私は極めて平然と控え室のドアノブを回した。

 

 




次回予告

クラシック一冠目皐月賞は終わり、次なる冠『日本ダービー』へと研鑽する同期達。そんな彼女らに魔の手が……

次回「夢」

競走バ編のリメイクいる?(台本形式じゃないやつ)

  • いる
  • ウマ娘編だけで満足
  • 欲しい(競走バ編の内容把握の為)
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